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カフェのコーヒー
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年末。2018年ももうすぐ終わる。
「はー……」
私は冬物のコートの襟を立てながら、ポケットに両手を突っ込んで街を歩いていた。
仕事納めをして、しこたま酒を飲まされて、翌日の朝は二日酔いで死にそうになって。
お酒を飲むことや飲み会の場は別段嫌いというわけでもないけれど、年末の忘年会とか納会とか、そういうイベントじみた飲みの場面は、あんまり得意ではない。
仕事柄、社内に顔は知れ渡っているし、納会の場でいろんな部署の人から声をかけられるのはいいのだ。
いいのだが、「今年も大変でしたねー」「忙しかったですねー」みたいな建設的でない会話に終始しつつ、酒にちびちび口をつけるだけみたいな非生産的な飲み会になってしまうのがつらい。
それなら一人でどっかいいお店に行って、ちょっと具合のいいお酒とちょっといい感じのおつまみで一人しっぽりと、ってした方が幾分か生産性があるだろう。
なーんて、一人で動いた方が気楽な私は思うのであった。まる。
「(今年も一年早かったなー……)」
先日までクリスマスカラーに彩られていた街並みが、日の丸を掲揚して年越しムードに既に切り替わっているのを見て、私はぼんやりとそう考えた。
そう、一年本当に早かった。
数年前から遊んでいたゲームのサービスが終了し、また新しいゲームのサービスが開始し、そうこうする間にもソシャゲは新しいのがどんどん出てきていて。
つい先日には9月時点で予約していた某狩りゲーの発売日も迎えて、会社を休んで一日遊んだっけな。
そしてそんな私の傍らには、いつも一杯のブラックコーヒーがあった。
黒と濃い茶色の隙間を攻めていくような漆黒の液体が、湯気を立ててマグカップの中で揺れていた。
香ばしい芳醇な香りと、苦味と酸味を私に与えてくれていた。
きっと私は来年も、コーヒーと、ゲームと、ちょっとのお酒と共に生きていくんだろうなぁ。
そう思うと、不意に私の目はカフェを探して彷徨ってしまう。
今日は真冬らしい、空気が冷たい日だ。風も強い。コンビニのコーヒーを外で飲むよりは、カフェに入って風を避けてコーヒーを飲みたい。
そう思いながら街の通りに視線を巡らせると、私の目に飛び込んできた「Cafe」の四文字。
よかった、程近くに見つかった。
「へー……ここにもあったんだ、サン○ルク」
私が見つけたのは某ベーカリーレストラン系列の、焼き立てパンの美味しいあのカフェだ。
コーヒーの味わいこそまぁそこそこってところだけど、パンと一緒に味わえるところ、安めの値段でマグでコーヒーを飲めるところから、比較的気に入っている。
ということでお店の自動ドアを潜る私。
「いらっしゃいませー」
店内に入ると、ふわっと香ってくる小麦のいい香りと、店員さんから飛ぶ挨拶が私の五感を刺激した。
店内の昼光色の暖かな照明と、濃い茶色をベースにした店内のカラーリングが、気持ちをほっとさせてくれる。
カウンターに並べられたパンたちを素通りして、私は注文カウンターの前までささっと歩く。今日はパンの気分ではないのだ。
カウンター越しにレジに立つ店員のお姉さんが、にこやかな笑みを向けてくる。
「ご注文はお決まりですか?」
「ブレンドコーヒーのMをホットでお願いします」
「270円になります」
会計準備をしながら、奥ではコーヒーマシンにマグカップがセットされている。この迅速さが有り難い。
私は財布から小銭を額面ピッタリと、サン○ルクのスタンプカードを取り出す。それを店員さんに手渡すと、ささっとスタンプが押されてカードが返ってきた。
「270円ちょうどいただきます。レシートはご入用ですか?」
「あ、ください」
スタンプカードと共にレシートがトレイの上に乗せられて、同時にコーヒーがなみなみと注がれた大ぶりのマグカップが私の前に置かれた。
「ブレンドコーヒーのMになります。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
財布にスタンプカードをしまって、レシートをポケットに突っ込んで、私はマグカップを手に店員さんに笑みを返した。
この他人を介した一連のやり取りがあるから、家や会社でコーヒーを飲むのとは違った良さがあると、私は思うのであって。
やっぱり、ちゃんとそれを生業にしている人や、それを専門にするコーヒーマシンが淹れたコーヒーは美味しいし、そのコーヒーを取り扱っている店員さんとのやり取りは、短くてもホッとするものがある。
私はマグカップを片手に空いている席を探す。年末で仕事終わりを過ぎている頃合いということもあり、ほとんどの席は空席だった。
手近なところにあったカウンターの空き席に腰を下ろして、私は両手でマグカップを包んだ。丸みを帯びた分厚い陶器製のマグカップは、じんわりとコーヒーの熱を伝えてくれて手に心地いい。
コーヒーから立ち上る湯気に目を細めながら、私は両手でマグカップを持ち上げ、そっと口を付けた。
淹れたてのコーヒーは熱々で、ちょっと接しがたい感じを出してくる。それを乗り越えて口の中にコーヒーをちょっとだけ含むと、口の中一杯に程よく苦味と酸味と渋味が広がった。
ブレンドコーヒーは飲みやすいように味わいが調整されているから、角が取れていて飲みやすい。
その分特徴が無いとか、面白みがないとかあると言えばあるけど、ぶっちゃけた話カフェは万人受けしてなんぼなので、万人受けするブレンドコーヒーは必要なのだ。 たまに単一豆で淹れてくれるカフェもあるが、それはそれ。
そうしてコーヒーを飲み込んだ私は、いつもそうするようにほぅと息を吐く。
口から吐いた息がほんのりと熱を帯びて、うっすらと白く曇った。
そのまま、少しだけ熱の逃げたマグカップに再び口を付けて、先程よりも多い量のコーヒーを口に運んでいった。
ああ、やっぱりコーヒーはいい。
飲む度に気持ちがほっこりとして、落ち着いた気持ちにさせてくれる。
鼻で、舌で、口でコーヒーを堪能しながら、私は未だ来たらぬ2019年へと思いを馳せるのだった。
来年も、願わくばいい年であるといいなぁ。
仕事が順調に進んで、趣味を満喫できる年になるといいなぁ。
気が付いたら既にマグカップの中は空、うっすらとコーヒーの粉の残りがマグカップの下の方に溜まって、三日月を描いている。
私は改めてマグカップをぐいっと傾けて中を空にすると、立ち上がってカップを返却口に持っていった。
「ありがとうございまーす」
ちょうど返却する時に店員さんと目が合った。
笑顔を向けてくる店員さんに小さく頭を下げ、微笑みを返しながら私は店を出ていく。
忘れ物は、なし。大丈夫、ここで忘れ物なんてしたら安心して年を越せない。
「――皆さん、よいお年を」
誰に聞かせるでもなく呟いたその言葉は、冬の強い風に乗って街中へと踊るように溶けていった。
「はー……」
私は冬物のコートの襟を立てながら、ポケットに両手を突っ込んで街を歩いていた。
仕事納めをして、しこたま酒を飲まされて、翌日の朝は二日酔いで死にそうになって。
お酒を飲むことや飲み会の場は別段嫌いというわけでもないけれど、年末の忘年会とか納会とか、そういうイベントじみた飲みの場面は、あんまり得意ではない。
仕事柄、社内に顔は知れ渡っているし、納会の場でいろんな部署の人から声をかけられるのはいいのだ。
いいのだが、「今年も大変でしたねー」「忙しかったですねー」みたいな建設的でない会話に終始しつつ、酒にちびちび口をつけるだけみたいな非生産的な飲み会になってしまうのがつらい。
それなら一人でどっかいいお店に行って、ちょっと具合のいいお酒とちょっといい感じのおつまみで一人しっぽりと、ってした方が幾分か生産性があるだろう。
なーんて、一人で動いた方が気楽な私は思うのであった。まる。
「(今年も一年早かったなー……)」
先日までクリスマスカラーに彩られていた街並みが、日の丸を掲揚して年越しムードに既に切り替わっているのを見て、私はぼんやりとそう考えた。
そう、一年本当に早かった。
数年前から遊んでいたゲームのサービスが終了し、また新しいゲームのサービスが開始し、そうこうする間にもソシャゲは新しいのがどんどん出てきていて。
つい先日には9月時点で予約していた某狩りゲーの発売日も迎えて、会社を休んで一日遊んだっけな。
そしてそんな私の傍らには、いつも一杯のブラックコーヒーがあった。
黒と濃い茶色の隙間を攻めていくような漆黒の液体が、湯気を立ててマグカップの中で揺れていた。
香ばしい芳醇な香りと、苦味と酸味を私に与えてくれていた。
きっと私は来年も、コーヒーと、ゲームと、ちょっとのお酒と共に生きていくんだろうなぁ。
そう思うと、不意に私の目はカフェを探して彷徨ってしまう。
今日は真冬らしい、空気が冷たい日だ。風も強い。コンビニのコーヒーを外で飲むよりは、カフェに入って風を避けてコーヒーを飲みたい。
そう思いながら街の通りに視線を巡らせると、私の目に飛び込んできた「Cafe」の四文字。
よかった、程近くに見つかった。
「へー……ここにもあったんだ、サン○ルク」
私が見つけたのは某ベーカリーレストラン系列の、焼き立てパンの美味しいあのカフェだ。
コーヒーの味わいこそまぁそこそこってところだけど、パンと一緒に味わえるところ、安めの値段でマグでコーヒーを飲めるところから、比較的気に入っている。
ということでお店の自動ドアを潜る私。
「いらっしゃいませー」
店内に入ると、ふわっと香ってくる小麦のいい香りと、店員さんから飛ぶ挨拶が私の五感を刺激した。
店内の昼光色の暖かな照明と、濃い茶色をベースにした店内のカラーリングが、気持ちをほっとさせてくれる。
カウンターに並べられたパンたちを素通りして、私は注文カウンターの前までささっと歩く。今日はパンの気分ではないのだ。
カウンター越しにレジに立つ店員のお姉さんが、にこやかな笑みを向けてくる。
「ご注文はお決まりですか?」
「ブレンドコーヒーのMをホットでお願いします」
「270円になります」
会計準備をしながら、奥ではコーヒーマシンにマグカップがセットされている。この迅速さが有り難い。
私は財布から小銭を額面ピッタリと、サン○ルクのスタンプカードを取り出す。それを店員さんに手渡すと、ささっとスタンプが押されてカードが返ってきた。
「270円ちょうどいただきます。レシートはご入用ですか?」
「あ、ください」
スタンプカードと共にレシートがトレイの上に乗せられて、同時にコーヒーがなみなみと注がれた大ぶりのマグカップが私の前に置かれた。
「ブレンドコーヒーのMになります。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
財布にスタンプカードをしまって、レシートをポケットに突っ込んで、私はマグカップを手に店員さんに笑みを返した。
この他人を介した一連のやり取りがあるから、家や会社でコーヒーを飲むのとは違った良さがあると、私は思うのであって。
やっぱり、ちゃんとそれを生業にしている人や、それを専門にするコーヒーマシンが淹れたコーヒーは美味しいし、そのコーヒーを取り扱っている店員さんとのやり取りは、短くてもホッとするものがある。
私はマグカップを片手に空いている席を探す。年末で仕事終わりを過ぎている頃合いということもあり、ほとんどの席は空席だった。
手近なところにあったカウンターの空き席に腰を下ろして、私は両手でマグカップを包んだ。丸みを帯びた分厚い陶器製のマグカップは、じんわりとコーヒーの熱を伝えてくれて手に心地いい。
コーヒーから立ち上る湯気に目を細めながら、私は両手でマグカップを持ち上げ、そっと口を付けた。
淹れたてのコーヒーは熱々で、ちょっと接しがたい感じを出してくる。それを乗り越えて口の中にコーヒーをちょっとだけ含むと、口の中一杯に程よく苦味と酸味と渋味が広がった。
ブレンドコーヒーは飲みやすいように味わいが調整されているから、角が取れていて飲みやすい。
その分特徴が無いとか、面白みがないとかあると言えばあるけど、ぶっちゃけた話カフェは万人受けしてなんぼなので、万人受けするブレンドコーヒーは必要なのだ。 たまに単一豆で淹れてくれるカフェもあるが、それはそれ。
そうしてコーヒーを飲み込んだ私は、いつもそうするようにほぅと息を吐く。
口から吐いた息がほんのりと熱を帯びて、うっすらと白く曇った。
そのまま、少しだけ熱の逃げたマグカップに再び口を付けて、先程よりも多い量のコーヒーを口に運んでいった。
ああ、やっぱりコーヒーはいい。
飲む度に気持ちがほっこりとして、落ち着いた気持ちにさせてくれる。
鼻で、舌で、口でコーヒーを堪能しながら、私は未だ来たらぬ2019年へと思いを馳せるのだった。
来年も、願わくばいい年であるといいなぁ。
仕事が順調に進んで、趣味を満喫できる年になるといいなぁ。
気が付いたら既にマグカップの中は空、うっすらとコーヒーの粉の残りがマグカップの下の方に溜まって、三日月を描いている。
私は改めてマグカップをぐいっと傾けて中を空にすると、立ち上がってカップを返却口に持っていった。
「ありがとうございまーす」
ちょうど返却する時に店員さんと目が合った。
笑顔を向けてくる店員さんに小さく頭を下げ、微笑みを返しながら私は店を出ていく。
忘れ物は、なし。大丈夫、ここで忘れ物なんてしたら安心して年を越せない。
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