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第2章 フェアリー学園入学編
第18話 まさかの接触
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週刊少年アドバンスの人気漫画には、得てして定番のキャラ属性が存在する。
一人は主人公、一人はヒロイン。
そしてもう一人は…、クールなイケメンライバルである。
こう言った属性の3人の組み合わせはよく『スリーマンセル』と呼ばれる事も多い。
ザック・マッケンジーというキャラクターは、正にそのクールなイケメンライバルポジションとして作った3人目のメインキャラクターであった。
「えーっと…、俺の名前はトオル・ナガレ。よろしくお願いします」
ぎこちないながらも、トオルはザックと握手をしようとする。
当のザックはぶっきらぼうに手を握り返し、
「…よろしく」
とだけ言ってすぐに手を離した。
明らかに不機嫌そうな顔つきだ。
「それじゃあ、ルールを説明するぞ。
先に相手を場外に押し出した方の勝ちだ。
メルヘンの使用は勿論自由だが、相手への過度な攻撃や命を奪う行動は当然NGだ。
お互い、自分の全力を尽くして正々堂々勝負する事。わかったな!?」
「はっ…、はいっ!」
「…うす」
常にしかめっ面で近寄りがたい雰囲気を醸し出すザックと、反対にやけに自信ありげなトオル。
…原作のトオルのモノローグでは、第2話のザックとの模擬戦前に『前日の経験から自分の能力の制御に自信を持てるようになった事で、相手を傷付けずに自分の全力を出せるこの模擬戦に前のめりになっている』状態だったんだけど、恐らく今舞台の上に立っているこの世界のトオルも似たような精神状態なんだろうなと推測した。
「では、始めるぞ!
模擬戦…、開始ッ!!!」
ロード先生の掛け声と共に、トオルは日本刀を具現化し『一騎桃川』を発動させた。
「おぉ…、あれがあいつのメルヘンか」
「確かに、雰囲気からしてわたし達と全然違う…!」
前日にアグネスとトオルの決闘を見ていた原作の世界と異なり、私とエリナを除いて今日この瞬間がトオルのメルヘン初目撃の生徒がほとんどなので、観客席の生徒から少しどよめきが起きる。
「…どうしたんですか、ザックさん。
もう模擬戦は始まってますけど、メルヘンを使わないんですか?」
トオルは不思議そうにザックに問う。
そう、ザックは未だにズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、何も能力を発動していないのだ。
「…構わない。好きにかかって来い」
正に強者の風格を漂わせるザック。
「それなら、お言葉に甘えて……!」
トオルは日本刀を構え、昨日と同じように刀身に水を纏わせていく。
そして、一気にザックに向かって間合いを詰め、刀を振りかざした。
恐らく、私にやったように刀をぶつけて相手を斬らずに一気に場外へ吹っ飛ばすあれをやるつもりだ。
「一騎…、桃川ッ!!!」
勢いよく放たれた激流は、ザックの胴体に今にもヒットしそうだった。
…しかし。
「甘い」
その声と共に、舞台の地面から一本の植物のツルが伸びてきて、トオルの右足に絡みつく!
「なっ…!?」
ツルは物凄い勢いでトオルの右足を引っ張り、バランスを崩したトオルは転倒してしまう。
当然、一騎桃川の一撃はザックに当たらず宙を掠ってしまった。
それだけでは終わらない。
ツルはそのままトオルの右足を引っ張り続け、場外に出そうとしていたのだ。
「くっ…、このぉっ!!!」
トオルはすんでの所で右足に絡むツルを日本刀で切り、何とか場外へ落ちる事を防いだ。
「あっ…、危なかったですね…。
もしあと1秒遅かったらトオルさんの負けでしたよ…」
エリナも思わず息を呑みながら観戦していた。
「…だから言っただろ?
好きにかかって来いと。
既に発動しているんだよ…、俺の『天国の豆木(ヘブン・ビーンストーク)』は」
『天国の豆木(ヘブン・ビーンストーク)』は、ジャックと豆の木をモチーフにしたメルヘン能力だ。
自身の周囲から豆の木を生やし、それを好きに操る事が出来る。
シンプルながらも強力な能力だ。
「だったら、遠距離攻撃で…!」
トオルは刀身から2、3発の水の塊を発射しザックにぶつけようとする。
しかし、ザックの右から幹の太い豆の木がもう一本生えてきて、ザックに向かって飛んできた水弾を全てはじき返した。
「マジか…!?」
「どうした?その程度か、お前の実力は。
東洋出身の珍しいメルヘン能力者だって言うから少しは期待していたが…」
「まだ終わりじゃないさ!」
トオルは再びザックの方へ向かって走り出す。
しかし、先ほどザックの身を守った幹の太い豆の木が、角度を変えてトオルの方へ迫って来た。
「うわぁぁぁっ!?」
咄嗟に刀を構えて斬ろうとするトオル。
しかし。
カツンッ!
なんと、幹が太すぎて斬れない!
「う、嘘だろっ!?!?!?」
「最大質量の太さを持つその豆の木は、ちょっとやそっとの切れ味では切断など出来ない。
これで終わりだ」
豆の木に押され、どんどん舞台の端まで追いつめられるトオル。
「ぬっ…ぐぅぅぅぅぅぅ、あぁぁぁぁぁぁっ!!!」
土壇場まで追いつめられたトオルは、意を決して刀身に纏わせた水の勢いを最大まで…、かつて両親を殺してしまった時と同じ位の鋭さを持つウォーターカッターに加工した。
スパァァァァァァン……!
最大の鋭さの水流で斬る事で、トオルはついに極太豆の木を切断する事に成功!
「はぁ…、はぁっ……!」
「…ほう?
俺の豆の木を切断出来るとは、並大抵の者ではないな。
少しお前を見くびり過ぎていたようだ」
「は、はは…。そりゃどうも…」
「……良いだろう、少し本気を見せてやる」
ポケットから両手を出し、手のひらを上に向けると、ザックの周囲に先程と同じ太さの巨大な豆の木のツルが一本、二本、三本、そして四本も同時に地面から生えてくる。
「そんなっ…!
一本でもトオルさんがあんなに苦戦した豆の木が、一気に四本も出て来るなんて…!」
「この攻撃に耐えられるか?
トオル・ナガレ…!!!」
四本の巨大豆の木が、一斉にトオルに迫る。
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
トオルは死に物狂いで一本目の豆の木をさっきと同じ要領で切断する。
しかし、すぐに二本目、三本目に猛攻が始まり、胴体に直撃。
トオルは上に吹っ飛んでしまう。
「っ…、まだまだぁっ!!!」
しかし、すぐに体制を立て直し、トオルは自分を吹っ飛ばした豆の木の上に着地した!
当然、三本目と四本目の豆の木がすぐさま彼を狙う。
だが、トオルは三本目の豆の木を切断し、四本目の豆の木の攻撃をジャンプして回避する。
「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
豆の木を伝い、ついにザックのすぐ近くまで接近したトオル。
すかさずジャンプし、刀を構えながら、ザックの下へ飛び降りた。
刀に水を纏わせながら、トオルは叫ぶ!
「一騎…桃川!!!」
だが、しかし。
「ガッ……、あ……」
最初に切断した一本目の豆の木が再生し、トオルのみぞおちに物凄い勢いで一撃を入れる。
そのまま吹っ飛ばされ、トオルは敢え無く、場外に落下してしまった。
「そこまでっ!勝者、ザック・マッケ…、ん?」
ロード先生が決着を宣言しようとした瞬間、何と舞台上にさっきまでいたはずのザックの姿が無い。
「あっ、あそこだ!」
観客席の一生徒が指さした位置を見ると、何とザックもまた、同じタイミングで場外に吹き飛ばされていた。
そう、トオルが繰り出した『一騎桃川』は確かにザックに直撃し、彼もまた吹き飛ばされていたのだ。
「…ドロー!両者引き分け!引き分けぇっ!!!」
ロード先生がそう宣言した瞬間、観客席の1年2組の生徒は瞬く間に凄い熱気に包まれた。
「うおおおおおおおおおおっ!!!」
「何か、俺達すげぇもん見ちゃったんじゃないか!?」
「模擬戦なのにこんなにハラハラするなんて思わなかったよ~!」
「二人共、ナイスファイト~!!!」
「いや~…、すごい戦いでしたね!
僕も思わず手に汗握りながら観ちゃいましたよ~!!!」
二人の白熱した戦いに、エリナもかなり興奮していたようだ。
「そうね…!
すごいメルヘン能力者同士の戦いって、こんなにすごいんだ……!」
……が、実は今この場で一番驚いているのは、間違いなく私であろうという自信がある。
何故なら…。
こんなに一から十まで原作の『メルヘン・テール』をそのままなぞった展開が見られたのは転生してから初めてだったから!!!!!!
そう、思い返せばここまでの道のり、私がエリナを虐めず、エリナの性格が大きく変化し、トオルが自己嫌悪を乗り越えるきっかけは変わり、それに伴ってトオルとエリナの関係も原作とかなり違ってきて…。
とにかく私がアグネスとして転生してからの展開は、全て原作と全く違う道筋を辿って来ていた。
しかし、このトオルvsザックの戦いはどうだろうか。
何と、両者の台詞まで含めて原作の第2話『ザックの豆の木』の内容を完全に踏襲していたのだ!
もちろん観客の1年2組の生徒の反応は結構原作と違う。
原作の生徒達は前日のトオルとアグネスの決闘の影響で最初はトオルのメルヘン能力を恐れ、忌み嫌っていた。
しかし、このザックとの模擬戦を通して少しずつトオルの能力を素直に称賛するように変わって行く…という筋書きだったのだ。
しかし、この世界ではクラスメイト達はこの場がトオルの能力初見だったので、恐れる事無くすぐに称賛するモードに突入したようだった。
まぁ、何はともあれ、このトオルvsザックの模擬戦が無事に終わって本当に良かった。
何しろ、昨日私が何としてでもトオルの自己嫌悪を解消しなくてはと焦っていたのは、この模擬戦のためだったのだから。
トオルが今日までに自分のメルヘン能力への自己嫌悪を解消していないと、こうやってザックと対等に勝負をする事は出来なかっただろう。
そうなると、ザックがトオルに興味を持って、徐々に親交を深め初めて行くきっかけが生まれない。
原作でも、このトオルとザックの模擬戦を通してザックがトオルに興味を持ち始めて、物語は大きく動き始めるのだ。
ザックがトオルと仲良くならなければ、今後の『メルヘン・テール』の物語に大きな支障が生じてしまうだろう。
それだけは何としても避けなければならなかった。
ザックはトオルのライバルにして、頼もしい仲間になるキャラクターなのだから。
周りの皆にとてつもない迷惑をかけ、私も自分の命を懸けてまでやったかなりの悪手だったけれど、それでもやった甲斐があったと思い、私は胸を撫で下ろしたのだった。
今日の分の講義が全て終わり、放課後の時間になった。
「ふぅ…、初日はオリエンテーションだらけとはいえ、疲れたな~!!!」
私は肩を伸ばし、疲労のたまった体を癒していた。
エリナは講義の事で先生に聞きたい事があるらしく、先に帰っていて良いと言われている。
それならしょうがないし、今日は早く寮に帰ってアイラさんを心配させないようにしようかな~なんて思いながら校舎裏を歩いていると…。
「おい」
「へ…?」
後ろから声をかけられて振り向いた瞬間、私の首に刃物が突きつけられる。
よく見ると、刃物には植物のツルが絡みついており、人間ではなく植物のツルが私に刃物を突き立てているのだ。
「何故……かつては俺達を散々痛めつけ、多くの罪の無い人間をいたぶり殺したお前が…エリナと、そしてトオルと一緒にいるんだ……。
アグネス・スタンフォードッ……!!!!!!」
「ザック……?」
当然、そのツルを操っているのは、背後から現れたザック・マッケンジー張本人。
だが、とてつもない怒りに満ち溢れた震えた声で私に問いかけたその内容は、思わず耳を疑う言葉だ。
「痛めつけて…、殺して、って……何を……言ってるの……???」
私は…、今世でそんな事はしていない。
それをやったのは、原作の…『メルヘン・テール』のアグネス・スタンフォードだ……!
「とぼけるなァッ!!!
俺は、覚えているぞッ!!!
かつての…、”一度目の世界”でのお前の悪行を!!!!!!」
……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
一人は主人公、一人はヒロイン。
そしてもう一人は…、クールなイケメンライバルである。
こう言った属性の3人の組み合わせはよく『スリーマンセル』と呼ばれる事も多い。
ザック・マッケンジーというキャラクターは、正にそのクールなイケメンライバルポジションとして作った3人目のメインキャラクターであった。
「えーっと…、俺の名前はトオル・ナガレ。よろしくお願いします」
ぎこちないながらも、トオルはザックと握手をしようとする。
当のザックはぶっきらぼうに手を握り返し、
「…よろしく」
とだけ言ってすぐに手を離した。
明らかに不機嫌そうな顔つきだ。
「それじゃあ、ルールを説明するぞ。
先に相手を場外に押し出した方の勝ちだ。
メルヘンの使用は勿論自由だが、相手への過度な攻撃や命を奪う行動は当然NGだ。
お互い、自分の全力を尽くして正々堂々勝負する事。わかったな!?」
「はっ…、はいっ!」
「…うす」
常にしかめっ面で近寄りがたい雰囲気を醸し出すザックと、反対にやけに自信ありげなトオル。
…原作のトオルのモノローグでは、第2話のザックとの模擬戦前に『前日の経験から自分の能力の制御に自信を持てるようになった事で、相手を傷付けずに自分の全力を出せるこの模擬戦に前のめりになっている』状態だったんだけど、恐らく今舞台の上に立っているこの世界のトオルも似たような精神状態なんだろうなと推測した。
「では、始めるぞ!
模擬戦…、開始ッ!!!」
ロード先生の掛け声と共に、トオルは日本刀を具現化し『一騎桃川』を発動させた。
「おぉ…、あれがあいつのメルヘンか」
「確かに、雰囲気からしてわたし達と全然違う…!」
前日にアグネスとトオルの決闘を見ていた原作の世界と異なり、私とエリナを除いて今日この瞬間がトオルのメルヘン初目撃の生徒がほとんどなので、観客席の生徒から少しどよめきが起きる。
「…どうしたんですか、ザックさん。
もう模擬戦は始まってますけど、メルヘンを使わないんですか?」
トオルは不思議そうにザックに問う。
そう、ザックは未だにズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、何も能力を発動していないのだ。
「…構わない。好きにかかって来い」
正に強者の風格を漂わせるザック。
「それなら、お言葉に甘えて……!」
トオルは日本刀を構え、昨日と同じように刀身に水を纏わせていく。
そして、一気にザックに向かって間合いを詰め、刀を振りかざした。
恐らく、私にやったように刀をぶつけて相手を斬らずに一気に場外へ吹っ飛ばすあれをやるつもりだ。
「一騎…、桃川ッ!!!」
勢いよく放たれた激流は、ザックの胴体に今にもヒットしそうだった。
…しかし。
「甘い」
その声と共に、舞台の地面から一本の植物のツルが伸びてきて、トオルの右足に絡みつく!
「なっ…!?」
ツルは物凄い勢いでトオルの右足を引っ張り、バランスを崩したトオルは転倒してしまう。
当然、一騎桃川の一撃はザックに当たらず宙を掠ってしまった。
それだけでは終わらない。
ツルはそのままトオルの右足を引っ張り続け、場外に出そうとしていたのだ。
「くっ…、このぉっ!!!」
トオルはすんでの所で右足に絡むツルを日本刀で切り、何とか場外へ落ちる事を防いだ。
「あっ…、危なかったですね…。
もしあと1秒遅かったらトオルさんの負けでしたよ…」
エリナも思わず息を呑みながら観戦していた。
「…だから言っただろ?
好きにかかって来いと。
既に発動しているんだよ…、俺の『天国の豆木(ヘブン・ビーンストーク)』は」
『天国の豆木(ヘブン・ビーンストーク)』は、ジャックと豆の木をモチーフにしたメルヘン能力だ。
自身の周囲から豆の木を生やし、それを好きに操る事が出来る。
シンプルながらも強力な能力だ。
「だったら、遠距離攻撃で…!」
トオルは刀身から2、3発の水の塊を発射しザックにぶつけようとする。
しかし、ザックの右から幹の太い豆の木がもう一本生えてきて、ザックに向かって飛んできた水弾を全てはじき返した。
「マジか…!?」
「どうした?その程度か、お前の実力は。
東洋出身の珍しいメルヘン能力者だって言うから少しは期待していたが…」
「まだ終わりじゃないさ!」
トオルは再びザックの方へ向かって走り出す。
しかし、先ほどザックの身を守った幹の太い豆の木が、角度を変えてトオルの方へ迫って来た。
「うわぁぁぁっ!?」
咄嗟に刀を構えて斬ろうとするトオル。
しかし。
カツンッ!
なんと、幹が太すぎて斬れない!
「う、嘘だろっ!?!?!?」
「最大質量の太さを持つその豆の木は、ちょっとやそっとの切れ味では切断など出来ない。
これで終わりだ」
豆の木に押され、どんどん舞台の端まで追いつめられるトオル。
「ぬっ…ぐぅぅぅぅぅぅ、あぁぁぁぁぁぁっ!!!」
土壇場まで追いつめられたトオルは、意を決して刀身に纏わせた水の勢いを最大まで…、かつて両親を殺してしまった時と同じ位の鋭さを持つウォーターカッターに加工した。
スパァァァァァァン……!
最大の鋭さの水流で斬る事で、トオルはついに極太豆の木を切断する事に成功!
「はぁ…、はぁっ……!」
「…ほう?
俺の豆の木を切断出来るとは、並大抵の者ではないな。
少しお前を見くびり過ぎていたようだ」
「は、はは…。そりゃどうも…」
「……良いだろう、少し本気を見せてやる」
ポケットから両手を出し、手のひらを上に向けると、ザックの周囲に先程と同じ太さの巨大な豆の木のツルが一本、二本、三本、そして四本も同時に地面から生えてくる。
「そんなっ…!
一本でもトオルさんがあんなに苦戦した豆の木が、一気に四本も出て来るなんて…!」
「この攻撃に耐えられるか?
トオル・ナガレ…!!!」
四本の巨大豆の木が、一斉にトオルに迫る。
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
トオルは死に物狂いで一本目の豆の木をさっきと同じ要領で切断する。
しかし、すぐに二本目、三本目に猛攻が始まり、胴体に直撃。
トオルは上に吹っ飛んでしまう。
「っ…、まだまだぁっ!!!」
しかし、すぐに体制を立て直し、トオルは自分を吹っ飛ばした豆の木の上に着地した!
当然、三本目と四本目の豆の木がすぐさま彼を狙う。
だが、トオルは三本目の豆の木を切断し、四本目の豆の木の攻撃をジャンプして回避する。
「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
豆の木を伝い、ついにザックのすぐ近くまで接近したトオル。
すかさずジャンプし、刀を構えながら、ザックの下へ飛び降りた。
刀に水を纏わせながら、トオルは叫ぶ!
「一騎…桃川!!!」
だが、しかし。
「ガッ……、あ……」
最初に切断した一本目の豆の木が再生し、トオルのみぞおちに物凄い勢いで一撃を入れる。
そのまま吹っ飛ばされ、トオルは敢え無く、場外に落下してしまった。
「そこまでっ!勝者、ザック・マッケ…、ん?」
ロード先生が決着を宣言しようとした瞬間、何と舞台上にさっきまでいたはずのザックの姿が無い。
「あっ、あそこだ!」
観客席の一生徒が指さした位置を見ると、何とザックもまた、同じタイミングで場外に吹き飛ばされていた。
そう、トオルが繰り出した『一騎桃川』は確かにザックに直撃し、彼もまた吹き飛ばされていたのだ。
「…ドロー!両者引き分け!引き分けぇっ!!!」
ロード先生がそう宣言した瞬間、観客席の1年2組の生徒は瞬く間に凄い熱気に包まれた。
「うおおおおおおおおおおっ!!!」
「何か、俺達すげぇもん見ちゃったんじゃないか!?」
「模擬戦なのにこんなにハラハラするなんて思わなかったよ~!」
「二人共、ナイスファイト~!!!」
「いや~…、すごい戦いでしたね!
僕も思わず手に汗握りながら観ちゃいましたよ~!!!」
二人の白熱した戦いに、エリナもかなり興奮していたようだ。
「そうね…!
すごいメルヘン能力者同士の戦いって、こんなにすごいんだ……!」
……が、実は今この場で一番驚いているのは、間違いなく私であろうという自信がある。
何故なら…。
こんなに一から十まで原作の『メルヘン・テール』をそのままなぞった展開が見られたのは転生してから初めてだったから!!!!!!
そう、思い返せばここまでの道のり、私がエリナを虐めず、エリナの性格が大きく変化し、トオルが自己嫌悪を乗り越えるきっかけは変わり、それに伴ってトオルとエリナの関係も原作とかなり違ってきて…。
とにかく私がアグネスとして転生してからの展開は、全て原作と全く違う道筋を辿って来ていた。
しかし、このトオルvsザックの戦いはどうだろうか。
何と、両者の台詞まで含めて原作の第2話『ザックの豆の木』の内容を完全に踏襲していたのだ!
もちろん観客の1年2組の生徒の反応は結構原作と違う。
原作の生徒達は前日のトオルとアグネスの決闘の影響で最初はトオルのメルヘン能力を恐れ、忌み嫌っていた。
しかし、このザックとの模擬戦を通して少しずつトオルの能力を素直に称賛するように変わって行く…という筋書きだったのだ。
しかし、この世界ではクラスメイト達はこの場がトオルの能力初見だったので、恐れる事無くすぐに称賛するモードに突入したようだった。
まぁ、何はともあれ、このトオルvsザックの模擬戦が無事に終わって本当に良かった。
何しろ、昨日私が何としてでもトオルの自己嫌悪を解消しなくてはと焦っていたのは、この模擬戦のためだったのだから。
トオルが今日までに自分のメルヘン能力への自己嫌悪を解消していないと、こうやってザックと対等に勝負をする事は出来なかっただろう。
そうなると、ザックがトオルに興味を持って、徐々に親交を深め初めて行くきっかけが生まれない。
原作でも、このトオルとザックの模擬戦を通してザックがトオルに興味を持ち始めて、物語は大きく動き始めるのだ。
ザックがトオルと仲良くならなければ、今後の『メルヘン・テール』の物語に大きな支障が生じてしまうだろう。
それだけは何としても避けなければならなかった。
ザックはトオルのライバルにして、頼もしい仲間になるキャラクターなのだから。
周りの皆にとてつもない迷惑をかけ、私も自分の命を懸けてまでやったかなりの悪手だったけれど、それでもやった甲斐があったと思い、私は胸を撫で下ろしたのだった。
今日の分の講義が全て終わり、放課後の時間になった。
「ふぅ…、初日はオリエンテーションだらけとはいえ、疲れたな~!!!」
私は肩を伸ばし、疲労のたまった体を癒していた。
エリナは講義の事で先生に聞きたい事があるらしく、先に帰っていて良いと言われている。
それならしょうがないし、今日は早く寮に帰ってアイラさんを心配させないようにしようかな~なんて思いながら校舎裏を歩いていると…。
「おい」
「へ…?」
後ろから声をかけられて振り向いた瞬間、私の首に刃物が突きつけられる。
よく見ると、刃物には植物のツルが絡みついており、人間ではなく植物のツルが私に刃物を突き立てているのだ。
「何故……かつては俺達を散々痛めつけ、多くの罪の無い人間をいたぶり殺したお前が…エリナと、そしてトオルと一緒にいるんだ……。
アグネス・スタンフォードッ……!!!!!!」
「ザック……?」
当然、そのツルを操っているのは、背後から現れたザック・マッケンジー張本人。
だが、とてつもない怒りに満ち溢れた震えた声で私に問いかけたその内容は、思わず耳を疑う言葉だ。
「痛めつけて…、殺して、って……何を……言ってるの……???」
私は…、今世でそんな事はしていない。
それをやったのは、原作の…『メルヘン・テール』のアグネス・スタンフォードだ……!
「とぼけるなァッ!!!
俺は、覚えているぞッ!!!
かつての…、”一度目の世界”でのお前の悪行を!!!!!!」
……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
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テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか?
【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】
今回もHOTランキングは、最高6位でした。
皆様、有り難う御座います。
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ガーデン・オブ・ガーディアン 〜Forbidden flower garden〜
サムソン・ライトブリッジ
ファンタジー
この世界では昔から原因不明である人々が突然に行方不明になる事件が多発していた。
四つに分かれた大陸の一つ、東大陸にある田舎街ではそんな事はいざ知らず、地元ではその頭の悪さから粗大ゴミと馬鹿にされている赤髪の男『バッジョ』は、昔からの親友であり相棒とも呼べる男『ディーノ』にそそのかされ、遥か昔から伝わる伝説の地『禁断の花園』へと目指すことなる。
そこに行けばありとあらゆる願いが叶うと言われるが、その道中には数々の困難、『逸脱』と呼ばれる異能の力を持った敵が壁となって二人の前に立ちふさがる。
時を同じくして、東西南北に別れた大陸では様々な冒険者が禁断の花園を目指していた。野望のまま己が願いを叶えるため挑む者、突然に生き別れた肉親の再会を望む者、かつての故郷を再現するために人の世の理を覆そうとする者、そして自身の失われた記憶を取り戻そうとする者。
──しかし、そこに待っていたのは『禁断の花園』を守る四人の『禁断の守護者』であった……。
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