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第4章 放牧
第35話 決断と逡巡
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その後も襲い掛かってくる魔物達を尻目に、俺とカトーは昼食を作っていた。ブラッドバッファローが午前中に一頭飛び込んできたので、それを捌いて肉を切り分ける。
朝のキラービーの肉を叩いて肉団子にし、ブラッドバッファローの骨に残ったバラ肉だったり端の方の肉を細かく切って、一緒に鍋の中へ。堅パンを割り入れて塩で味を調えればスープの完成だ。
戦闘が一段落したところで、カトーがパンパンと手を打った。
「よし、昼の仕事はここまでにしよう。昼食にするよ。ニル、よそうの手伝っておくれ」
「わかった」
カトーの言葉に従い、俺は木製のボウルを手に取った。大きな鍋からスープを掬い取り、器へ。まずは一緒に昼食作りをしていたフェリスの前に、ボウルを置いた。
「フェリス、ほら」
『サンキュー。今日の昼飯はなんだ?』
湯気の立つスープに、フェリスがぺろりと舌なめずりをする。す、と彼の鼻の前にボウルを寄せながら、俺は言った。
「さっきしとめたキラービーのにくだんご、ブラッドバッファローのにく、いれたスープ。かたパンもわっていれてある」
『げー、さっきのでかいハチ入ってんの? マジでー』
と、スープの説明を聞いたフェリスが、猫がフレーメン反応をするみたいな顔をした。まあ、嫌だなと思う気持ちは分かる。しかしさっきのキラービーだって立派な食料であることには変わりないのだ。
ちなみにキラービーの肉団子は俺も味見をしたが、コクがあって食感がぷりぷりして美味しかった。鶏のつくねを食べているような感じだった。
クロエにボウルを置いてもらったオーケが、早速スープの中の肉団子を鼻でつつきながら言う。
『でもフェリス、あのハチ、結構美味しかったよ』
『いや、でもさー。あの見た目見た後であれ食うってのも、なんかいやじゃん』
すんと鼻を鳴らしながらも、フェリスもスープの中の肉団子を見た。見た目がアレなだけであって、味が悪いわけでは無いのだ。
自分の手で木製のスプーンを持ち、感触を確かめながら、俺は口を開く。
「にくだんご、まるめるの、おれもてつだった。あじみもした。だいじょうぶだ」
『ニルが丸めたのかよ、手の毛が入ってたらお前のせいだかんな』
するとフェリスが俺の方を見ながら、片方の口角を持ち上げた。文句ありげな表情だが、そこで文句をつけられても俺が困る。それに、ちゃんと手を洗ってから丸める作業をしたのだ。大丈夫、だと思う。
と、そこで膝の間でボウルを挟んだカトーが両手を合わせる。
「よし。それじゃあ食うよ。グレーズ・メーヒ・シティ」
「「グレーズ・メーヒ・シティ」」
『『グレーズ・メーヒ・シティ』』
レオン、クロエ、シグルドの三人も、俺達使い魔も、揃って感謝の文句を唱和した。早速各々スプーンをスープの中に入れていくところで、オーケがこちらに念話を飛ばしてきた。
『ニル、今のって、要するに『いただきます』?』
『らしいぞ。どうしたんだ今になって』
オーケの言葉に念話で返す俺だ。正直口の中には肉団子、喋れない。こういう時、念話はとても便利だ。チャネルは向こうが開いてくれるし。
すると、自分も肉団子をあぐあぐと噛みながら、しみじみとオーケが言う。
『なんか、こう……ここは日本じゃないのに、そういう言葉があるんだなぁって、思って』
オーケの漏らした言葉に、きょとんとしながら全員が視線をオーケに向ける。同じく食事に忙しく、会話に口を使えないブラームとレオンが、揃って念話を公開チャネルに飛ばしてきた。
『そりゃーあるだろ、どいつもこいつも、うちのディーデリック老でさえも腹いっぱい飯を食えない国なんだぞ』
『昨日ニルがしっかり話してくれただろう。魔物は世界から俺達への恵みだ。生活の友としても、食料としてもな。なんなら砂漠のある地方には体内に水を蓄えた、サンドカクタスなんて魔物もいるんだぞ』
レオンが諭すように話すと、オーケの顔が僅かに上がる。視線が向けられるのは、ガッつくようにスープの中の肉を食べるレオンだ。
『じゃあ、魔物を美味しく料理するには、人間の力が必要、ってことだよね?』
『そうなるな。どうした?』
オーケの問いかけにレオンが不思議そうな顔をして返した。
今更の質問だ。魔物の肉を料理するのは人間の役目だ。もちろん魔物の中でもルイザのように、獣人型の魔物で料理が出来る存在はいる。しかし、調理場の主役はいつだって人間だ。
オーケの首がくい、と動く。一人黙々と食事をとるシグルドへと視線を投げながら、オーケは再び問いかけた。
『ご主人様、僕はもう魔物で、人間に戻ることは出来ない……そう、だったよね』
オーケの問いかけに、思考が沈黙する。
俺達は転生魔法をかけられて魔物へと生まれ変わらされた。不可逆の魔法であるこれは、変化魔法のように元の姿に戻ることは出来ない。今の俺達は、全員が例外なく魔物で、使い魔だ。
シグルドも苦々しい表情をしながら視線を落として思念を流す。
『……ああ』
『でも、ニルみたいに変化魔法を身に付ければ、いつか人間になることは出来るんだよね?』
そこにオーケが続けざまに思念を投げてきた。確かに俺が今しているみたいに、変化魔法を習得して獣人化、あるいは肌人化をすれば、人間の範疇には入る。努力を重ねれば耳や尻尾も引っ込めて、人間の姿になることも出来る、とラーシュは話していた。
つまり、人間に戻ることは、全く不可能ではないのだ。ただし、中身が魔物であることは変えられない。だからなのか、シグルドも非常に苦々しい表情をしていた。
『ああ……恐らくは。だが……』
『なあに?』
何か言葉に詰まっているような、ばつが悪いような表情をするシグルドに、オーケがきょとんと首を傾げる。そこに声をかけるのはレオンだった。
「シグルド、お前は確か、エーヴァウトの門下だったな」
「エーヴァウト先生がどうした」
レオンの確認の言葉に、シグルドが僅かに顔を上げる。不審がるような表情をした彼に、レオンは静かに声をかけた。
「エーヴァウト・ラウテンは強硬派の一員だろう。対して、旅団内で魔法研究を一手に担うラーシュ・シェルは穏健派の急先鋒だ。オーケがラーシュに教えを受ける中で、穏健派の考えに染まるんじゃないか……それが心配なんだろう」
「っ……」
レオンの指摘を受けて、シグルドが僅かに視線を逸らす。どうやら図星を突かれたらしい。全員の視線がシグルドに集まる中、シグルドはぽつりぽつりと言葉を吐き始めた。
「その不安が……無いとは言わない。俺も、どちらかと言えばディーデリック老の考えには賛同している方だ」
スプーンを手に持ったまま、スープの入ったボウルに視線を落としつつ話すシグルド。そのスープの水面が、軽く持ち上げられたスプーンでとぷんと揺れた。
「だが、それ以上に……オーケが魔法を身に付ける中で、真実を知ってしまうのが、俺は怖い」
『真実……?』
シグルドの吐き出した言葉に、オーケが不思議そうに返す。それと同時に俺は、ぎゅっと胸が締め付けられる思いがした。
そうだ。シグルドだけじゃない、この場の全員が、真実を全て話したわけでは無いのだ。
ふと、シグルドが顔を上げて俺に視線を向けてくる。
「ニル。昨晩オーケの記憶の封印を解いた後、全てを説明してはいないな?」
「していない。ショッキングなないようが、いくつかあるから」
彼の問いかけに、俺も頷きながら言葉を返した。
俺達が地球からヴァグヤバンダに召喚されて、人間でなくなったあの日。俺と、レオンと、ディーデリックしか知らないこと、というのがある。
水永君の人格が既に消されていること。ディーデリックら強硬派が地球を侵略するつもりで、俺達をそれに協力させるつもりということ。俺の記憶も人格も、ディーデリックの魔法には耐えたこと。
それらの情報は、ラエルやフェリスにさえも全ては話していない。どうしても、インパクトが強すぎる。フェリスも思い出したように思念を流してきた。
『そういや、そうだよな。俺やラエルはニルやレオンとあれこれやる中で知っているけれど、まだ全部を教えてもらったわけじゃない』
「そうよね。あの日、あの時に起こったこととか、その後の使い魔達の状況とか……皆が知らないことは、まだたくさんあるわ」
フェリスの言葉に、クロエも頷きつつ言った。実際、クロエやハーヴェイ、ヴィルマに話した内容もだいぶ選んでいる。ほぼフルオープンにしているのは、元々実情に通じているラーシュくらいだ。
みんなの言葉を聞きながら、シグルドがますます俯く。
「俺は、それをオーケが知った時のことが怖い。だが……オーケの思う幸せがこの世界に無いなら、俺はオーケを楽園へと連れていきたい、とも思う」
シグルドはそう言うと、オーケの首元を優しく撫でた。その手つきは、前と変わらず優しい。
何だかんだ、シグルドもオーケを大事に思っているのだ。唯一の使い魔だから、というだけではなさそうだ。鼻息を漏らしながらフェリスが言う。
『要は、使い魔である俺達本人の、希望次第、ってことか』
『僕の、幸せ……かぁ』
それに続いてオーケも、しみじみとした口調で言った。少し考え込む姿勢をした後、オーケが俺の方に顔を向けてくる。
『ニル、やっぱりラーシュさんに、魔法を教えてもらうよう頼んでくれる? 僕、もう他人に料理を任せっきりにするのはイヤだよ』
「わかった、はなしておく」
どうやらオーケは料理を学びたいらしい。今までずっと誰かの作ったものを食べるばっかりだったのが、自分で料理を作ることに意欲的になったのはいいことだ。変化魔法を身に付けることが出来たら、きっと今度はカスペルに師事するんだろう。
嬉しそうに尻尾を振っているオーケを見ながら、シグルドが小さく目を見開いていた。
「そうか……」
少々呆気に取られた様子でそんな言葉を吐き出すと、シグルドは若干冷めた自分のスープを、もう一度スプーンで掬い取った。
朝のキラービーの肉を叩いて肉団子にし、ブラッドバッファローの骨に残ったバラ肉だったり端の方の肉を細かく切って、一緒に鍋の中へ。堅パンを割り入れて塩で味を調えればスープの完成だ。
戦闘が一段落したところで、カトーがパンパンと手を打った。
「よし、昼の仕事はここまでにしよう。昼食にするよ。ニル、よそうの手伝っておくれ」
「わかった」
カトーの言葉に従い、俺は木製のボウルを手に取った。大きな鍋からスープを掬い取り、器へ。まずは一緒に昼食作りをしていたフェリスの前に、ボウルを置いた。
「フェリス、ほら」
『サンキュー。今日の昼飯はなんだ?』
湯気の立つスープに、フェリスがぺろりと舌なめずりをする。す、と彼の鼻の前にボウルを寄せながら、俺は言った。
「さっきしとめたキラービーのにくだんご、ブラッドバッファローのにく、いれたスープ。かたパンもわっていれてある」
『げー、さっきのでかいハチ入ってんの? マジでー』
と、スープの説明を聞いたフェリスが、猫がフレーメン反応をするみたいな顔をした。まあ、嫌だなと思う気持ちは分かる。しかしさっきのキラービーだって立派な食料であることには変わりないのだ。
ちなみにキラービーの肉団子は俺も味見をしたが、コクがあって食感がぷりぷりして美味しかった。鶏のつくねを食べているような感じだった。
クロエにボウルを置いてもらったオーケが、早速スープの中の肉団子を鼻でつつきながら言う。
『でもフェリス、あのハチ、結構美味しかったよ』
『いや、でもさー。あの見た目見た後であれ食うってのも、なんかいやじゃん』
すんと鼻を鳴らしながらも、フェリスもスープの中の肉団子を見た。見た目がアレなだけであって、味が悪いわけでは無いのだ。
自分の手で木製のスプーンを持ち、感触を確かめながら、俺は口を開く。
「にくだんご、まるめるの、おれもてつだった。あじみもした。だいじょうぶだ」
『ニルが丸めたのかよ、手の毛が入ってたらお前のせいだかんな』
するとフェリスが俺の方を見ながら、片方の口角を持ち上げた。文句ありげな表情だが、そこで文句をつけられても俺が困る。それに、ちゃんと手を洗ってから丸める作業をしたのだ。大丈夫、だと思う。
と、そこで膝の間でボウルを挟んだカトーが両手を合わせる。
「よし。それじゃあ食うよ。グレーズ・メーヒ・シティ」
「「グレーズ・メーヒ・シティ」」
『『グレーズ・メーヒ・シティ』』
レオン、クロエ、シグルドの三人も、俺達使い魔も、揃って感謝の文句を唱和した。早速各々スプーンをスープの中に入れていくところで、オーケがこちらに念話を飛ばしてきた。
『ニル、今のって、要するに『いただきます』?』
『らしいぞ。どうしたんだ今になって』
オーケの言葉に念話で返す俺だ。正直口の中には肉団子、喋れない。こういう時、念話はとても便利だ。チャネルは向こうが開いてくれるし。
すると、自分も肉団子をあぐあぐと噛みながら、しみじみとオーケが言う。
『なんか、こう……ここは日本じゃないのに、そういう言葉があるんだなぁって、思って』
オーケの漏らした言葉に、きょとんとしながら全員が視線をオーケに向ける。同じく食事に忙しく、会話に口を使えないブラームとレオンが、揃って念話を公開チャネルに飛ばしてきた。
『そりゃーあるだろ、どいつもこいつも、うちのディーデリック老でさえも腹いっぱい飯を食えない国なんだぞ』
『昨日ニルがしっかり話してくれただろう。魔物は世界から俺達への恵みだ。生活の友としても、食料としてもな。なんなら砂漠のある地方には体内に水を蓄えた、サンドカクタスなんて魔物もいるんだぞ』
レオンが諭すように話すと、オーケの顔が僅かに上がる。視線が向けられるのは、ガッつくようにスープの中の肉を食べるレオンだ。
『じゃあ、魔物を美味しく料理するには、人間の力が必要、ってことだよね?』
『そうなるな。どうした?』
オーケの問いかけにレオンが不思議そうな顔をして返した。
今更の質問だ。魔物の肉を料理するのは人間の役目だ。もちろん魔物の中でもルイザのように、獣人型の魔物で料理が出来る存在はいる。しかし、調理場の主役はいつだって人間だ。
オーケの首がくい、と動く。一人黙々と食事をとるシグルドへと視線を投げながら、オーケは再び問いかけた。
『ご主人様、僕はもう魔物で、人間に戻ることは出来ない……そう、だったよね』
オーケの問いかけに、思考が沈黙する。
俺達は転生魔法をかけられて魔物へと生まれ変わらされた。不可逆の魔法であるこれは、変化魔法のように元の姿に戻ることは出来ない。今の俺達は、全員が例外なく魔物で、使い魔だ。
シグルドも苦々しい表情をしながら視線を落として思念を流す。
『……ああ』
『でも、ニルみたいに変化魔法を身に付ければ、いつか人間になることは出来るんだよね?』
そこにオーケが続けざまに思念を投げてきた。確かに俺が今しているみたいに、変化魔法を習得して獣人化、あるいは肌人化をすれば、人間の範疇には入る。努力を重ねれば耳や尻尾も引っ込めて、人間の姿になることも出来る、とラーシュは話していた。
つまり、人間に戻ることは、全く不可能ではないのだ。ただし、中身が魔物であることは変えられない。だからなのか、シグルドも非常に苦々しい表情をしていた。
『ああ……恐らくは。だが……』
『なあに?』
何か言葉に詰まっているような、ばつが悪いような表情をするシグルドに、オーケがきょとんと首を傾げる。そこに声をかけるのはレオンだった。
「シグルド、お前は確か、エーヴァウトの門下だったな」
「エーヴァウト先生がどうした」
レオンの確認の言葉に、シグルドが僅かに顔を上げる。不審がるような表情をした彼に、レオンは静かに声をかけた。
「エーヴァウト・ラウテンは強硬派の一員だろう。対して、旅団内で魔法研究を一手に担うラーシュ・シェルは穏健派の急先鋒だ。オーケがラーシュに教えを受ける中で、穏健派の考えに染まるんじゃないか……それが心配なんだろう」
「っ……」
レオンの指摘を受けて、シグルドが僅かに視線を逸らす。どうやら図星を突かれたらしい。全員の視線がシグルドに集まる中、シグルドはぽつりぽつりと言葉を吐き始めた。
「その不安が……無いとは言わない。俺も、どちらかと言えばディーデリック老の考えには賛同している方だ」
スプーンを手に持ったまま、スープの入ったボウルに視線を落としつつ話すシグルド。そのスープの水面が、軽く持ち上げられたスプーンでとぷんと揺れた。
「だが、それ以上に……オーケが魔法を身に付ける中で、真実を知ってしまうのが、俺は怖い」
『真実……?』
シグルドの吐き出した言葉に、オーケが不思議そうに返す。それと同時に俺は、ぎゅっと胸が締め付けられる思いがした。
そうだ。シグルドだけじゃない、この場の全員が、真実を全て話したわけでは無いのだ。
ふと、シグルドが顔を上げて俺に視線を向けてくる。
「ニル。昨晩オーケの記憶の封印を解いた後、全てを説明してはいないな?」
「していない。ショッキングなないようが、いくつかあるから」
彼の問いかけに、俺も頷きながら言葉を返した。
俺達が地球からヴァグヤバンダに召喚されて、人間でなくなったあの日。俺と、レオンと、ディーデリックしか知らないこと、というのがある。
水永君の人格が既に消されていること。ディーデリックら強硬派が地球を侵略するつもりで、俺達をそれに協力させるつもりということ。俺の記憶も人格も、ディーデリックの魔法には耐えたこと。
それらの情報は、ラエルやフェリスにさえも全ては話していない。どうしても、インパクトが強すぎる。フェリスも思い出したように思念を流してきた。
『そういや、そうだよな。俺やラエルはニルやレオンとあれこれやる中で知っているけれど、まだ全部を教えてもらったわけじゃない』
「そうよね。あの日、あの時に起こったこととか、その後の使い魔達の状況とか……皆が知らないことは、まだたくさんあるわ」
フェリスの言葉に、クロエも頷きつつ言った。実際、クロエやハーヴェイ、ヴィルマに話した内容もだいぶ選んでいる。ほぼフルオープンにしているのは、元々実情に通じているラーシュくらいだ。
みんなの言葉を聞きながら、シグルドがますます俯く。
「俺は、それをオーケが知った時のことが怖い。だが……オーケの思う幸せがこの世界に無いなら、俺はオーケを楽園へと連れていきたい、とも思う」
シグルドはそう言うと、オーケの首元を優しく撫でた。その手つきは、前と変わらず優しい。
何だかんだ、シグルドもオーケを大事に思っているのだ。唯一の使い魔だから、というだけではなさそうだ。鼻息を漏らしながらフェリスが言う。
『要は、使い魔である俺達本人の、希望次第、ってことか』
『僕の、幸せ……かぁ』
それに続いてオーケも、しみじみとした口調で言った。少し考え込む姿勢をした後、オーケが俺の方に顔を向けてくる。
『ニル、やっぱりラーシュさんに、魔法を教えてもらうよう頼んでくれる? 僕、もう他人に料理を任せっきりにするのはイヤだよ』
「わかった、はなしておく」
どうやらオーケは料理を学びたいらしい。今までずっと誰かの作ったものを食べるばっかりだったのが、自分で料理を作ることに意欲的になったのはいいことだ。変化魔法を身に付けることが出来たら、きっと今度はカスペルに師事するんだろう。
嬉しそうに尻尾を振っているオーケを見ながら、シグルドが小さく目を見開いていた。
「そうか……」
少々呆気に取られた様子でそんな言葉を吐き出すと、シグルドは若干冷めた自分のスープを、もう一度スプーンで掬い取った。
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