カタクリズム

ウナムムル

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3章:死者の国編

第6話 TheOne

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【TheOne】






ダヌの街を歩くハーフブリード達は物珍しそうに辺りを見渡している

「なんでどの家もあんなに屋根がとがってるのかな?」

サラが屋根を指差しながら言うと、それにはジーンが答えた

「雪を落とすためじゃないかな、重みで家が潰れないようにだと思うよ」

「なるほどなー」

サラは生活の知恵に感心しているようだ
ジーンも憶測でしかなかったが、おそらく間違っていない答えだろう
言われてみれば確かに屋根に雪が残っている家はない
道に落ちた雪は隅に寄せられ雪の壁のようになっていた

「これじゃお店どこだか分からないね」

雪の壁に阻まれ商業地を歩いているにも関わらず店の中が見えない
すれ違う人に聞くにも、すれ違う人は全て人だった者だけだ
一応死者にも声をかけてみたが何も答えは返ってこなかった

「どうしたもんかね・・・騎士団の人に場所聞いておけば良かったな」

シルトが困った顔をして顎に手を当て考えていると
シャルルとラピが道の隅にある雪の壁の綺麗な部分をほじくり
その雪で玉のような物を作っている

「にししっ」

「ひひっ」

2人が怪しげに笑っている、また何かよからぬ事を企んでいるのだろう
だいたい想像はついているが、あえてシルトは何も言わなかった
狙われるのは多分僕だろうから・・・

「1軒1軒覗いてくしかないね、手分けして探そう」

「そうだっ痛っ!」

後頭部に衝撃が伝わり、何かが当たったのが分かる
冷たさが後頭部からうなじに流れ、それが雪であるのが分かった
シルトは眉をぴくぴくと震わせながらシャルルとラピの方へと振り向く

「な・に・を・し・て・い・る・の・か・な?」

シルトが笑顔で眉をぴくつかせながら言う

「あははは!当たった当たった!ラピやっちゃえー!」

「うりゃー!」

ラピの手から雪玉が放たれる、それをシルトが頭を逸らす事でかわす
すると後ろにいたジーンの顔面に直撃した

「あ・・・・」

「・・・やばっ」

ジーンは無言で顔面の雪を手で払い、眼鏡を外してポケットから布を取り出して拭く
その表情は一切変わっていない、怒っていないようにも見える
拭き終わったジーンは眼鏡をかけ直し、違和感がないか確かめると
笑顔になりシャルルとラピの元へと無言で歩み寄る

「ジ、ジーン、ごめん!」

「ジーンさん許して!」

「ん?怒ってないよ?」

ジーンは笑顔だ、明らかにおかしい
その笑顔が二人にとっては恐怖でしかない
ジーンは歩きながら雪の壁に手を伸ばし、掴めるだけ雪を掴む
それを二つに分け、両手に持ち、シャルルとラピの顔面へと押し付けた

「ぎゃー!冷たいいいいいいぃ!」

「ふぎゃっ」

「ふふ、これでおあいこね」

あいこと言いつつ、ジーンは二人の顔面に押し付けた雪をぐりぐりとねじ込む

「いたたた」

「やめっ」

「おあいこね?」

笑顔で言うジーンの口調は普段よりも優しい雰囲気だが
それが二人には脅迫にしか聞こえなかった

「さ、遊んでないでお店探さないと」

ジーンが二人の顔から手を離し歩き始めると、後頭部にガスッと何かがぶつかる
振り向いたジーンが目にしたのは何かを投げたポーズのシャルルだった

「にししっ、バーカバーカ!」

それからもシャルルは雪玉を投げ続けるが、ジーンがそれを避け続ける
流れ弾はシルトやサラにも当たり、次第に5人での雪合戦が始まっていた

「こっのー!」

「あはは!」

「ふふ、つめたーい」

「シャルルには2倍返し!」

「なんで私だけ!おかしいだろ!」

気がつけば身体は火照り、汗すらかいていた
子供に戻ったようにハーフブリード達は雪合戦に夢中になっていた

「はぁはぁ・・・もう・・・やめ」

ガスッ!

『だー!もうやめろー!』

シルトが叫び、ジーンとサラの動きが止まった

「えー、もっと遊ぼうよー」

「だよー!」

「コート買わないとでしょ?
 身体動かしたから暑いくらいだろうけど、汗が冷えたらめちゃくちゃ寒くなるぞ」

「ちぇー、つまんなーい」

「ちぇー」

シャルルとラピは不満そうに手に持つ雪玉を雪の壁へと戻す
彼等が雪合戦に壁の雪を使った事により一部の壁は低くなっていた
すると、その低くなった壁の隙間から店の中が見える
そこには暖かそうな厚手のコートや手袋など、この地域ならではの衣類が並んでいた

「お?ここじゃん」

「おー!」

雪に埋もれていた入口を発掘し、扉を数回ノックする
しばらくして奥から誰かが歩いてくる音がし、シルトが声を張り上げ言う

『すみませーん、コートとか欲しいんですけど』

「はいはい、今開けますね」

少しして扉は開き、中から中年の女性が顔を見せる
商業地に来てから初めて見た人間だ
ちゃんと人間も住んでるんだな、と改めて思う彼等だった
中へと通され、その暖かさに驚く

「わっ、すごい暖かい」

「天国だー!」

店内には大きな暖炉があり、そこで薪がパチパチと音を立てて燃えていた

「おー、おっきい暖炉」

ラピが駆け寄り手をかざして雪で冷たくなった手を暖める
肩に乗っていたウェールズが飛び降り、暖炉の側まで寄ろうとする
ラピは慌ててウェールズを抱き上げ、あまり近寄っちゃダメでしょと叱っていた

遅れてジーン、サラ、シャルルも暖をとり
汗により冷えてきた身体を暖めていた
シルトも少し離れた位置から暖をとり、店主と話している

「この子達に合うコートとかって・・・無いですよね?」

シャルルとサラの方を見ながら店主の女性に言うと
店主は少しの間考え、笑顔になってシルトに言う

「大丈夫ですよ、尻尾の所を作ればいいだけですから」

「ホントですか、助かります」

「手直し料をいただきますけど、いいですか?」

「はい、大丈夫です」

すると店主は手をパンパンッと2度叩く
少しして店の奥からよたよたと歩いて来る人だった者が現れた
その者に対し、店主はこう言う

「道具箱を持ってきてくださいな」

人だった者はふらふらと店の奥に行き、大きな箱を持って戻ってきた

「ありがとう、あなた」

「えっ」

店主の言葉にシルトが目を見開く
この女性は目の前にいる死者を"あなた"と呼んだ
それは旦那だった人という事か?

「まさか・・・旦那さんですか?」

「えぇ、そうよ?元ですけど、何かおかしいかしら」

「いえ・・・」

この国では当たり前の事なのかもしれない
だが、受け入れ難い事実であった
そして、シルトは考えた、もしハーフブリードの誰かが死んだら
自分はその死体を使ってゾンビを作るだろうか、と
答えは否だ、そんなの決まっている
こんなの死者への冒涜以外の何物でもない
この国はそういう感性が狂っているのかもしれない

「みんな、服選んじゃって」

シルトは少しでも早くここを離れたかった
自分が口を出せる問題じゃないのは分かるが、やっぱり納得出来なかった
こんな事が許されていいのか、本当にそれで幸せなのか
亡くなった旦那さんは本当にそれを望んでいたのか
考えれば考えるほど腹の中から怒りが込み上げてきていた

彼女達がコートを選び、シャルルとサラのコートには手直しが入る
店内で1時間ほど待つ事になり、暖炉の前で皆で話し合っていた

「旦那さんを・・・何かすごいね」

「だなぁ、僕には理解できないや」

「うん、私もちょっと無理かな」

「そうね、死者は埋葬してあげたいよね」

「・・・かわいそうだよ」

しばらく話していると店主が戻って来る
手にはシャルルとサラが選んだコートがあった

「ちょっと袖を通していただけないかしら」

「あ、はい」

「はーい!」

サラは赤いコートを選んだ
とても厚手の生地で、首周りや手首には毛皮が付いており
ふわふわとした綿毛のようになっていた

シャルルが選んだコートは雪のような白いコートだ
赤いラインが入っており、これにも首周りや手首の部分に毛皮が使われている
綿毛のようになっている毛皮が少しこそばゆいが、とても暖かった

「サイズは大丈夫そうですね」

店主が彼女達のお尻を確認し、尻尾が出ている事を確かめる

「尻尾に違和感とかありますか?」

「いえ、大丈夫そうです」

「うん!大丈夫そうー!」

「それじゃ、お会計の方を・・・」

今回購入したのはシャルルとサラの手直ししたコートと
ジーンの買ったこげ茶色のコート、ラピの買ったサーモンピンクのコートだ
ついでに皆の分のもこもこの手袋も購入している

「いくらですか」

「2ゴールド40シルバーです」

「ゴールド?シルバー?」

「あ・・・・シルさん通貨が違うんだよ」

ジーンがすぐに気づき、シルトに耳打ちした

「え、じゃあ僕ら金ないじゃん」

「どうだろ、ちょっと聞いてみる」

ジーンが1歩前へと出て、店主を見て言う

「私達は旅の者なのですが、こちらの通貨を持っていません」

「え?」

「これで代用できませんか?」

ジーンが見せたのはドラスリア金貨、ミラから少し頂いた物だ
店主がそれを手に取り、念入りに確認している

「少し傷つけても?」

「えぇ、構いません」

店主は引き出しから小さなナイフを取り出し、金貨の隅に傷をつける

「本物の金のようですね、少しお待ちください」

店主は後ろへと行き、天秤を持って戻って来る
片方の皿にドラスリア金貨を乗せ、もう片方に1ゴールドを置く
重さはドラスリア金貨の方が明らかに上のようだ
そして、店主はもう1ゴールドを置き、天秤は動く
まだドラスリア金貨の方が重いようで、そこからは分銅を少しずつ置いていく
天秤が水平になり、店主が金貨をジーンへと手渡してくる

「そちらの金は2ゴールド15シルバーくらいでしょうか・・・」

「この銀貨はいくらになりますか?」

ジーンが袋からドラスリア銀貨を1枚取り出して店主に差し出す
店主は天秤に乗せ、反対側の皿にシルバーを乗せていく
水平になったところで店主が口を開いた

「だいたい60シルバーです」

「なら、1金貨1銀貨でどうですか?それならそちらも得をするでしょう?」

「えぇ、構いませんよ」

「ありがと」

こうして交渉は終え、ハーフブリード達は店を出る

「硬貨が直接使えないのは不便だな・・・どこかで換金できるといいけど」

「そうだね、先にそれをした方がいいかも」

「場所がわからんからなぁ・・・エイン君達と合流して騎士団に聞いてみようか」

「そうしよ」

シルト達が来た道を戻り始めると、1人の少女が雪で遊んでいるのが目に入る

「お?生きてる人間かな、珍しいね」

「あの子絶対可愛い!!」

ラピが一目散に駆け出す、また始まった
ラピは可愛いものを見つけるとすぐにこうなる
ヒミカの時もそうだったが、相手に引かれないといいが・・・

「おーい、ラピー、走るなー」

皆がラピの後を追い掛け、少女の元へと辿り着く
少女は彼等が来たのに気づかず、夢中で雪で何かを作っていた
それは人の形のようにも見える

近寄ってみて分かった事があった
少女の頭には大きなボルトのようなものが突き刺さっている
そこらを歩いている死者達にも似たようなボルトは刺さっているが
大きさが圧倒的に違う、約5倍はあるだろう

少女は見た目は10歳前後だろうか
フリルのたくさん付いているふんわりとしたドレスのような服を着ている
しかし、その服は明らかに年代物のようで、そこら中に手直しの跡が残っている

それは彼女自身もそうだった・・・

彼女の顔には縫い跡が幾つもあり、まるで人形のようだった
肌の色は白く、血の気を感じられない
街を歩く死者達のそれと同じだった

しかし、彼女は歩く死者と全く違う点が1つある
それは表情、そして雰囲気だ
その表情や雰囲気は明らかに生きている生者のものであった
そのため、この少女が生者なのか死者なのか、判断がつかなかった

くせの強い髪をしており、その髪は鮮やかなピンク色だ
それを頭の左右で薔薇の花飾りで2つに縛り、縛られた先の髪はくるりと跳ねている
目は世に言うジト目で、目の下のくまが色濃く出ている
顔立ちは可愛らしく、雪で遊んでいるのが楽しいのか、笑顔だった

ラピが近くで目を輝かせながら観察してると少女がラピに気づく

「・・・・はっ!」

「あ、気づいた」

「な、な、な、なんです」

少女は滝のような汗を流してるかのように慌てている

「わたしはラピ、あなたのお名前は?」

「な、な、なぜ言わないといけないのです」

「え、うーん・・・お友達になりたくて」

「とととととと、友達!!」

「うんうん」

少女の声が裏返り、興奮しているのが見て取れる
すると少女が奇妙な行動を取り始めた
頭の大きなボルトを手で掴み、ギリギリと勢いよく回し始めたのだ

「っ!それ回るの!?」

「え?あ、こ、これはおしゃれです!」

「あ、う、うん?」

「流行ってるんです!ほら、あの方も、あちらの方も!です!」

少女が指差す方を見ると、そこには死者達が歩いていた

「あれは・・・・」

「ねね、これは何作ってるの?」

シャルルがしゃがみ込み、少女の作っていた物を見て言う
そして少女に笑顔を向け、歯を見せ笑う
その表情に少女の心の氷が少しだが溶け始めた

「えっとですね、これはおとーさんです」

「へー、私達も手伝っていい?」

「・・・・・いいです」

少し恥ずかしそうに少女は俯いて頷いた

「ありがと♪シルさんいいでしょ?」

「うーん・・・まぁエイン君達もまだ掛かるだろうし、少しならいいよ」

「やったー!遊ぼ~♪」

私はシャルルね、と簡単な自己紹介を済ませ、ラピと3人で雪で人を作っていく
サラは混ざるべきなのか迷い、おろおろとしていた
ジーンは眼鏡をくいっと上げ、少女を凝視している

「ジーンさんどったの、あの子が何か?」

「うん、ちょっと面白いなって」

「面白い?」

「魔力がね・・・ふふ、ホント凄いよ?」

「どのくらい?」

「そうだなぁ・・・アモンは超えてるかな」

「え?!」

シルトが驚きの表情で改めて少女を見る
確かに風貌は変わった子だ、しかしただの子供にも見える
そんな彼女の内に秘める魔力が、あのアモンより上だと言うのだ
シルトは少女の横に座り、目線を合わせて言う

「僕はシルト、君の名前を教えてくれないかな」

「わたしです?・・・・・いいですけど・・・なぜ知りたいです」

「折角お友達になれたんだから、名前くらい知りたいじゃん?」

「ととととととと!友達っ!!・・・・うへ、うへへ」

目だけ笑っていないがどうやら笑っているようだ
友達というフレーズが気に入ったらしい

「わ、わたしは"試作半生体・TheOne"です」

「しさく?な、なんだって?」

「試作半生体・TheOneです」

「ごめん、何言ってんのか分かんない」

「シルさんバカだなー、ワンちゃんじゃん!」

「わ、わんちゃん?」

少女がシャルルの呼ぶ名前に動揺していた
しかし、次第にその表情が緩んでいき、うへへと笑いが洩れ始める
相変わらず目だけは笑っていないが

「何か長いからワンちゃんでいいよね!」

「ワンちゃん…です!」

少女はシャルルによりワンちゃんと命名された
どうやら少女はワンちゃんというあだ名が気に入ったようだ
先程から肩を震わせて笑っていた・・・目だけは笑っていないが

「ワンちゃんはお父さん大好きなの?」

「はいです」

ペタペタと雪で父親を作るワンちゃんの顔はどこか寂しげだった

「そっかー、頑張って完成させよう!」

シャルルが頑張るぞー!おー!と声を上げ、3人で雪像を作っていく
少ししてサラも加わり、4人はわいわい騒ぎながら作業を進めていた
ワンちゃんの目は変化しないが、その表情はコロコロ変わっているのが分かる
ラピに可愛いなーと言われる度にワンちゃんは頭のボルトをギリギリと回す

「みなさんはここに住んでいるのです?」

「ううん、旅の途中だよー」

「いつか居なくなってしまうのです・・・」

「うん・・・そうなっちゃうね」

「そうです・・・か・・・」

ワンちゃんの表情が暗くなり、雪像を作る手が止まった

「離れてもお友達だよ!」

シャルルが笑顔でそう言うと、ワンちゃんの口元が緩む

「はい、お友達です」

「友達記念にこれ完成させないとね」

サラが綺麗な雪を大量に持ってきて雪像の横へと置いた

「はい!です!」

しばらく雪像を作る作業は続き、1時間ほどした頃にそれは完成する
不格好だが随分時間をかけた大作だ
もしゃもしゃのヒゲが特徴的なお爺さんのような人物だった

「ワンちゃんのお父さんはご高齢なのかな?」

「はい、今年で141歳になりますです」

「141!?え?亜人か何かなの?」

「いえ、人間です・・・もうこの世にいないです」

「あ・・・・ごめん」

サラの表情が一気に曇り、肩を落とす
ワンちゃんは目は笑っていないが笑顔を作り、頭を横に振った
頭のツインテールがふりふりと揺れ、ワンちゃんは笑う



「気にしないでいいです、もう40年も前の事です」

「40?え?ワンちゃん何歳なの?」

「わたしが製造されたのは41年と133日前になるです」

「製造?」

「あ、生まれたのが!です!」

ワンちゃんは慌てて訂正するがもう遅い
これまでのやり取りを見ても分かる、この子は人間ではない
しかし、他のゾンビと比べると全くと言っていいほど違う
そして、内部に秘める高魔力・・・色々と秘密がありそうだった

「ワンちゃんはどこに住んでるのかな、送ってくよ」

「平気です、一人で帰れるです」

「そう?分かった」

「今日は遊んでくれてありがとです、また遊んでくれますか・・・?」

「もちろん!約束だよ!」

「うんうん」

「約束だよー!」

ワンちゃんに手を振り、彼女は雪の街へと消えてゆく
すると、ジーンがシルトに耳打ちしてきた

「あの子を調べたいかも、新しい力になるかもしれない」

「ほぉ・・・追う?」

「うん、私は行かせてもらうね」

「了解、念のためシャルルと一緒に行って、僕らは宿にいるから」

「わかった、シャルル」

「ん?」

「ちょっと用事あるから付き合って」

「えー、めんどくさーい」

「ワンちゃんの後を追うよ」

「え?なんで?」

「理由は後で、行くよ」

そう言うとジーンはさくさくと歩き出す

「ジーン、コラ!待てー!説明しろー!」

文句を撒き散らしながらジーンの後を追い、シャルルとジーンも雪の街へ消えて行った
その後、残された3人は宿を探し、今日の寝床を確保する
相変わらず街中には生者の姿は無いが、宿の受付は人間だった
先程の洋服店もそうだが、どうやら人間とやり取りするのは生者のようだ

4人部屋と1人部屋を借り、宿にあるという温泉で身体を温める
風呂上がりのサラが窓の外を眺めているとジーンとシャルルが戻ってくるのが見える
サラが部屋から出て2人を出迎え、部屋へ案内すると
シャルルはガタガタと震えていた

「さ、さ、さむ・・・」

「外寒かったね」

「寒いなんてレベルじゃないよ!」

「2人とも温泉あるから入ってきなー」

「うんうん、温かかったよー」

「行くー!ジーン行くぞー!」

「はいはい」

2人が温泉へと行き、部屋に静寂が訪れる
ラピはウェールズと遊んでおり、サラは手持ち無沙汰になり廊下に出る事にした
何気なくシルトの部屋の前へと行き、ノックをしようとしてその手が止まる
私はなんでシルトさんの部屋に行こうとしたんだろう?用事はない・・・よね?
上げた手を下ろし、くるりと踵を返すと背後でガチャっと扉が開く

「あれ?どったの?」

シルトが部屋から顔を出して驚いた表情をしていた
その表情がどこかおかしくて、サラは小さくふふっと笑う

「え?なんで僕笑われた?」

「ううん、なんでもないよ、シルトさん何してたの?」

「いや、特になにも」

「あ!そうだ、ちょっと待ってて」

サラが何かを思い出し、部屋へと戻って行く
自身の部屋から顔だけを出している状態のままシルトがサラを待ち
少しして彼女が戻ってくる、その手には黒い布が握られていた

「あ、それね」

「うん、ありがと」

「いえいえ」

サラに貸していた黒いマントを受け取り
広げてみると、ほんのりだが石鹸の香りが漂ってきた

「ん?これ洗った?」

「ううん、洗ってないけど・・・・あ、私の匂いかな」

サラは自分の身体をくんくんと嗅ぎ、確かめている
特に不快な匂いはしないはずだが、彼が気にするなら洗った方がいいだろう

「ごめん、洗ってくるよ」

「いや、違う違う、石鹸みたいな香りしたから洗ったのかなーって思っただけ」

「そっか」

「ジーンさん達戻った?」

「うん、さっき戻ってお風呂行ったよ」

「そっか、戻ったらジーンさんに部屋に来るよう言っておいて」

「はーい」

シルトは扉を閉め、サラも部屋へと戻って行く
しばらくしてジーンとシャルルが温泉から戻り、身体から湯気が上がっていた

「ジーンさん、シルトさんが呼んでたよ」

「分かった、ありがと」

ジーンがベッドから立ち上がり、部屋を後にする
彼女が居なくなってからサラはシャルルに聞いてみた

「ワンちゃん追うって何でだったの?」

「何かワンちゃん凄い魔力持ってるんだってさー」

「へー」

「その秘密を探りたいからってこんな時間までつけてたんだけど・・・」

「だけど?」

「見失っちゃった」

「ありゃ」

「不思議なんだよなー、音も気配もなくて、いきなり消えたって感じ」

「シャルルで聴こえないって凄いね、ワンちゃんって本当に何かあるのかな」

「んー・・・分かんないけど
 本当は尾行するような真似したくないんだけど
 ジーンがあの子は多分狙われるからって言うからさー」

「狙われる?」

「物凄い魔力だし、特異な存在だから狙う奴はいるって」

「そうなんだ・・・心配だね」

「うん、だから協力したんだけど、やっぱ内緒でつけ回すのはなー」

「そうだね、明日会えたら直接聞いてみたら?」

「その方がいいかもね!」

「うんうん」


一方ジーンはシルトの部屋を訪れていた


「・・・・って感じで見失っちゃった」

「消えたって事?」

「うん、何かの魔法かもね」

「それだけの魔力持ってるならあり得るか・・・」

「明日も探ってみたいんだけどいいかな?」

「うん、でも折角友達になったんだから直接言えばいいじゃん」

「上手くいくかな?」

「それは信頼次第じゃないかな」

「信頼・・・か・・・・」

ジーンが複雑な表情になった後に立ち上がり、扉へと向かう

「ここはあの子達に任せた方がいいかもね」

「んだね、たまには頼ってみな」

「うん、そうしてみる、それじゃ」

「おやすみー」

「おやすみ」

ジーンが出て行き、シルトはベッドに寝転がる
天井を眺めながら今日あった事を思い出していた
洋服店の死者、あなたと呼ばれた元旦那さんだ
何度考えても腹が立つ、死者をあんな扱いにするなんて
しかも1度でも愛した相手を、だ
それがシルトには納得できるものではなかった

「かと言って、何かできるわけでもない・・・か・・・」

彼の独り言が室内に響き、夢の世界へと旅立っていった




翌日、ハーフブリードは1人の男と出会い、ワンちゃんとも再会する事となる
捕われたエイン達、ハーフブリードの新たな出会い
様々な事柄が複雑に絡み合い、ダヌという街に渦巻くものへと結びつく
そして、彼女は世界の欠片に触れる事となる


その先に待つものなど知らずに・・・・



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