カタクリズム

ウナムムル

文字の大きさ
上 下
25 / 84
2章:ハーフブリード編

第6話 魔の軍勢

しおりを挟む
【魔の軍勢】







ラーズ軍本部、会議室

軍総帥ドゥヴェルグ・アーグ・トールキン、軍上層部
ラーズ国議員達、そして冒険者組合上層部が集結していた
急遽召集された彼等には苛立ちと不安が入り混じっている
ざわめく会議室の中央でドゥヴェルグが大きな咳払いをする
途端に静かになり、全員が彼に注目した

「組合長、どういう事なのか説明を頼めるか」

組合長と呼ばれた男が立ち上がる
彼はラーズ国冒険者組合の長、名はヒューズ・ウォール
ラーズ国における冒険者達をまとめる存在である
細身で白髪混じりの彼は元2等級冒険者で、火の魔法使いだった
そんな彼が身振り手振りを加えて話し出す

「1等級冒険者チーム、ハーフブリードからの報告が入りまして
 首都より北東へ2キロの地点、そこに突如強大な魔物が出現したようです」

「随分近いな、それに突如とはどういう事ぞ」

「今回依頼したのはサイクロプス3体の討伐でした
 それは達成したようなのですが・・その場に突如現れたとしか聞いておりません」

「ふむ・・・あやつ等が嘘を言うとも思えん、そこは信じるしかあるまいな」

その時、会議室にコンコンというノックの音が響く

「なんだ、今は会議中ぞ」

扉の向こう側から声がする

「はっ!ハーフブリード、シルト様より書簡を預かっております」

「入れ」

扉が開き、冒険者組合員の女性が入ってくる
彼女は今回の件を組合に報告した後
ハーフブリードの家へ戻り、詳細を書いてもらってきたのだ
書簡を組合長ヒューズに渡し、一礼して部屋を去る
彼はざっと目を通し、歯をギリっと噛み締めた

「何と書いてある」

ドゥヴェルグの低い声がこの部屋の空気を重くしていく

「はい、サイクロプス討伐の際に突如巨大な門が出現
 そこからサタナキアという魔物が現れ
 たった1撃で不動のシルトは瀕死の重症を負ったようです
 何とかその場にサタナキアを拘束するが、その後3体の配下を召喚
 内1体、バルバトスという魔物は森の中にて討伐したようです
 その時に紅焔のサラも重症を負っているようです
 この魔物達は言葉を話し、さらに仲間を召喚するという特異なもののようですね」

室内にどよめきが走った

「あの不動のシルトが1撃だと?」

「紅焔のサラまでも重症だと、どうなっている!」

「魔物が魔物を召喚など馬鹿げている」

「2キロなど目の前ではないか!もう街に来るやもしれんぞ!」

それぞれが好き放題話している
ドゥヴェルグは再び大きな咳払いをし、室内は静寂が支配する

「ヒューズ殿、他には何と書いてある」

「はい、サタナキアは1撃で魔法で硬化されたミスリルの大盾を破壊したようです」

「不動のあの盾をか・・・にわかには信じられんぞ」

「しかし、全て事実のようです
 それに加え、バルバトスなる魔物はレイピアのような武器を使っていたそうです」

「刀剣の類いの武器を製造するだけの文明があるという事か・・・」

「そのようです、配下の魔物ですら2等級冒険者チームでは厳しいようですね」

「先の話だと、サタナキアとやらは更に配下を召喚できるのか?」

「おそらくは・・・」

「では、早急に対処せねばなるまいな・・・中将」

「はっ」

中将と呼ばれた老人が立ち上がり、敬礼をする

「1500の兵と200の魔導師を任せるぞ、やれるか」

「老骨に鞭を打ってやりましょう、ほほほっ」

ヒゲを撫でながら老いた中将は静かに笑う
ドゥヴェルグは一瞬ニヤリとし、話を続ける

「冒険者の方からも頼めるだろうか」

「えぇ、もちろんそれは構いません、2等級に依頼を出します」

「議員の方々、警らの者達を使い、民間人の避難を頼めますかな」

「分かった、引き受けよう・・・どこへ集めればよろしいかな」

「軍の宿舎、および本部を解放しようぞ」

ドゥヴェルグが立ち上がる、それに続き一同が立ち上がった

「これは人と魔物の戦争ぞ!皆の働きを期待する!」




こうして会議は終わり、ラーズの慌ただしい一日が始まった




辺りが薄紫色の世界になり、もうすぐ暗闇が空を支配する頃
中央通りの外れにある大型の武具店、リブ武具店に訪れる者がいた
店内には軽装の鎧から重装の鎧、ナイフからバスターソードまで様々な武具が並んでいた
乱雑に並ぶ武具の中、一際目立つように置かれている武具がある
それは魔法の付与されている武具、最高級品の類いの装備だ
無愛想な店の主人、リブが暇を持て余していると店の扉がチリンチリンと音を鳴らす
リブが入ってきた集団を見て、重い腰をあげる
カウンターに立ち、入ってきた集団、ハーフブリードに声をかける

「今日は何が欲しい」

「ども、盾2つと服を3つ、それとコートを1つ」

「ん、どんなのをだ」

「盾はミスリルでラージとカイト、服とコートは魔法付きで・・あるかな?」

「ん・・・・こっちだ」

カウンターから出てきたリブの後を着いて行くと、一際目立つ武具が並ぶ一角へと案内される

「先日仕入れたばかりの服がある、好きなのを選べ」

そう言い、彼はシルトに顎をしゃくり盾のコーナーへと案内する
女性陣はこれがいいあれがいいと服を選び始めた

「盾はここだ」

ミスリルの盾は数が少なく、シルトの望む物は無かった
しかし、時間の無い彼はある物で我慢する事にする

「じゃ、このミスリルウォーシールドとミスリルカイトシールドで」

シルトが盾を選び、女性陣がワイワイと服を選んでいる所に行くと
試着をした4人がお互いの服を評価し合っていた

「ジーンのいいじゃん、似合う似合う!」

「ありがと、シャルルはいいとこのお嬢様みたいになったね」

「あはは!そうかも!」

「ラピは前のと似た感じでいいの?」

「うん、私はこれが気に入ってるから」

「そういうサラもまた真っ赤のコートでしょ?」

「うん、これ衝撃を流す魔法が掛かってるみたいだし、いいかも」

シルトに気づいたジーンが彼に近づいて来る

「シルさん、ちょっとお願いしたいんだけど・・・」

「ん?どったの?」

「実は・・・」

ジーンが耳元で囁き、シルトの眉間にシワが寄る

「そっか、わかった・・・ちょっとリブさんに聞いてくる」

「ありがと」

シルトがカウンターへと向かい、女性陣は新しい服について話が盛り上がる

ジーンが選んだ服は和風と洋風の融合とも言えるドレスだった
上は赤い着物のようであり、下は膝まである黒いプリーツスカートだ
特徴的なのは腰の帯部分がコルセットになっている事だろう
この服には熱耐性の魔法が付与されており、サラマンダーの詠唱にはぴったりと判断し選んだのだ

シャルルが選んだのは貴族風の可愛らしいドレスだった
白を基調としており、アシンメトリーになったスカート部分は彼女の髪より少し濃い青だ
首元にはリボンタイがあり、彼女の可愛らしさを引き立てている
この服には毒、睡眠、麻痺の耐性があり、回復役である彼女は真っ先にこれを選んだ

ラピの選んだ服は以前から着ていたスモックのようなタイプの服だ
セーラー襟で小さなネクタイが付いている
少女らしさを強調したような、可愛らしいデザインのハーフローブだった
この服には身体能力上昇の魔法が付与されており、幼い彼女には欲しい力だった

サラが選んだコートは以前のような全身を覆うケープ付きのコートではなく
トレンチコートのような赤いコートだった
以前よりも彼女の細い身体のラインがよく分かるスリムなコートだった
このコートには衝撃耐性が付与されており、少しでも防御力を高めたい彼女にはありがたかった

「皆可愛いー!」

「うんうん、こんな可愛いの少し恥ずかしいけど」

「似合ってるからいいの!サラは自信持ちな!」

「だねー!それにしてもシルさん太っ腹だなー」

「だね、珍しいよね」

彼女達の新しい服は全て魔法が付与されている
それは1着でも凄まじい額がするのだ、それを4着である
それに加え、ミスリルの盾を2つも購入するのだ、その額は計り知れない
カウンターから戻ってきたシルトが皆を見て言う

「おー!可愛いね!うんうん、いいぞーいいぞー」

「シルさんおっさん臭い」

「え!マジで!?」

「うん、すごく」

「・・・・まじか・・・・」

シルトがヘコんでいると、シャルルが彼の持つ小さな箱に気づく

「シルさんそれ何?」

「あ!忘れてた!ジーンさんこれこれ」

「ありがと、助かる」

箱を手渡し、ジーンがそれを開け、中の物を取り出す
それは赤いフレームの眼鏡だった

「ジーン、眼鏡なんてかけてたっけ?」

「ううん、初めてかけるよ」

「どうしたの?目悪くなったの?」

「うん・・・"あれ"呼んだ時から視界が霞んじゃって」

「・・・・そっか」

ジーンが眼鏡をかけ、どうかな?と皆に聞いてくる

「お!いいじゃん!似合うよ!」

「おー、視界はどう?」

「大丈夫そう、ありがとシルさん」

「いえいえ、目は大事だからね」

話が一段落し、カウンターへと向かう
リブが算盤を弾き、今回の合計額を提示する
金貨4800枚、それは途方もない大金だった
一般人の年収がおおよそ150~300金貨なのだ
シルトはカウンターへと大きな袋を3つ置く、それがジャラっと音を立てる

「ここに3000金貨ある・・・」

この金貨は神復活の旅で得た報酬、800金貨+追加報酬の400金貨
サイクロプス討伐の報酬の200金貨
それに加えて、シルトがコツコツ貯めていたヘソクリの1600金貨である

「けど、その前にこれでいくらになる?」

彼が腰の革袋から取り出したのは以前倒したミスリルゴーレムの残骸だ
彼に続き、皆もそれを1つずつ出し、カウンターへと並べた
リブは高純度のミスリルの塊を手にしじっくりと観察する

「ん、こいつはすごいな」

しばらく観察し、算盤をいじり始める

「ん」

リブが提示してきたのはミスリルの塊を買い取り、それを差し引いた合計額2700金貨だった
ミスリルの塊は5つで2100金貨という予想を遥かに超える買取額だった

「こんな純度は見た事がない、少し色を付けさせてもらった」

「もう一声」

「む・・・・ん、いいだろう」

パチパチと算盤を弾き、再び合計額を提示する・・・2500金貨
それにはシルトが笑顔で手を差し出し、リブと握手をする、交渉成立だ
リブにとってはこの高純度のミスリルの塊はそれほどの価値があった
そして、これほど大口の客はそうはいない、だから大幅に値引きしたのだ

リブ武具店を後にする頃には日が落ち、辺りは暗くなっていた
警ら隊の者達が走り回り、何やら騒がしくなってきている街を歩く
彼等は一旦自宅へと戻り、新しい装備と古い装備を入れ替え、そのまま出立する
目的地は平原にある遺跡「王の墓」だ
ハーフブリードが正門に差し掛かると、そこには軍が集まってきていた
その数は1000を超えるだろうか
これから何が起こるのか想像がつく彼等はその足を早めるのだった
正門横の小さな出入り口から外へ出て、彼等は平原へと消えて行った





警ら隊は1軒1軒の家の扉を叩き、民間人の避難を進めていた
教会の大きな鐘の音が鳴り、カン・カカンというリズムの音が鳴り響く
このリズムは緊急事態の合図として使われていた
街は慌ただしくなり、人々は我先にと走り出す
それを止める叫び声が響き、子供が泣き出す
中央通りには人がごった返し、その人の波は軍本部へと向かっていた
逆に人が少なくなっている正門付近にラーズ軍の兵、1700が集まっていた
歩兵1500、魔導師200からなるその集団を指揮するのはラーズ軍中将
智将と名高い老兵、ヘヴィレイン中将その人だ
白い髪、白い髭の彼は歳を感じさせない強靭な肉体を持っている
幾多の戦場で指揮を取り、幾多の勝利をあげてきた猛将である
そんな彼はドゥヴェルグの信頼する部下の1人だった
今回は魔物3体が相手である、それに1700もの兵を借りたのだ
負ける訳にはいかなかった、兜の緒を引き締め、中将が声を上げる

『者共!戦だ!!』

オオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!!

普段大人しく、物腰の柔らかい中将は戦に出ると人が変わる
そんな彼の激は兵達の指揮を一気に上げた

『敵の数は少ないが油断するな!』

馬上から槍を地面に叩きつけ、兵達が静まり返る

『ラーズに栄光を!!』

ラーズに栄光を!!!

1700の兵達の声が揃い、その声はラーズ首都全土に響いた
正門が開き、1700の兵団が一斉に動き出す
首都の城壁に沿って北上し、兵達はそこへ陣を築く
日の出と共に攻め入る作戦となっているが、魔物がいつ攻めてくるとも限らない
そのため、100メートル間隔で1組5人の先遣隊配置して監視に当たっている
部隊の前方は荒野となっており、東側は森に覆われていて、その先は険しい山々だ
主戦場となるのは荒野だろう、中将は地図を見ながら作戦の再確認をしていた
彼のいる本陣となるテントに1人の兵が慌てて入ってくる

「申し上げます!先遣隊より荒野より1体の魔物が向かって来てるとの報告がありました!」

「ほほほっ、奴さん気が短いと見えるのぉ」

普段の柔らかく温厚な雰囲気のヘヴィレイン中将は突如顔を引き締める

「死の魔法使いを20ずつ左右に展開、火の魔法使いをバックアップに回せ
 第2、第3中隊は横並びに前線に、その後ろに地の魔法使いを全員配置しろ!」

1中隊は500名からなる部隊である、まずは1000の兵で様子を見る作戦だ

「はっ!」

「第1中隊は本陣にて待機、残りの魔導師達は辺りを警戒させろ!」

「はっ!」

兵士が駆け足でテントを出て行き、中将はゆっくりとテントを後にした
空には星が煌き、月明かりが大地を照らしていて、視界はそれほど悪くなかった
荒野の果てより1体の魔物がゆっくりと向かってくる
その頭はフクロウのようで、身体は人のそれに近い
大きさも人と大差はなく、パッと見はさほど強そうには見えなかった
燕尾服のような綺麗な服を着ており、ゆっくりと歩いている

「ほほっ、変わった魔物もおるもんじゃわい」

中将は第2第3中隊の間へと足を進める
彼の側には伝令係がおり、それは100メートル間隔で立っている
彼の命令が迅速に行き渡るようにだ

梟の魔物が400メートルほどの距離に差し掛かる頃、突如姿が消える
そして、隊の前方100メートルの位置へと姿を現し深いお辞儀をする

『虫けらの皆さん、ごきげんよう』

魔物が言葉を話した事に兵達から動揺の声が洩れる

『さぁ、宴を始めましょう・・・・・皆さんおいでなさいっ!』

梟の魔物、プルスラスが両手を高く上げ、パンパンッと手を2回叩く
その瞬間、彼の背後に黒い渦のようなものが発生し、紫の雷を放ち
その中から42体の魔物が出現した
捻れた角を2つ生やし、山羊のような顔をし、腰から下は毛深く
足は逆関節の動物のようであり、腕は人の胴体ほどある
背中には蝙蝠のような大きな翼が生え、目は夜の闇の中で赤く光っていた
その大きさは3メートルはあるだろうか、手には斧や大剣など様々な武器を持つ

『鏖殺だ』

プルスラスの声色が変わり、目が細くなる
そして魔の軍勢は動き出した

『戦闘準備!死・火の魔法部隊は一斉攻撃!!第2・3中隊は前進!!』

ヘヴィレイン中将の声が響き、伝令係が走り命令を伝えて行く
敵は100メートル先まで迫っていたが、兵達は動揺し動きが鈍かった
死の魔法使い達が詠唱を始める頃、42の魔物の内の4体が魔法使い達に襲いかかる
魔物のひと振りで二人の魔法使いの上半身と下半身は分たれる
悲鳴が響き、魔法使い達は逃げ惑う
次々に人が豆腐のようにグチャっと潰されて、切断されていく
第2・3中隊は何とか42の魔物達を止めてはいたが、それも時間の問題のようだった

『第1中隊は隊を2つに分け、左右の魔法部隊を援護しろ!』

後方に待機していた第1中隊は2つに別れ、戦場の左右へと回り込む
42の魔物達を横から攻撃し、一方的な虐殺は止まった
そこから魔法使い達は距離を取り、詠唱を始める

「「「「「静かなる闇の訪れを」」」」」

魔法使い達の手から黒い霧が放たれ、魔物の顔を襲う
これは死の魔法の1つ、一部の細胞を死滅させる魔法だ
ほんの僅かだがひるんでいる魔物達に兵達の追撃が入る
1発1発では大して効いてはいないが、数の暴力で押し始めていた
そこへ火の魔法が降り注ぐ、それは的確に魔物の顔のみにヒットし、その顔が炎上する
これには魔物も堪らないようで、手で顔をバタバタと払っている

『今だ!!押し込めー!!』

小隊長達が叫び、槍や剣が魔物の身体に突き刺さる
魔物の脇腹に深く剣を突き刺した兵が魔物の苦しむ顔を見ようと顔を上げた
しかし、そこにある表情は全く別のものだった
燃え上がる炎の中、ニタァと歯を見せ笑い、赤い目が輝きを増す

ブォオオオオオオオオオオォ!!

魔物達が大きな雄叫びをあげ、一斉に暴れ出す
そのひと振りは人間をゴミのように吹き飛ばす
そう、奴等は初めから効いてなどいなかったのだ
刺された剣を抜き、投げ捨て、次の獲物へと向かい走り出す


これは一方的な虐殺だった


兵達、魔導師達が次々と殺され、その数は600名を超えた頃
ヘヴィレイン中将は唇を噛み締め、槍を大地に叩きつける

『撤退!!』

伝令係が命令を伝え始めた時、梟の魔物プルスラスが戦場を歩いて来る

「おやおや、逃げるのですか?それはいけませんねぇ」

プルスラスが僅かにしゃがみ、次の瞬間高く跳躍する・・・その高さ15メートル
空中で停止したプルスラスを中将は何をするのか見ていた

「サタナキア様により解放されたこの力、振るわせていただきますよ」

プルスラス達3魔将はこの世界に呼ばれ、門を通った時に力が弱っていた
先日倒されたバルバトスも力が封印されていたのだ
しかし、そのバルバトスが倒された事により
サタナキアが魔力を分け与え彼等の封印を解き、本来の力を取り戻させていた

プルスラスが大きく口を開き、その両目をギンッと開く
その目は闇の中でも黄金色に光り、幻想的にも見えた
彼の口の中から徐々に大きな金色のラッパが出てくる
唾液まみれのラッパが現れ、プルスラスはため息を1つし、それを手に持つ

「さぁ、ダンスの時間ですよ」

大きく息を吸い込み、ラッパに口をつける

プォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!

戦場に突如ラッパの音が鳴り響き、誰もが手を止めた
音の振動がビリビリと肌で感じられた
鎧が、剣が、高速で振動していく・・・・それは次第に激しくなり
金属という金属がキィィィィィンという高い音を上げ始めた
そして、突如人々は燃え上がる・・・・人体発火だ
人間達は炎に包まれ、もがき苦しみ、その様はまるで踊っているようだった
42の魔物達も燃え上がるが、奴等は火の完全耐性を持っていた
ニタァとほくそ笑み、燃え上がり、苦しむ人間達の虐殺を再開する

炎に包まれたヘヴィレイン中将は膝をつき、地面を全力で殴った
隊の壊滅を伝令に伝えようにも炎で喉が焼け声が出ない
不覚!!彼の心にはそれだけだった
くるくるとラッパを回しながらプルスラスが舞い降り、中将の前へと立つ

「貴方は踊らないのですか?残念ですねぇ」

薄れゆく意識の中、目の前の魔物を睨みつける

「そうですねぇ、そこの街でも燃やしますか」

中将は必死で腕を伸ばし、プルスラスの足を掴む

「おやおや、どうなされたのですか?」

必死に声を出そうとするが言葉は炎に飲まれる

「その汚らわしい手を離しなさい」

プルスラスはラッパをくるんと回転させ、中将の腕にコツンと当てる
ラッパはキィィィンと振動し、ほんの僅かな音を奏でる
その瞬間、彼の身体を包む炎の激しさが増し、一瞬で肉は焼け落ち、骨が現わになっていく
掴まれた足をパンパンと手で払い、プルスラスは宙に浮いていく

『皆さん、サタナキア様の元へと帰りなさい』

空中で両手を上げパンパンと2回鳴らす、その瞬間42の魔物達は黒い渦へと消えていった
辺りには1700の人間の焼死体だけが残されていた
焦げ臭い匂いと、肉の焼けた匂いなどが入り混じり、独特な空気が漂っていた
それを胸いっぱいに吸い込み、プルスラスは目を細める

「ん~、素晴らしい・・・虫けらでも焼けるといい匂いがしますねぇ」

愉悦に浸るプルスラスは城壁の先にある街へと目を向ける

「あそこには虫けらが沢山いるのですかねぇ、楽しみですねぇ」

ゆっくりと空中を進むプルスラスは上昇し、城壁の上へと降り立つ

「おやおや、思ったより大きな街ですねぇ」

騒がしく人々が動き回る通りを見つけ、目を細める
ふわっと身体が宙に浮き、ゆっくりとその通り、中央通りへと近づいて行った

民間人の大半が軍本部や宿舎に避難し、街には残った者がいないか確認に走る警ら隊がいた
中央通りは魔法の灯りで夜でも明るく、上空から見下ろすプルスラスは顎に手を当て考える

「魔法の灯り・・・ですかねぇ?虫けらの割に文明が進んでますねぇ」

その時、警らの1人が空に浮かぶプルスラスを見つけ、声を上げる

『なんだあれは!』

彼の声と指差す手により皆が空を見上げ、プルスラスを視認する

『これはこれは、虫けらの皆さん、ごきげんよう』

空中で深いお辞儀をし、プルスラスは目を細める

「バカな、中将達がいたはずだぞ!」

「どうやって入って来た!」

「と、飛んでる・・・」

「おいおい、喋ってるぞ!この魔物!」

警ら隊達が動揺し、各々が思っている事を口に出していると

「騒がしいのは好きではありませんねぇ・・・」

プルスラスは息を吸い込み、手に持つラッパに口をつけた

プォォォーーーーーーーーーー!!

大きなラッパの音が鳴り響き、人々の鎧や武器
家の屋根や窓ガラスがビリビリと振動し始める・・・そして一気に炎上した
直径100メートルほどの一帯が火の海になり、人も建物も全てが燃え上がる
ゴオオと音を上げ燃え上がる街の上でプルスラスが目を細め愉悦に浸る

「あぁ、いいですねぇ、その表情、ダンス、素晴らっ・・・」

ケタケタと笑うプルスラスの身体に突如太さ3センチの先端がミスリルの槍が刺さる
この大槍の先端には死の魔法が込められており、破壊力を増していた
それはラーズ首都の山側の斜面に設置されたバリスタという兵器によるものだった
バリスタとは巨大な槍を発射する装置である
風の魔法5人掛りで発射されたそれは落下速度も加わり、かなりの威力になる
これはラーズ首都防衛の最終兵器とも言える物だった

「こ、これは・・・」

自身の腹に太い槍が刺さり動揺していると、山側の斜面から無数の大槍が放たれる
それはプルスラスの肩、足、腹、胸、頬に刺さり、肉をえぐる

「ごふっ・・・や、やりますねぇ」

口から紫の血を吐き出し、フラフラと落ちていく
燃え上がる民家の屋根に降り、刺さっている槍を抜き、そこから血が溢れる

「まずいですねぇ、この出血は・・・・一旦引きますかねぇ」

プルスラスはラッパを口にし、頬を膨らませる
今までのただ吹くのではなく、トゥッ!と短くラッパを力強く吹いた
その音はまるで弾丸のように山の斜面に向かい
ラーズ軍本部にかすり、そこが炎上し、斜面のバリスタの一角にぶつかる
斜面の一部が炎上し、混乱が広がっていく

「今のうちに・・・」

プルスラスはフラフラと宙に浮き、上昇していく
無事だったバリスタから何本か大槍が放たれるが、それは当たらず街へと落ちる
彼は城壁を超え、森の中へと消えてゆくのだった





火災は消し止められ、首都の魔法の灯りは消え、闇が街を覆っていた
それは、人々の心にも恐怖という闇を刻んでいた・・・・





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天空の媛

青村砂希
ファンタジー
 この物語は12世紀の欧州が舞台となっております。  主人公(クレア姫)の王国は、隣国である帝国に向けて兵を送りました。  食糧危機による侵略戦争です。  帝国は壁に囲まれた国で、兵を持たないとの情報から、侵略出来ると考えていました。  しかし帝国は、魔術を扱う力を持っており、彼らの操る巨大モンスターによって王国は崩壊。  敗戦国となった姫は国民を守る為、帝国の司令官に命を差し出しました。  12世紀の姫さま視点で、この物語は進みます。  帝国の魔術とは、21世紀のテクノロジーです。  姫さまにとって、それは魔術の様に映りました。  彼らは21世紀から12世紀へ、国ごとタイムリープしてきた訳ではなく、  この世界と21世紀を繋ぐGATEを持っている訳でもなく、  彼らは別の宇宙から来た宇宙人でもありません。  12世紀に、何故21世紀のテクノロジーを持つ彼らが存在するのか?  そして、秘密裏に進められている彼らの計画とは?  謎は少しずつ明かされていきます。  物語の前半は、敗戦国である姫さまの国が、近代国家へと生まれ変わっていく内容です。  まと外れで残念で、それでも一生懸命な姫さまです。  どうか姫さまを応援してあげて下さい。  そして、この物語にはもう1人、重要なヒロインが登場します。  サクサク読んで頂ける事を目指しました。  是非、お付き合い下さい。

名も無き星達は今日も輝く

内藤晴人
ファンタジー
エトルリア大陸の二大強国、ルウツとエドナ。 双方の間では長年に渡り、無為の争いが続いていた。 そんな中偶然にも時を同じくして、両国に稀代の名将が生まれる。 両者の共通点は、類稀な戦上手であるにもかかわらず上層部からは煙たがれていること、そして数奇な運命をたどっていることだった。 世界の片隅で精一杯に生きる人々の物語。

Fragment of the Fantasy

Digital&AnalogNoveL
ファンタジー
統一世界観第二作目 第一作目のCroSs MiNDとは世界も場所も違う物語、しかし、何かしらの設定的なつながりがある作品 今後公開予定の第四、第五作や執筆予定の機装戦記の延長上にある物語である。 本来原文は特殊な文字(Font)を使用しており、ここでの表示が出来ないことを残念に思う。 原文で特殊文字を使っていた場所はすべて『******』の様に伏字にしてしまいました。 原文と特殊文字でお読みしたい方はご連絡ください。特殊文字で読めるPDFでご提供いたします。                   あ ら す じ  二人の神が地上から姿を消してから約二千年、ユーゲンレシル大陸の西、ハーモニア地方にある三国、ファーティル王国、メイネス帝国、サイエンダストリアル共和国は互いに手を取り合い、長き平和が続いていた。  しかし、その平和の均衡を破るかのごとく突如、メイネス帝国が何の兆候も現す事なくファーティルの王都、エアに出現し一日も経たなくしてそこを陥落させたのである。  その陥落の際、生き延びた王国騎士アルエディーは何故、友好関係にあった帝国が突然、侵攻してきたのかその真相を探るため帝国内部へと旅立って行こうとした。だが、それを知る事も許されず王国奪還の為に決起する事になってしまう。  騎士アルエディーを取り巻き、主格から脇役まで総勢60人以上もが登場する笑い、泣き、怒り、悲しみ、そして愛と感動が織り成す会話重視系の幻想英雄譚小説。  帝国が王国に侵攻したその理由は?アルエディーとその仲間たちは帝国に圧制された王国を奪還できるのか?戦いの果てに彼等を待つものは?  争いはいつも誰もが望まなくして起こるもの・・・、そう、それは何者かの手によって・・・。  そして、英雄独りなどで、けして世界を救くえはしない。そこに多くの仲間達と平和を願う人々が居るからこそ、それは実現の物となるだ。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。  ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。  一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。  ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。  おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。  女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ゾンビナイト

moon
大衆娯楽
念願叶ってテーマパークのダンサーになった僕。しかしそこは、有名になりたいだけの動画クリエイターからテーマパークに悪態をつくことで収益を得る映画オタク、はたまたダンサーにガチ恋するカメラ女子、それらを目の敵にするスタッフなどとんでもない人間たちの巣窟だった。 ハロウィンに行われる『ゾンビナイト』というイベントを取り巻く人達を描くどこにでもある普通のテーマパークのお話。

処理中です...