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幼児編

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樹視点

柚琉様が友人を家に招待すると言った。
喜ばしいことだ。
蛍様を乗せ、屋敷へ向かってる最中の車の中、後ろから柚琉様の悲鳴が聞こえた。
その直後、運転席を潰すかのように車が突っ込んできた。
「な…!?」
とりあえず車が歪む前にドアを蹴破り、ポケットの中の折りたたみナイフに手を伸ばした。
「…っう…」
多少のダメージはあったもののこれぐらいなら動ける。
睦樹と目を合わせ、同時にシートベルトを切った。
まずは後ろの柚琉様達の救助だ。
ガソリンが漏れていないとも限らないし早いにこしたことはない。
それにぶつかった時大きな音がしたから救急車とかは周りの人が呼んでいるだろう。
睦樹はガラスの壁を壊し、僕は外からドアをこじ開けた。
ん?
鉄製のものぐらいはねじ曲げられるよ。
訓練の賜物。
「柚琉様!!」
後部座席の方が悲惨だった。
僕から見て手前に座っていた夏羽様と蛍様はまだ怪我が少ない。
腕や足の切り傷と打撲、それと頭のこぶだろう。
だが窓側に座っていた柚琉様は…車体に足を挟まれ、意識もなかった。
僕達は夏羽様と蛍様のシートベルトを同じように切り、外に出したあと柚琉様に近寄った。
「これどうする?下手に動かすとまずいだろ」
「でも…」
ここに長くいるのも危険だ。
睦樹は下を覗き込み、出血がないか確認していた。
「出血はなし。挟まれてるだけのようだが…もしかしたら血管を圧迫して止血されてるだけかも」
「…救急車が来るまでは平均7分…」
「俺らが動き始めてから3分。…あと4分もあるのかよ!!」
「……睦樹」
「あ?」
僕は睦樹にある提案をした。
「僕がこの車体を歪めて柚琉様の足が引き抜けるようにする。そうしたら睦樹が柚琉様を外へ」
「それ…かなりの賭けじゃねぇのか?」
「そうだよ。でも何もしないよりかはいい」
さっき見たら頭も強く打ってるようだし、ガラスが体に刺さっていた。
運転手の方は多分もう無理。
そっちは他の人に任せる。
「じゃあやるよ」
「おう」
タイミングは…今だ!!
僕は車と柚琉様の間にバールを差し込み、てこの原理を利用してさらに車体を曲げた。
「…っ!!出せた!!」
「外で治療を!!」
「わかってる!!」
睦樹は柚琉様を抱え車の外へ出た。
かなりの騒ぎになっているようで外には野次馬がたくさんいた。
「ねぇ…いつき、むつき。ゆずは…?」
「…意識を失っているようです。すみませんが手伝っていただけますか?」
「うん!!」
歩道へと運び、僕の上着を下にひいてその上に寝かせた。
「…足、出血してないね」
「どこか体調の変化もなし。賭けに勝ったな」
「当然」
柚琉様に何かあるようなら…僕はこの命を持って償う。
「…でもとりあえず切り傷の止血。それと消毒しないと」
「…今持ってんのは消毒液と絆創膏、それと包帯だな」
「…ハンカチとか切り裂けば包帯代わりになったよね」
着々と簡単な応急処置をし、全ての怪我の処置が終わった頃、救急隊が到着した。
「…樹。お前が乗ってけ」
「え」
「屋敷の方へは俺が連絡する。まだ夏羽様達の処置も終わってないからな。そっちは一般で通されるだろ」
「…うん」
僕は柚琉様と同じ救急車に乗り込んだ。
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