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本編~3ヶ月目~
第45話~内なる穴~
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~新宿・歌舞伎町~
~新宿区役所3階 転移課 情報集積室~
翌朝。
僕はさっさと朝の身支度を済ませると、新宿区役所の3階、転移課の情報集積室に来ていた。
「……とまぁ、昨日一昨日に、こういうことがありまして」
「なるほど……カマンサックさんのお姉さんがいらしていたのなら、是非とも共に飲み明かしたかったですなぁ」
情報集積室のスーパーコンピューターが稼働し、大型モニターで穴の開通状況がモニタリングされている中で、僕はマルチェッロに昨夜に店であったことを話し聞かせていた。
姉のジーナが店に来て飲んでいたこと、酔った勢いで僕の冒険者時代の武勇伝をのべつ幕なしに語りまくったこと、何故か同タイミングで来店していた松尾さんから酒を奢られていたこと、などなど。
たった2時間ほどいただけのはずなのに、随分と語れる内容の多いことをやってくれたものだと思う、あの姉は。
そして一頻り話したところで、僕は手持ちのスマートフォンを取り出し、マルチェッロに見せながら話を切り出した。
「で、その時に僕の姉が、手持ちのスマートフォンでチェルパの公共放送を受信できる技能の話をしていたんですけれど、あれってどういう仕組みなんでしょうか」
「異界通信経路の技能ですね。ごくたまに保有している方がいらっしゃいます。
地球と特定の異世界……大概はその方の出身世界を繋ぐ、極小の穴を開けまして、そこを経由して接続先の世界でやり取りされているニュースや放送、通信を受信、手持ちのスマートフォンなどの情報端末で表示させるという具合の能力です。
情報端末は地球で買われる方もいれば、技能発現に付随して生成される方もいらっしゃいます。ジーナさんの場合は後者ですね。
高ランクで持っていらっしゃる方だと、複数の世界と接続してSNSでやり取りしたり、通話アプリで映像と音声を送受信したりなどしていますね」
「極小の穴を……開ける?」
マルチェッロの言葉に、僕は首を傾げた。
昨日にジーナのスマートフォンで、チェルパの公共放送が受信される様子を見せてもらったが、果たしてジーナはそんなことをしていただろうか。
エティに話を聞いた時も、何かをする素振りはなく、ただ普通にチェルパのニュースが入ってきたと言っていたし。
いまいち要点を掴めていない僕に、マルチェッロが彼の右手を自分の胸に置いて口を開いた。
「カマンサックさんは、『内なる穴』というものをご存知ですか?」
「……?いえ、初耳です」
彼の言葉に、改めて首を傾げた僕である。
内なる穴。聞いたことのない単語だ。
マルチェッロが白い鱗に覆われた自分の胸を、丸く撫でるようにして話し始める。
「穴はこの世界と異なる世界を繋ぐ、文字通りの穴ですが、この穴が一個人の体内に発生することがあります。
人間の体内に発生した穴は物理的な転移・転送は何も起こしませんが、その人物の身体が穴の先の世界と繋がった状態を引き起こします。
言い方を変えれば、二つの世界に跨って存在している状態になるわけですね。肉体そのものは地球にあるので、接続先の世界に行っても同じ人が存在しはしませんが。
これを我が転移課の穴探知レーダーで検知すると、極小の穴が常に開いた状態として映るのですよ。
ほら、四谷三丁目の駅近辺、ワールドコード1E7がずっと点ったままのところがあるでしょう?恐らくあれが、ジーナさんが体内に保有する内なる穴の反応です」
「はー……なるほど。
つまり姉は、自分の体の中に開いた穴を通じて、チェルパと情報のやり取りをしていると」
「そうなりますね」
ぽかんと口を開いた状態で息を吐く僕の前で、マルチェッロはこくりと頷いた。
自分の内側に穴が開く。そんなことが起こることも驚きだが、そうなった時にどうなるかという現象にも驚きを隠せない。
そしてそれが、まさに自分の姉に対して起こっているという。全くの一般人である姉に、である。
そういえば「ついったー」のフォロワーにもいたっけな、「異世界人いたらよろしく!」だとか「異世界から仕入れたネタで小説書いてます」だとか書いている人が。
地球に転移してきた異世界人のことを言っていたり、そういう人から聞いた話を指しているのかと思ったけれど、まさか直接異世界と繋がる術があるとは思わなかった。
と、そこまで理解して。
僕の表情が途端に真面目なものになる。
「クズマーノさん、あの……
内なる穴が存在する場合、身体が穴の先の世界と繋がっている、二つの世界に跨って存在していると仰いましたよね?」
「申しましたね」
真剣な眼差しを向けられたマルチェッロが、こくりと頷く。
それを確認して僕は、両手を物を持ち上げて隣に置くような動きをさせながら口を開いた。
「ということは逆に、異世界の側に肉体があって、地球と繋がっているという状況も、起こり得るわけですよね?」
「……お気付きになられましたね」
僕の言葉を受けたマルチェッロの瞳が、きらりと輝いた。
含みのある笑顔を見せながら、ゆっくりと宙を飛んで情報集積室の出口へと向かうマルチェッロ。僕の視線が彼を追うと、扉の前まで来たマルチェッロがくるりとこちらに振り返った。
「カマンサックさん、お連れしたい部屋があります。私についてきてください」
新宿区役所の3階は、一部を除いて一般区民の立ち入りが禁じられている。
情報集積室も基本的には区民の自由な立ち入りは出来ない部屋だが、それでも区画として表に存在する部屋だ。
しかしマルチェッロが僕を先導して入っていくのは、一般区民の立ち入りが制限されている区画だ。
「関係者以外立ち入り禁止」の掲示を横目に、重厚な鉄扉を開ける。その奥はこれまでの区役所内と内装こそ変わらないが、空気が明らかに異なっていた。
「私をはじめとする我々転移課職員は、いずれも異世界の言語や文字、文化の知識を有しています。
勿論、異世界からやってくる入植者の方々から頂いた情報を、適切に管理して教育しているというのもありますが、どうしても学習できる時間には限度がありますし、データベースも膨大になってしまいます。
それを各市区町村の自治体で個別に管理するわけにはいかないですからね。国が一元管理しているわけです」
「知っています。地球と繋がった異世界の情報は、日本という国が一括して管理していて、日本のどこにいても同じ情報が参照できると……」
「その通りです。一般市民に公開されている情報は、その中のごく一部ですけれどね」
廊下をふわふわと飛びながら、解説するマルチェッロに僕はついていく。
そうして飛んでいき、一つのドアの前で、マルチェッロは停止した。
ドアの上部、プレートには「開通室」と書かれている。
「ただ、不思議に思ったことはありませんでしたか?
何故我々がこれほどまでに、どんな異世界もワールドコードを割り振って管理出来ているのか。
何故受付に置いてあるプレートに手を置くだけで、出身世界を読み取ることが出来るのか」
「確かに……確かに、そうです。
あれは、僕はこれまでの情報の集積の成果だと……これまで地球が様々な異世界と繋がった結果だと、思っていたのですが」
「半分はその通りですよ。
もう半分は……我々の側から異世界に赴き、情報を収集したからなのです」
「え……っ!?」
重々しい口調で告げたマルチェッロの言葉に、僕は目を丸く、それこそ皿のように丸くした。
マルチェッロは今、「自分たちで異世界に行き、情報を集めた」と確かに言った。
そう発言するマルチェッロが、今ここに、地球にいるということは。
まさか。
僕の脳内が一つの答えに辿り着くその時に、マルチェッロの手が開通室のドアを開いた。
「カマンサックさん、ここが新宿区役所の『開通室』。
地球と異世界を繋ぐ穴を、人為的に開くための部屋です。
そして我々転移課職員、その全員が内なる穴を有している。
地球と異世界を自由に行き来する術を持っているのです」
そう、きっぱりと告げながらマルチェッロが開いた開通室の中は。
思っていたよりも殺風景な内装をしながら、ありとあらゆる世界と繋ぐのに使われたことを物語るように、部屋の中心の床が小さく抉れ、黒い色に染まっているのだった。
~第46話へ~
~新宿区役所3階 転移課 情報集積室~
翌朝。
僕はさっさと朝の身支度を済ませると、新宿区役所の3階、転移課の情報集積室に来ていた。
「……とまぁ、昨日一昨日に、こういうことがありまして」
「なるほど……カマンサックさんのお姉さんがいらしていたのなら、是非とも共に飲み明かしたかったですなぁ」
情報集積室のスーパーコンピューターが稼働し、大型モニターで穴の開通状況がモニタリングされている中で、僕はマルチェッロに昨夜に店であったことを話し聞かせていた。
姉のジーナが店に来て飲んでいたこと、酔った勢いで僕の冒険者時代の武勇伝をのべつ幕なしに語りまくったこと、何故か同タイミングで来店していた松尾さんから酒を奢られていたこと、などなど。
たった2時間ほどいただけのはずなのに、随分と語れる内容の多いことをやってくれたものだと思う、あの姉は。
そして一頻り話したところで、僕は手持ちのスマートフォンを取り出し、マルチェッロに見せながら話を切り出した。
「で、その時に僕の姉が、手持ちのスマートフォンでチェルパの公共放送を受信できる技能の話をしていたんですけれど、あれってどういう仕組みなんでしょうか」
「異界通信経路の技能ですね。ごくたまに保有している方がいらっしゃいます。
地球と特定の異世界……大概はその方の出身世界を繋ぐ、極小の穴を開けまして、そこを経由して接続先の世界でやり取りされているニュースや放送、通信を受信、手持ちのスマートフォンなどの情報端末で表示させるという具合の能力です。
情報端末は地球で買われる方もいれば、技能発現に付随して生成される方もいらっしゃいます。ジーナさんの場合は後者ですね。
高ランクで持っていらっしゃる方だと、複数の世界と接続してSNSでやり取りしたり、通話アプリで映像と音声を送受信したりなどしていますね」
「極小の穴を……開ける?」
マルチェッロの言葉に、僕は首を傾げた。
昨日にジーナのスマートフォンで、チェルパの公共放送が受信される様子を見せてもらったが、果たしてジーナはそんなことをしていただろうか。
エティに話を聞いた時も、何かをする素振りはなく、ただ普通にチェルパのニュースが入ってきたと言っていたし。
いまいち要点を掴めていない僕に、マルチェッロが彼の右手を自分の胸に置いて口を開いた。
「カマンサックさんは、『内なる穴』というものをご存知ですか?」
「……?いえ、初耳です」
彼の言葉に、改めて首を傾げた僕である。
内なる穴。聞いたことのない単語だ。
マルチェッロが白い鱗に覆われた自分の胸を、丸く撫でるようにして話し始める。
「穴はこの世界と異なる世界を繋ぐ、文字通りの穴ですが、この穴が一個人の体内に発生することがあります。
人間の体内に発生した穴は物理的な転移・転送は何も起こしませんが、その人物の身体が穴の先の世界と繋がった状態を引き起こします。
言い方を変えれば、二つの世界に跨って存在している状態になるわけですね。肉体そのものは地球にあるので、接続先の世界に行っても同じ人が存在しはしませんが。
これを我が転移課の穴探知レーダーで検知すると、極小の穴が常に開いた状態として映るのですよ。
ほら、四谷三丁目の駅近辺、ワールドコード1E7がずっと点ったままのところがあるでしょう?恐らくあれが、ジーナさんが体内に保有する内なる穴の反応です」
「はー……なるほど。
つまり姉は、自分の体の中に開いた穴を通じて、チェルパと情報のやり取りをしていると」
「そうなりますね」
ぽかんと口を開いた状態で息を吐く僕の前で、マルチェッロはこくりと頷いた。
自分の内側に穴が開く。そんなことが起こることも驚きだが、そうなった時にどうなるかという現象にも驚きを隠せない。
そしてそれが、まさに自分の姉に対して起こっているという。全くの一般人である姉に、である。
そういえば「ついったー」のフォロワーにもいたっけな、「異世界人いたらよろしく!」だとか「異世界から仕入れたネタで小説書いてます」だとか書いている人が。
地球に転移してきた異世界人のことを言っていたり、そういう人から聞いた話を指しているのかと思ったけれど、まさか直接異世界と繋がる術があるとは思わなかった。
と、そこまで理解して。
僕の表情が途端に真面目なものになる。
「クズマーノさん、あの……
内なる穴が存在する場合、身体が穴の先の世界と繋がっている、二つの世界に跨って存在していると仰いましたよね?」
「申しましたね」
真剣な眼差しを向けられたマルチェッロが、こくりと頷く。
それを確認して僕は、両手を物を持ち上げて隣に置くような動きをさせながら口を開いた。
「ということは逆に、異世界の側に肉体があって、地球と繋がっているという状況も、起こり得るわけですよね?」
「……お気付きになられましたね」
僕の言葉を受けたマルチェッロの瞳が、きらりと輝いた。
含みのある笑顔を見せながら、ゆっくりと宙を飛んで情報集積室の出口へと向かうマルチェッロ。僕の視線が彼を追うと、扉の前まで来たマルチェッロがくるりとこちらに振り返った。
「カマンサックさん、お連れしたい部屋があります。私についてきてください」
新宿区役所の3階は、一部を除いて一般区民の立ち入りが禁じられている。
情報集積室も基本的には区民の自由な立ち入りは出来ない部屋だが、それでも区画として表に存在する部屋だ。
しかしマルチェッロが僕を先導して入っていくのは、一般区民の立ち入りが制限されている区画だ。
「関係者以外立ち入り禁止」の掲示を横目に、重厚な鉄扉を開ける。その奥はこれまでの区役所内と内装こそ変わらないが、空気が明らかに異なっていた。
「私をはじめとする我々転移課職員は、いずれも異世界の言語や文字、文化の知識を有しています。
勿論、異世界からやってくる入植者の方々から頂いた情報を、適切に管理して教育しているというのもありますが、どうしても学習できる時間には限度がありますし、データベースも膨大になってしまいます。
それを各市区町村の自治体で個別に管理するわけにはいかないですからね。国が一元管理しているわけです」
「知っています。地球と繋がった異世界の情報は、日本という国が一括して管理していて、日本のどこにいても同じ情報が参照できると……」
「その通りです。一般市民に公開されている情報は、その中のごく一部ですけれどね」
廊下をふわふわと飛びながら、解説するマルチェッロに僕はついていく。
そうして飛んでいき、一つのドアの前で、マルチェッロは停止した。
ドアの上部、プレートには「開通室」と書かれている。
「ただ、不思議に思ったことはありませんでしたか?
何故我々がこれほどまでに、どんな異世界もワールドコードを割り振って管理出来ているのか。
何故受付に置いてあるプレートに手を置くだけで、出身世界を読み取ることが出来るのか」
「確かに……確かに、そうです。
あれは、僕はこれまでの情報の集積の成果だと……これまで地球が様々な異世界と繋がった結果だと、思っていたのですが」
「半分はその通りですよ。
もう半分は……我々の側から異世界に赴き、情報を収集したからなのです」
「え……っ!?」
重々しい口調で告げたマルチェッロの言葉に、僕は目を丸く、それこそ皿のように丸くした。
マルチェッロは今、「自分たちで異世界に行き、情報を集めた」と確かに言った。
そう発言するマルチェッロが、今ここに、地球にいるということは。
まさか。
僕の脳内が一つの答えに辿り着くその時に、マルチェッロの手が開通室のドアを開いた。
「カマンサックさん、ここが新宿区役所の『開通室』。
地球と異世界を繋ぐ穴を、人為的に開くための部屋です。
そして我々転移課職員、その全員が内なる穴を有している。
地球と異世界を自由に行き来する術を持っているのです」
そう、きっぱりと告げながらマルチェッロが開いた開通室の中は。
思っていたよりも殺風景な内装をしながら、ありとあらゆる世界と繋ぐのに使われたことを物語るように、部屋の中心の床が小さく抉れ、黒い色に染まっているのだった。
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