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第2章 フェアリー学園入学編
第23話 人狼の夜
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…確かに、冷静に考えれば私は『真紅の頭巾』の能力には”人狼に変身出来る”としか設定していない。
その詳しい定義を明義していない以上、『人間体型にも獣体型にも変身可能』と解釈する事も不可能ではない…のかも。
それでもやっぱり、誘拐事件の時と同じようにこの世界に『作者の手を離れて本来起こりえない事象が起こっている』と考えるのが自然だろう。
けど考えるのは後だ、今はとにかくトオルと力を合わせて…、コイツを倒す!!!
「ガルルルル…、グァウッ!!!」
四足歩行でその場から動き出した人狼は、すごいスピードで右へ左へ縦横無尽に飛び跳ね回る。
「なっ…、もうほとんど本物の狼じゃねぇか!!!」
手足を変形させ、肩幅が縮んだ影響で、先程までと比べてやや小柄になり、こちらのアドバンテージだった『一本の道で向かい合って戦う』という条件が効かなくなってしまった。
人狼が私の横を通り過ぎた瞬間に着火して起爆しているのだけれど、全く間に合っていない。
トオルも素早く動き回る人狼の動きを刀で捉える事が難しく、中々攻撃がヒットしないようだ。
私達の攻撃は当たらなくても、向こうは的確に私達の体にダメージを与えていく。
横や後ろを通り過ぎる瞬間に爪で引っかかれてしまうのだ。
「ヤバいわよ、トオル!
このままじゃ私達っ…!」
「そうだな!
早くこの狼の動きを止めなくちゃ、二人共ただじゃ済まない…!!!」
そうは言っても、私とトオルの能力でこの人狼を捕らえる事なんて出来るのだろうか。
植物を操れるザックか超速で動けるエリナがいれば話は別だけれど、生憎『灰被らせの悪女』と『一騎桃川』じゃ…。
……いや、これなら!?
「トオル、耳貸して!」
人狼の猛攻をかいくぐりながら、私は何とかトオルの横まで移動し小声で耳打ちする。
「…確かに、上手く行けばあいつの動きを封じられそうだ。
けどぶっつけ本番でそんなの出来るのか!?
相当息を合わせたコンビネーションじゃないと不可能だぞ!?」
「無茶でもやらないと二人とも負けちゃうって!
…大丈夫、トオルと私なら絶対やれるよ!!!」
「…ったく、まだ出会って一週間位しか経ってないのに滅茶苦茶信頼してくれちゃって。
けど、アグネスは入学初日からそういう奴だったよなぁ…よし、やろう!」
作戦を固めた私達は、ちょうど私達の位置から前方4メートル程の位置にいる人狼に向かって戦闘態勢を取った。
「ガウゥ…、ガァッ!!!」
再びこちらへ向かって走って来る人狼。
人狼は私の能力の灰が降る圏内に入って来た。
そのタイミングを見計らって、私は火打ち魔石をぶつけ合わせる。
瞬間、人狼の近くの灰に火が灯る。
しかし、やはり動体視力が良く動きが素早い人狼はそれを瞬時に見抜き、方向転換して別の角度からこちらへ向かってきた。
…でも!
「ここまでは読み通り、トオルっ!!!」
「あいよっ!」
ジャバァッ!
トオルの刀から発射された水流が、私が火を着けた灰にヒット。
当然、その灰は爆発する事もなくそのまま地面に落ちる。
「…グ?」
絶対に爆発する、と読んでいた灰が不発に終わった事に、人狼の動きが一瞬固くなる。
その隙を読んで、私はもう一度火打ち魔石をぶつけ合わせた!!!
「アギャァッ…!?」
激しい爆発音と光が暗い廊下に響き渡る。
「よしっ!」
「やったわ、トオル!」
そう、私がトオルに提案した作戦は、『人狼が読み切った私の爆発を、トオルの水流で消火する事で奴を混乱させる』事。
火打ち魔石で着火出来るのは一か所のみなので、基本的にはその着火させた灰が完全に爆発しないと次の爆発を起こす事は出来ない。
ただし、その着火させた火種が何らかの理由で消えてしまえば話は別だ。
火が消えれば、爆発を待たずとも次の灰に着火する事が可能になる。
私が一度着火させた灰を警戒して人狼が避けた瞬間にトオルが水を放って火種を消し、すぐさま私が人狼のいる位置の灰に着火する。
こうする事で、人狼の不意を突いて爆発を起こす事が可能になるのである。
「グガッ…、ガルルルル!!!」
当然、人狼は深手を負いながらもすぐに体制を立て直し、再び右へ左へ私達を翻弄する動きでこちらへ向かってきた。
「トオル、次も頼むわよ!」
「任せとけ、アグネス!」
私は先程と同じ様に、射程圏内に入って来た人狼に狙いを定めて魔石を重ねる。
しかし、人狼も馬鹿ではない。
当然二度も同じ手は通用しないのだ。
「おらァっ!」
トオルが再び刀を振るい、私の火種を消火する。
人狼はそれを読んでいたかのように、私の火種を見て方向を変える事無く、そのままトオルの方角へ爪を構えて迫って来た。
だが…。
「引っかかったわね、おバカさん!」
ゴンッ!
奴は今回もまた私が一度目の着火を警戒して方向転換した所を狙うつもりだと読んでいたのだろうけど、火打ち魔石を用いた着火は”一度消火した灰に対して行う事も可能である”。
私の能力で出される灰は本物の灰じゃない、『火が付くと時間が巻き戻って爆発が起こる』という特別な灰だ。
だから、灰が湿っていようが着火さえしてしまえば灰は時間が巻き戻り、爆発する!
私が二度目の火打ち魔石衝突を起こした瞬間、一度トオルによって消火された灰に再び火が灯り、人狼はまたも私の爆発の直撃を喰らってしまった。
「グゲェェェェェェェェェッ!?!?!?」
ゴホッ、と咳込む人狼の喉からは血が流れだす。
間違いなくダメージが通っている。
「ガウァ…!グァオアァァァァァァッ!!!」
明らかに怒り心頭の様子の人狼は、まだまだ諦めずに私達に攻撃してくる。
とうとうトオルによる消火に目もくれず、私に直接攻撃を仕掛けてくるようだ。
だが、そうなると今度はトオルの攻撃に気が付かなくなる。
「さっきまでの隙の無さはどうしたんだぁ、ワンちゃんよぉ!!!」
待ってましたと言わんばかりに、トオルは水流を纏った刀で人狼の胴体に切れ味抑え目の打撲ダメージを与える。
切断のダメージが無くとも、高速で動いていた所に固い物体がクリーンヒットすればそれは激痛が迸るのが常識だ。
「ア”ッ…!?ゴホッ!?!?!?」
そしてトオルの刀で殴られて空中に静止しているこの瞬間こそ、正に無防備!
「これで…終わりよぉぉぉぉぉぉっ!!!」
今日一番の勢いで強く両手の火打ち魔石をぶつける私。
ドガアアアアアアアアアンッッッッッッ!!!!!!!!!
「グルルルルルルアァァァァァァッッッ!?!?!?!?!?!?」
人狼の頭部から胸部にかけて、私の起こした大爆発がモロに直撃。
私とトオルの勝利だ…!
「ゴフッ…ゲフッ……」
超大ダメージが蓄積した人狼は、その場に伸びてしまった。
「…さて、コイツどうするよ?
こういう時ってまず誰に通報するべきなんだ?」
「うーん、ひとまず近くにいる先生を呼んで通報してもらうのが一番良いんだろうけど…。
こんな夜遅くに校舎に残ってる先生いるのかなぁ」
こいつの処遇をどうするべきかトオルと話していると…。
「…グァゥッ!!!」
何と、人狼が再び起き上がり決死の引っ掻きで私とトオルの顔に攻撃してきた!
「なっ…!?」
「痛ぁっ!?!?!?」
その隙に、人狼は大急ぎで私達の下から逃げ出し始める。
「あっ、あいつ逃げるぞ!?」
「追いかけましょう!あいつを逃がすのはまずいわ!!!」
一歩出遅れて、私とトオルは人狼を追いかけ始めた。
「クッ…、あんなにボロボロなのになんて速さだよ。
全然追い付けねぇ!!!」
私は何とか右手にいくつかの灰を溜めてそれを投げつけて着火する事で奴を足止め出来ないか試してみるが、やはりすばしっこいので爆発を避けられてしまう。
「ヤバい、このままじゃまた外に出て、誰かに変身されちゃう…!」
「その子の動きを止めれば良いんですね、アグネス様!?」
っ、その声は!!!
廊下がちょうど十字の曲がり角に差し掛かったタイミングで、左から現れたのは、『硝子の加速(グラシーズ・ブースト)』で超加速しながら飛んできたエリナだった!
「大人しく…しなさいッ!!!」
その勢いのまま真下に急降下し、人狼の胴体にかかと落としを決めるエリナ。
「グォォッ!?」
さらに…。
「運が悪かったな、拘束なら俺の得意分野だ」
その声と共に地面から植物のツルが伸びて、人狼の両手・両脚を縛り付けた。
「アギャッ!?」
エリナと同じ方向の廊下からザックが歩いてやってくる。
「エリナ!ザック!」
「お前らも来てくれたのか!」
「アグネス様の帰りがやけに遅いので、心配で来てみたんです!」
「俺はまぁ…ついでだ。
偶然エリナに会って事情を聞いたから、お前ら二人揃って図書館で居眠りでもしてるんじゃないかと」
頼もしい仲間の登場に、私は思わず涙腺が緩む。
さらに…。
「お嬢様、しっかりして下さい!!!」
「アイラさん…!」
傷だらけでよろけ気味の私を後ろから支えてくれたのは、エリナ一緒に私を探しに来てくれたアイラさんだった。
大切な人達が全員集合し、安心感が胸に広がる私。
…しかし、やはり”黒の栞”の刺客は伊達ではない。
ブチッ…ビリッ!!!
「何だと!?俺のツタを一瞬で!?」
そう、人狼は再び二足歩行の人型スタイルに変身し、その過程で腕と脚が太くなる余波でザックのツタを破ったのだ。
そして懐から何かを取り出すと、地面に叩きつけた!
「うわっ…、何も見えないっ!目が痛いぃぃぃっ!!!」
瞬く間に廊下中が白い煙に覆われ、さらに煙が目に染みて涙があふれてくる。
「やられた、煙幕だ!!!」
「これではどこに逃げたのかわかりません!」
「クソッ!これじゃ俺のツタで拘束も出来ん!!!」
「お嬢様、皆様!
煙を吸わないように腕で鼻や口を押さえて下さい!!!」
混乱する私達を他所に、人狼は口を開く。
「やりますね、皆さん。
流石に”あの方”が目を付けた方々なだけはあります。
今日の所はこれで退散するとしましょう。
ですが、これは始まりにすぎません。
わたしはこれからも、”この学園の一生徒”として、あなた達を見守らせて頂きます。
ごきげんよう、アグネス・スタンフォード…そしてトオル・ナガレ」
やがて煙幕が晴れると、そこにはもう人狼の姿は無い。
代わりに、外へと通じる出入り口が開いている。
「外だ、外に逃げたぞ!」
トオルの声に誘われ、開いた扉から外へ出る私達。
しかし、そこには辺り一面の暗闇と僅かな外灯が見えるのみ。
どこにも人狼の影は見当たらない。
「やられた…!
多分もうあいつは人狼じゃない別の姿に変身してるはず。
これじゃ見つかりっこないし、人影があったとしても判別がつくわけがない!!!」
まんまと出し抜かれた自分に腹が立つと共に、あいつへの怒りが沸々と湧き上がる。
「…ひとまず、お嬢様とトオル様はその怪我を応急処置する必要がありますね。
皆様、一度保健室へ移動しましょう」
アイラさんに肩を貸してもらいながら、私達は保健室へ向かう。
行き場のない敗北感を噛みしめながら。
――――――――――――――――――
[今後のスケジュールまとめ]
近況ボードでもお知らせさせていただきましたが、本作は5月11日土曜日の第24話の更新を持って毎日更新を一旦終了させていただき、それ以降は5月16日木曜日に第25話を更新し、毎週「日曜日」と「木曜日」の週2回更新に移行させていただきます。
・5月8日(水)~5月11日(土) 第21話~第24話までこれまで通り更新
・5月12日(日)~5月15日(水) 更新無し
・5月16日(木) 第25話を更新 以後、毎週「日曜日」と「木曜日」の週2回更新を目標に更新して行きます(※ただし、筆者の私生活の都合等によりこのスケジュールが崩れてしまう可能性もあるので、ご了承ください)
その詳しい定義を明義していない以上、『人間体型にも獣体型にも変身可能』と解釈する事も不可能ではない…のかも。
それでもやっぱり、誘拐事件の時と同じようにこの世界に『作者の手を離れて本来起こりえない事象が起こっている』と考えるのが自然だろう。
けど考えるのは後だ、今はとにかくトオルと力を合わせて…、コイツを倒す!!!
「ガルルルル…、グァウッ!!!」
四足歩行でその場から動き出した人狼は、すごいスピードで右へ左へ縦横無尽に飛び跳ね回る。
「なっ…、もうほとんど本物の狼じゃねぇか!!!」
手足を変形させ、肩幅が縮んだ影響で、先程までと比べてやや小柄になり、こちらのアドバンテージだった『一本の道で向かい合って戦う』という条件が効かなくなってしまった。
人狼が私の横を通り過ぎた瞬間に着火して起爆しているのだけれど、全く間に合っていない。
トオルも素早く動き回る人狼の動きを刀で捉える事が難しく、中々攻撃がヒットしないようだ。
私達の攻撃は当たらなくても、向こうは的確に私達の体にダメージを与えていく。
横や後ろを通り過ぎる瞬間に爪で引っかかれてしまうのだ。
「ヤバいわよ、トオル!
このままじゃ私達っ…!」
「そうだな!
早くこの狼の動きを止めなくちゃ、二人共ただじゃ済まない…!!!」
そうは言っても、私とトオルの能力でこの人狼を捕らえる事なんて出来るのだろうか。
植物を操れるザックか超速で動けるエリナがいれば話は別だけれど、生憎『灰被らせの悪女』と『一騎桃川』じゃ…。
……いや、これなら!?
「トオル、耳貸して!」
人狼の猛攻をかいくぐりながら、私は何とかトオルの横まで移動し小声で耳打ちする。
「…確かに、上手く行けばあいつの動きを封じられそうだ。
けどぶっつけ本番でそんなの出来るのか!?
相当息を合わせたコンビネーションじゃないと不可能だぞ!?」
「無茶でもやらないと二人とも負けちゃうって!
…大丈夫、トオルと私なら絶対やれるよ!!!」
「…ったく、まだ出会って一週間位しか経ってないのに滅茶苦茶信頼してくれちゃって。
けど、アグネスは入学初日からそういう奴だったよなぁ…よし、やろう!」
作戦を固めた私達は、ちょうど私達の位置から前方4メートル程の位置にいる人狼に向かって戦闘態勢を取った。
「ガウゥ…、ガァッ!!!」
再びこちらへ向かって走って来る人狼。
人狼は私の能力の灰が降る圏内に入って来た。
そのタイミングを見計らって、私は火打ち魔石をぶつけ合わせる。
瞬間、人狼の近くの灰に火が灯る。
しかし、やはり動体視力が良く動きが素早い人狼はそれを瞬時に見抜き、方向転換して別の角度からこちらへ向かってきた。
…でも!
「ここまでは読み通り、トオルっ!!!」
「あいよっ!」
ジャバァッ!
トオルの刀から発射された水流が、私が火を着けた灰にヒット。
当然、その灰は爆発する事もなくそのまま地面に落ちる。
「…グ?」
絶対に爆発する、と読んでいた灰が不発に終わった事に、人狼の動きが一瞬固くなる。
その隙を読んで、私はもう一度火打ち魔石をぶつけ合わせた!!!
「アギャァッ…!?」
激しい爆発音と光が暗い廊下に響き渡る。
「よしっ!」
「やったわ、トオル!」
そう、私がトオルに提案した作戦は、『人狼が読み切った私の爆発を、トオルの水流で消火する事で奴を混乱させる』事。
火打ち魔石で着火出来るのは一か所のみなので、基本的にはその着火させた灰が完全に爆発しないと次の爆発を起こす事は出来ない。
ただし、その着火させた火種が何らかの理由で消えてしまえば話は別だ。
火が消えれば、爆発を待たずとも次の灰に着火する事が可能になる。
私が一度着火させた灰を警戒して人狼が避けた瞬間にトオルが水を放って火種を消し、すぐさま私が人狼のいる位置の灰に着火する。
こうする事で、人狼の不意を突いて爆発を起こす事が可能になるのである。
「グガッ…、ガルルルル!!!」
当然、人狼は深手を負いながらもすぐに体制を立て直し、再び右へ左へ私達を翻弄する動きでこちらへ向かってきた。
「トオル、次も頼むわよ!」
「任せとけ、アグネス!」
私は先程と同じ様に、射程圏内に入って来た人狼に狙いを定めて魔石を重ねる。
しかし、人狼も馬鹿ではない。
当然二度も同じ手は通用しないのだ。
「おらァっ!」
トオルが再び刀を振るい、私の火種を消火する。
人狼はそれを読んでいたかのように、私の火種を見て方向を変える事無く、そのままトオルの方角へ爪を構えて迫って来た。
だが…。
「引っかかったわね、おバカさん!」
ゴンッ!
奴は今回もまた私が一度目の着火を警戒して方向転換した所を狙うつもりだと読んでいたのだろうけど、火打ち魔石を用いた着火は”一度消火した灰に対して行う事も可能である”。
私の能力で出される灰は本物の灰じゃない、『火が付くと時間が巻き戻って爆発が起こる』という特別な灰だ。
だから、灰が湿っていようが着火さえしてしまえば灰は時間が巻き戻り、爆発する!
私が二度目の火打ち魔石衝突を起こした瞬間、一度トオルによって消火された灰に再び火が灯り、人狼はまたも私の爆発の直撃を喰らってしまった。
「グゲェェェェェェェェェッ!?!?!?」
ゴホッ、と咳込む人狼の喉からは血が流れだす。
間違いなくダメージが通っている。
「ガウァ…!グァオアァァァァァァッ!!!」
明らかに怒り心頭の様子の人狼は、まだまだ諦めずに私達に攻撃してくる。
とうとうトオルによる消火に目もくれず、私に直接攻撃を仕掛けてくるようだ。
だが、そうなると今度はトオルの攻撃に気が付かなくなる。
「さっきまでの隙の無さはどうしたんだぁ、ワンちゃんよぉ!!!」
待ってましたと言わんばかりに、トオルは水流を纏った刀で人狼の胴体に切れ味抑え目の打撲ダメージを与える。
切断のダメージが無くとも、高速で動いていた所に固い物体がクリーンヒットすればそれは激痛が迸るのが常識だ。
「ア”ッ…!?ゴホッ!?!?!?」
そしてトオルの刀で殴られて空中に静止しているこの瞬間こそ、正に無防備!
「これで…終わりよぉぉぉぉぉぉっ!!!」
今日一番の勢いで強く両手の火打ち魔石をぶつける私。
ドガアアアアアアアアアンッッッッッッ!!!!!!!!!
「グルルルルルルアァァァァァァッッッ!?!?!?!?!?!?」
人狼の頭部から胸部にかけて、私の起こした大爆発がモロに直撃。
私とトオルの勝利だ…!
「ゴフッ…ゲフッ……」
超大ダメージが蓄積した人狼は、その場に伸びてしまった。
「…さて、コイツどうするよ?
こういう時ってまず誰に通報するべきなんだ?」
「うーん、ひとまず近くにいる先生を呼んで通報してもらうのが一番良いんだろうけど…。
こんな夜遅くに校舎に残ってる先生いるのかなぁ」
こいつの処遇をどうするべきかトオルと話していると…。
「…グァゥッ!!!」
何と、人狼が再び起き上がり決死の引っ掻きで私とトオルの顔に攻撃してきた!
「なっ…!?」
「痛ぁっ!?!?!?」
その隙に、人狼は大急ぎで私達の下から逃げ出し始める。
「あっ、あいつ逃げるぞ!?」
「追いかけましょう!あいつを逃がすのはまずいわ!!!」
一歩出遅れて、私とトオルは人狼を追いかけ始めた。
「クッ…、あんなにボロボロなのになんて速さだよ。
全然追い付けねぇ!!!」
私は何とか右手にいくつかの灰を溜めてそれを投げつけて着火する事で奴を足止め出来ないか試してみるが、やはりすばしっこいので爆発を避けられてしまう。
「ヤバい、このままじゃまた外に出て、誰かに変身されちゃう…!」
「その子の動きを止めれば良いんですね、アグネス様!?」
っ、その声は!!!
廊下がちょうど十字の曲がり角に差し掛かったタイミングで、左から現れたのは、『硝子の加速(グラシーズ・ブースト)』で超加速しながら飛んできたエリナだった!
「大人しく…しなさいッ!!!」
その勢いのまま真下に急降下し、人狼の胴体にかかと落としを決めるエリナ。
「グォォッ!?」
さらに…。
「運が悪かったな、拘束なら俺の得意分野だ」
その声と共に地面から植物のツルが伸びて、人狼の両手・両脚を縛り付けた。
「アギャッ!?」
エリナと同じ方向の廊下からザックが歩いてやってくる。
「エリナ!ザック!」
「お前らも来てくれたのか!」
「アグネス様の帰りがやけに遅いので、心配で来てみたんです!」
「俺はまぁ…ついでだ。
偶然エリナに会って事情を聞いたから、お前ら二人揃って図書館で居眠りでもしてるんじゃないかと」
頼もしい仲間の登場に、私は思わず涙腺が緩む。
さらに…。
「お嬢様、しっかりして下さい!!!」
「アイラさん…!」
傷だらけでよろけ気味の私を後ろから支えてくれたのは、エリナ一緒に私を探しに来てくれたアイラさんだった。
大切な人達が全員集合し、安心感が胸に広がる私。
…しかし、やはり”黒の栞”の刺客は伊達ではない。
ブチッ…ビリッ!!!
「何だと!?俺のツタを一瞬で!?」
そう、人狼は再び二足歩行の人型スタイルに変身し、その過程で腕と脚が太くなる余波でザックのツタを破ったのだ。
そして懐から何かを取り出すと、地面に叩きつけた!
「うわっ…、何も見えないっ!目が痛いぃぃぃっ!!!」
瞬く間に廊下中が白い煙に覆われ、さらに煙が目に染みて涙があふれてくる。
「やられた、煙幕だ!!!」
「これではどこに逃げたのかわかりません!」
「クソッ!これじゃ俺のツタで拘束も出来ん!!!」
「お嬢様、皆様!
煙を吸わないように腕で鼻や口を押さえて下さい!!!」
混乱する私達を他所に、人狼は口を開く。
「やりますね、皆さん。
流石に”あの方”が目を付けた方々なだけはあります。
今日の所はこれで退散するとしましょう。
ですが、これは始まりにすぎません。
わたしはこれからも、”この学園の一生徒”として、あなた達を見守らせて頂きます。
ごきげんよう、アグネス・スタンフォード…そしてトオル・ナガレ」
やがて煙幕が晴れると、そこにはもう人狼の姿は無い。
代わりに、外へと通じる出入り口が開いている。
「外だ、外に逃げたぞ!」
トオルの声に誘われ、開いた扉から外へ出る私達。
しかし、そこには辺り一面の暗闇と僅かな外灯が見えるのみ。
どこにも人狼の影は見当たらない。
「やられた…!
多分もうあいつは人狼じゃない別の姿に変身してるはず。
これじゃ見つかりっこないし、人影があったとしても判別がつくわけがない!!!」
まんまと出し抜かれた自分に腹が立つと共に、あいつへの怒りが沸々と湧き上がる。
「…ひとまず、お嬢様とトオル様はその怪我を応急処置する必要がありますね。
皆様、一度保健室へ移動しましょう」
アイラさんに肩を貸してもらいながら、私達は保健室へ向かう。
行き場のない敗北感を噛みしめながら。
――――――――――――――――――
[今後のスケジュールまとめ]
近況ボードでもお知らせさせていただきましたが、本作は5月11日土曜日の第24話の更新を持って毎日更新を一旦終了させていただき、それ以降は5月16日木曜日に第25話を更新し、毎週「日曜日」と「木曜日」の週2回更新に移行させていただきます。
・5月8日(水)~5月11日(土) 第21話~第24話までこれまで通り更新
・5月12日(日)~5月15日(水) 更新無し
・5月16日(木) 第25話を更新 以後、毎週「日曜日」と「木曜日」の週2回更新を目標に更新して行きます(※ただし、筆者の私生活の都合等によりこのスケジュールが崩れてしまう可能性もあるので、ご了承ください)
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とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜
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この世界では昔から原因不明である人々が突然に行方不明になる事件が多発していた。
四つに分かれた大陸の一つ、東大陸にある田舎街ではそんな事はいざ知らず、地元ではその頭の悪さから粗大ゴミと馬鹿にされている赤髪の男『バッジョ』は、昔からの親友であり相棒とも呼べる男『ディーノ』にそそのかされ、遥か昔から伝わる伝説の地『禁断の花園』へと目指すことなる。
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時を同じくして、東西南北に別れた大陸では様々な冒険者が禁断の花園を目指していた。野望のまま己が願いを叶えるため挑む者、突然に生き別れた肉親の再会を望む者、かつての故郷を再現するために人の世の理を覆そうとする者、そして自身の失われた記憶を取り戻そうとする者。
──しかし、そこに待っていたのは『禁断の花園』を守る四人の『禁断の守護者』であった……。
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