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豊穣祭
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「きゃー!グレイっ、グレイっ」
ついに、敵がとうとうここまで攻めてきた。
そう思った私は、パニックになり、夢中で大声をあげ、グレイに助けを求める。
「どうされましたかっ。姫」
すぐさま階段を駆け上がる音が響き、白いリネンのシャツにズボンを履いたグレイが、鞘に収まった長剣を片手に、部屋に飛び込んできた。
グレイの髪は乱れていて、寝ていたところを飛び起きて、駆けつけてくれたのだと、分かった。
「今、外で銃声が聞こえたの」
震える指先でベッドの上から窓を指差すと
「姫、少し下がっていて下さい」
そう言って、私を逞しい背中で庇うようにすると、剣を鞘から抜いて構え、忍び足で窓に近寄り、そっと窓から外の様子を窺う。
森の中に潜んでいるだろう敵を見つけようと、グレイは暫くの間、懸命に瞳を凝らしていたけれど、やがて何もいなかったのたか、静かに窓から離れる。
「姫、しばしお待ちを」
窓には決して近寄らないように、と言い残して、急いだ様子で再び階下に降り、起きてきた婆やと何か言葉を交わし、再び階段を駆け上がって私の部屋へと戻ってきた。
その表情は、さっきよりも和らいでいた。
「姫、銃声のような音の原因が分かりました。今日からこの地域で豊穣祈念のバクラユーラ祭が始まるのです。その祭の開始の合図として、花火が打ち上がったのです」
「お祭り……?」
「ええ。ですから、何も心配する事はありません。まだもう少しお休み下さい」
グレイはにっこりと微笑み、剣をカチリと鞘に収めて軽く一礼すると、部屋を出て行った。
今朝の朝食のテーブルでの話題は、さっそくバクラユーラ祭のことについてとなった。
「今日からバクラユーラなので、賑やかになりますねぇ。ほら、ここまで聞こえてきますよ」
婆やに言われて耳をすませると、風に乗って、微かに小太鼓や金属を打ち鳴らしたような音楽が聞こえてきた。
その音色を聞くと、途端に私の心はわくわくとした。
「ねぇねぇ、私もバクラユーラに行ってみたい!」
グレイに言うと、グレイは当然首を横に振る。
「だめですよ、姫。あのような人ごみの中に出かけるなど危険です。どのような輩が待ち構えているか、分かりませんからね。それにもし、お城の警護があったとしても、あのような庶民の集まる場所に姫がお出かけする事などありえません」
「でも、今はお城にいるお姫様じゃないわ、私」
「駄目なものは駄目です」
真面目で慎重な性格のグレイは首を横に振り続ける。
「ねぇ、お願い。グレイ。フードで顔を隠していけば、きっと周囲には分からないわ」
「し、しかし……。とにかく駄目ですよ姫。諦めて下さい」
「そこをなんとか。ねぇ、お願いグレイ」
私があまりにも行きたがるものだから、しまいには婆やも
「グレイさん、ほんの少しだけなら良いのではないでしょうか」
と援護に回り、最後は、
『市井の人の生活をこの目で見るのも姫の務め』
という私のセリフが決め手となって、しぶしぶとグレイも承諾した。
ついに、敵がとうとうここまで攻めてきた。
そう思った私は、パニックになり、夢中で大声をあげ、グレイに助けを求める。
「どうされましたかっ。姫」
すぐさま階段を駆け上がる音が響き、白いリネンのシャツにズボンを履いたグレイが、鞘に収まった長剣を片手に、部屋に飛び込んできた。
グレイの髪は乱れていて、寝ていたところを飛び起きて、駆けつけてくれたのだと、分かった。
「今、外で銃声が聞こえたの」
震える指先でベッドの上から窓を指差すと
「姫、少し下がっていて下さい」
そう言って、私を逞しい背中で庇うようにすると、剣を鞘から抜いて構え、忍び足で窓に近寄り、そっと窓から外の様子を窺う。
森の中に潜んでいるだろう敵を見つけようと、グレイは暫くの間、懸命に瞳を凝らしていたけれど、やがて何もいなかったのたか、静かに窓から離れる。
「姫、しばしお待ちを」
窓には決して近寄らないように、と言い残して、急いだ様子で再び階下に降り、起きてきた婆やと何か言葉を交わし、再び階段を駆け上がって私の部屋へと戻ってきた。
その表情は、さっきよりも和らいでいた。
「姫、銃声のような音の原因が分かりました。今日からこの地域で豊穣祈念のバクラユーラ祭が始まるのです。その祭の開始の合図として、花火が打ち上がったのです」
「お祭り……?」
「ええ。ですから、何も心配する事はありません。まだもう少しお休み下さい」
グレイはにっこりと微笑み、剣をカチリと鞘に収めて軽く一礼すると、部屋を出て行った。
今朝の朝食のテーブルでの話題は、さっそくバクラユーラ祭のことについてとなった。
「今日からバクラユーラなので、賑やかになりますねぇ。ほら、ここまで聞こえてきますよ」
婆やに言われて耳をすませると、風に乗って、微かに小太鼓や金属を打ち鳴らしたような音楽が聞こえてきた。
その音色を聞くと、途端に私の心はわくわくとした。
「ねぇねぇ、私もバクラユーラに行ってみたい!」
グレイに言うと、グレイは当然首を横に振る。
「だめですよ、姫。あのような人ごみの中に出かけるなど危険です。どのような輩が待ち構えているか、分かりませんからね。それにもし、お城の警護があったとしても、あのような庶民の集まる場所に姫がお出かけする事などありえません」
「でも、今はお城にいるお姫様じゃないわ、私」
「駄目なものは駄目です」
真面目で慎重な性格のグレイは首を横に振り続ける。
「ねぇ、お願い。グレイ。フードで顔を隠していけば、きっと周囲には分からないわ」
「し、しかし……。とにかく駄目ですよ姫。諦めて下さい」
「そこをなんとか。ねぇ、お願いグレイ」
私があまりにも行きたがるものだから、しまいには婆やも
「グレイさん、ほんの少しだけなら良いのではないでしょうか」
と援護に回り、最後は、
『市井の人の生活をこの目で見るのも姫の務め』
という私のセリフが決め手となって、しぶしぶとグレイも承諾した。
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