カタクリズム

ウナムムル

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3章:死者の国編

第11話 属性融合

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【属性融合】







アムリタ聖騎士団"緑の蛇"宿舎

カラディン兄弟の部隊が連れてきた一人の少女
試作半生体"TheOne"、通称ワンちゃんである
グラン・カラディンとドリスケル・カラディンの両名は少女を連れ団長室を訪れる

「兄者、例の娘を連れて来ました」

カラディン兄弟は戦争孤児である
兄弟は殺人、強盗、強姦、ありとあらゆる犯罪をしてきた
しかし、彼等はやりすぎた
アムリタ聖騎士団に目をつけられ、あえなく御用となったのだ
その彼等を拾ったのが緑の蛇の団長レヴィ・コナハトである

中から入れという声がし、扉を開けて団長室の中へと入ると
団長であるレヴィは邪悪な笑みを浮かべ佇んでいた

「久しいな、TheOne」

「・・・・・」

ワンちゃんは忘れもしない、この男の顔だけは
40年という時間をこの男のおかげで家に閉じ篭る事になったからだ
彼女は感情を感じさせない眼でじっと睨んでいた
その視線を鼻で笑い、レヴィはカラディン兄弟に言う

「ヴィクターの研究資料は持って来たか」

「はい、兄者」

グランが忍ばせていた研究資料のファイルを渡し
ヴィクターがそれに目を這わせ、その肩が震え出す

「くっくっく・・・・はっ・・・はーっはっはっは!
 そうか!そういう事だったのか!通りで出来ない訳だ!」

レヴィの突然の変化に驚きカラディン兄弟は彼を見上げながら言葉を待つ
すると、レヴィは勝ち誇るように、自慢するように彼等に言った

「我等の技術は爆発的に向上するぞ!TheOneとこの資料のおかげでなぁ!」

レヴィがワンちゃんの腕を掴み引っ張って行く
すると、腕を止めていた糸が切れ、また彼女の右腕は取れてしまった

「チッ」

レヴィがその腕を窓から外へと放り投げ
ワンちゃんの髪を鷲掴みにし引きずって行った
この時のワンちゃんは抵抗する気力は無かった
初めて味わった"痛み"、その恐怖は今もまだ少女の肩を震わせるに十分だった

「随分大人しいな、あの魔石がそんなに怖いか」

「・・・・・」

「まぁいい、これからお前はもっと恐ろしいものを見るだろう・・・くくくっ」

ワンちゃんを手術台のような場所に拘束し、レヴィは準備を始める
ゴムで出来たグローブをし、顔には独特なカラスのようなマスクを被る
目の部分はガラスになっており、そこから覗く眼差しは醜く、おぞましいものだった

「お前の魔石の力、引き出させてもらうぞ」

「・・・・やめてください、です」

「おっと、喋る気になったのか」

ワンちゃんは歯をガチガチと鳴らしながら小さな声で喋りだした

「わわわわ、わたしの魔石はおとーさんの宝物、です」

「だからこそ、だろう?」

マスク越しでもレヴィがニタァと微笑んでるのが解る

「こ、ここここれだけは・・・ダメなんです、お願いです、やめてください、です」

「口を開いたと思えばペラペラと煩い、黙っていろ」

バチィッ!

レヴィが自身の最高傑作である魔石を使い、紫の雷をワンちゃんの腹部へと落とす

「うっ・・・・」

その"痛み"で鮮明に恐怖が蘇り、ワンちゃんは言葉が出なくなってしまった
レヴィは少女の服の胸元をメスで綺麗に切り
雪のように白く、血の気のない肌が現わになった
まだ膨らんでもいない胸の間には大きな深い傷痕があり
開かないように糸で縫い付けられていた
レヴィはその糸をハサミで切ろうとする・・・・が、全く切れる気配がない

「なんだこの糸は、くそっ」

両手でハサミを思いっ切り握るが切れる気配はない
色々試してみるが一向に切れる気配はなかった

「ヴィクターめ、何か仕掛けてあるな」

レヴィは一旦手術室を後にし、自室へと戻って行った
残されたワンちゃんはこれから起こるであろう事態を避けたかった
でも、彼女には指1本すら動かす事はできないのだ
手、足、腰、首には例の金属で出来た枷がハメられており、彼女の力を奪っていた

しばらくしてレヴィが戻って来る
彼の手には独特な形状の鎌のようなものがあった
その鎌にはくぼみがあり、彼は腰から筒状の物を取り出す
これは魔力の込められた筒、クガネのフックアンカーと同じような物だ
カチャッとそれをはめ、鎌の刃は次第に赤く変色していった

「これは特別な鎌でな、魔法を宿す事ができる
 解るか?これは火の魔法を鎌の刃に宿したのだ」

「・・・・や、やめて・・ひっ」

少女が口を開くとレヴィは魔石をチラつかせる
それだけであの"痛み"が、恐怖が少女の脳裏を横切る
たったそれだけで少女は言葉が出なくなる、それほど恐ろしいのだ

そして、レヴィは少女の胸にある糸に手をかける
鎌の刃を糸に充てがうと接触部分から焦げるような臭いと小さな煙が上がる

プツンッ

ついに少女の小さな胸を繋ぎ止めていた糸は切れ開胸する
中には心臓の代わりに魔石が入っており
そこから生える触手のようなものが身体中に伸びていた

「く、くくっ・・・・これは凄い、なんだこれは、さっぱり解らないぞ!」

レヴィは自分の知識にない未知の領域に歓喜し、興奮していた

「ヴィクターはこんなものを40年以上前に完成させたのか!」

悔しさ、憧れ、尊敬、嫉妬、様々な感情がレヴィの中に渦巻く

「まるで生き物じゃないか・・・・なんて美しいんだ・・・」

そっと手を伸ばし、魔石に触れようとする・・・と、レヴィの身体は壁に叩きつけられていた

「がはっ・・・な、なにぃ」

自分の手を見ると2本の指が吹き飛んでいた
急いで止血し、レヴィは再びワンちゃんの魔石に目をやる
何事も無かったように魔石は美しく緑の光を放っていた
レヴィはヴィクターの研究資料を見直し、TheOneの項目を念入りに調べる

「なるほど・・・これが極魔石(きょくませき)か」

指を失った事など気にかける様子もなく、レヴィは資料に夢中になっていた
そして自身の理論が間違っていた事に気づかされる

「くくっ、まぁいい・・・お前は後にしよう
 それよりもこの技術を応用して私の研究を完成させよう」

ヴィクターの理論を使い、たった半日で新たな魔石を生み出す
新たな魔石はレヴィの最高傑作など遥かに凌駕し、素晴らしい出来だった
今の手持ちの材料では1つが限界だったが、これなら量産も可能だ
いずれ生産ラインを作り、無敵の軍隊を作り出せる
レヴィの顔は醜く歪み、野心が表へと溢れ出ていた・・・・






戴冠式当日

戦の準備を全て終えたエイン達は日が昇ると同時に行動を開始した
作戦の第一段階であるルーゼンバーグ皇子の旗揚げは既に完了している
アムリタ王家のケイトウの花の紋章を掲げ、彼等は市街地を進んでいた
作戦の第二段階、それは貴族街への門を突破する事にある
策はある、だから行動しているのだ

一行が壁から100メートルほどの位置で停止し、二人の女性が前に出た
一人の名はマルロ・ノル・ドルラード、地の巫女である
一人の名はイエル・エフ・リート、火の巫女である
両者は10メートルほど距離を取り、歩幅を合わせて進んで行く
100メートル先にある門を守る兵達が何事だと騒がしくなる頃
一人の女性と一人の少女は両手を前へと突き出した

「我、大地の手なり・・・我、大地の足なり・・・・」
「我、猛炎の手なり・・・我、猛炎の足なり・・・・」

二人の声がハモり、同時に二人を中心に巨大な魔法陣が出現する
魔法陣と魔法陣がギリギリ接触しない距離感だった

「我、大地の目なり・・・我、大地の耳なり・・・・」
「我、猛炎の目なり・・・我、猛炎の耳なり・・・・」

魔法陣は留まる事を知らず、絶えず形を変えている
その眩い光がまだ薄暗い辺りを照らし、幻想的な光景にも見えた

「命を育む大地よ、その力を、その驚異を、ここに示せ!」
「生命の根源たる炎よ、その力を、その猛々しい熱を、ここに示せ!」

マルロの黒曜石の杖が黄金色に輝き、イエルの溶焔の宝玉が真紅に輝く・・・・






戴冠式前日

「作戦は分かったんだけど、どうやってあの壁を突破するんさね」

イエルが貴族街への道を塞ぐ門を親指で指差して言う

「あの壁の魔力、膨大すぎて私の魔法でも壊せるかどうか・・・」

マルロは魔力を見る力が他の巫女より優れている
そんな彼女が言うのだ、それは真実なのだろう

「もたもたしてたらこっちの負けなんだろう?」

「はい、迅速に対処しなければなりません」

二人の巫女と話しているのはエインだ

「マルロ様、究極魔法でも厳しいのですか?」

「はい、私一人の力じゃ・・・・」

「では、二人ならどうですか?」

「二人?イエルさんと、ですか?」

「はい、魔法にはさほど詳しくありませんが
 以前に属性融合というのを学んだ事があります
 それによると属性融合は1+1が2ではなくなると聞きました」

「そりゃそうさね、ただそれは良い組み合わせの場合だよ」

「組み合わせが悪い場合はどうなるのですか?」

「ぼーん、さね」

イエルが拳を広げ爆発を表現していた

「なるほど・・・ではお二人では出来ないのでしょうか」

「出来ないなんて言ってないさね、むしろマルロとあたしは相性がいい」

イエルがマルロを見て微笑み、マルロもまた微笑んだ

「究極魔法での属性融合は初めてですけど・・・」

「あたしもだよ」

「可能でしょうか?それにより作戦を変えねばなりません」

「可能か?やるしかないんだろ?ならそう言いな」

「ふふっ」

イエルの言葉にマルロは笑っていた
二人の巫女の様子にエインは苦笑し、頭を下げた

「お願いします」

「はいよ、任しときな」

「がんばります」

その後、イエルとマルロは互いの究極魔法から似通ったものを選び
それを同時発動、同等の魔力量にするため話し合っていた
結論から言うと、魔力量はマルロの方が多く
イエルの最大魔力にマルロが合わせるという形となった
これは魔力を肉眼でハッキリと捉える事が出来るマルロの方が合わせやすい事にもあった

同等の魔力量、他人とそれを合わせる行為は驚くほど難しい
属性融合はそのバランスが崩れると魔力の暴走が起こり暴発する
そのため、他人との属性融合はやらないのが一般的になっている

シウのような一部例外もあるが、あの場合は少し状況が違う
あれは他者から与えられた魔力をシウ自身がコントロールし
3つの属性を均等化し融合をしているのだ

今回はシウのような中継地点になる存在はいない
二人の魔力をぴったり合わせて融合させなくてはいけないのだ
そのため、念入りな打ち合わせをしていた

「これならいけそうですね」

「あたしは全力を出すだけだ、頼んだよマルロ」

「はいっ!」

こんな小さな肩に再び頼らなくてはならない事に心が痛むが
元気になったマルロを見てイエルは少し嬉しくも思っていた





戴冠式当日

マルロの黒曜石の杖が黄金色に光り、イエルの溶焔の宝玉が真紅に輝く
そして彼女達の周りに出現してる魔法陣が急速回転を始め
マルロの周りにある石畳がバコッ!バコッ!と宙に浮いていく
上空には火球が出現し、徐々にその大きさを拡大していった

二人は目を合わせ、無言で頷く

『ツェーロ・ヴィーヴォ!』
『ケルーダ・フラーヴォ!』

二人の掛け声で吸い寄せられるように瓦礫と炎が集まり
そして溶け合うように混ざり合う
巨大な燃え盛る瓦礫の集合体、その大きさは30メートル近くになる
マルロの周りにある石畳はほぼ無くなり、地面もえぐれ
爆撃でもあったような惨状だった

突如ダヌ市街地上空に出現した巨大な隕石とも言える物体
街の誰もが空を見上げ、恐れ慄いた

『逃げてくださーーーーーーいっ!』

マルロが門兵達に叫び、警告をする
すると、空を見上げるだけで呆然と立ち尽くしていた兵達は蜘蛛の子を散らすように逃げ
門には誰もいなくなっていた

二人は目を合わし頷き、正面を見据えて叫ぶ

『『究極融合魔法!ファゴ・メティオール!!』』

二人の魔法陣が飛散し、消えると同時に隕石の後部が爆裂し、一気に加速する
30メートル級の燃え盛る岩の塊が恐ろしい速度で壁へと向かって行った

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

それが動くだけで空気が振動し、大地が揺れた
その光景を青の大鷲の面々は恐れを通り越し、神々しいとさえ思っていた
神の所業、人ならざる者の力、これが巫女か、と

ファゴ・メティオールが門の辺りに直撃し凄まじい爆音を立て壁を突き破る
鼓膜が振動し、ビリビリと肌で感じる
ファゴ・メティオールは壁を突き破ってもなお止まる事を知らず
貴族街の石畳へと落下し、地震でも起きたのかと言うほどの振動が起き
地面をえぐり、建物を破壊し、500メートル以上突き進んで行く
そして、城を守る壁にぶつかり、轟音を上げてそれは止まった

辺りは土煙が上がり、前は一切見えない
ゆっくりとだが煙が晴れていき、視界が通ると
貴族街への壁があった場所から城の壁まで一直線に道が出来ていた
石畳を深さ10メートルはえぐったその道には何一つ残っていなかった

静寂が訪れていた
あまりにも強大すぎる力を目にし、誰もが言葉を失っていた
マルロとイエルはその場で倒れ、協力者である市民に保護される

「す、凄まじいな・・・これが巫女か」

ディムナは震える手を必死で抑え込み、目の前の嘘のような光景を凝視している
総大将として最後尾にいたルアは全身の毛が逆立つような激しい興奮を覚えていた
先頭のエインは歯をギリっと噛み締め、銀の腕を天高く掲げ最大限の声量で叫ぶ

『全軍、突撃ぃぃぃぃっ!!』

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!

彼の掛け声で一斉に動き出し、破壊された壁を越え、貴族街へと侵入した
数名がケイトウの花の紋章が描かれた旗を掲げ、我らこそ正規軍であると主張していた

エイン達や青の大鷲は貴族街に入ってすぐ気づいた事があった
死者の軍団・・・1500はいるだろうか、それが城門前に立ち塞がっていた
ゾンビ達の一部、おおよそ400~500は
先ほどのファゴ・メティオールに巻き込まれ、ただの肉片と化していた

エイン達の戦力は現状こうだ
ディムナ率いる青の大鷲41名、エイン、リリム、ミラ
ドラスリア騎士団バテン、プララー、アシュ、カラナン神殿騎士団8名
そして、ルーゼンバーグ・アインシュタット・リ・アムリタの計56名だ

56vs1500

数字だけ見ると勝ち目はないが、相手は自我のないゾンビ達だ

『臆するな!全軍突撃ぃぃぃっ!』

ディムナの合図で全員が動き出す・・・そして戦は乱戦に突入した






同刻・・・青の大鷲宿舎前、木箱中

ズズズゥゥゥン・・・・

「おわっ、なんだこの揺れ」

「合図だよ!」

「おっしゃ!出るぞ!」

木箱を破壊し、ハーフブリード達が外へ出る
久々の開放感に背筋を伸ばし、門の方へと目を向けると
もくもくと土煙が上がっており、戦いの狼煙が上がっている事を確認した

「みんな、命を最優先で、逃げる事優先ね」

「了解」

「うん!」

「わかった」

「はーい」

ハーフブリードが動き出そうとすると、城の方から1人の男が駆け寄ってくる
白銀の甲冑、厚手の青いマント、大鷲の紋章を背負った男
オエングス・オディナ、その人だ

「参りましょう」

オエングスと共にハーフブリード達が走り出し、城の西側を回り込む
赤の獅子宿舎前を通り抜け、南にある正門を目指す
正門には赤の獅子が集結しており、何やら慌ただしくなっていた
まだ赤の獅子達は彼等の存在に気づいていない

「ハーフブリード殿は開門を頼みます、私は城内に行きます」

「らじゃらじゃ」

「精霊はまだ温存するよ」

「おっけ、シャルル、風樹魔法いける?」

「いいよー!」

「やっちゃって!」

シャルルが杖を前に構え目を瞑る
彼女の周りに風が発生し始め、それは次第に大きくなっていった
異変に気づいた赤の獅子団員が叫び、ついに彼等は見つかる
しかし時すでに遅し、シャルルの詠唱が完了したところだった

『いっくよー!エクスクルード・ベントォォォォォォッ!!』

ゴオオオオォォ!

シャルルの杖から放たれた暴風はなぎ払うように赤の獅子に襲いかかる
それを受けた赤の獅子達は2~3メートル後方に吹き飛ばされる

「うわー!な、なんだこの風は!」

「隊列を崩すな!」

「そんな事言われても無理だろ!」

パニックだった、突然の暴風に甲冑を着込んだ大の大人達が吹き飛ばされていく
その混乱に乗じてサラが一気に駆け出す、目標は門を開けるスイッチだ
スイッチの前には2人の赤の獅子団員がいるが
シャルルの発生させた暴風で顔をしかめており、目は開いていない

いける!

サラはその暴風に乗るように一気に加速する
瞬間、サラの姿が消えるようだった
早すぎる、オエングスはハーフブリードという存在の実力を侮っていた事を後悔する

サラの一撃が騎士の剣を弾き、そのままもう一人の剣を弾く
武器が無くなった二人は両手を上げ降参するような体勢になった
二人を剣の柄で気絶させ、サラはスイッチを引き下げる
分厚い門がギギギギという低い音を立てながら開き始めた・・・

『サラ!戻って!』

シルトの声が彼女の耳に届き、サラは暴風の中を逆走する
身を低く構え、地を這うように駆け抜ける
シルト達と合流したサラはよくやったと皆に褒められ、頬を染めていた




「さぁ、後は時間稼いでトンズラするよ」

風樹魔法が止み、赤の獅子達が立ち上がり抜刀する
団長であるクー・セタンタはオエングスの姿を見つけ、眉間にシワを寄せた

「オエングス、どういう事だ」

「それはディムナ団長・・・父上に聞いてください、私には時間がありません」

『気でも狂ったか!引っ捕えよ!』

赤の獅子300人がハーフブリード達に襲いかかる
だが赤の獅子は1人1人はそこまで強い者はいない
ハーフブリード達にとって敵ではなかった

「あんま傷つけちゃダメだよ、仲間になるかもだから」

「わかった」

赤の獅子との戦闘が始まり、ハーフブリード達は防戦を続けていた
オエングスは赤の獅子を突破し、城の入口に陣取るクーへと向かう

「ここは通しはしない!」

『押し通る!!』

オエングスは盾を背中にしまい、腰にあるベガルタを抜く
右手にモラルタ、左手にベガルタを持ち、彼は叫ぶ

『神器解放!!ベガルタよ!その力を示せ!』

初手からの神器解放
それは相手がクー・セタンタという男だからだ
アムリタ聖騎士団でオエングスの右に出るものは彼しかいない
実際に剣を交えた事はないが、その実力は何度もこの目で見てきている

キュィィィン・・・

ベガルタに黄色い光が集まり、オエングスは右手のモラルタを上段から振るった

キンッ!

それをゲイボルグで防いたクーは気づく、それが失敗であったと
モラルタの上からベガルタが振り下ろされ、二つの剣がぶつかり合い
赤と黄色の火花が散った

そして、突如激しい衝撃がクーの身体を襲う

バコッ!と地面がひび割れ、彼の身体は沈む
何と言う重さの剣撃だろうか、これが神器、これがオエングス

オエングスはクーのゲイボルグを二つの神器で絡み取り
それを地面へと受け流していく
そして、そのままクーの横を通り抜け、彼は全力で走って行った
彼を追おうとしたクーは自身の右足が地面に埋もれている事に気づき舌打ちをする

『追え!オエングスを逃がすな!』

赤の獅子20名がオエングスを追い、城の中へと消えて行った

ここからは時間稼ぎの戦いだ
エイン達が死者の軍勢を退け、門を越えるまでが勝負である

「シャルル、もう1回風樹魔法いける?」

「うん、どうする?」

「スイッチまで移動してそこを陣取ろう、そこで風樹魔法お願い」

「わかった!誰も近寄らせなければいいんだよね?」

「そそ、頼むね・・・ラピはディナ・シー呼んでおいて」

「はーい」

ラピが耳のピアスを指で弾く
弾かれたピアスから不思議な鈴の音のようなものが辺りに響き
綺麗な音が鳴り響くと同時に彼女の周りに銀色の粉のようなものがキラキラと舞った

「・・・・おいでませっ、ディナ・シー」

目を瞑り、両手を組んでラピは言う、優しくお願いするように・・・
銀の粉はくるくるとラピの周りを回り、頭上へと集まっていく
光が強まり弾けると、15センチほどの少女が姿を現した
頭はピンクの花のようであり、目は全眼で黄色い
花びらで出来たようなワンピースを着ている
その背には蝶のような羽根があり、パタパタと止まる事なく羽ばたいていた
ディナ・シーからはキラキラと光の粒が舞い落ちる

「なんだ、あれは」

見た事もない召喚魔法に赤の獅子の歩みが止まる

「構わん!相手はたった5人だ!」

「女子供に負けては騎士の名折れよ!」

オオオオオオオオォ!!

赤の獅子の突撃をシルトが盾となり勢いを止める
盾と盾がぶつかり合い、激しい音を立てるが
赤の獅子の誰もが思った、まるで壁にぶつかったようにビクともしないと
シルトの口元が緩み、5人の男達を一気に押し返す
5人の騎士は後ろに倒れ、活路が開いた

『今だ!』

全員で城門のスイッチ前に陣取り、シルトとサラが前に出て壁となる

「シャルル、お願い」

「まっかせろー!」

彼女は目を瞑り、意識を集中させる
髪や服がバサバサと揺れ始め、目を見開いた

「何人(なんぴと)も拒む風よ・・・!」

彼女を中心に竜巻のようなものが発生する
シャルルの杖からは幾つもの白い雷が竜巻へと伸び、突き刺さる
その度に竜巻はその厚みや勢いを増していき、強固な風の壁になっていった

「これでは近寄れないぞ!」

「くそっ、何なんだこの魔法は!」

「これがラルアースの、聖域の民かっ!」

赤の獅子の面々は近寄る事が出来ず攻めあぐねていた
矢を放つも風の壁に阻まれ、槍で突進するも吹き飛ばされる
風樹魔法を挟んで両者は睨み合いが続いていた・・・・





同刻・・・・貴族街

エイン達56名は1500という大軍を前に進めずにいた
ゾンビの強さはさほどではないが、思ったよりも時間が掛かってしまう
相手は腕を切り落とされようと死なないのだから・・・
しかし、その中で3名、かすり傷でも与えればゾンビを倒せる者がいた


1人はプララー・チャンヤット
ドラスリア騎士団の彼は生の魔法使いである
ゾンビには生の魔法が効果的であり
その拳で叩き込まれた生の魔法によりゾンビは塵と化す

「ほらほら~、滅しちゃうぞ♪めっさつぅ~☆」

踊るように滑らかな動きで次々にゾンビを塵に変えていく
その拳にはナックルのような物がはめられており
ナックルは生の魔法が刻まれていた


1人は死の巫女リリム・ケルト
彼女の破壊魔法は触れるだけで存在そのものが死に至る
二つの黒い玉のようなものを操り、変幻自在に形を変えて敵をなぎ払う
今この戦場においてゾンビを倒した数が1番多いのは彼女だろう

「安らかな眠りを・・・!」

彼女は死への冒涜であるゾンビを安らかな死へと還す事に喜びを感じていた
死の神から託された想いを胸に、彼女は破壊の力を振るう


最後の1人はミラ・ウル・ラシュフォード
彼女の持つ細身の長剣の名は"不滅のレイピア"
ドラスリア国王より直々に借り受けた国宝である
不滅のレイピア、そう呼ばれる細身の長剣はアンデッドに絶対的な力があり
更には使用者を自動回復、武器自体も自己修復されていくアーティファクト武器だ

「滅びなさい!」

不滅のレイピアで突かれたゾンビは一瞬で燃え尽き、灰と化す
ミラは次々にゾンビを貫き、不死なる存在を滅していく


この三者の活躍があってもなお、数の暴力には苦戦していた
乱戦の最中、1人の少女が舞い降りる
そう、言葉の通り天より舞い降りたのだ

ふわっと着地した少女の名前はマナ・マクリール、水の巫女だ
どこかへと消えたはずの彼女が何故か今この場に舞い降りた

後に1人の青の大鷲団員が言っていた
水の巫女は空を駆けていた、と
薄い水の地面を作り、それを足場に巫女は空を駆けていた
嘘のような話だが、あの場に居たものならばそれを嘘とは思わないだろう

舞い降りたマナは普段とは違う表情、険しい表情をしていた

「面倒な事してくれちゃって・・・ま、仕方ないか」

諦めたように肩をすくませ、彼女は歯を見せ笑った

「正面の人達、あたしの後ろに来てー」

誰もが驚いた、何故ここに、そう思った
しかし、この状況で巫女の参戦は願ってもないチャンスだ

「我、水の手なり・・・我、水の足なり・・・・」

マナが目を瞑り詠唱を始めると、彼女の周りに直径10メートルの魔法陣が出現する

『究極魔法だ!水の巫女を死守しろ!!』

エインが叫び、青の大鷲達も彼女を囲むように守りに入る

「我、水の目なり・・・我、水の耳なり・・・・」

ゾンビ達がマナへと吸い込まれるように襲い掛かるが、それ等を全て排除する
エインの銀の腕は次第に加速していき、もはや人間の速度ではない
彼の突きはミラの三段突きをも遥かに凌駕し、目にも止まらぬとはまさにこれの事だった
マナに近寄る死者を瞬時に粉砕していく

「全てを受け入れる水よ、全てを拒む水よ
 その流れに身を任せ、真実への架け橋とならん」

魔法陣が高速で回転し、彼女の足元から水が溢れ出る

『フォラーヴ・アークヴォ!』

魔法陣が飛散すると、湧き出る水の勢いは急激に増し
それはまるで大洪水のような津波を起こす

フォラーヴ・アークヴォに流されたゾンビ達は壁に叩きつけられ砕け散る
開きかけていた門にも水が押し寄せ、門はこじ開けられた
赤の獅子の一部が流され、ハーフブリード達は壁を背にしていたので助かった

マナの身体がゆらりとし、その瞬間エインが彼女の身体を支える

「・・・あんがと、イケメンくん」

「いえ、こちらこそ感謝致します、水の巫女様」

「にしし、でも疲れちった~・・・あたしは寝るわぁ~、後よろしくぅ~」

数秒で寝息を立て始める彼女を見て、エインは苦笑するしかなかった
1000体は残っていたであろう死者の軍勢を1撃でその大半を葬ったのだ
彼女の身体を青の大鷲の1人に任せ、協力者である市民の元まで運ばせる
そして、ルーゼンバーグは叫ぶ

『この勢いで反乱軍を掃討するぞ!突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!』

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!!






彼等の信念の戦いはまだ続く・・・




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