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日常よ永遠に
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夕暮れの森の奥から、カッポカッポと蹄の音が響いて、馬に乗ったグレイが姿を現した瞬間、畑仕事をしていた私は、立ち上がって、籠いっぱいに摘まれたサリユタの実を抱えたまま、グレイに向かって走り出した。
「グレイ、お帰りなさい!」
息を切らして駆け寄ってきた私を見て、グレイは嬉しそうに微笑む。
「姫、フードをきちんと被って下さい。お顔が見えてしまいます」
グレイは馬から降りると、私の顔へと手を伸ばし、走ったせいで頭の後ろの方へとズレてしまった花柄模様のフードを元の位置に戻すように引っ張って整え、長い指先で顎の下のリボンを器用にキュッと結び直す。
グレイの整った顔が近くに来ると、私の体温はぐんと上昇し、心臓を打ちつける勢いが早くなったけれど、顔には出さずに、大人しくじっとして、グレイのなすがままになっていた。
「さぁ、これでよし。出来ましたよ。姫」
グレイはそう言うと、チラリと私の持っている籠へと視線を走らせる。
私が、
「見て!今日はサリユタの実を沢山収穫したの。これ、ジャムにすると、とっても美味しいんだって!」
誇らしげに籠をグレイに向かって差し出すと、グレイは笑顔を見せながらも、瞳には、やや困惑を浮かべた。
姫にこのような作業をさせてしまい、心苦しい……
そんな表情のグレイを敢えて見ない振りをして、私は機嫌良く歩き出す。
グレイも馬を引きながら、私と並んで歩く。
この世界に来てから1ヶ月。
私はすっかりと森の中の山小屋生活に馴染んでエンジョイしていた。
いやもう、だって毎日がキャンプみたいで、凄く楽しいんだもの!
朝は小鳥たちの歌う声で目覚め、緑の森の木々や名も知らない花たちが織りなす深い香りの中で散歩をしながら、薪を拾い、夜は見たことのない星座を見つけながら眠りにつく。
もともと、自然の中で生活したい願望があったので、この生活は願ったり叶ったりで。
しかも、ハンサムなグレイ、優しい婆やと過ごす日々は、本当に幸せで。
あー、異世界に来て良かった!なんてしみじみと実感中な訳で。
とにかく、文句がつけようのないほどに、充実した生活だった。
二人で山小屋に帰り、扉を開けると、婆やが忙しそうに夕食の準備をしていて、私も竈の火にかけられた鍋の中のスープをかき混ぜたりして、お手伝いをする。
出来上がった料理を居間の木製のテーブルに運んで並べると、楽しい夕食の時間の始まりだった。
「今日は森の中で、ふわふわの毛の可愛い動物を見かけたの!あれはなんという名前なのかしら。ぴょんぴょん飛び跳ねてた!」
「尻尾が白くて2つついていれば、アナグマラですよ。でも触らないでください、姫。可愛い顔をしててもあれは鋭い牙をもっていて噛んできますよ」
私は今日あった出来事を身振り手振りで夢中でグレイに話し、グレイはそれを微笑みながら頷いて聞いてくれた。
夕食が終わると、外にある大きなタライの中で、婆やに手伝ってもらいながら簡単な入浴を済ませ、就寝の時間となる。
寝る時には、必ずグレイが来て、かけ布団を私の肩までかけながら、
「おやすみなさい、姫。よい夢を」
と礼儀正しく挨拶をしてから、部屋を出て行った。
正直、私はそれが物足りなかった。
本当は、一晩中グレイに傍にいて欲しい。
優しい言葉を耳元で囁かれながら、裸のグレイの腕の中で沢山愛されて、眠りたい。
グレイに大事にされているのは分かるけど、お姫様扱いじゃなくて、もっと踏み込んだ愛情を見せて欲しい……
でも、そんな欲望を表に出すわけにはいかなくて。
グレイへの熱を密かに抱えたまま過ごしていたある日、早朝のまだ日の出ていない時間に、
パァン!パァン! と二発の銃声が辺りに響き渡った。
「グレイ、お帰りなさい!」
息を切らして駆け寄ってきた私を見て、グレイは嬉しそうに微笑む。
「姫、フードをきちんと被って下さい。お顔が見えてしまいます」
グレイは馬から降りると、私の顔へと手を伸ばし、走ったせいで頭の後ろの方へとズレてしまった花柄模様のフードを元の位置に戻すように引っ張って整え、長い指先で顎の下のリボンを器用にキュッと結び直す。
グレイの整った顔が近くに来ると、私の体温はぐんと上昇し、心臓を打ちつける勢いが早くなったけれど、顔には出さずに、大人しくじっとして、グレイのなすがままになっていた。
「さぁ、これでよし。出来ましたよ。姫」
グレイはそう言うと、チラリと私の持っている籠へと視線を走らせる。
私が、
「見て!今日はサリユタの実を沢山収穫したの。これ、ジャムにすると、とっても美味しいんだって!」
誇らしげに籠をグレイに向かって差し出すと、グレイは笑顔を見せながらも、瞳には、やや困惑を浮かべた。
姫にこのような作業をさせてしまい、心苦しい……
そんな表情のグレイを敢えて見ない振りをして、私は機嫌良く歩き出す。
グレイも馬を引きながら、私と並んで歩く。
この世界に来てから1ヶ月。
私はすっかりと森の中の山小屋生活に馴染んでエンジョイしていた。
いやもう、だって毎日がキャンプみたいで、凄く楽しいんだもの!
朝は小鳥たちの歌う声で目覚め、緑の森の木々や名も知らない花たちが織りなす深い香りの中で散歩をしながら、薪を拾い、夜は見たことのない星座を見つけながら眠りにつく。
もともと、自然の中で生活したい願望があったので、この生活は願ったり叶ったりで。
しかも、ハンサムなグレイ、優しい婆やと過ごす日々は、本当に幸せで。
あー、異世界に来て良かった!なんてしみじみと実感中な訳で。
とにかく、文句がつけようのないほどに、充実した生活だった。
二人で山小屋に帰り、扉を開けると、婆やが忙しそうに夕食の準備をしていて、私も竈の火にかけられた鍋の中のスープをかき混ぜたりして、お手伝いをする。
出来上がった料理を居間の木製のテーブルに運んで並べると、楽しい夕食の時間の始まりだった。
「今日は森の中で、ふわふわの毛の可愛い動物を見かけたの!あれはなんという名前なのかしら。ぴょんぴょん飛び跳ねてた!」
「尻尾が白くて2つついていれば、アナグマラですよ。でも触らないでください、姫。可愛い顔をしててもあれは鋭い牙をもっていて噛んできますよ」
私は今日あった出来事を身振り手振りで夢中でグレイに話し、グレイはそれを微笑みながら頷いて聞いてくれた。
夕食が終わると、外にある大きなタライの中で、婆やに手伝ってもらいながら簡単な入浴を済ませ、就寝の時間となる。
寝る時には、必ずグレイが来て、かけ布団を私の肩までかけながら、
「おやすみなさい、姫。よい夢を」
と礼儀正しく挨拶をしてから、部屋を出て行った。
正直、私はそれが物足りなかった。
本当は、一晩中グレイに傍にいて欲しい。
優しい言葉を耳元で囁かれながら、裸のグレイの腕の中で沢山愛されて、眠りたい。
グレイに大事にされているのは分かるけど、お姫様扱いじゃなくて、もっと踏み込んだ愛情を見せて欲しい……
でも、そんな欲望を表に出すわけにはいかなくて。
グレイへの熱を密かに抱えたまま過ごしていたある日、早朝のまだ日の出ていない時間に、
パァン!パァン! と二発の銃声が辺りに響き渡った。
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