普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です｡帰らせて｡

選択編

直人ルート 9

｢いっ…｣
｢柚琉様!!｣





｢…陣…痛？｣
『はい｡なので急いでタクシーを呼び病院に向かっているところです』
｢いつも行ってるところだよね？｣
『えぇ｡そちらに連絡したところ今すぐ連れてこいと言うことでしたので｡念の為柊先生も控えておくそうです』
｢…来週産ませる予定だったのに｣
柚は痛みに弱いし心臓の手術をしたとはいえ､また何か起きないとも限らない｡
そのため全員一致で無痛分娩か帝王切開ということになったのだが…｡
予定日まであと1ヶ月あったのに!!
｢蒼士あおい!!あと任せた!!｣
｢はい｣
僕はすぐにタクシーを呼び､病院へと向かった。





｢ふぅ…くぅ…｣
｢柚っ!!｣
ベッドの上で丸くなっている柚に駆け寄る｡
｢にいさ…いた…いたい…｣
｢痛いね｡赤ちゃん頑張ってるから柚ももうちょっとだけ頑張れる？｣
｢が…がんば…るぅ…｣
涙目で僕の腕をかなり強く握る｡
これで柚の痛みが軽減されるのであればどれだけ握られてもいい｡
｢柚琉様､タオル噛みましょう｡このままでは舌を噛んでしまいますよ｣
樹はタオルを折りたたみ､柚の口に当て､タオルを噛むように促した｡
｢…やぁ…いたぃ…｣
｢陣痛ってこんなに長く続くもの？｣
｢いえ｡ここに来るまでの間に1度収まったのですがまた痛くなってきたようで｣
｢間隔が広いのでまだ生まれないと思いますが…女性と違い､子宮口を確認できないのでこちらも手探りでやるしかないんです｣
先生の説明はもっともだ｡
…柚達Ωの子宮は直腸の奥､腸壁が変化して出来た小さな部屋のこと｡
そこを見るためにはエコーか………あまりやらないけど内視鏡だけ｡
｢ふ…はぁ…はぁ…｣
｢ちょっと収まった？…もうちよっとだよ｡頑張って｣
｢こし…こしいたぃ…｣
｢…ちょっと待ってね｣
僕は柚を自分の方に抱き寄せ､腰をさすってやった｡
｢…ふぇ…｣
｢柚｡涙は赤ちゃんのためにとっておこうね｡生まれた後ならいくらでも泣いていいから｣
｢ぅ…ぅん…｣
僕の手にぐりぐりと頭を擦り付けてきた｡
…こんな時にも甘えん坊になって…｡
｢大丈夫｡柚は強い子だから｡赤ちゃんと会いたいよね？｣
｢ぅん…｣
｢ならもう少し頑張ろう？｣
｢…ぅ…あっ…｣


痛くなる､収まる､そんなのを繰り返しながら早数時間…｡
｢そろそろ分娩室の方へ移動しましょう｣
｢柚､移動するよ｣
｢や…やだ…どっかいかないで…いっしょにいて…｣
｢いるよ｡ちゃんと柚の横にいるから｣
声をかけてもいやいやと首を横に振り続けた｡
…仕方ない｡
背中と膝裏に手を差し込み､抱き上げた｡
｢あぅ…｣
｢柚､ちょっとだけ我慢してね｣
｢…ふぇ…｣
車椅子におろし､そのまま運んでもらう｡
僕と樹はもちろん後からついていく｡


｢では私はここでお待ちしていますので｣
｢うん｡母さん達来たらよろしくね｣
｢かしこまりました｣
分娩室に入ると柚は分娩用の椅子に寝かされていた｡
｢ふぁ…にいさ…ふぇ…｣
｢柚｡もうちょっとだからね…頑張ろうね…｣
僕たちには柚のように痛がることは出来ない｡
声をかけ続け､手を握ってあげるしか…｡
｢藤沢さーん｡下見て息はいて…｣
｢ふっ…ぅぅぅ…｣
｢そうそう上手｣











それから1時間後…
｢おぎゃぁ!!おぎゃぁ!!｣
僕達の初の子供が誕生した｡