カタクリズム

ウナムムル

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2章:ハーフブリード編

第5話 傷痕

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【傷痕】







ハーフブリード達は森の中を止まる事もなく必死に走り続けていた
シャルルとサラに支えられているシルトの意識は無い
エペタムに乗るラピは苦痛に顔を歪めていた
風の加護を受けてシャルル達と同等の速度で走るジーンの顔からは血の気が失せていた
木々の間をすり抜けるようにひたすら走った
ラーズから1キロほどの位置まで来た時、木の上からガサガサと音が鳴る
上を見上げた瞬間、影が一瞬見え、それは彼女達の前へと降り立った

赤いハットを被り、灰色のマントに身を包んだ魔物、バルバトスだ
ハットから覗く顔は人のそれではなく、醜く歪んでおり
鼻は長く、下に垂れ、猛禽類のような瞳をしていた
ニタァと開かれた口からはノコギリのような歯が見える
バルバトスは片手をお腹に当て、貴族がするような深いお辞儀をする

「初めまして、下等生物の皆さん
 私はサタナキア様直属の配下、バルバトスと申します
 以後お見知りおきを・・・っと、これは失礼、以後はありませんでしたね」

ケタケタと笑うバルバトスに対して憎悪が増す人物がいた・・・サラだ

「シャルル・・・シルトさんお願い」

そう言いサラはシルトの腰からミスリルブロードソードを抜く
それを右手に握り、自身のミスリルロングソードを左手に握った

「おやおや、お嬢さんがお相手ですか」

バルバトスは腰に下げているレイピアを抜く
刀身が黒く、ナックルガード部分には悪魔のような顔が彫られていた
レイピアを胸につけ、縦に構える・・・そして、切っ先をサラへと向けた

「お前たちは許さない」

普段のサラからは想像もつかないほど憎悪の篭った声だった
ラピが後ろでエペタムに命令を下す

「サラを強化して!」

ラピを乗せたままエペタムは中空を駆け、サラの背後に行き、雷を落とす
その瞬間ラピの表情が苦痛に歪む
全身から力が溢れ、サラは右手に握るシルトの剣に力を込める
シャルルがシルトを木に寄りかからせ、杖を構える
ジーンもいつでも魔法を使えるよう本を開き、構えた
サラがゆっくりとバルバトスへと向かい、距離を詰めて行く
そして一気に駆け出した

キィィィィィンッ!

サラの右手から放たれた上段からの斬撃をバルバトスは細いレイピアで受け流す
剣は地面に当たるが、サラは身体を捻り、左手の剣を水平に振るう
バルバトスはそれを一歩下がる事でかわし、突きの体勢に入った
しかし、それはサラの猛攻の始まりでしかなかった

右手の剣の右下段からの切り上げ
それはバルバトスの灰色のマントをかする
左手の剣からの左下段からの切り上げ
それはバルバトスの赤いハットをかすった

想像以上の早さにバルバトスは一瞬だがたじろぐ
その一瞬の隙がサラにとっては大きなチャンスに変わる
振り上げられた両手から放たれるクロス斬り
それはバルバトスの胸を切り裂き、紫色の血が吹き出す

「ぐっ」

バルバトスが怯むがサラの猛攻は止まらない
両手の剣を引き、同時に突き出す
それはバルバトスの両脇に刺さり、サラは両手を広げるように横へと払う
脇腹が大きく裂け、大量の血と内蔵の一部が流れ出る
苦痛に顔が歪むバルバトスは目の前の女の目を見た
薄緑色のその目は軽く血走っており、目の前の敵を殺す事だけを考えていた

『きぇぇぇぇいっ!』

バルバトスが奇声を上げ、突きを放つ
それはサラの右肩に刺さるが彼女は止まらない
左右からの連撃が止まる事なく続いていた
一太刀ごとにバルバトスの身体からは血が溢れ出る
しかし、バルバトスも突きの嵐を食らわしていた・・・完全な斬り合いだった
ほぼノーガードとも言える斬り合い、それがしばらく続く
サラはそこら中を刺され、全身に激痛が走る
その度に一瞬だが傷が、痛みが和らいでいく
それは後方からシャルルとジーンが回復を飛ばしていたからだった

『はぁぁぁぁぁぁっ!!』
『きぇぇぇぇぇいっ!!』

サラが叫び、連撃が加速する
バルバトスが叫び、突きの連打が加速する
時折剣とレイピアが当たり、キィンッ!と甲高い音がするが
それ以外は服を、肉を切り裂く音が響いていた

激戦の末、サラの右手のブロードソードがバルバトスのレイピアを弾く
レイピアは宙に舞い、バルバトスはそれを目で追ってしまった
サラは両手をクロスし、鋭い斬撃を放つ
それはバルバトスの首を両側から捉え、彼の首が宙に舞う
首が地面に落ちると同時に彼の身体は倒れ、ピクッピクッと痙攣をしていた

両手の剣を振り、紫色の血を払い、サラは膝をつく
シャルルとジーンがかけより、彼女へ回復魔法をかける

「サラ・・・・大丈夫?」

ラピがエペタムの上から声をかける
肩で息をしているサラは小さく頷いた
彼女の真紅のコートはボロボロになっており、顔にもかすり傷が多く見えた
シャルルとジーンの回復魔法によりサラは立ち上がり
よろめきながらシルトの元へと向かう

「シルトさん・・・待たせてごめん、早く帰ろう」

再びシャルルとサラでシルトを支え、走り出す
皆の疲労は限界に達していた




追っ手を振り切り、一行はラーズ首都へと入る
シャルルとサラはシルトを抱えたまま家へと急ぎ、ラピはその後を追う
ジーンは暗い表情でとぼとぼと歩いていた
家に着いた彼等は激しく疲労していて、今にも倒れそうだった
しかし、シルトの治療をしなくてはならない
3人は回復魔法を継続してかけており
サラは綺麗なタオルをお湯で濡らし、強く絞って彼の血を拭いていた

彼は右腕が折れており、後頭部は割れていた
鎧を脱がしてみて分かった事があった
胸辺りが紫色に変わっており、肋が折れて片方の肺に刺さっているようだった
彼は呼吸をする度に苦痛に顔を歪める

「深淵なる命の泉よ」

シャルルの手から放たれる青い光が彼の胸部を照らす
これは体内の深い部分を治療するための魔法だ
ジーンはシルトの頭側に回り、魔法を詠唱する

「根源たる生の灯火よ」

ジーンの手に青い炎が宿り、彼の後頭部に当てられる
一瞬シルトの身体がビクッと跳ね、サラが必死に押さえる
ラピはサラの横から魔法を唱える

「癒しの息吹よ」

スーっと息を吸い込み、彼女の口から緑色の息が吐き出され、彼の身体を包む
痛みを緩和しながらの治療が続けられた
しばらくしてシルトが目を覚ます

「・・・・ん・・・」

寝かけていたサラがガバッ!と起き上がる

「シルトさん!大丈夫?」

魔力の使いすぎで疲れ切って眠っていたシャルルとジーンとラピも目を覚ます

「・・シルさん起きたの?」

シャルルが目をこすりながら言う

「うんうん!」

ゆっくりと目が開き、シルトは辺りを見渡す

「あれ?家・・・?あれ、なんかあったような」

状況が理解できていない彼は混乱していた

「もう大丈夫だよ」

サラが目に涙を溜めながら微笑む
シャルル、ジーン、ラピも駆け寄り、皆が微笑んでいた
そんな彼女達を見てシルトは気づく

「そっか、僕やられたんだっけ・・・迷惑かけた、ごめん」

「シルさんいなければ私とジーンは死んでたから、迷惑なんかじゃないよ」

「そうだね・・・本当にごめんなさい」

ジーンがシルトに、いや、皆に深く頭を下げた

「あれは何なの?」

サラがジーンに聞く、ジーンは少し考えてから自身の答えを口にする

「多分・・・異界の神・・か、その眷属かな」

「神か、そりゃ勝てないわけだ」

シルトが笑いかけて痛みで顔が歪む

「なんであんなの呼んだの?」

シャルルは怒りの感情を隠す事もなく聞く

「四大精霊みたいに制御できると思ってた・・・ごめん」

「ジーンさ、覚えてる?お魚の神さまに気をつけろって言われたの」

「・・・・うん」

「覚えてる?一線超えないでよって言ったの」

「・・・・うん」

「シルさん死ぬとこだったんだよ?」

「・・・・ごめんなさい」

ジーンは涙を流して頭を下げた
そこでシルトが苦痛を我慢しながら笑顔で言う

「ジーンさん気にしない気にしない、誰でも失敗はあるよ」

「シルさんっ!」

シャルルが不満そうに声をあげるが、シルトは手で制す

「皆もジーンさんの実験に賛成したでしょ?
 ジーンさんだって何でも分かってる訳じゃない
 それに、僕はこうして生きてるしね、この失敗を糧にすればいいよ」

それと、と彼は付け足すように言う

「今回の件は組合に報告しないといけない
 でも、僕らが関与してるの内緒にするからね
 そこは絶対に口を割らない事、分かった?いいね?」

「「「うん」」」

「・・・・わかった」

日が落ち始めた頃、冒険者組合の女性が再び訪れる

「お帰りになられてると聞きましたので」

壁に手を付きながらシルトが玄関で話をする

「サイクロプス3体は倒しました」

「流石ですね、ありがとうございます」

「でも、とんでもないのが現れましたよ、おかげでこの有様ですよ」

彼は両手を広げ自分の身体を彼女に見せ、苦笑いをする
頭や身体に包帯が巻かれており、痛々しい姿だった

「ハーフブリード様でも苦戦した相手なのですか?」

「"した"じゃなく"している"相手かな・・・僕ら逃げてきたんですよ」

「え?」

「大至急組合と軍に連絡お願いできますか?」

「は、はい」

「敵の戦力は3、1体は今までのどんな魔獣よりも強いと思ってください」

「は・・・はい」

「残り2はよくわかりませんが、2等級1チームいても1体倒せるか怪しいです」

「本当にそんなものが・・・」

「後、これが一番重要です、奴は魔物を召喚できる」

「え!?」

「どんどん増えるかもしれません
 奴は何とか現地に拘束したんですが、配下が街まで来るかもしれません」

「わ、わかりました!大至急手配します!」

女性は大慌てに去って行く
扉をしめて大きなため息をするシルトに、ジーンは頭を下げていた

「ジーンさん、もう気にしないでいいって」

「でも・・・」

「嘘は苦手だけど、何とかなったしさ、今は別に考える事があるっしょ」

「・・・うん」

「ってな訳で、皆集まってくれるかな」

シルトがパンパンと手を叩いて注目を集める
叩いた右腕がまだ僅かに痛かった

「ジーンさんが言うには、サタナキア?だっけ
 あれはあの門から動けないらしい、鎖の届く範囲だけなんだよね?」

「うん、そうみたい」

「でも、奴の配下がジーンさんを狙ってくるのは間違いない」

「そうだね」

「だから僕らはアレに勝たないといけない」

「・・・・」

誰もが勝てる姿を想像できなかった
しかし、殺らねば殺られる、それは明白だった

「ちなみに、サタナキアってのいつ消えそう?」

「うーん・・・感じた魔力量を考えると半永久的に消えないかも・・・」

「そっか、じゃ待つのは無意味だね」

シルトが胸を押さえ、一瞬よろめく
サラが駆け寄り、彼を支えてソファへと移動させる

「ごめんごめん、それで話があるんだ」

「何?」

「皆に強くなってもらおうと思う」

「え?どうやって?」

ラピが興味ありそうに聞いてくる

「まず、神復活の旅で貰った報酬とミスリルを使って装備を整える」

「うん」

「その後、アーティファクト装備を取りに行く」

「え?場所知ってるの?」

「うん、1ヶ所だけね」

「何で今まで行かなかったの?」

「少し話が長くなるけどいいかな?」

「うん、いいよー」

ラピが興味深々になり、シルトの座るソファの前に座り込む
皆も椅子に座り、その話を聞くようだった

「僕が2等級の頃、1人でやってたのはシャルルとサラは知ってるよね」

「うん、初めて聞いた時は驚いた」

「だねー、1人で2等級とか誰もいなかったもんね!」

「あれには理由があってね、僕も昔はチームを組んでたんだ」

「え?そうなの?」

皆が驚いていた、彼の過去を知る人はいなかったからだ

「ずっと前の話だよ、気のいい連中でね、最高の仲間だって思ってた」

シルトは天井を見上げ、思い出すように語り出す

「僕らは2等級チームで、結構強かったんだ
 沢山の依頼をこなしてきた、すごく難しいのもあったよ
 僕らは勝ち続けてきた、それなりに名前も知られてたんだよ
 でも・・・・あの遺跡に行って僕らの人生は変わってしまった・・・」

「遺跡?」

「うん、ここから30キロくらいのとこに遺跡があるんだ」

「へぇ」

「分かりにくい場所だから殆ど見つかってないと思う
 それに、組合に難易度ゴールド認定させたから誰も近寄ってないはずだよ」

「ゴールド?!」

難易度設定とは、遺跡や洞窟など
魔物の住処になっている場所の危険度を分かりやすくするためのものだ
実力の無い冒険者が全滅しないよう作られたシステムである
難易度はブロンズ→アイアン→シルバー→ゴールドの順で高くなっていく
例えば、トヒル火山は難易度アイアンの分類になっている

「そそ、ゴールド・・・・僕のチームはあそこで全滅したのよ」

「「「「えっ」」」」

「僕だけ生き残ったの、あの鎧のおかげでね」

いつもなら地下に置かれている常闇の鎧は、今は居間に置いてあった
それを見ながら彼は話を続ける







10年ほど前の話になる

2等級冒険者チーム「スラウト」は5人のチームだった
リーダーはシルト、当時はそこまで目立った人ではなかった
しかし、このチームの中では頭一つ出ている事もあり、皆から信頼されていた
当時はまだ常闇の鎧は着ておらず、スチールプレートを着ており
ミスリルロングソードとスチールラージシールドを装備していた

サブリーダーはダーヴィ、30過ぎの男で大剣使いだった
無口な男だったが、皆が気づかない事をよく気づく男だった
金色の短髪の大柄で、たらこ唇が特徴的な男だ
最年長という事もあり、皆の兄貴的な立場だった

生の魔法使いのヘカテ、彼はまだ若く、経験も浅かった
しかし、魔法の知識は豊富で何かと役に立つ人物だった
女の子と間違うほどの容姿と、綺麗な栗色の髪が特徴的な少年だ
深い緑色のローブは背丈に合ってないのか、いつも地面に擦っていた

強弓使いのヒコマメ、彼はいつでもふざけている奴だ
長い金髪は後ろで束ねていて、目は薄い緑と黄色でヒマワリが咲いているようだった
超長距離の攻撃が得意で、その狙いはいつも正確だった
女好きのせいで何かとトラブルの多い男だったが、憎めない奴だった

槍使いのリック、灰色の髪の長身の男だ
とてもキザな男だったが、どうしてかそれがいつも決まらず、よく皆から笑われていた
ヒコマメに弄られる事が多く、本人は納得がいってない様子だった
彼の槍は柔らかく、それを使って大ジャンプをする事もあった

これがスラウトのメンバーだ
彼等はたくさんの依頼をこなし、徐々に名声を勝ち取っていった
難易度の高い依頼を連続で成功させ、ノリにノッている頃、ある噂を耳にする
それは、アーティファクトの噂だった
スラウトのメンバーにアーティファクト装備を持っている者はいない
冒険者の誰もが憧れる装備、それがアーティファクト装備だった
ラーズから西に30キロほど行った平原に草木に隠れるように窪みがあり
そこには遺跡の入口がある、その中にはアーティファクト装備が眠っている
という情報を手に入れた彼等は目を輝かせ、その話で持ち切りになった

「これはもう行くしかないっしょ~」

ヒコマメは酒が入り上機嫌だ
そんな彼の横で果実のジュースをちびちび飲んでいるヘカテが言う

「だ、大丈夫ですかね?」

「だ~いじょぶ、だ~いじょぶ、我らがシルトもいるしな~」

「いや、僕はそこまで強くないよ」

「お前が強くないなら俺らどうなるんだよ~」

あははは、と皆が笑い、シルトは頬を掻いていた

「仇なす者は俺が排除しよう」

リックが立ち上がり、ポーズを決めながら言う・・・が、彼のズボンは破け、下着が丸見えになる

「ぎゃははははは!かっこつけてんのにケツ丸出しとか!!」

ヒコマメが爆笑し、リックは頬を染めながらお尻を手で隠す
ヘカテは苦笑しながら彼に言う

「後で私が縫っておきますね」

「・・・・すまない」

それからもアーティファクト装備について話し合っていると
突然ダーヴィが口を開く

「その遺跡、荒らされていないのか?」

「あ~、どうなんだろね~」

「でも行く価値はあるんじゃないかな?」

「だよなっ!」

「私も興味あります」

「俺の槍を振るう時が来たか」

「んじゃ、ちょうど依頼も無いし、明日出発しようか」

「「「おー!」」」

こうしてスラウトは平原にある遺跡、王の墓へと向かうのだった
1日かけて遺跡まで辿り着き、夜も遅いので遺跡の入口で野営をする
翌日、明るくなってきた頃、彼等は遺跡の扉を開いた

開かれた石の扉付近の土埃はあまりなく、誰かが入った形跡がある
しかし、その先の大部屋付近で足跡は引き返していた

「誰も荒らしてないっぽいね」

「キタキタキター!お宝の匂い!」

「ヒコマメさん静かに静かに、魔物がいるかもですから」

ヘカテが辺りを警戒しながらヒコマメを止める

「どこにそんなのいるんだよ~、な~んもいないぞ?」

ヒコマメはメンバーの誰よりも目がいい
その彼が言うのだから、この辺りに敵がいないのは確かだろう

「俺の槍に恐れをなして逃げたか・・・まぁ仕方あるまい」

「いや、そもそも誰もお前を見てないから」

ヒコマメがクスクスと笑い、リックは恥ずかしそうに横を向く
大部屋を抜けると巨大な柱が並ぶ大広間へと出る

「生命の輝きよ」

ヘカテの魔法により、彼の杖が輝く
その光に照らされ、大広間の全貌が明らかになっていった
そして、黒い狐のような紋章が全ての柱に彫られていた

「この紋章は見た事がないな」

ダーヴィが柱を見上げながら言う

「ダーヴィさんでも知らないのか」

皆が巨大な柱や大広間を眺めていると
ヘカテの杖の光が届き、闇の中から巨大な石像が2体姿を現す
6メートル以上あろうその石像は、両手に4メートル近い大刀を持ち
大広間の先にある祭壇のような場所の左右に立っていた
左の石像は仮面を被っており、右の石像は鬼の形相だった

「でけぇ・・・こんなの作れる文明とか聞いた事ないぞ」

ヒコマメが石像を見上げながら口をあけている

「あれは横道か」

祭壇の左右にある石像の横には道が2つ伸びていた
そして、祭壇の上には石棺が堂々と置かれている

「開けちゃう?開けちゃうよね?」

「そりゃ開けるでしょう」

「ですよね~」

ヒコマメが石棺を調べ、罠などが無いか確認する
どうやら何も無かったようで、シルトとダーヴィが石棺の蓋をずらしていく
ゴゴゴゴゴゴという低い音を立てて蓋がずれ
ヘカテの杖でその中を照らした

「おおお!!」

ヒコマメが唸る、それに続いて皆が唸った
石棺に入っていたのは漆黒の鎧、見た事もない金属で出来た鎧だった

「これ・・・まさかアーティファクトなのか・・・?」

「まさか・・・アーティファクトは武器しかないはずだよね」

「ヘカテ、調べてみてよ」

「はい」

ヘカテが杖を向け、漆黒の鎧の魔力の流れを調べる
その瞬間、彼の目が大きく開かれる

「嘘・・・・これ、アーティファクトですよ、しかも2つの魔法がかかってる」

「おおおおおお!!すげーな!」

ヒコマメが興奮し、ヘカテの背中をバシバシと叩く

「とんでもないお宝だね」

シルトがその価値を計算し、頬が緩んでいく

「とりあえず、誰が着る?」

「え?そりゃもちろんお前だろ」

ヒコマメが当然のようにシルトに言う
それには皆も頷いていた

「え?僕でいいの?だってこれ凄いお宝だよ?」

「お前以外誰が着るんだよ、リックが着たら動きが遅くなるし
 ダーヴィさんじゃサイズが合わないだろう?ヘカテや俺は論外だろ」

「そうですよ、私もシルトさんが着るべきだと思います」

「俺を待っている装備はこの先にあるだろう、今回は君に譲ろう」

「俺も同意見だ、シルトくんでいいだろう」

「ありがとう・・・じゃ、早速着てみようかな」

「お、いいね~、着ちゃえ着ちゃえっ!」

シルトがスチールプレートを脱ぎ、漆黒の鎧を身につける
その瞬間、心の中に言葉が浮かんでくる
それは鎧の意思とも言えるものだった

「なんだこれ・・・頭に言葉が流れてくる」

「え?どんな言葉ですか?」

「んと・・・城壁防御と解除、それと常闇・・・かな」

「へぇ、面白いな、アーティファクトってそういうもんなのかね」

「常闇・・・じゃあそれは常闇の鎧ってところですかね」

「常闇の鎧か、いいね」

突如、大広間に声が響く



【王の眠りを妨げる者よ・・・その資格を示せ】



「な、なんだ!?」

ゴゴゴゴゴゴという地響きと共に、祭壇の左右にある石像が動き出す

「ヤバい空気だな!おい!」

「皆!密集しないで!僕とダーヴィさんで1体ずつ持とう!」

「了解した」

ヘカテとヒコマメは走り、距離を取ろうとする
その瞬間、仮面の石像の大刀が地を這うように振るわれる
その早さは尋常ではなかった
突風が起こり、ヘカテとヒコマメは気づいた時には上半身と下半身が分かれていた

『ダメだ!逃げろ!!』

シルトの叫び声は間に合わず、彼等は既に真っ二つになっていた

『リック!ダーヴィさん!撤退しよう!』

「了解した!」

「この俺が逃げなどするものか、これは戦略的てっ」

鬼の形相の石像の一太刀でリックの首が飛ぶ

『あああああっ!!』

シルトが涙を流しながら叫び、鬼の石像へと走り出す
鬼の石像はシルトへ狙いを定め、もう片方の腕の大刀を振るう
彼はそれをスチールラージシールドで受けた
盾は切断され、彼の腕は折れ、常闇の鎧にぶつかり火花を散らすが、鎧に傷はつかなかった
しかし、その衝撃は凄まじく、彼は勢いよく吹き飛ぶ
ズザザザザと15メートルほど滑り、止まった彼が目にしたのは
ダーヴィが大剣で仮面の石像の一撃を防いだところだった
しかし、彼のスチールバスターソードは紙のように切断され、彼の身体も真っ二つになる

『くそ!くそ!くそおおおおおお!!』

2体の石像がシルトへと向き、動き出した時
シルトは盾を捨て、剣を捨て、涙を拭う事もなく全力で走った
不思議な事にフルプレートを着ているのにその重さは感じられなかった
後ろを見る事もなく走り、大広間を抜け、大部屋へ入った時
後方からする石像の足音が止まる
その違和感に振り向いた彼は目にする、引き返して行く石像の姿を・・・

こうして彼はたった一人生き残った





スラウトの話をする彼の顔はとても悲しそうだった

「・・・皆死んでしまった」

彼の目には光るものが見える

「僕はもう仲間を失いたくなかった、だからずっと1人でやってたんだよ」

「そっか・・・・」

「ま、それもサラとシャルルと会って変わっちゃったけどね」

はははと笑い、胸を痛がりながら再び鎧を見つめる
その顔はどこか寂しそうな、悲しそうな、虚しそうな顔だった

「でね、そこには多分アーティファクトがあると思ってるんだ」

「根拠は?」

「他の遺跡と文明が全く違うの、しかもあそこ王の墓みたいだし」

「それはありそうだね」

「でしょ?ってな訳で、皆に遺跡へ行くかを聞きたい
 僕は正直怖い・・でも今のままじゃサタナキアには絶対に勝てない
 だからこそ僕は力が欲しい、その力はあの遺跡にあると思ってる
 下手すりゃ遺跡で全滅もあるかもしれない・・・だから、よく考えて欲しい」

彼は一人一人の目を見てゆっくりと言った
しばしの沈黙が流れ、シャルルがニカっと笑う

「行こう!私達なら大丈夫だよ!」

「うん、私も賛成」

「私もー」

「私も賛成かな、アーティファクトは1つで戦況を変えかねないから」

シルトの瞳に涙が溜まる

「ありがとう・・・でも、命最優先でお願いね」

「「「「おっけー!」」」」

泣きそうなシルトを皆で励まし、笑い合うハーフブリードだった





一方、ラーズ軍本部では、冒険者組合を交えた会議が行われようとしていた




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