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3章:死者の国編
第17話 天翔疾雷
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【天翔疾雷】
戴冠式まで残り1時間40分、アムリタ城内
外でハーフブリードが復活した死者の軍勢と対面している頃
アムリタ城内では死と暴力が具現化したような存在が暴れまわっていた・・・
この場にいる現在の生存者はエイン、リリム、ミラ、バテン、プララー、アシュ
オエングス、ディムナ、カナラン神殿騎士団2名、青の大鷲6名、近衛騎士団4名
マリアンヌ、ルーゼンバーグ、レンブラン・・・・・
そして、生者ではないが試作半生体"TheZero"である
ZEROの暴走により近衛騎士団、青の大鷲共に壊滅状態だった
騎士団員の大半は潰され、引きちぎられ、喰われた
人を食す度、瓦礫を飲み込む度、ZEROの身体は巨大化してゆき
今では6メートル近くになっている
しかし、この眼前に立ちはだかる絶対的な死に、必死に足掻く者達がいる
『神器解放!モラルタよ、その力を示せ!』
オエングスの右手に握られているモラルタから赤い光が溢れ出す
『エイン!"あれ"を使いなさい!』
ミラの声が届き、ZEROから目を離さぬままエインは頷く
そして、銀の右腕に手を伸ばした・・・
エインは右腕の上腕部にある留め金に指をかけて外し、そこにある蓋をスライドさせて開く
次に腰にあるポーチから火の紋章が描かれた八つの連なった筒を取り出し
開いた上腕部へと八連筒の端の1つを装填する
続いてエインは手首より少し上の前腕部にある小さなくぼみに指をかけ
そのまま指を引くと前腕部の一部が迫り上がり、カチンッと音を立てて止まった
迫り上がった部分の先端には小さな穴が空いている
オエングスはエインが自身の銀の腕に何かをしているのを視界の隅で捉えるが
何をしているのかまでは分からない、あのような物を見た事すらないからだ
台風のように荒れ狂っていたZEROの拳をあの銀の腕は止めてしまった
オエングスが盾で止められなかった拳を片手で、だ
それがどれほど異常な光景かは分かるだろう
あの出来事で、オエングスの中でのエインという人物への評価は跳ね上がった
その後に見せた彼の突きの鋭さが評価に拍車をかけている
芸術とも言える究極まで洗練された突き
並の人間では自分が貫かれた事すら気づかない早さだろう
自分にあれを防げるだろうか、ふとそんな事を考えるが今はそんな時ではない
雑念を振り払い、エインに呼びかける
「ヴァンレン卿、何か策があるのですか」
エインは八連筒を装填し、身を低く構えていた
オエングスの問いに一瞬言葉に詰まる・・・策が無い訳ではない
だが、幾つもの可能性があり「これ」という1つを説明出来なかったからだ
「・・自分がZEROを止めます、オエングス殿はモラルタで・・・トドメを」
「了解だ」
トドメ、そう口に出してしまった事に僅かにながら後悔が残る
ZEROは自らの死を望んでいる、だが彼を救う方法は無いのだろうか
いや、そもそも生者ですら無い彼にとっては、死こそ救いなのではないだろうか
自分がどうするべきかエインは迷っていた
知り合って短い時間ではあるが、友として最後に出来る事を決めかねていた・・・
その時、黒い玉のようなものがエインの上を通る
エインはそれに気づき、黒い玉を目で追っていた
その黒い玉を操る存在、背後にいるリリムへと顔を向ける
破壊魔法、この黒い玉はそう呼ばれている
触れた部分に平等な死を与える攻撃魔法である
それを操るのは死の巫女リリム・ケルト
この破壊魔法は彼女の最も得意とする魔法だ
そして、この破壊魔法は究極魔法の最下位に存在する魔法でもある
最下位ともなると発動したからと言って気を失う事もなく
巫女ならば通常の魔法と同じように使えるものなのだ
しかし魔力の消耗は通常魔法より激しく、過度に使えば魔力が枯渇して意識を失うだろう
破壊魔法の玉が荒れ狂うZEROへと向かう
玉はZEROの右足を貫き、そのまま上昇して右腕を貫く
20センチほどの大穴が出来るが、即座に肉が集まり穴を塞いでいく
それを見たリリムは戦術を変えた
両手で何かを掴むような仕草を始める、まるで目の前に玉でもあるかのように・・・
それをぐいっと左右へ引っ張ると、破壊魔法の玉は横へと伸び、変形してゆく
次にリリムは腕を回しながら舞うような動作を始める
すると60センチほどの棒状の破壊魔法はくるくると回転を始め
ブォンブォンと独特な音が加速してゆく・・・そして、ZEROへと向かって飛んで行った
『ぐごおおおおおおおおおおおおお!!』
ZEROの咆哮が空気を振動させ、辺りにいる者に死の恐怖を与える
だが、その咆哮はここにいる者達への死の合図ではなかった
6メートル近くある巨体がグラッと揺らぐ
棒状になった破壊魔法が高速回転をしたままZEROの足にぶつかり、その足を切断する
膝と思われる部位は両断され、バランスを崩したZEROは倒れ込む・・・
しかし、ZEROは土下座でもするような体勢で両手をついてそれに耐えていた
そんなZEROにリリムの容赦ない追撃が襲い掛かる
彼の地についていた両腕の手首を破壊魔法が切断し、突っ伏すように倒れ込む
ズズゥン・・・・埃を捲き上げ、台風の目にでも入ったかのような静寂が訪れた
『今です!負傷者を連れて逃げてくださいっ!』
死の巫女の圧倒的な攻撃力に見入っていた一同は正気に戻り
青の大鷲が負傷者やZEROに食われなかった仲間の遺体を抱える
だが、近衛騎士団は動く気配が無かった
彼等はどうしたらいいのかを迷っていた
皇子の命令によりこの場から逃げる事は許されていないのだ
「おい、どうする・・・」
「敵とは逃げられないだろう・・・」
「それに命令が・・・」
そんな彼等へ青の大鷲団長ディムナ・マックールが叫んだ
『何をしている!今は敵味方など言ってる場合ではない!
生きろ!分かるか?生きるんだ!!そのために全力を出せ!』
彼の言葉は近衛騎士団の胸をえぐった
何よりも大切な事・・・それは"生きたい"という意思だった・・・・
アムリタ聖騎士団・青の大鷲は幾多の戦場を駆けてきた
無数の武功を挙げ、数々の強敵を返り討ちにしてきた
そんな青の大鷲団員には自慢できる事が1つだけある
それは、たった1人の戦死者も出した事がないという事だった
常勝無敗の騎士団、それが青の大鷲という聖騎士団だったのだ
しかし、ほんの僅かな時間でそれは崩れ去った
42人いた青の大鷲は現在8名しかいない
34名という騎士団の大半がZEROによって肉塊にされたのだ
ディムナは分かっていた、いつかはこういう日が来る事は・・・・
彼の胸はナイフでも刺さったかのように痛かった
家族、そう思えるほど長い時間を過ごしてきた戦友達を一瞬で失ったのだ
だが不思議と涙は出なかった・・・彼は頭がいい男だ、今するべき事を理解している
泣いてなどいられない、今は1人でも多く生かさなくてはならない
これ以上の悲しみには耐えられそうにないから・・・
『お前達も手伝え!分かったな!』
「は、はい!」
一人の近衛騎士団員が立ち上がると残り3人がそれに続いていた
青の大鷲と近衛騎士団は協力し、負傷した者、食われなかった遺体を担いで行く
「俺は残るぜ」
ドラスリア王国騎士団アシュ・ブラッド
彼は僅かに震える手で槍を握り締め、ZEROの方へと一歩踏み出していた
そんな彼の肩を王国騎士団団長であるバテン・カイトスが掴む
「待て、お前が行っても・・・いや、俺達が行っても邪魔になるだけだ」
彼の分析は正しい、今のアシュには足を引っ張る事は出来ても役に立つ事は出来ないだろう
『それでもっ!!』
ガンッ!と槍で地面に叩きつけアシュは叫ぶ
まともに活躍が出来ていない事に苛立っているようだった
そんな彼の前に長身の男が立ち塞がった・・・プララー・チャンヤットだ
「アシュちゃん、諦めなさい」
『うるせぇ!』
「あれを見なさいな・・・アンタにはアンタの出来る事をなさい」
プララーの指差す方には負傷者や遺体を担ぐ青の大鷲と近衛騎士団の姿があった
「・・・・」
「アタシ達じゃエインちゃん達の邪魔になっちゃうの
あの子達は特別なのよ・・・・アタシだって悔しいのよ」
そう言うプララーは手から血が出るほど拳を握っていた
「チッ・・・・わーったよ、今はカマ野郎に従ってやる」
「ありがと、アシュちゃん」
プララーが微笑むとアシュは気恥かしそうに横を向いていた
そこでアシュがある事に気がつく
「ん?そういやあのクソッタレ皇子はどこ行ったんだよ」
「え?・・・あっ!いないじゃないっ!」
「ルーゼンバーグ皇子の姿も見当たらんな、追ったのかもしれんな」
バテンは辺りを見渡しながら状況を分析していた
「へっ!じゃあ俺はクソッタレの方を追うぜ!」
「もう・・・この子ったら」
プララーは肩をすくめてため息を洩らす、その横でバテンが笑い、それを許可した
「プララーは負傷者についてやってくれ、俺はアシュと共に皇子を追う」
「りょ~か~い☆」
「おっしゃ!行こうぜ団長ぉ!」
アシュが走り出し、それを追うようにバテンもその場を去って行った
その後、プララーは青の大鷲と近衛騎士団と共に負傷者達を運び、治療を施すのだった
ミラ・ウル・ラシュフォードはこの場に残っていた
それは死の巫女リリムを守るために、だ
彼女はZEROがリリムに近づいてきた時の盾になるためにその場から動かなかった
手足は恐怖で震えるが、ミスリルゴーレム戦の時の後悔を繰り返さないために
彼女は恐怖に負けないよう全力で立っていた
「リリムさん、避難はもうすぐ完了しますわ、好きにやってくれて構わなくてよ」
「はい、ミラさんは私の後ろへ」
「嫌ですわ、わたくしは貴女の盾、横に並ばせていただきますわ」
そう言って不滅のレイピアを構えるミラの手は既に震えていなかった
決意に満ちた彼女の横顔を見てリリムも覚悟を決める
「では、行きます!」
すーっと息を大きく吸い込んで一瞬溜める
『エイン!オエングスさん!離れてください!』
リリムの叫びは届き、二人はZEROから離れてゆく
それを見てからリリムは呪文を詠唱し始めた
彼女は詠唱しながらも棒状の破壊魔法は操作しており
ZEROが立ち上がろうとする度に手足を切断している
ミラはその光景を横で見ながら思う、なんて器用な子かしら、と
この器用さが少しでもエインに向けられたら上手くいきそうなのに、とも
「我が与えしは厭世(えんせい)の生・・・穏ひかな死・・・」
リリムの綺麗な声はまるで詩のようであり、どこか幻想的なものを感じさせる
彼女は舞うように詠唱を続け、その手が描く魔法陣の光は神秘的だった
「我、その存在を否定する」
リリムの目から光が消え、深い闇のような眼差しになる
その眼にミラは本能的に恐怖した
リリムの操作していた破壊魔法が膨れ上がり、巨大な玉へと変貌する
直径は1メートルはあるだろう
立ち上がったZEROはその玉をガシっと掴み、そのまま握りつぶそうとする
玉は押しつぶされ変形するが、それを掴むZEROの手は蒸発でもするように消えてゆく
『がああああああああああああああああああああああああ!』
ZEROは全身でそれを包み込むように潰そうと試みる
ZEROの表面は蒸発していき、独特な臭いが立ち込める
「・・・・滅びよ」
リリムの両手が彼女の目の前でパンッと叩かれる
その瞬間、巨大な玉となった破壊魔法からおびただしい数の針が生え、ZEROの身体を貫く
針の刺さった箇所は崩れて塵となってゆく・・・それは大理石の地面や壁もそうだった
300はあろう死の針がZEROの身体を貫き、辺りにも穴を開けていく
「がっ・・・ご・・・・げふ」
ZEROの動きが止まり、穴を塞ごうと肉が動き出す
しかし身体に開いた穴にはまだ死の針が刺さったままである
肉が戻ろうとする度に滅び、再び肉が戻ろうとする
その行為が繰り返される度にZEROの身体は徐々に小さくなっていった・・・
「す、凄い・・・これが死の巫女か」
「リリムの力はこんなものではないですよ」
「そ、そうなのですか」
オエングスにとっては今目の前で起こっている魔法は人智を超えている
人の遥か上の存在、神の領域なんじゃないかと思うほどだった
だが、エインが言うには彼女の力はこんなものではないらしい
まだ上があるのか、そう思うだけで身震いするオエングスだった
「・・・・さよなら」
リリムから冷たい言葉が放たれ、ミラの感じていた恐怖は強まる
ミラの知る少しドジで明るく優しい彼女とは別人のようだった
死の針はパキンッと折れるように玉から離れ、高速で回転を始める
そこからは目を覆いたくなるような光景だった
死の針だったものがZEROの身体を粉々に切り裂いていく
どしゃっ
肉片と化したZEROの身体は腐臭とおびただしい量の血を撒き散らし
ぴくぴくと痙攣をしている
リリムの身体が揺らめき、咄嗟にミラは彼女の身体を支えた
魔力を使いすぎ気を失ったようだ
その顔はミラの知る綺麗で可愛い優しそうな女の子だった
エインとオエングスは剣を鞘に納め、肉片と化したZEROを見下ろす・・・
「すまない・・・ZERO」
エインの口からもれた言葉は謝罪だった
オエングスはそんな彼の背中を少し悲しそうな顔で見ていた
その時、漆黒のマントに身を包んだ少女が姿を現す
「みなさん、逃げてください、です!」
少女の名は試作半生体"TheOne"、ワンちゃんだ
「何故少女がここに・・・」
『まだ・・・終わってない、です!逃げてください、です!』
「君、どこから入って来たんだい、僕が外まで案内しようか」
オエングスはワンちゃんの前に跪き目線を合わせる
だが、目の前にいる誰もが目を奪われる男をワンちゃんは見ていなかった
彼女の視線はその遥か後方、ZEROだった肉片を凝視している
「終わってないって・・・あれの事かい?」
「はい・・・です・・・ZEROは、おにーちゃんはまだ生きてるです」
「お兄ちゃん?」
「私はTheOne、ZEROは私のおにーちゃん、です」
『君がTheOne!?』
オエングスは思わず叫んでしまった
噂では聞いた事がある、死者の軍勢の元となった完全なる死者TheOne
「は、はい・・・です・・・早く・・・」
ワンちゃんはそこまで言うとオエングスへと倒れ込む
支えたオエングスは今更ながら気づく、少女の息は荒く、とても苦しそうだった
「大丈夫かい、どうしたんだ」
「嫌なものが・・・満ちてる、です・・・・早く・・・逃げて・・・」
ワンちゃんを抱えたままオエングスは肉片となったZEROへと目を向けると
ぴくぴくと痙攣していた肉片は次第に集まり始めていた
「馬鹿な、あれでも死なないのか」
肉が集まる中心点には紫の光を放つ石が見えた
その光が脈打つように点滅を繰り返し、それに呼応するようにワンちゃんの胸も光る
その光に気づいたオエングスは目を疑った
少女の身を包んでいたマントがはだけ、彼女の膨らんでいない胸が現わになる
胸部は大きく切開されており、中には緑の光を放つ魔石が鎮座していた
「これは・・・君は本当に・・・」
「もう・・抑えられない・・・・逃げて・・・うっ!」
ワンちゃんの顔が苦痛に歪むと同時に、ZEROの肉片は物凄い早さで集まっていった
ぐねぐねと形を変え、次第に人の形をとっていく
即座にエインは抜刀し、リリムとミラの方へと移動し構えた
「ぐぐ・・・・ごごごご・・・・」
ZEROの身体はほとんど元通りになるが、その大きさは4メートルほどになっていた
「はぁ・・・はぁ・・・っ!」
ワンちゃんは何かに気づいたように辺りをキョロキョロと見渡す
そして、先程まで苦しそうだったのが嘘のようにぴょんっと立ち上がった
「嫌なものが・・・消えた?」
この時ジーンの眷属がアスタロトの影を喰らい終えたのだ
そのため辺りに満ちていた魔力は飛散する
それを自動で吸収してしまっていたワンちゃんは苦しかったのだ
ZEROが暴走したのもこのためである
「よくわかりませんけど、チャンス、です!」
状況が理解できないオエングスは戸惑っていた
少女がTheOneなのは間違いないだろう、だがTheOneはどうやら味方のようだ
そして、この好機は逃してはいけないのだと悟った
「お嬢さん、下がっていなさい・・・ここは僕に任せて」
ワンちゃんの前に立ち塞がるようにオエングスは2本の剣を抜刀し構える
『神器解放!モラルタよ!ベガルタよ!その力を示せ!』
赤と黄金の光が溢れ、その膨大な魔力にワンちゃんは驚く
目の前に立っている男は普通の人間ではない、それだけは解った
「気をつけてください、です」
「もちろんだとも」
エインが視線を送ってきている事に気づいたオエングスは無言で頷く
すると、エインはZEROに向かって走り出した
彼が囮を引き受けてくれるという事だろう、ならばこの1撃に全てを賭けよう
意識を集中して一瞬の隙も逃すまいとオエングスは構えた
ついにZEROは動き出し、先程より小柄になったせいか物凄い速さの拳を振るっている
そんなZEROの両目からは涙が流れていた・・・・
「ご・・・殺して・・・ぐで・・・頼む・・・・・」
ZEROの僅かに残った自我が彼の口を動かした
それを聞いたエインは拳を避けながら考える
友のため、彼を殺す事こそが救いなのだろうか、と
もうどうすることもできないのか、と
「だのむ・・・・エイン・・・殺しでぐで・・・助けでぐで・・・」
助け、死、それが彼の望みであり救い
「解った・・・待っていろ、友よ」
エインは覚悟を決めた、彼を救うため、彼を殺すと
右手から左手に剣を持ち替え、エインは右腕をZEROの上へと向ける
「・・・あ、ありが・・・ど・・・・ぐがああああああああああああ!!』
ZEROの自我は失われ、再び荒れ狂う台風のように拳を振るい出す
避ける事に集中しなくては1撃で殺される
エインは狙いを定める暇もなく、防戦一方になっていた
「くっ・・・一瞬でも隙があれば・・・・」
エインの洩らした独り言はワンちゃんには聞こえていた
そして、彼女はシルトから借り受けた漆黒のマントをバサっとなびかせ
開かれた胸部をむき出しにする
『おにーちゃんっ!』
ワンちゃんに気づいたZEROは狙いを変え、一直線に向かってくる
ワンちゃんは横へと移動する、その動きは人のそれではない
まるでサラのような高速の動きにオエングスは驚いていた
『ぐがあああああああああああああああああ!!』
ぶんぶんと振り回す腕にワンちゃんの身体が捕まり、その小さい身体が悲鳴を上げる
「うっ・・・今・・・・ですっ」
ミシミシと音が鳴り、ワンちゃんの両腕はあらぬ方向へと向きを変える
ZEROはTheOneの胸に手を伸ばし、そこにある魔石を指で摘んだ
それを引き抜こうと力を込めるが、巨大な手では上手くいかない
『きゃあああああああああああっ!』
ワンちゃんの叫び声が響き渡る、それは痛みからの叫びだった
その時、エインの右腕はZEROの頭上の天井を狙っていた
バシュッ!
銀の腕から発射されたフックが6メートルの高さにある天井に深々と刺さる
フックからは黒と薄紫色の斑模様のワイヤーが伸びていた
上腕部にセットしてある八連筒の1つが外へと排出され、筒は1つ移動し、腕へと入る
それを確認したエインは右手首をクンっと下へ向ける
すると、銀の腕からはギュィィィィィンという激しい音が鳴り
彼の身体は宙に浮き、凄まじい勢いで天井へと向かった
天井に到達したエインは天井を思いっ切り蹴り、ZEROへと落下してゆく
そのまま左手の突きでうなじを斬りつけ
右手でワイヤーを掴んで地面に叩きつけられるのを回避する
着地したエインはZEROの右足首にフックを撃ち、今度は右手首を上へと向ける
カチャンッ!
彼の銀の腕の中で何かが動くと同時に八連筒の1つが放出され、次の筒が腕へと入る
先程の天井と右足首に撃ち込んだフックを繋ぐワイヤーはビンっと伸びきっていた
異変に気づいたZEROが背後にいるエインを殴ろうと右腕を振るうが
エインはその右肩に新たなフックを撃ち込む
バシュッ!
クンっと右手首を下へと向け、エインの身体はZEROの右肩へと向かって行った
そのまま剣で斬りつけ、肩を踏み台にしてZEROの前方へと回り込む
右肩から伸びたワイヤーがZEROの身体に絡みつく
そしてエインは次のフックを少し離れた地面へと撃ち込み、手首を上へと向ける
カチャンッ!
ZEROはワンちゃんを掴む左腕を振るうが、エインはそれをギリギリで避け
今度は左肩を狙い、フックを放った
バシュッ!
それは深々と刺さり、肩を貫き、貫通したフックは開き、抜けないようになる
再び手首を下へと向け、エインの身体は宙を舞う
肩を踏み台にし、ZEROの背後へと降り立ち、左足をくるりと一周してから離れた地面を撃つ
バシュッ!
カチャンッ!
バッと大きく飛び退き、エインはZEROのうなじを狙った
先程斬りつけた傷痕にフックを撃ち込む
バシュッ!
そしてそのまま自身の足元へともう1発撃つ
バシュッ!
八連筒は全て使い切り、煙を上げながら放出される
フックの射出口である穴からも僅かにながら煙が上がっていた
『今です!オエングス殿!』
エインはZEROへと向かい走る
ZEROは暴れるがワイヤーにより雁字搦め(がんじがらめ)になり身動きが取れなかった
飛び回るエインを見てミラは震える
自分の作った腕をここまで使いこなしてくれている喜び
そして、本当の腕のようにそれを使いこなすエインへの憧れ
それらが合わさり、ミラは震えていた
天を翔るエインの姿はとても綺麗だった
『赤竜と魔猪の狂宴!ディアブロ・コンチェルト!』
オエングスの2つの神器から縦一直線の赤の光と
横一直線の黄金の光が放たれる
それはZEROの身体を4つに両断し、紫の光を放つ魔石が姿を現した
オエングスの放った神器の光は城の壁をも両断し、十字に切り裂く
エインはZEROの股下をスライディングで通り抜け
彼の身体の上をオエングスの神器の光が通り過ぎる
そのままオエングスの前まで行き、エインは剣を右手に持ち替えた
『ゼロぉぉぉぉっ!!』
エインの疾雷の突きが放たれる
銀の腕により強化され、もはや人の出せる威力ではなかった
エインは飛び、ZEROの身体を貫通する・・・・そして、ZEROの魔石は砕け散った
着地したエインの後ろでZEROが倒れ、ズズゥンと大きな音を立てる
振り向く事なく剣を鞘に納めたエインの頬に1粒の涙が流れた・・・
解放されたワンちゃんはZEROの元へと行き、顔のそばでしゃがみ込む
「おにーちゃん、安らかに眠ってください・・・です」
彼女の目には感情というものがないが、どこか悲しそうな表情に見えた
立ち上がったワンちゃんはキョロキョロと辺りを見渡し、気を失っているリリムの元へと行く
「大丈夫・・・ですか?」
「気を失っているだけですわ」
「魔力がほとんどないのですね・・・待っててください、です」
ワンちゃんはリリムに抱きつき、胸にある魔石を押し付けた
するとリリムの身体は優しい緑色の光で包まれる・・・
「ん・・・はぇ?」
気がついたリリムは寝ぼけているようで状況が理解出来ていない
そんなとぼけた表情にミラは笑みがこぼれる
「あの、貴女は・・・・死の巫女様なのです?」
先程の彼女の魔法を見ていたワンちゃんは彼女がそうなのではないかと思っていた
「へ?あ、はい、死の巫女やってます」
「初めまして、です・・・私は試作・・・・いえ、ワンちゃん、です」
「ワンちゃん?」
「はい、です」
「死の巫女様にお願いがあるの、です」
「お願い?」
「私を・・・・殺してください、です」
「え・・・・まさか・・・」
リリムの表情が一変する、目の前にいる少女は死者なのだ
「安らかな死を望むのですか」
「はい、です」
「神もお喜びになります」
「おとーさん、おにーちゃんにも会えますか?」
「きっと会えますよ」
リリムの笑顔はとても優しいものだった
ワンちゃんは自ら死ぬ事は出来ない
それは創造主であるヴィクター・ディオダディの絶対命令があるからだ
どう死のうとしても身体がそれを許してくれなかった
そして・・・ワンちゃんは父であるヴィクターの元へ行きたかったのである
死を与える巫女、その文献はヴィクターの書物に数冊あった
その巫女であれば自分を殺してくれるかもしれない、ずっとそう考えていたのだ
「お願いします、です」
「はい・・・貴女の願い、叶えましょう」
「あ!待ってください、です!」
「へ?・・・はい」
「私が死んだら、もう死んでますけど、あの・・・
おにーちゃんと私をおとーさんのお墓に入れて貰えますか?」
「約束します・・・巫女の名にかけて」
「ありがとう、です」
ハーフブリードという初めての友達が出来たばかりだが
ワンちゃんはこのチャンスを逃したくなかった
父であるヴィクターの元へと行ける唯一のチャンスを・・・
そして、彼女は自分のせいでこれ以上争いが起きる事が嫌だった
自分が存在している限り、この争いは尽きる事がないだろう
それを終わらせるためにも、父に会うためにも、彼女は死を望んでいた
「穏ひかな死を・・・この者に救いと安寧を・・・」
ワンちゃんはリリムの詠唱を聴きながら目を閉じる
走馬灯のようにこの数十年という年月が脳内を駆け巡る
辛かった事が多いが、楽しかった事もあった
シャルル、サラ、ラピ、ジーン、シルト、ルア、沢山の知り合いも友達も出来た
止まっていた時間が嘘のような怒涛の数日間だったけど
今まで感じた事が無いほど幸せを知った
この幸せの中で眠る事が出来る、それが彼女にはとても嬉しかった
「おとーさん、おにーちゃん・・・今行きます・・・です」
ワンちゃんの閉じた瞳から涙が流れる
胸の魔石の光が徐々に弱まり、そして、ワンちゃんは息を引き取った・・・・
「ワンちゃん、貴女は人です・・・・涙を流せるのはその証拠」
リリムの瞳からも涙が溢れていた
「神は人を救ってくれます、安心して眠ってくださいね」
ワンちゃんのピンク色の髪を優しく撫で、リリムは微笑んだ
この日、幸せに包まれたまま少女はこの世を去った
戴冠式まで残り1時間40分、アムリタ城内
外でハーフブリードが復活した死者の軍勢と対面している頃
アムリタ城内では死と暴力が具現化したような存在が暴れまわっていた・・・
この場にいる現在の生存者はエイン、リリム、ミラ、バテン、プララー、アシュ
オエングス、ディムナ、カナラン神殿騎士団2名、青の大鷲6名、近衛騎士団4名
マリアンヌ、ルーゼンバーグ、レンブラン・・・・・
そして、生者ではないが試作半生体"TheZero"である
ZEROの暴走により近衛騎士団、青の大鷲共に壊滅状態だった
騎士団員の大半は潰され、引きちぎられ、喰われた
人を食す度、瓦礫を飲み込む度、ZEROの身体は巨大化してゆき
今では6メートル近くになっている
しかし、この眼前に立ちはだかる絶対的な死に、必死に足掻く者達がいる
『神器解放!モラルタよ、その力を示せ!』
オエングスの右手に握られているモラルタから赤い光が溢れ出す
『エイン!"あれ"を使いなさい!』
ミラの声が届き、ZEROから目を離さぬままエインは頷く
そして、銀の右腕に手を伸ばした・・・
エインは右腕の上腕部にある留め金に指をかけて外し、そこにある蓋をスライドさせて開く
次に腰にあるポーチから火の紋章が描かれた八つの連なった筒を取り出し
開いた上腕部へと八連筒の端の1つを装填する
続いてエインは手首より少し上の前腕部にある小さなくぼみに指をかけ
そのまま指を引くと前腕部の一部が迫り上がり、カチンッと音を立てて止まった
迫り上がった部分の先端には小さな穴が空いている
オエングスはエインが自身の銀の腕に何かをしているのを視界の隅で捉えるが
何をしているのかまでは分からない、あのような物を見た事すらないからだ
台風のように荒れ狂っていたZEROの拳をあの銀の腕は止めてしまった
オエングスが盾で止められなかった拳を片手で、だ
それがどれほど異常な光景かは分かるだろう
あの出来事で、オエングスの中でのエインという人物への評価は跳ね上がった
その後に見せた彼の突きの鋭さが評価に拍車をかけている
芸術とも言える究極まで洗練された突き
並の人間では自分が貫かれた事すら気づかない早さだろう
自分にあれを防げるだろうか、ふとそんな事を考えるが今はそんな時ではない
雑念を振り払い、エインに呼びかける
「ヴァンレン卿、何か策があるのですか」
エインは八連筒を装填し、身を低く構えていた
オエングスの問いに一瞬言葉に詰まる・・・策が無い訳ではない
だが、幾つもの可能性があり「これ」という1つを説明出来なかったからだ
「・・自分がZEROを止めます、オエングス殿はモラルタで・・・トドメを」
「了解だ」
トドメ、そう口に出してしまった事に僅かにながら後悔が残る
ZEROは自らの死を望んでいる、だが彼を救う方法は無いのだろうか
いや、そもそも生者ですら無い彼にとっては、死こそ救いなのではないだろうか
自分がどうするべきかエインは迷っていた
知り合って短い時間ではあるが、友として最後に出来る事を決めかねていた・・・
その時、黒い玉のようなものがエインの上を通る
エインはそれに気づき、黒い玉を目で追っていた
その黒い玉を操る存在、背後にいるリリムへと顔を向ける
破壊魔法、この黒い玉はそう呼ばれている
触れた部分に平等な死を与える攻撃魔法である
それを操るのは死の巫女リリム・ケルト
この破壊魔法は彼女の最も得意とする魔法だ
そして、この破壊魔法は究極魔法の最下位に存在する魔法でもある
最下位ともなると発動したからと言って気を失う事もなく
巫女ならば通常の魔法と同じように使えるものなのだ
しかし魔力の消耗は通常魔法より激しく、過度に使えば魔力が枯渇して意識を失うだろう
破壊魔法の玉が荒れ狂うZEROへと向かう
玉はZEROの右足を貫き、そのまま上昇して右腕を貫く
20センチほどの大穴が出来るが、即座に肉が集まり穴を塞いでいく
それを見たリリムは戦術を変えた
両手で何かを掴むような仕草を始める、まるで目の前に玉でもあるかのように・・・
それをぐいっと左右へ引っ張ると、破壊魔法の玉は横へと伸び、変形してゆく
次にリリムは腕を回しながら舞うような動作を始める
すると60センチほどの棒状の破壊魔法はくるくると回転を始め
ブォンブォンと独特な音が加速してゆく・・・そして、ZEROへと向かって飛んで行った
『ぐごおおおおおおおおおおおおお!!』
ZEROの咆哮が空気を振動させ、辺りにいる者に死の恐怖を与える
だが、その咆哮はここにいる者達への死の合図ではなかった
6メートル近くある巨体がグラッと揺らぐ
棒状になった破壊魔法が高速回転をしたままZEROの足にぶつかり、その足を切断する
膝と思われる部位は両断され、バランスを崩したZEROは倒れ込む・・・
しかし、ZEROは土下座でもするような体勢で両手をついてそれに耐えていた
そんなZEROにリリムの容赦ない追撃が襲い掛かる
彼の地についていた両腕の手首を破壊魔法が切断し、突っ伏すように倒れ込む
ズズゥン・・・・埃を捲き上げ、台風の目にでも入ったかのような静寂が訪れた
『今です!負傷者を連れて逃げてくださいっ!』
死の巫女の圧倒的な攻撃力に見入っていた一同は正気に戻り
青の大鷲が負傷者やZEROに食われなかった仲間の遺体を抱える
だが、近衛騎士団は動く気配が無かった
彼等はどうしたらいいのかを迷っていた
皇子の命令によりこの場から逃げる事は許されていないのだ
「おい、どうする・・・」
「敵とは逃げられないだろう・・・」
「それに命令が・・・」
そんな彼等へ青の大鷲団長ディムナ・マックールが叫んだ
『何をしている!今は敵味方など言ってる場合ではない!
生きろ!分かるか?生きるんだ!!そのために全力を出せ!』
彼の言葉は近衛騎士団の胸をえぐった
何よりも大切な事・・・それは"生きたい"という意思だった・・・・
アムリタ聖騎士団・青の大鷲は幾多の戦場を駆けてきた
無数の武功を挙げ、数々の強敵を返り討ちにしてきた
そんな青の大鷲団員には自慢できる事が1つだけある
それは、たった1人の戦死者も出した事がないという事だった
常勝無敗の騎士団、それが青の大鷲という聖騎士団だったのだ
しかし、ほんの僅かな時間でそれは崩れ去った
42人いた青の大鷲は現在8名しかいない
34名という騎士団の大半がZEROによって肉塊にされたのだ
ディムナは分かっていた、いつかはこういう日が来る事は・・・・
彼の胸はナイフでも刺さったかのように痛かった
家族、そう思えるほど長い時間を過ごしてきた戦友達を一瞬で失ったのだ
だが不思議と涙は出なかった・・・彼は頭がいい男だ、今するべき事を理解している
泣いてなどいられない、今は1人でも多く生かさなくてはならない
これ以上の悲しみには耐えられそうにないから・・・
『お前達も手伝え!分かったな!』
「は、はい!」
一人の近衛騎士団員が立ち上がると残り3人がそれに続いていた
青の大鷲と近衛騎士団は協力し、負傷した者、食われなかった遺体を担いで行く
「俺は残るぜ」
ドラスリア王国騎士団アシュ・ブラッド
彼は僅かに震える手で槍を握り締め、ZEROの方へと一歩踏み出していた
そんな彼の肩を王国騎士団団長であるバテン・カイトスが掴む
「待て、お前が行っても・・・いや、俺達が行っても邪魔になるだけだ」
彼の分析は正しい、今のアシュには足を引っ張る事は出来ても役に立つ事は出来ないだろう
『それでもっ!!』
ガンッ!と槍で地面に叩きつけアシュは叫ぶ
まともに活躍が出来ていない事に苛立っているようだった
そんな彼の前に長身の男が立ち塞がった・・・プララー・チャンヤットだ
「アシュちゃん、諦めなさい」
『うるせぇ!』
「あれを見なさいな・・・アンタにはアンタの出来る事をなさい」
プララーの指差す方には負傷者や遺体を担ぐ青の大鷲と近衛騎士団の姿があった
「・・・・」
「アタシ達じゃエインちゃん達の邪魔になっちゃうの
あの子達は特別なのよ・・・・アタシだって悔しいのよ」
そう言うプララーは手から血が出るほど拳を握っていた
「チッ・・・・わーったよ、今はカマ野郎に従ってやる」
「ありがと、アシュちゃん」
プララーが微笑むとアシュは気恥かしそうに横を向いていた
そこでアシュがある事に気がつく
「ん?そういやあのクソッタレ皇子はどこ行ったんだよ」
「え?・・・あっ!いないじゃないっ!」
「ルーゼンバーグ皇子の姿も見当たらんな、追ったのかもしれんな」
バテンは辺りを見渡しながら状況を分析していた
「へっ!じゃあ俺はクソッタレの方を追うぜ!」
「もう・・・この子ったら」
プララーは肩をすくめてため息を洩らす、その横でバテンが笑い、それを許可した
「プララーは負傷者についてやってくれ、俺はアシュと共に皇子を追う」
「りょ~か~い☆」
「おっしゃ!行こうぜ団長ぉ!」
アシュが走り出し、それを追うようにバテンもその場を去って行った
その後、プララーは青の大鷲と近衛騎士団と共に負傷者達を運び、治療を施すのだった
ミラ・ウル・ラシュフォードはこの場に残っていた
それは死の巫女リリムを守るために、だ
彼女はZEROがリリムに近づいてきた時の盾になるためにその場から動かなかった
手足は恐怖で震えるが、ミスリルゴーレム戦の時の後悔を繰り返さないために
彼女は恐怖に負けないよう全力で立っていた
「リリムさん、避難はもうすぐ完了しますわ、好きにやってくれて構わなくてよ」
「はい、ミラさんは私の後ろへ」
「嫌ですわ、わたくしは貴女の盾、横に並ばせていただきますわ」
そう言って不滅のレイピアを構えるミラの手は既に震えていなかった
決意に満ちた彼女の横顔を見てリリムも覚悟を決める
「では、行きます!」
すーっと息を大きく吸い込んで一瞬溜める
『エイン!オエングスさん!離れてください!』
リリムの叫びは届き、二人はZEROから離れてゆく
それを見てからリリムは呪文を詠唱し始めた
彼女は詠唱しながらも棒状の破壊魔法は操作しており
ZEROが立ち上がろうとする度に手足を切断している
ミラはその光景を横で見ながら思う、なんて器用な子かしら、と
この器用さが少しでもエインに向けられたら上手くいきそうなのに、とも
「我が与えしは厭世(えんせい)の生・・・穏ひかな死・・・」
リリムの綺麗な声はまるで詩のようであり、どこか幻想的なものを感じさせる
彼女は舞うように詠唱を続け、その手が描く魔法陣の光は神秘的だった
「我、その存在を否定する」
リリムの目から光が消え、深い闇のような眼差しになる
その眼にミラは本能的に恐怖した
リリムの操作していた破壊魔法が膨れ上がり、巨大な玉へと変貌する
直径は1メートルはあるだろう
立ち上がったZEROはその玉をガシっと掴み、そのまま握りつぶそうとする
玉は押しつぶされ変形するが、それを掴むZEROの手は蒸発でもするように消えてゆく
『がああああああああああああああああああああああああ!』
ZEROは全身でそれを包み込むように潰そうと試みる
ZEROの表面は蒸発していき、独特な臭いが立ち込める
「・・・・滅びよ」
リリムの両手が彼女の目の前でパンッと叩かれる
その瞬間、巨大な玉となった破壊魔法からおびただしい数の針が生え、ZEROの身体を貫く
針の刺さった箇所は崩れて塵となってゆく・・・それは大理石の地面や壁もそうだった
300はあろう死の針がZEROの身体を貫き、辺りにも穴を開けていく
「がっ・・・ご・・・・げふ」
ZEROの動きが止まり、穴を塞ごうと肉が動き出す
しかし身体に開いた穴にはまだ死の針が刺さったままである
肉が戻ろうとする度に滅び、再び肉が戻ろうとする
その行為が繰り返される度にZEROの身体は徐々に小さくなっていった・・・
「す、凄い・・・これが死の巫女か」
「リリムの力はこんなものではないですよ」
「そ、そうなのですか」
オエングスにとっては今目の前で起こっている魔法は人智を超えている
人の遥か上の存在、神の領域なんじゃないかと思うほどだった
だが、エインが言うには彼女の力はこんなものではないらしい
まだ上があるのか、そう思うだけで身震いするオエングスだった
「・・・・さよなら」
リリムから冷たい言葉が放たれ、ミラの感じていた恐怖は強まる
ミラの知る少しドジで明るく優しい彼女とは別人のようだった
死の針はパキンッと折れるように玉から離れ、高速で回転を始める
そこからは目を覆いたくなるような光景だった
死の針だったものがZEROの身体を粉々に切り裂いていく
どしゃっ
肉片と化したZEROの身体は腐臭とおびただしい量の血を撒き散らし
ぴくぴくと痙攣をしている
リリムの身体が揺らめき、咄嗟にミラは彼女の身体を支えた
魔力を使いすぎ気を失ったようだ
その顔はミラの知る綺麗で可愛い優しそうな女の子だった
エインとオエングスは剣を鞘に納め、肉片と化したZEROを見下ろす・・・
「すまない・・・ZERO」
エインの口からもれた言葉は謝罪だった
オエングスはそんな彼の背中を少し悲しそうな顔で見ていた
その時、漆黒のマントに身を包んだ少女が姿を現す
「みなさん、逃げてください、です!」
少女の名は試作半生体"TheOne"、ワンちゃんだ
「何故少女がここに・・・」
『まだ・・・終わってない、です!逃げてください、です!』
「君、どこから入って来たんだい、僕が外まで案内しようか」
オエングスはワンちゃんの前に跪き目線を合わせる
だが、目の前にいる誰もが目を奪われる男をワンちゃんは見ていなかった
彼女の視線はその遥か後方、ZEROだった肉片を凝視している
「終わってないって・・・あれの事かい?」
「はい・・・です・・・ZEROは、おにーちゃんはまだ生きてるです」
「お兄ちゃん?」
「私はTheOne、ZEROは私のおにーちゃん、です」
『君がTheOne!?』
オエングスは思わず叫んでしまった
噂では聞いた事がある、死者の軍勢の元となった完全なる死者TheOne
「は、はい・・・です・・・早く・・・」
ワンちゃんはそこまで言うとオエングスへと倒れ込む
支えたオエングスは今更ながら気づく、少女の息は荒く、とても苦しそうだった
「大丈夫かい、どうしたんだ」
「嫌なものが・・・満ちてる、です・・・・早く・・・逃げて・・・」
ワンちゃんを抱えたままオエングスは肉片となったZEROへと目を向けると
ぴくぴくと痙攣していた肉片は次第に集まり始めていた
「馬鹿な、あれでも死なないのか」
肉が集まる中心点には紫の光を放つ石が見えた
その光が脈打つように点滅を繰り返し、それに呼応するようにワンちゃんの胸も光る
その光に気づいたオエングスは目を疑った
少女の身を包んでいたマントがはだけ、彼女の膨らんでいない胸が現わになる
胸部は大きく切開されており、中には緑の光を放つ魔石が鎮座していた
「これは・・・君は本当に・・・」
「もう・・抑えられない・・・・逃げて・・・うっ!」
ワンちゃんの顔が苦痛に歪むと同時に、ZEROの肉片は物凄い早さで集まっていった
ぐねぐねと形を変え、次第に人の形をとっていく
即座にエインは抜刀し、リリムとミラの方へと移動し構えた
「ぐぐ・・・・ごごごご・・・・」
ZEROの身体はほとんど元通りになるが、その大きさは4メートルほどになっていた
「はぁ・・・はぁ・・・っ!」
ワンちゃんは何かに気づいたように辺りをキョロキョロと見渡す
そして、先程まで苦しそうだったのが嘘のようにぴょんっと立ち上がった
「嫌なものが・・・消えた?」
この時ジーンの眷属がアスタロトの影を喰らい終えたのだ
そのため辺りに満ちていた魔力は飛散する
それを自動で吸収してしまっていたワンちゃんは苦しかったのだ
ZEROが暴走したのもこのためである
「よくわかりませんけど、チャンス、です!」
状況が理解できないオエングスは戸惑っていた
少女がTheOneなのは間違いないだろう、だがTheOneはどうやら味方のようだ
そして、この好機は逃してはいけないのだと悟った
「お嬢さん、下がっていなさい・・・ここは僕に任せて」
ワンちゃんの前に立ち塞がるようにオエングスは2本の剣を抜刀し構える
『神器解放!モラルタよ!ベガルタよ!その力を示せ!』
赤と黄金の光が溢れ、その膨大な魔力にワンちゃんは驚く
目の前に立っている男は普通の人間ではない、それだけは解った
「気をつけてください、です」
「もちろんだとも」
エインが視線を送ってきている事に気づいたオエングスは無言で頷く
すると、エインはZEROに向かって走り出した
彼が囮を引き受けてくれるという事だろう、ならばこの1撃に全てを賭けよう
意識を集中して一瞬の隙も逃すまいとオエングスは構えた
ついにZEROは動き出し、先程より小柄になったせいか物凄い速さの拳を振るっている
そんなZEROの両目からは涙が流れていた・・・・
「ご・・・殺して・・・ぐで・・・頼む・・・・・」
ZEROの僅かに残った自我が彼の口を動かした
それを聞いたエインは拳を避けながら考える
友のため、彼を殺す事こそが救いなのだろうか、と
もうどうすることもできないのか、と
「だのむ・・・・エイン・・・殺しでぐで・・・助けでぐで・・・」
助け、死、それが彼の望みであり救い
「解った・・・待っていろ、友よ」
エインは覚悟を決めた、彼を救うため、彼を殺すと
右手から左手に剣を持ち替え、エインは右腕をZEROの上へと向ける
「・・・あ、ありが・・・ど・・・・ぐがああああああああああああ!!』
ZEROの自我は失われ、再び荒れ狂う台風のように拳を振るい出す
避ける事に集中しなくては1撃で殺される
エインは狙いを定める暇もなく、防戦一方になっていた
「くっ・・・一瞬でも隙があれば・・・・」
エインの洩らした独り言はワンちゃんには聞こえていた
そして、彼女はシルトから借り受けた漆黒のマントをバサっとなびかせ
開かれた胸部をむき出しにする
『おにーちゃんっ!』
ワンちゃんに気づいたZEROは狙いを変え、一直線に向かってくる
ワンちゃんは横へと移動する、その動きは人のそれではない
まるでサラのような高速の動きにオエングスは驚いていた
『ぐがあああああああああああああああああ!!』
ぶんぶんと振り回す腕にワンちゃんの身体が捕まり、その小さい身体が悲鳴を上げる
「うっ・・・今・・・・ですっ」
ミシミシと音が鳴り、ワンちゃんの両腕はあらぬ方向へと向きを変える
ZEROはTheOneの胸に手を伸ばし、そこにある魔石を指で摘んだ
それを引き抜こうと力を込めるが、巨大な手では上手くいかない
『きゃあああああああああああっ!』
ワンちゃんの叫び声が響き渡る、それは痛みからの叫びだった
その時、エインの右腕はZEROの頭上の天井を狙っていた
バシュッ!
銀の腕から発射されたフックが6メートルの高さにある天井に深々と刺さる
フックからは黒と薄紫色の斑模様のワイヤーが伸びていた
上腕部にセットしてある八連筒の1つが外へと排出され、筒は1つ移動し、腕へと入る
それを確認したエインは右手首をクンっと下へ向ける
すると、銀の腕からはギュィィィィィンという激しい音が鳴り
彼の身体は宙に浮き、凄まじい勢いで天井へと向かった
天井に到達したエインは天井を思いっ切り蹴り、ZEROへと落下してゆく
そのまま左手の突きでうなじを斬りつけ
右手でワイヤーを掴んで地面に叩きつけられるのを回避する
着地したエインはZEROの右足首にフックを撃ち、今度は右手首を上へと向ける
カチャンッ!
彼の銀の腕の中で何かが動くと同時に八連筒の1つが放出され、次の筒が腕へと入る
先程の天井と右足首に撃ち込んだフックを繋ぐワイヤーはビンっと伸びきっていた
異変に気づいたZEROが背後にいるエインを殴ろうと右腕を振るうが
エインはその右肩に新たなフックを撃ち込む
バシュッ!
クンっと右手首を下へと向け、エインの身体はZEROの右肩へと向かって行った
そのまま剣で斬りつけ、肩を踏み台にしてZEROの前方へと回り込む
右肩から伸びたワイヤーがZEROの身体に絡みつく
そしてエインは次のフックを少し離れた地面へと撃ち込み、手首を上へと向ける
カチャンッ!
ZEROはワンちゃんを掴む左腕を振るうが、エインはそれをギリギリで避け
今度は左肩を狙い、フックを放った
バシュッ!
それは深々と刺さり、肩を貫き、貫通したフックは開き、抜けないようになる
再び手首を下へと向け、エインの身体は宙を舞う
肩を踏み台にし、ZEROの背後へと降り立ち、左足をくるりと一周してから離れた地面を撃つ
バシュッ!
カチャンッ!
バッと大きく飛び退き、エインはZEROのうなじを狙った
先程斬りつけた傷痕にフックを撃ち込む
バシュッ!
そしてそのまま自身の足元へともう1発撃つ
バシュッ!
八連筒は全て使い切り、煙を上げながら放出される
フックの射出口である穴からも僅かにながら煙が上がっていた
『今です!オエングス殿!』
エインはZEROへと向かい走る
ZEROは暴れるがワイヤーにより雁字搦め(がんじがらめ)になり身動きが取れなかった
飛び回るエインを見てミラは震える
自分の作った腕をここまで使いこなしてくれている喜び
そして、本当の腕のようにそれを使いこなすエインへの憧れ
それらが合わさり、ミラは震えていた
天を翔るエインの姿はとても綺麗だった
『赤竜と魔猪の狂宴!ディアブロ・コンチェルト!』
オエングスの2つの神器から縦一直線の赤の光と
横一直線の黄金の光が放たれる
それはZEROの身体を4つに両断し、紫の光を放つ魔石が姿を現した
オエングスの放った神器の光は城の壁をも両断し、十字に切り裂く
エインはZEROの股下をスライディングで通り抜け
彼の身体の上をオエングスの神器の光が通り過ぎる
そのままオエングスの前まで行き、エインは剣を右手に持ち替えた
『ゼロぉぉぉぉっ!!』
エインの疾雷の突きが放たれる
銀の腕により強化され、もはや人の出せる威力ではなかった
エインは飛び、ZEROの身体を貫通する・・・・そして、ZEROの魔石は砕け散った
着地したエインの後ろでZEROが倒れ、ズズゥンと大きな音を立てる
振り向く事なく剣を鞘に納めたエインの頬に1粒の涙が流れた・・・
解放されたワンちゃんはZEROの元へと行き、顔のそばでしゃがみ込む
「おにーちゃん、安らかに眠ってください・・・です」
彼女の目には感情というものがないが、どこか悲しそうな表情に見えた
立ち上がったワンちゃんはキョロキョロと辺りを見渡し、気を失っているリリムの元へと行く
「大丈夫・・・ですか?」
「気を失っているだけですわ」
「魔力がほとんどないのですね・・・待っててください、です」
ワンちゃんはリリムに抱きつき、胸にある魔石を押し付けた
するとリリムの身体は優しい緑色の光で包まれる・・・
「ん・・・はぇ?」
気がついたリリムは寝ぼけているようで状況が理解出来ていない
そんなとぼけた表情にミラは笑みがこぼれる
「あの、貴女は・・・・死の巫女様なのです?」
先程の彼女の魔法を見ていたワンちゃんは彼女がそうなのではないかと思っていた
「へ?あ、はい、死の巫女やってます」
「初めまして、です・・・私は試作・・・・いえ、ワンちゃん、です」
「ワンちゃん?」
「はい、です」
「死の巫女様にお願いがあるの、です」
「お願い?」
「私を・・・・殺してください、です」
「え・・・・まさか・・・」
リリムの表情が一変する、目の前にいる少女は死者なのだ
「安らかな死を望むのですか」
「はい、です」
「神もお喜びになります」
「おとーさん、おにーちゃんにも会えますか?」
「きっと会えますよ」
リリムの笑顔はとても優しいものだった
ワンちゃんは自ら死ぬ事は出来ない
それは創造主であるヴィクター・ディオダディの絶対命令があるからだ
どう死のうとしても身体がそれを許してくれなかった
そして・・・ワンちゃんは父であるヴィクターの元へ行きたかったのである
死を与える巫女、その文献はヴィクターの書物に数冊あった
その巫女であれば自分を殺してくれるかもしれない、ずっとそう考えていたのだ
「お願いします、です」
「はい・・・貴女の願い、叶えましょう」
「あ!待ってください、です!」
「へ?・・・はい」
「私が死んだら、もう死んでますけど、あの・・・
おにーちゃんと私をおとーさんのお墓に入れて貰えますか?」
「約束します・・・巫女の名にかけて」
「ありがとう、です」
ハーフブリードという初めての友達が出来たばかりだが
ワンちゃんはこのチャンスを逃したくなかった
父であるヴィクターの元へと行ける唯一のチャンスを・・・
そして、彼女は自分のせいでこれ以上争いが起きる事が嫌だった
自分が存在している限り、この争いは尽きる事がないだろう
それを終わらせるためにも、父に会うためにも、彼女は死を望んでいた
「穏ひかな死を・・・この者に救いと安寧を・・・」
ワンちゃんはリリムの詠唱を聴きながら目を閉じる
走馬灯のようにこの数十年という年月が脳内を駆け巡る
辛かった事が多いが、楽しかった事もあった
シャルル、サラ、ラピ、ジーン、シルト、ルア、沢山の知り合いも友達も出来た
止まっていた時間が嘘のような怒涛の数日間だったけど
今まで感じた事が無いほど幸せを知った
この幸せの中で眠る事が出来る、それが彼女にはとても嬉しかった
「おとーさん、おにーちゃん・・・今行きます・・・です」
ワンちゃんの閉じた瞳から涙が流れる
胸の魔石の光が徐々に弱まり、そして、ワンちゃんは息を引き取った・・・・
「ワンちゃん、貴女は人です・・・・涙を流せるのはその証拠」
リリムの瞳からも涙が溢れていた
「神は人を救ってくれます、安心して眠ってくださいね」
ワンちゃんのピンク色の髪を優しく撫で、リリムは微笑んだ
この日、幸せに包まれたまま少女はこの世を去った
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