カタクリズム

ウナムムル

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3章:死者の国編

第5話 死者の都

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【死者の都】







雪原を4日ほど進み、慣れない雪道で皆の疲労はピークに達していた
すると、吹雪の先に明かりが目に入る
それこそ目的地、聖アムリタの首都"ダヌ"である
一行がダヌに到着する目前で、シャチとヒミカが立ち止まった

「コノ臭イハ・・・」

「ウゥ、臭イ~・・・シャチ、アッチ行クノヤダァ~」

ヒミカが自身の柔らかそうな大きな両手で鼻を押さえている
その目は僅かに潤んでいる
隣にいるシャチは眉間にシワを寄せ、渋い顔をしていた

「コレハ、死ノ臭イダナ・・・コレホド濃イ死ノ臭イハ初メテダ」

ダヌまではまだ1キロはあるが、二人はハッキリと死の臭いを感じ取っていた
この先にある都市、そこはネネモリを襲った死者の軍団の本拠地だ
当然の事だが死者が多いのだろう、それを二人は嗅覚で感じ取ったのだ
吹雪に紛れて漂う匂いは普通の人間では感じる事などできない
ワータイガーである二人だけはその僅かな匂いを感知していた

「ここでも分かるのですか・・・」

オエングスがシャチ達を見て驚いている
彼もダヌの匂いは好きではなかった
それは独特な腐臭、街中に香炉を置いて誤魔化してはいるが
どうしても隠しきれない匂いというものはある

「ウゥ~・・・」

ヒミカは涙目で鼻を押さえたままだ

「ムゥ・・・ヒミカヲ連レテ、ココヨリ先ヘハ行ケナイ」

「ならば、どうしますの?」

ミラがシャチの元へと行き、見上げながら言った

「ヒミカヲ連レ、東ヘ向カウ」

「お二人で行く気ですの?無謀ですわ」

「コノ地ハ踏ミ込ンデハイケナイ・・・コノ身ニ眠ル野生ガ、ソウ囁クノダ」

シャチは他のワータイガーよりも遥かに優れた探知能力があった
それはヒミカもそうであり、他のワータイガーの1.5倍近くはある
そして、シャチやヒミカの違いはそれだけではなかった・・・

「しかし!お二人でなど!」

「ココニ居ル者デ俺ニ勝テルト本当ニ思ッテイルノカ?」

シャチの目は本気だった
その目に睨まれたミラは呼吸すらできなくなってしまう

『シャチノバカッ!ヤメナサイッ!!』

ヒミカがシャチの脛を思いっ切り蹴飛ばし、尻尾をぷんぷんと振り怒っている
ヒミカの蹴り程度では痛みなど無いに等しいが
シャチにとってヒミカは絶対であり、彼女が怒るならばやめなくてはならない

「・・・・かはっ・・・はぁ・・・はぁ・・・今のは・・・」

ミラの膝はガクガクと震え、恐る恐るシャチを見る
すると、シャチはヒミカに優しい眼差しを向け、頭を垂れていた

「大丈夫ですか、ミラ様」

エインが心配そうにミラの顔を覗き込む
ミラはエインの顔を見て自分が震えている事に気がついた

「え、えぇ・・・平気ですわ」

今のが何だったのかは分からない
だが、シャチの力の片鱗のようなものを向けられたのは間違いないだろう
その力は絶対的で、ここにいる皆でシャチと対峙しても勝てるかどうか怪しいと思えるほどだ
流石に巫女がこれだけいれば勝つ事は可能だろうが、おそらく犠牲者は50は出るだろう
それほどの違いというものをミラは肌で感じていた

「シャチさん、分かりましたわ・・・どうかお気をつけて」

「ウム」

ミラは手持ちの金貨を500ほどシャチに分け、二人のワータイガーに頭を下げる
シャチがヒミカを連れ、吹雪の吹き荒れる白い平原へと消えて行く
別れ際にヒミカとマルロとラピが大きく手を振って別れを惜しんでいた



一行がアムリタへと到着したのはそれからほどなくしてだ
巨大な門があり、門番が2人、門の上にも見張りが4いる
その6名がエイン達一行を舐めるように見ている

「・・・随分ピリピリしてるんですね」

エインが青の大鷲の団長であるディムナ・マックールへと声をかける
門兵達の視線には警戒の二文字が色濃く現れていたからだ

「状況が状況なのでね」

「それはどういう意味ですか?」

「数ヶ月前まで死というものが無かったのだ、それは知っているか?」

「えぇ、もちろん」

「その時、世界では戦争が頻発したのだ・・・」

「こちらもですか・・・」

「では、そちらもなのか・・・人はどこも同じという訳か」

「悲しい事ですが、そのようです」

エインは少し暗い顔になり、隣のリリムへと目を向けた
リリムは寂しそうに、悲しそうに、彼へと微笑み返す
そして、ディムナは眉間にシワを寄せ、俯き気味に語り出した

「世界に死が戻り、死者が溢れた・・・そして、我が国はそれを使ったのだ」

「例の死者の軍団ですか」

「あぁ、それだけではない、我が国では死者を働き手として使っている」

「そんな事まで・・・可能なのですか?」

「できる、いや・・やっと出来たと言うべきか」

「と言いますと?」

「それは自分の目で確かめてくれ」

そう言ってディムナは一団から前へと出る

『アムリタ聖騎士団"青の大鷲"ディムナ・マックール!』

大声で名乗り、それを聞いた門兵達は大急ぎで門を開いてゆく
開き終えた門兵達はディムナに対して最敬礼で迎える
その光景は彼の地位の高さが伺えた


分厚い扉の門を通り抜けると、そこには"人だった"者達が大勢歩いていた
目は虚ろで、生気というものは一切感じられず
ゆらゆらと揺れながら、何も言わず、ただ歩いていた
彼等のこめかみには細いボルトのような物が刺さっており
それが頭を貫き、反対側のこめかみから飛び出している
そんなものが無くとも彼等を生者と思う人などいないだろうが
明確に生者でない証拠が頭に深々と突き刺さっていた

街からは独特な匂いが漂い、先ほどシャチ達が言っていた匂いはこれか、と皆が思う
これだけの人がいる街は本来であれば活気に満ちている
しかし、この街は静寂が支配していた
足を引きずるような音、服の擦れる音、吹雪の音、それだけがこの街の音だ
それは何とも言えぬ違和感を彼等に与えた
ドラスリア、カナラン、ラーズ、ネネモリ、ラルアースにある国とは全く違う国
ここが別の世界であると強く実感するエイン達一行だった

「この街に生者はいるのですか・・・?」

リリムは目に少しばかり涙を貯めながら言う
彼女にとってこの光景はとても悲しい事なのだろう
死を司る巫女としては、この光景は死の冒涜以外のなにものでもない
僅かに震える彼女の肩に手を置き、エインは1つ頷いた

「もちろんいるとも、しかしこの街の住民達は自ら働く事はほとんどない」

「では、街はいつもこのように静かなのですか?」

「・・・お恥ずかしい限りだ」

ディムナは眉毛を八の字にして困ったものだと言った顔をしていた

街は石造りの建物が多く、道も石畳で舗装されておりラーズに似た印象がある
しかし、ラーズとは全く違う部分もある
それは入口の巨大な門を抜け街に入ったというのに
街の奥には再び大きな門がそびえ立っている事だ
門から伸びる壁は高さ8メートルはあるだろう
そして、その先にもまたもう1つ門と壁が見えていた

アムリタは円形状の街である
外周をぐるりと大きく壁が囲み、正面と裏側に巨大な門がある
その中は市街地、商業地であり、一般人が暮らしている
そして2つ目の門と壁がぐるりと囲む先、貴族街と呼ばれるエリアだ
貴族街には貴族や重鎮などが暮らし、裕福な層しかいないと言っていい
最後の3つ目の門と壁を抜けると聖アムリタの城がある
そこは一般人は入る事は許されず、貴族ですら滅多に入る事はできない

真上から見れば円の中に少し小さな円があり更にもう1つ小さな円があるような形である
円と円の隙間に人々が暮らしている、そんな街だ
中央に行くにつれ緩やかな斜面となっており、城は少し高い位置にある

重苦しい門と壁よりも気になった事がある・・・この街には色が無いのだ
白、灰、黒、辺りを見渡してもそんな色しか目に入ってこない
草花という物が一切見当たらない、寒い地域だから草花が育たないのかもしれないが
それにしても看板から何から全て暗い色なのは何故なのだろうか
死者が闊歩する事で不気味さすらある街なのだが
色が無い事により、より一層不気味さが増していた

「何故、街の中にも壁があるのですか?」

エインが不思議そうに壁を見上げながら言う
彼の母国であるドラスリアにも城下町と城を隔てる城壁はあるが
3重にしなければいけないほど戦争が多い地域なのだろうか?それが彼の感想だった

「理由は知らんが、これは大戦で使われた壁を利用して作られたらしい」

「大戦・・・ですか?」

「あぁ、神々の戦い、神話戦争と言われている」

それから街を歩きながらディムナが神話戦争について教えてくれる

神話戦争とは、6000年以上前に起きた大戦
火・水・地・風・生・死の六神と、存在しない神との戦い
六神は力を合わせ、巫女と神の使徒を使い、存在しない神と戦わせた
追い込まれた存在しない神は怒れ狂い、禁忌の門を出現させる
門から現れたのは"悪魔"と呼ばれる者達だった
その力は絶大で、特に3体の悪魔王は火・水・風・地の四神と同等以上の力を持っていた


1の悪魔王シャイターン、彼の力は他の悪魔を遥かに凌駕していた

2の悪魔王アスタロト、彼の悪魔は全てを支配する力を有していた

3の悪魔王ベルゼビュート、彼の者は世界を破壊しうる力を持っていた


三大悪魔王はその強大な力で四神を退けたと言う
その時に1人の悪魔王は地に伏したとも言われているが定かではない
悪魔王達の働きにより形勢は逆転する
存在しない神は生と死の神を追い込み、生の神にトドメを刺そうとしていた
しかし、それは彼の者の出現により止められる
1人の勇者が光の剣を手に現れたのだ
勇者は六神の力を借り、様々な種族の友と共に、存在しない神へと挑んだ

友は散り、幾多の屍の山を築く
それでも彼は諦めなかった、大切なものを守るために
そしてついにやったのだ、勇者の光の剣が存在しない神の胸に突き刺さる
生と死の神は残る力を合わせ、存在しない神と悪魔達を禁忌の門の向こうへと追いやった
その後、門を閉ざし封印を施したと言う

これが数千年語り継がれた神話の戦いである

「その時代に作られた壁を使っているらしいぞ」

「6000年以上前の物をですか・・・そうは見えませんね」

「この壁は不思議と劣化しないようだぞ、理由は俺は知らんがな、はっはっは!」

ディムナが豪快に笑う、その横でエインは自身の右腕を見ていた
劣化しない・・・そうか、この腕と同じように魔法が掛かっているんだ
エインは魔法をかけてくれた人物、リリムに目をやると
彼女は無言で1度頷き、壁を見上げていた

「どうやってこんな巨大な物に魔法を・・・」

エインもリリムの横で壁を見上げていると、二人の肩を叩く人がいた

「観光に来たのではありませんわよ」

ミラが二人に微笑み、聖騎士団"青の大鷲"の後を追う
エイン達もそれに続き、遅れないようにしながら街を眺めていた

「あの~・・・」

にやけ顔の黒い鎧の男が声をかけてくる・・・シルトだ

「僕らちょっと買い物行って来ていいですかね?仲間が寒がってて」

「いいですわよ、ここからは外交になりますので、わたくしがやりますから」

ミラの言葉を聞いて、シルトが片手の親指を立てて後ろにいるハーフブリード達に見せる
すると、彼女達から歓声が上がっていた

「助かります、それじゃ僕らはこれで」

「後であの門で落ち合いましょう、日が落ちる前に」

「了解です」

そう言ってシルトは仲間達の元へと小走りで戻って行く
彼の背中を見ながらミラは思う
何故、あの方はあんなにも強いのに普段はヘラヘラしているのかしら
誇りは無いのかしら・・・でも、少し羨ましい
わたくしもあんな風にお友達と笑い合えたらいいのに・・・
ミラにとってハーフブリード達は誇りの無い下品な連中であり
同時に、絶対的な強者であり尊敬に値する人達でもある
そして、あの仲睦まじい間柄は羨ましくもあった

ハーフブリード達が商業地へと消え、エイン達一行は2つ目の門へと向かう
門の前には門兵が2人、門の上には弓を構えた者が4人ほどいた
先頭のディムナが再び声を張り上げる

『アムリタ聖騎士団"青の大鷲"ディムナ・マックール!』

門兵が即座に門を開き、深く頭を下げる
門上にいた弓兵達も最敬礼で彼を迎えていた
先ほども見たその様子にミラがディムナへと問いかける

「マックール殿は貴族なのですか?」

「えぇ、3代前の王が祖父になります」

「良い家柄なのですわね」

「そちらこそ、名のある家のご令嬢とお見受けする」

「わたくしはドラスリア王国ラシュフォード家が三女、ミラ・ウル・ラシュフォードですわ」

「これはこれはご丁寧に、ようこそ我が祖国アムリアへ」

ディムナはまるでダンスのお誘いのようなお辞儀をし
はっはっは!と豪快に笑い、オエングスに手招きをする

「こいつは私の養子でオエングス・オディナと言う
 血は繋がっていないが我が子のようなものだ、よろしく頼む」

「挨拶が遅れました、オエングスとお呼びください、以後お見知りおきを」

「ご丁寧に有難う御座いますわ、わたくしもミラとお呼びくださいまし」

お互いの自己紹介などをしながら一行は巨大な門を抜け、貴族街を歩く
先ほどまでの暗い色使いの街なのは変わりないのだが
建物には細かな装飾が施されており、1軒1軒が大きな建物が並んでいる
そして、貴族街には死者の姿が見当たらなかった

「ここには死者はいないのですか?」

「えぇ、貴族には死者の放つ臭いが好きでない者が多いので生者を雇う者が多いのです」

「なるほど・・・」

リリムは後方の閉まりかけている門の先、市街地の方へと目を向ける
そこにはフラフラと歩き回る死者達がおり
まるで門のこちら側と向こう側は生者と死者の境界のようにも思えた
後方の門は閉まり、視界は遮られる
すると、貴族街の貴婦人達がオエングスの元へと駆け寄ってきた

「オエングス様、今回はどのような冒険をなさったのですか?」

「お話をお聞かせくださいませ」

「そちらの小汚い者達はどなたですの?」

貴婦人の一人がそんな失礼な事を言いながらエイン達を舐めるような目で見ていた
その視線の先にいるミラを見た瞬間、貴婦人は固まる
自分より遥かに良いであろう材質の服、身につける装飾のレベルの高さ
漂う気品、目を疑うほどの美貌、その全てが自分など相手にもならないほどだった
貴婦人は口元を扇子で隠し、小さく舌打ちをする

「何て事をおっしゃられますか!
 こちらにおられます方々は巫女様御一行です!言葉を慎みなさい!」

オエングスが僅かにながら怒りの篭った声を上げ
貴婦人達は半歩後ろへ下がり、巫女という言葉の意味を脳内で検索をかける
そして答えが導き出されると、彼女達の表情から血の気が引いていた
慌てて2歩下がり、深く頭を垂れて言う

「も、申し訳ありません巫女様、何卒御慈悲を!」

冷や汗すら流している貴婦人の変化に、エイン達一行は戸惑う
彼女達の巫女という存在に対する価値観が分からない
そのため、彼女達の急な変化には戸惑っていた

「いえ、お気になさらずに・・・」

マルロが小さく首を横に振り、彼女達に笑顔を向ける
それを見た貴婦人は更に驚く、マルロを巫女と思っていなかったのだ
てっきりミラの事だと思っていたのだから
マルロの前にずいっと出てきたイエルが彼女達に言う

「あんたら勘違いしてるようだから言っておくよ
 巫女なのはこの小さいのと、黒髪のと、緑髪の寝癖だらけなのと、私だからね」

「よ、よ、四人も!?」

「そうさね、分かったならさっさと行きな」

「は、はい!失礼します!」

貴婦人達は走りにくそうなスカートを履いているが必死に走って去って行く
その情けない後ろ姿を見てイエルは豪快に笑っていた

「はっはっは!ああいうのは追っ払うのが一番さね」

「はぁ・・・でも可哀相ですよ」

「マルロは優しすぎるのさ、失礼な奴にまで優しくしてやる必要なんてないよ」

マルロはいまいち納得いかない様子で貴婦人達の後ろ姿を見ていた
表情がコロコロと変わるようになったマルロの変化に、イエルは心から嬉しいのだ
そんなマルロの事を馬鹿にするあいつ等がイエルは気に食わなかった
ただそれだけで彼女達にキツく当たったのだ

「とんだ御無礼を・・・申し訳ありません」

オエングスが頭を下げると、リリムが慌てて彼の頭を上げさせる

「気にしないでください、私達も普通の人間ですから」

「普通・・・ですか」

「え・・・普通じゃないですか?」

リリムは私変な事言ったのかな?とエインやミラに同意を求める

「普通、ではないですよね」

「ですわね」

「えー!?」

あははは、と皆が笑い、先程までの空気はどこかへ行き、場が和んだ
その後、しばらく歩いていると水の巫女マナ・マクリールが急に立ち止まる

「どうかされたのです?」

「あたし戻るわ、この先に用事はないみたいだから」

「どういう意味ですの?」

「ううん、気にしないで、あたしのやるべき事は別にあるってだけだから」

「そう・・・ですか」

「それじゃっ!まったね~♪」

有無を言わさず彼女はとことこと走って行ってしまった
止めなくて良かったのだろうか?
しかし、不思議とここにいる誰もが彼女を止めるという思考に至らなかった

走り去る間際、マナはエインを見て微笑んでいた
その笑顔の意味が分からず、エインは困惑するだけだったが
すれ違い様にマナは小さく呟いていた

「また会えるよ、君とはそういう運命だから」

その声はエインだけに届き、彼女は微笑み走り去って行った
言葉の真意は分からないが、巫女が言うのであればそうなのだろう
エインは心の奥底にその言葉をしまい、元気に走る彼女を見る

「相変わらず掴みどころの無い方ですわね・・・」

「えぇ、ですが嫌味がない、とても不思議な方です」

エイン達はマナの背中を見送り、再び歩を進め出した
エイン達一行が3つ目の門、貴族街と王城を隔てる門へと差し掛かる
門兵は4、上の弓兵は8ほどいる
先程までの門兵達とは違い、ここの門兵はフルプレートを着ていた
それは白銀のプレート、背中にある赤い厚手のマントが色の無い街の中で存在を主張していた

「これはディムナ・マックール団長、何事ですか」

門兵の1人がディムナを見るや近寄ってきて挨拶をしている
彼等の赤いマントには獅子の紋章が刻まれていた
彼等はアムリタ聖騎士団"赤の獅子"である
アムリタには聖騎士団がもう1つある、それは"緑の蛇"だ
緑の蛇は聖騎士団とは名ばかりで、その大半が魔法使いと科学者によって構成されている
それに比べ、青の大鷲や赤の獅子はちゃんとした騎士ばかりで構成されており
緑の蛇とは幾度となく衝突を繰り返していた
そのため、青の大鷲と赤の獅子は意見の対立はあれど、仲は悪くはない

「王に謁見したい」

「はっ!このまま少々お待ちください」

門兵の一人が巨大な門の横にある小さなドアから中へと入って行き
エイン達一行は門の前で待つよう言われた
門兵の一人が消えてからどれほど時間が経っただろうか
日が傾きかけた頃、やっとその巨大な門が開く

「やっとか」

ディムナがホッとため息を洩らすと
門の先にいる人物を見て、その息を飲んだ

ギギギギギ・・・・ガコンッ

門が開き、一人の男の後ろに数百はいるであろう騎士団の姿があった

「・・・・どういう事だ、訳を言ってもらおうか」

ディムナが男を睨みながら言うと、男は眉間にシワを寄せ、頭を横に振った

「それはこちらの台詞だ、ディムナ」

男は白髪交じりの黒髪で、顔立ちは整っているが至るところに傷痕がある
白銀のプレートで身を包み、赤いマントを背負っていた
彼の名はクー・セタンタ、赤の獅子の団長である
その実力はオエングスにも勝るとも言われているほどだ

ガッ!

クーが手に持つ真紅の槍を大地に突き立てる

フィィィィン・・・・

独特な音が反響し、ただの槍ではないのがありありと分かる
そう、彼の持つ槍は特別である
神槍ゲイボルグ、そう呼ばれる槍を持つ男が立ち塞がっていた

「誰も通すなとの命のはず!何故連れて来た!」

「決闘決議により決まった事、有無は言わさぬぞ」

「お前が負けたのか」

「いや、オエングスだ」

「ほぅ・・・・」

クーがオエングスへと目を向けると彼は一礼する

「お前が負けたというのは本当か?」

「はっ!」

「して、誰に負けたのだ」

「・・・その者は今街で買い物をしております」

「では、ここにいる者達は違うのだな?」

「はっ!」

「と、言うわけだ、ディムナ」

クーがディムナを見て1つ息を吐き出した

「すまない・・・・引っ捕えよ!」

「クー!貴様!」

ディムナがエイン達とクーの間に立ち、道を塞ぐと

「邪魔するのであれば青の大鷲とて容赦はしない!引っ捕えよ!!」

クーの背後にいる騎士団が一斉に動き出し、あっという間に囲まれてしまう
その数おおよそ300、全員が白銀のプレートを着込んでおり
背中には赤い獅子のマントを背負っている

「・・・これはどうすれば」

エインが腰の剣に手を置き、リリムの盾になるように立つ

『頼む、話を聞いてくれっ!』

しかし、ディムナの叫びは届かなかった
赤の獅子達は抜刀し、その切っ先をエイン達へと向ける

「やるしかないのかい」

イエルは既に溶焔の宝玉をその手に持っている
その横で黒曜石の杖を両手で握るマルロの表情は怯えているようだった

「いきなりこれぇ?焦っちゃダメよ~ん☆」

プララーがまとわりつくような喋り方で騎士団にウィンクをしながら言うと
ウィンクをされた兵は顔を逸らす

「お前の眼差しはお気に召さないようだな!はははは!!」

隣のアシュが大声で笑い、プララーがむすっとしている

「お前達、ふざけてないでしっかり働けよ」

バテンが抜刀し、その穏やかな表情がみるみる野性的な表情へと変わって行く

『ま、待っていただきたい!剣を納めてください!』

ディムナがエイン達に叫ぶと、皆の臨戦態勢は僅かに緩む

「ここで争っては元も子もない、今は大人しく従いましょう」

「そうですわね・・・そう致しましょう」

剣を鞘にしまう彼等を見て、クーは部下に命令を下す

「青の大鷲とその連れを牢へ入れておけ、抵抗するようならば斬れ」

「はっ!」




エイン達一行は暗く冷たい牢へと幽閉されてしまう
不安や恐れを抱えながら、彼等は黙ってそれに従っていた




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