カタクリズム

ウナムムル

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4章:闇の始動編

第3話 砂の都

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【砂の都】





エイン達は職人の男の案内で変わった形の木の生える砂漠を進んでいた
男が言うには、この砂漠に生息している木々は全てサボテンと呼ばれる棘の生えた植物らしい
表面はすべすべとしており、無数の棘が覆っている独特なフォルムが特徴的である
中には水を蓄えている種類もあり、砂漠に暮らす人々にとって無くてはならない存在なのだ
そんなサボテンがちらほら見える程度で、後は一面の砂の世界を歩いている

まだ春だというのに陽射しは痛いほど強く
吹く風はまるで釜を開け炎を目にした時ような熱風である
だが、空気は乾燥しきっており、吹く風も乾いたものなのがまだ救いであった
これで湿度まであれば不快度はかなりのものになっていた事だろう
それだけが救いではあるが、暑い事には変わりない
1ヶ月ほど前まで雪国にいた彼等にとってこの灼熱の大地は酷というものである

「・・・俺はもうダメかもしんねぇ」

そんなアシュの弱音が洩れたのは何度目だろうか
砂漠を歩き始めてまだ2時間程度だと言うのに彼等の体力は限界に近かった
それほど慣れない環境というのは体力を奪っていくのである

「シャキシャキ歩かんかいっ!日が暮れちまうぞっ!」

職人の男がアシュの尻をバンッ!と叩き、サクサクと前に進んで行く
叩かれた尻がヒリヒリとするが、これ以上遅れるとまた叩かれかねない
アシュは残り少ない体力を振り絞り、何とか着いて行くのだった

「ホント、この暑さはキツいわねぇ・・・マルロ様は大丈夫なのん?」

プララーが額の汗を拭いながら、前を歩くマルロに声をかける
振り向いた少女は笑顔をこそ作っているが顔色は優れなかった

「なぁ、アンタ、ヒッタイトってのは後どれくらいなんだい?」

顔色の悪いマルロを心配して、イエルが男に質問する

「ん、そうだな・・・このペースだと後3時間ってところか」

「3・・・・・・大丈夫かい、マルロ」

3時間と聞いて流石の火の巫女も顔が引きつってしまう
自分は元々暑さには強い方だからいいのだが
隣にいる少女には耐えられないのではないだろうか・・・そう心配しての発言だった
しかし、少女の答えはイエルの想像してるものではなかった

「大丈夫です、暑さよりも気になる事があって・・・」

「この暑さよりもかい?そりゃなにさね」

「裂け目の途中から気になってたんですけど、砂漠に入った辺りで確信に変わりました」

一行がマルロの言葉を待つ、また何か感じたのだろうか、と

「おじさんが東に巨大な竜巻が見えたと言っていましたよね?」

「おう、それがどうした嬢ちゃん」

「あれは人為的なものです・・・いえ、人ではないのですけど・・・」

「人ではない・・・?こないだのあの人みたいなものか?」

エインが気になって口を挟む、それにはマルロは頷いて答えた

「今回ははっきりと解ります・・・東の方から"神"の存在を感じます」

『『『神っ!?』』』

この場にいた誰もが素っ頓狂な声を上げる

「はい、神そのものです・・・ですが、六神ではありません・・・たぶん」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ、嬢ちゃん」

職人の男が冷や汗を流しながら言う

「はい?」

「嬢ちゃん・・・神さまが分かるのか?」

「はい、地の巫女ですから」

「ちょ・・・・ちょっと待ってくれ・・・ん?巫女っつったか?」

「はい」

「・・・・・」

男は開いた口を閉じる事すら忘れて呆然と立ち尽くしている

「何を今更驚いてますの?そちらの方は死の巫女、そちらの方は火の巫女ですわよ」

「・・・・は?」

「ちなみに、先頭にいる彼こそが神に選ばれた勇者ですわ」

『はぁっ!?』

男の目がこれでもかというほど大きく見開き、エインを凝視する
その視線に困り、エインが頬を掻きながら軽く頭を下げる

「ミ、ミラ様、あまり口外にしては・・・」

「あら、良いのではなくて?事実、貴方は神に選ばれたのですから」

当然の事のようにミラは言う
そんなやり取りを見て、男は彼等が嘘をついてるようには見えなかった

「ほ、本当に・・・巫女様とその勇者様御一行なのか?」

「えぇ、そうですわよ」

「こりゃぁ・・・・たまげたなぁ・・・」

まだ半信半疑なところはあるが、彼等の眼が嘘をついていないのは間違いない
それと、勇者と呼ばれた彼の持つ銀の腕、あれは自分の知る技術の遥か上をいっている
そんなものを持っている一行が普通の旅人であるはずがない

風貌から見ても変わった連中だ
騎士らしき男が4人・・・1人は男なのか女なのか判断が難しいが
幼い女の子が1人、ドワーフらしき女性が1人、貴族のような女性が1人
そして、黒髪の不思議な女性が1人・・・傍から見ても変な組み合わせだ

特にこの黒髪の女性が気になっていた
彼女は砂漠を2時間も歩いているというのに汗一つ流していないのだ
おかしいではないか、他の皆は慣れない砂漠に苦戦しているというのに
そして、先程聞いた「そちらの方は死の巫女」という言葉
それで全てが納得いったのだ

「死の巫女・・・様」

「はひ?」

突然声をかけられ驚いたリリムは噛んでしまう

「アンタ、ずっと魔法使ってるのか?」

「え?あ、よく解りましたね!はい、魔法で"熱"を殺してました」

「そうか・・・本物なんだな、アンタら」

当然の事のように熱を殺してたなんて言われたら信じるしかあるまい
現に彼女は汗一つ流してないんだ
もう何が何やらだが、街に来たばかりの水の巫女といい
この地で何かが始まろうとしているのだけは解った


それから目的地であるヒッタイトが視界に入るまでに3時間半かかった
岩で出来た丘と砂丘の間をぐるりと右回りに進んで行くと
ヒッタイトの街がちらりと顔を出し、次第にその全貌が明らかになってゆく

「これは・・・」

そこには先頭のエインが思わず唸るほどの景色が広がっていた

「すごいわね、まるで街そのものが神殿のようだわ」

プララーは手を傘にして陽射しを遮りヒッタイトの街並を一望する

「神殿っていうか、要塞じゃねぇか」

隣にいたアシュは驚きのあまり口が開いたままだ



アシュが言った通り、この街は要塞のように幾つもの門が存在している
1つ1つが分厚い土壁で出来ており、その厚みは5メートル以上はある
第一の門を超えるとそこには様々な露店が並んでおり
方々の特産物などが並び、普段であれば買い物客でごった返している
だが、今は橋が落ちた事によりその客達はいなかった
露店もほとんどが閉められており
様々な食材や果物で彩られていた市場は閑散としており
土壁の色だけが広がる街という印象が強かった

「随分さみしい街だな」

バテンが閉まっている店を見渡して言うと
職人の男が大きなため息を洩らしてから言う

「・・・前はこんなじゃなかったんだがな
 橋が落ちてからはずっとこんなだ、タイミングが悪かったな」

ふむ、とバテンは腕を組み辺りをキョロキョロ見ながら歩を進めた


一行が第二の門に差し掛かると、不揃いな装備の一団が寄って来る

見た感じは"冒険者"に近いが、門を守っているのだろうか
そんな事をエインが考えていると、その一団から1名が前に出る
前に出た男の風貌はどう見ても冒険者の類だ
改造されたライトアーマー、様々な薬品などが入った腰袋
太ももにはナイフが2本、腰にはショートソード、背中には弓矢すらある
騎士や軍といった感じではないが・・・

「よぉ、旅のもんか?」

男が怪訝そうにエイン達を観察しながら声をかけてくる

「はい」

『マジか!じゃあ橋が直ったのかっ!?』

男は黄ばんだ歯を見せ笑顔になる

「いや、まだ直っちゃおらんよ
 この人達のおかげで予定より早く直りそうだがな」

職人の男が冒険者っぽい男に言うと
彼の顔から笑顔は消え、代わりに大きなため息が洩れた

「少なくみて後2週間は掛かるぞ」

「2週間って・・・どうすんだよ・・・」

男はがっくりと肩を落として天を仰ぐ
空には雲は無く、痛いほどの陽射しが降り注いでいた

「水の巫女様がいる間は大丈夫だろ、まだおられるんだろう?」

「あぁ、でもあの巫女様は気分屋なんだ
 眠いとか言ってろくに水をくれないんだよ」

「巫女様だって人の子だ、眠くもなるだろうよ」

「ははっ、違ぇねぇ」

男達が笑っていると、しびれを切らしたミラが口を挟む
彼女はこの炎天下の中を待たされるのが耐えられなかったのだ

「そろそろ進みたいのだけど、よろしくて?」

「あぁ、引き止めて悪かった、通ってくれ」

冒険者風の男が門の脇に移動し、エイン達を通ってよしと手で促す

「それで、わたくし達はどこへ案内されてるのかしら?」

ミラが職人の男に言うと、男は少し引きつった顔で答える

「へ、へい、後2つ門を抜けたところに評議会って場所があるんでさ」

何故か男はミラには頭が上がらない様子だ
本能的に地位の違いを感じ取っているのだろうか

「水の巫女様もそちらに居ますので、案内いたしまさぁ」

「ありがとう、助かるわ」

それから30分ほど歩き、2つの門を通り抜けると・・・

「これはすごい・・・なんて大きさだ・・・」

エインが右側にそびえ立つ巨像を見上げて言うと
隣にいたリリムもまた巨像を見上げて口を大きくあけていた

「おっきい・・・カナランのより大きいですね」

「3倍以上はありそうさね」

マルロとイエルもまた巨像を見上げている
これほどの建造物を作れる文明に若干の畏怖の念を抱きつつ
一行は巨像の横を通り抜け、更に奥にある神殿へと歩を進める

神殿へと入るには100段はありそうな階段を上る事となる
この灼熱の陽射しの中、やっとの事で上がった先にある入口には
赤と金で塗られた鋼鉄の鎧をまとった兵が4人立っていた

「止まれっ!何用だ」

兵の1人が槍の先端をこちらへと向けて問いただしてくる
先程の冒険者崩れのような兵とは全く違う、明らかに正規兵の出で立ちだ

「ま、待ってくださぁ、こちらの御方達は巫女様御一行でさぁ」

「巫女・・だと?」

その一言で空気が変わる・・・先程までの警戒が更に跳ね上がり
まるで嫌疑でもかけられてるかのような目で見られる
その目に苛立ちを覚えたのはミラだった

「貴方、お名前はなんておっしゃいますの?」

「は?」

突然名前を問われ、呆気に取られている兵にミラは続ける

「貴方は巫女3人とその勇者に槍を向けているのよ?
 上の者に報告させていただきますわ、名をおっしゃい」

ミラの自信に満ちた声に圧倒され、男は直ぐに槍を下ろす

「失礼した、だが待ってほしい、今は警戒を強めろとのお達しなのだ」

「だから?」

ミラの鋭い眼光に男は喉まで出ていた言葉を飲み込む

「・・・申し訳ありません、すぐにお通し出来ると思いますが少々お待ちください」

と、代わりに出てきた言葉を発し、神殿の中へと消え
エイン達はこの刺さるような陽射しの中で待つ事となった

一行が神殿の入口で10分ほど待たされている時の事である

「シィ~ッ・・・取れん・・・」

階段の下、中ほどから一人の老人・・・と言っていいのか分からぬ男が上ってくるのが見えた
男は金色の爪楊枝のようなもので歯の隙間をほじっている
どうやらなかなか取れない様子で少しイラついてるようにも見えた
入口を塞ぐ形で広がっていたエイン達一行が道を開けようとすると・・・

「よっ・・・・・・・・・っと」

老人の身体はふわりと宙を飛び、エイン達の頭上を越え、音も無く着地する
無駄な動きが一切なく、身体のバランスが僅かも崩れていない
その場にいた誰もがこの老人の華麗な跳躍に目を奪われていた

だが、一瞬して気づく事となる
先程までこの老人は40段は下にいたという事を・・・

この階段は石畳で出来ており、蹴上が23センチほどある急なものだ
更にエイン達を飛び越えた事を考えると、高さだけでも10メートル以上の跳躍となる
ちなみに階段の踏面は32センチほどある
この老人の跳躍、それがどれほど異常なのかは誰もが分かる事だろう

そして、間近へと老人が着地して色々気づいた事がある
顔にはシワもあり、年相応に老けていると言ってもいい
だが、溢れ出る力を感じさせる力強い目や眉をしていた
袈裟のような服を着ており、片方の腕は露わになっている
その腕には僅かの脂肪も無いのではないかと思うほどの筋肉がついており
そこら中に古傷のようなものが見えた

「これはタイセイ様、お通りください」

兵が頭を下げ、老人はエインを横目でチラリと見て中へと入ってゆく
その一瞬目があったエインの背筋に冷たいものが走った
先のスカー・サハの時と同じような、いや、もっと悪い何かを感じていた

タイセイと呼ばれた老人の姿が消えてから兵へと声をかける

「今の方は・・・?」

「ん?あぁ、タイセイ様だ
 最近この国に流れて来たのだが、ヒッタイトが誇る最強の"傭兵"だよ」

「傭兵・・・」

エインは先程の目を思い出し、再び背筋に冷たいものを感じる

「失礼ながら、かなりのご高齢に見えたのだが」

「俺も詳しくは知らないんだが、噂じゃ70だとか80だとか」

「70・・・それでもあの殺気か」

口にして気づく、先程の目は殺意を向けられたのだ、と
何故初対面の自分にいきなり殺意を向けるのかは分からないが
タイセイという老人、気をつけなくてはいけないかもしれない

そんな事を考えていると神殿の中へと消えた兵が戻ってくる

「おまたせしました、お通りください」

エイン達が中へと案内される
神殿は天井が高く、風通しはよく、思ったより涼しい
太い柱が幾つも建っており、その1つ1つにヒッタイトの紋章が刻まれている
ヒッタイトの紋章とは多頭の大蛇(コブラ)、7つの頭を持つ蛇の紋章である

「やっほー、また会ったね~」

聞き覚えのある呑気な声がしてエイン達がそちらへと顔を向ける
すると、水の巫女マナが葡萄を片手に持ちながらベッドに寝そべっていた
その横には2人の男児が大きな葉っぱでマナを扇いでいる

「マ、マナさん・・・何してらっしゃいますの?」

若干引きつった笑顔でミラが言う、するとマナは歯を見せ笑ってこう言った

「いやぁ、この国が水で困っててさ~
 ちょ~っとマナちゃん特製の搾りたて聖水出してあげたら大喜びでね~」

「そ、そうですか」

「うん、それでね、御礼がしたいって言うから受けてたとこ」

「はぁ・・・」

そこでミラは違和感を覚える
何かが違う、何だろう・・・マナに対して違和感を感じる

「マナさん、何か変わりまして?」

「むむ?なんにも?」

彼女が首を傾げると、サラサラの髪がふわりと流れる

「っ!?」

何が「なんにも」ですか!いつものボサボサ頭がサラサラのツヤツヤになってるじゃない!
ミラは心の中でそう叫んだが、今は飲み込んでおいた

「か、髪、綺麗になりましたのね」

「あ、うん、さっきとかしてもらったんだよ~」

「へ、へぇ・・・とかしただけで・・・」

ミラは自分の髪には自信があった
誰よりも手入れをし、大事に大事にしているからだ
それが目の前の巫女は普段何もしないで
ただとかしただけで自分と同じかそれ以上の綺麗な髪へと変貌を遂げている
そんな馬鹿な話があってたまるもんですか、とミラは内心穏やかではなかった

「あたしは水の魔法で穢れを一切寄せ付けないから
 わざわざ綺麗にしなくていいよって言ったんだけどね~」

「な、なるほど・・・」

だからか!毎晩手入れしてる程度の自分では敵わないはずですわ!
ぐぬぬぬ、水の巫女おそるべしですわ

「君たちは何しにここへ?」

マナのその問いには悔しがっているミラではなく、後ろにいたエインが答える

「神託により導かれました」

「あ、そうなんだ、大変だね」

まるで他人事のように言い、マナは葡萄を頬張る
ミニスカートにノースリーブという露出の多い格好の彼女だが
ベッドの上で寝転び、足をだらしなく動かしているとチラチラと見えてしまうものがある
エインは必死に目を逸らし、言葉を続ける

「水の巫女様はこの地を救済するのですか?」

「なんで?」

「え・・・なんでと言われましても・・・この国は渇きに困っているのですよね?」

「そうだね」

「ならば水の巫女の力でどうにかしないのですか?」

「なんで?」

「なんで・・・って・・・」

「あ~・・・もう、伝わんないか」

マナが頭を掻き、指の間をするすると綺麗な髪がこぼれ落ちる
そして「よっ」っと声を上げ、マナがベッドに腰掛け、エインを見上げる

「私が言いたいのは"なんで自分で救うという選択肢がないの?"だよ」

「自分には水を出す力はありません」

「本当に?」

「ありません」

「本当に?」

「・・・・」

マナの問いの意味が解らずエインは黙ってしまう
自分には国を潤すほどの水なんて用意出来るはずがない
それは考えなくても解る事だ
だが、目の前の巫女はそれでは納得いってないようである

「・・・俺にどうしろと言うのですか」

「君、頭悪いでしょ」

「・・・・」

「はぁ・・・いいや、ちょっとこっち来て」

マナがため息をもらし、エインを手で来い来いと呼ぶ
エインが彼女の元まで行くと、マナは足でどんどんと2回地面を鳴らし、顎をしゃくる
座れ、という命令にも近い意思を露わにする
素直にそれに従い、マナの前で膝をついた
その瞬間、マナが両手でエインの顔をガッと掴み
親指で目を下へと引っ張る

「な、何を」

「うっさい、黙れ」

「・・・・」

しばらくマナがエインの目をじっと見つめている
どことなく重い空気が流れ、一行はただ静かにその光景を見守っていた

「そっか、君は惜しいけどダメなんだね」

「・・・何がと聞いてもいいですか?」

「うん、いいよ、少しだけ教えてあげる」

立っていいよ、とマナがエインを解放し、彼女はベッドの上であぐらをかく

「勇者候補君、君は勇者にはなれません」

「・・・・」

「何をおっしゃいますのっ!」

「そうです!エインならなれます!!」

反論したのはミラとリリムだ
そんな彼女等を睨みつけ、マナは黙らす

「今のままじゃなれないよ、それは自覚あるよね?」

「・・・・はい」

「あたしも最初は君がそうなんだと思った
 でもね、よく見るとダメなんだ、君じゃなれないんだよ」

「・・・・」

「すごく惜しいと思う、もしかしたら来世ならあったかもね」

「そう・・・ですか・・・それは"事実"なのですね」

「うん、事実だよ」

エインは胸に手を当て瞳を閉じる
様々な想いが駆け巡り、唐突に勇者に選ばれた時を思い出す
何故自分が、ずっと考えていたが答えは出なかった
だが、少し肩の荷が降りた気分だった

「わかりました」

「なにが?」

「え?」

「何わかった気になってんの?」

「・・・・と言いますと?」

「あのね、君はホント頭悪いから言うけど
 "事実"だからどうだっていうの?運命だから受け入れるの?
 その程度で"災厄"を退けられると思ってたの?」

「・・・・」

「あたしは君に期待してた、今度こそはって
 その期待に応えてみせてよ、エイン・トール・ヴァンレン」

マナは歯を見せ笑った、その笑顔はとても澄み切っていて美しかった

「俺じゃダメなんですよね?でも期待するんですか?」

「運命のままなら無理だろうね、でもそのくらい跳ね除けて見せてよ、勇者さん」

「・・・・・・・・・」

エインは黙り、しばし俯く
そして、何かを決心したように歯をギリッと噛み締めマナを見据える

「はいっ!」

「にししっ、いいねその顔、それに惚れたのか~」

っと、急にリリムを見てニヤニヤする
突然話題を振られたリリムは動揺し、顔を真っ赤にして慌てていた
そんな彼女が微笑ましく、マナは満足気に微笑んだ

「よし!あたしは用事が出来たから行くね~!」

そう言い、ぴょんっとベッドから立ち上がったマナは駆け出してすぐに戻ってくる

「靴、靴・・・あはは」

靴を履いた彼女は本当に走って行ってしまった
相変わらず嵐のような子だったが、エインの中で1つの決意が生まれた
ダメ元でもやってみよう、出来うる限りの力を持って

そして、この国を自分の力で救ってみよう、と・・・・



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