普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ

文字の大きさ
上 下
281 / 839
幼児編

171

しおりを挟む
 ぼんやりしながら机に向かい、アシュルから来た何枚もの手紙を眺める。入学してからというもの毎日手紙が送られてくる。健気な弟が可愛い。早く返事を書かなければ、もう何日も返していない。このところ気持ちが落ち着かなくて、ウェルとのことを何度も夢に見た。記憶を辿り、いつウェルに嫌われたのか何故嫌われたのか、ぐるぐると考え込んでは落ち込んで堂々巡り。生徒会はしばらくお休みを貰っているが、この間なんて授業中に注意力散漫だと叱られた。筆を持ち、紙を広げたのは良いが何も書けない。

『お兄ちゃん、ウェルに嫌われたみたいだ。』

 書きはじめてスラスラと浮かび上がった文は情けないものだった。こんなこと書いて送ったらアシュルが心配する。ダメだ、ダメだと紙を丸める。先程からこの行為の繰り返し。手紙は進まないどころか一枚も書けていない。

「そんなに悩んで、誰に書いてるの?」

 肩にぽすりと誰かの手が乗る。珍しいことに驚いて身体が大げさに跳ねる。とは言え、この部屋にいるのは一人だけ。軽薄にも聞こえる声の主は初対面だというのに絶対に仲良くなれないと思った相手、キルト・ウィチルダ。顔がいいのと同室なのもあり確実にフランドール側の攻略対象。華奢な本来のフランドールならば一瞬でコイツに犯されていただろう…。なぜならコイツは同室だと言うのに何度も何度も美少年を連れ込んでいる、マセガキだなんて言ってられない正真正銘のヤリチンだからだ!

「ウィチルダくんには関係ないだろ。急になんだ、俺みたいなのは嫌だと言ったのはウィチルダくんだろう?」
「…‥あの時のことはごめんね? ほら、聞いてたイメージと違って驚いたんだよ。ホントごめんね、許して?」
「……。」

 許さん、そんな犬みたいな顔をされても許さんぞ!
 それにお前には、まだまだ言いたいことがあるんだ!
 ええい、この際だだから言ってやるっ。

「それから何度も言うが、遊び相手を部屋に呼ぶな!」
「そ、それもごめん、もうしない。呼ばないよ、これからは誰ともしない。」
「…なんだ、やけに素直だな。」

 まっすぐこちらを見る瞳は真剣そのものだ。
 そんなふうに素直になられたら、これ以上怒れないじゃないか…。
 案外、良い子なのだろうか?

「それよりさ、さっきから何に悩んでるの? 手紙、書けないの? 誰に書いてるの?」
「うっ、質問が多いな。弟だよ、血は繋がってないが健気で可愛くてな。毎日、送ってきてくれるんだ。ただ、最近は…その…あまり上手くいかない事が多くて、何を書けばいいのか。」
「上手くいかない? もしかしてウェルギリウス殿下とのこと?」
「んっ、まぁ、なんか嫌われちまったっていうか。」
「どうして?」
「……わかんねぇ。」
「それ、僕に話してみない?」

 優しく問いかけられると、ほつれるみたいに言葉が出ていく。なんか、頭がぼんやりしてきた。じわじわと目頭が熱くなる。なんか話してたら、悲しくなってきた。笑いあったことも話したことも夢も、今まで楽しかったこと全部、無かったみたいで。ウェルから逸らされる視線や冷たい声が怖い。どうしても婚約破棄のことは言えない…でも、ウィチルダの相槌のタイミングとか急かさない感じとか、なんか話しやすくて気持ちが溢れる。言ってしまいたい…、聞いてほしい、いいや、ダメだ。どうしてこんなに話したくなってしまうのだろう。俺に兄はいない、でもいたとしたらこんな感じなのだろうか…? 丁寧に畳まれたハンカチで俺の濡れた顔をウィチルダが拭いてくれる。恥ずかしい、情けない姿、コイツに見られてるんだ。たぶんまた身体の方の年齢にひっぱられて…。

「ウェル…っ、殿下と話がしたいんだ…。」
「フランドールくんはウェルギリウス殿下のことが好きなの?」
「えっ、ああ、親友だと思っている。殿下はそう思ってはいなかったみたいだがな。」
「ふぅん、殿下は思ってない、ね。」

 含みのある微笑み、いや、ニヤ付きを浮かべたウィチルダの顔。急に現実に引き戻されて、俺は我に返った。

 って、なんで俺はウィチルダにこんなこと話してんだっ。
 あ~~~~っ!
 くそっ、騙されそうになった!
 美少年連れ込んでは食い荒らしてるやつの口車に乗せられたっ。
 今、なんか変だった!
 コイツは面白がってる。
 絶対そう!
 でなきゃ、こんな真面目に話し聞いてくれるのなんておかしい。
 貞操観念ゆるゆる野郎だぞ!
 俺の弱みでも握ろうとしてるんだ。

「…っ、今のは無しだ!」
「え? 解けちゃった…?」
「あ? お前、何か企んでるだろう。」
「へっ⁉…あ、いや、そんなことっ。」
「入学してから今の今までまともな会話もなく、挙げ句少し話せば喧嘩を売ってくる。企みがあるに決まっている、そうでなければおかしい!」

 椅子から立ち上がり、名探偵風に指をさすと、ウィチルダは顔を引き攣らせた。
 明らかに狼狽えている。
 やはりな、俺の目はごまかせない! 

 はぁ~と溜息を吐き、まいったと手を上げる。俺は勝ち誇った顔でフンと腕を組む。いやぁ~!気持ちがいいなっ。満足したところで、コツコツと窓ガラスを叩く音がして意識をそっちに向ける。伝書鳩が手紙と何かをぶら下げていた。きっとアシュルからだろう、俺はそれを受け取るべく窓辺に向かい手を伸ばした。

「えっ、なにっ…。」

 突然、背後に気配を感じたと思ったら肩と腰から腕が見えた。背には人の温かな体温。しがみつくみたいに、ぎゅっと張り付いている。

 こ、これは、もしかして…。
 抱きしめられている、のか?
 えっ⁉ なんでぇ⁉
 怖いっ! 

「うぃ、うぃちるだく~ん?」
 
 離してくれないかと、腕を優しく叩くが動かない。
 
 くっ、今度は、なんか弟みたいでっ。
 おれ、年下とか犬系に弱いんだよう…。
 
 顔を背に埋められ身動きがとれない。どうしようかと混乱しながら考えていると、抱きしめる力が更に強くなった。

「好きだ、フランドールくん。
 ウェルギリウス殿下のことは忘れたっていいだろう…?」

しおりを挟む
感想 530

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

異世界転生したのに弱いってどういうことだよ

めがてん
BL
俺――須藤美陽はその日、大きな悲しみの中に居た。 ある日突然、一番大切な親友兼恋人であった男を事故で亡くしたからだ。 恋人の葬式に参列した後、誰も居ない公園で悲しみに暮れていたその時――俺は突然眩い光に包まれた。 あまりに眩しいその光に思わず目を瞑り――次に目を開けたら。 「あうううーーー!!?(俺、赤ちゃんになってるーーー!!?)」 ――何故か赤ちゃんになっていた。 突然赤ちゃんになってしまった俺は、どうやら魔法とかあるファンタジー世界に転生したらしいが…… この新しい体、滅茶苦茶病弱だし正直ファンタジー世界を楽しむどころじゃなかった。 突然異世界に転生してしまった俺(病弱)、これから一体どうなっちゃうんだよーーー! *** 作者の性癖を詰め込んだ作品です 病気表現とかあるので注意してください BL要素は薄めです 書き溜めが尽きたので更新休止中です。

俺の愉しい学園生活

yumemidori
BL
ある学園の出来事を腐男子くん目線で覗いてみませんか?? #人間メーカー仮 使用しています

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

処理中です...