7 / 15
おはようから始まる異世界の生活
しおりを挟む
「…ふぁぁあ……」
目覚めてベッドの上で大きく伸びをすると、
思わず部屋を見回した。
まだ朝早いのか、部屋は薄暗く
いつも居るグレイの姿が見えない。
ベッドの脇の小さな窓を覗くと、
そこには全てを呑み込むような、鬱蒼とした広大な森が眼下に広がっていた。
マルスティラ公国かぁ……
いったいどんな国なんだろう。
それにしても、グレイは私のことを、
姫と呼ぶけれど、今、私が居る場所はどう見てもお城じゃないわよね……
くるっと部屋の中を見回しても、どう見ても殺風景な田舎の山小屋でしかなかった。
もしかして、私は『拐われたお姫様』なのかな?
でも、そうしたらグレイとあの老婆は悪人なの?
その疑問は自分自身の中で直ぐに打ち消された。
グレイの私への献身さといったら、それはもう言葉に出来ないくらい素晴らしいものだった。
それこそ、銀のスプーンよりも重いものは持たせないような気の使いようで、私のことをまるで繊細な砂糖菓子で出来ているかのように丁寧に優しく扱った。
何より、グレイ自身から善良の塊のようなオーラが出ていた。
常にピシリと伸びているその背中からは、気品と規律が感じられた。
でも、私がこの小さく質素な部屋から出ることが許されていないのも事実だった。
いったいいつまでこんな生活が続くんだろ?
グレイの話しだと、もう元の世界には戻れないらしい。
でも、ここでの生活に慣れる事は出来るのかしら?
様々な疑問と不安が胸の中をグルグルと駆け巡る。
色々と考えていると、ふと、いつもは鍵がかけられているこの部屋の入り口の扉が小さく開いているのに気がついた。
私はベッドから起き上がると、部屋の隅に置かれていたクローゼットを開ける。
そこには、シンプルなモスリンの花柄のドレスが数着かかっていて、そのうちの一つを手に取ると、腕を通す。
それは恐らく私のために用意されていたもので、サイズは誂えたようにピッタリだった。
着替えてから部屋のドアをそっと開ける。
そこは直ぐに階下に降りる階段に繋がっていて
一階からはランプの仄かな灯りが漏れていた。
まだおぼつかない足を引きずりながら
トン、トン、トン、
と階段を降りていくと、そこには小さなテーブルに飲みかけのカップと書類の山を積み上げ何やら熱心に新聞記事を読み込むグレイの姿があった。
グレイは私の姿に気づくと、少し驚いた表情ながらも直ぐに直立不動の姿勢で立ち上がり
「お早うございます。姫」
と丁寧に挨拶をした。
「おはよう。グレイ」
そう答えた瞬間、まだ足元の覚束ない私の体が一瞬グラついた。
直ぐにグレイが駆け寄り、優しく抱き寄せると
私をそっとイスに座らせた。
「申し訳ありません。直ぐにここを片付けます」
グレイはそういうと、目の前の書類をあたふたと片付け始めた。
「いいの。気にしないで、グレイ。お仕事を続けて」
私は書類をまとめているグレイの手をそっと押さえる。
「しかし……」
少し戸惑うグレイだったが
「姫、急ぎで仕上げたい書類があるのです。
お言葉に甘えてこのまま仕事を続けてもよろしいでしょうか?」
と申し訳なさそうに頭を下げた。
「もちろんよ」
私がそう答えると、グレイは椅子に座り
再び書類の山に没頭しはじめた。
私はそのグレイの横顔をそっと眺める。
グレイは徹夜明けなのか、いつもは綺麗に整ってる黒髪が、やや乱れたように額にかかっていた。
ルーズに外された胸ボタンの隙間から、褐色の厚い肌がチラリと見えて、いつもと違った無防備さが、まぶしいくらいの男の色気のようなものを醸し出している。
向こうの世界にいたら、絶対に出会えないような、ハンサムな人だよね。と思わず食い入るように、見とれてしまう。
この身体に抱かれたんだ。あんな部分やこんな部分を全て見られちゃったんだ……と思うと、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
それと同時に、胸の奥がキュンと切なく痛んだ。
私、グレイに恋をしてるんだ……
出逢ったばかりなのに。まだグレイの事なんて、何も知らないのに。
多分、これが一目惚れというものなのかな。
それから、私はあたふたと慌てた。
恋ってどうすればいいの?!
そもそも、異世界で恋をするってどうすればいいのっ
私はお姫様で相手は騎士、こんな時は一体どうすればいいの?!
実は、向こうの世界にいた時は、恋人が欲しくて、こっそりと密かに恋愛マニュアル本みたいなものは、山ほど読んだ。
けれど、こんな『身分違い』の恋の進め方なんて、どこにも書いてなかった。
『グレイ、私の恋人になりなさい』
て命令すれば、この恋は叶う?
っていやいや、なんかそれは違う。
こうもっとロマンティックに両想いになりたい。
『姫、身分を超えてあなたを愛してしまいました。どうぞこのご無礼をお許し下さい』
と、こんな感じでグレイから愛を告白されたい。
なんてアレコレ妄想を膨らませていると、ふと、空になったグレイのカップに気がついた。
そうだ、グレイに新しいお茶を淹れてあげようと思い立ち、グレイのお仕事の邪魔をしないよう、静かにそっと立ち上がる。
それから台所のような場所に向かって、そしてそこで、ウッと足を止める。
当然、そこにはガスコンロや、まして、IHのクッキングオーブンなんてものはなかったのだから。
目覚めてベッドの上で大きく伸びをすると、
思わず部屋を見回した。
まだ朝早いのか、部屋は薄暗く
いつも居るグレイの姿が見えない。
ベッドの脇の小さな窓を覗くと、
そこには全てを呑み込むような、鬱蒼とした広大な森が眼下に広がっていた。
マルスティラ公国かぁ……
いったいどんな国なんだろう。
それにしても、グレイは私のことを、
姫と呼ぶけれど、今、私が居る場所はどう見てもお城じゃないわよね……
くるっと部屋の中を見回しても、どう見ても殺風景な田舎の山小屋でしかなかった。
もしかして、私は『拐われたお姫様』なのかな?
でも、そうしたらグレイとあの老婆は悪人なの?
その疑問は自分自身の中で直ぐに打ち消された。
グレイの私への献身さといったら、それはもう言葉に出来ないくらい素晴らしいものだった。
それこそ、銀のスプーンよりも重いものは持たせないような気の使いようで、私のことをまるで繊細な砂糖菓子で出来ているかのように丁寧に優しく扱った。
何より、グレイ自身から善良の塊のようなオーラが出ていた。
常にピシリと伸びているその背中からは、気品と規律が感じられた。
でも、私がこの小さく質素な部屋から出ることが許されていないのも事実だった。
いったいいつまでこんな生活が続くんだろ?
グレイの話しだと、もう元の世界には戻れないらしい。
でも、ここでの生活に慣れる事は出来るのかしら?
様々な疑問と不安が胸の中をグルグルと駆け巡る。
色々と考えていると、ふと、いつもは鍵がかけられているこの部屋の入り口の扉が小さく開いているのに気がついた。
私はベッドから起き上がると、部屋の隅に置かれていたクローゼットを開ける。
そこには、シンプルなモスリンの花柄のドレスが数着かかっていて、そのうちの一つを手に取ると、腕を通す。
それは恐らく私のために用意されていたもので、サイズは誂えたようにピッタリだった。
着替えてから部屋のドアをそっと開ける。
そこは直ぐに階下に降りる階段に繋がっていて
一階からはランプの仄かな灯りが漏れていた。
まだおぼつかない足を引きずりながら
トン、トン、トン、
と階段を降りていくと、そこには小さなテーブルに飲みかけのカップと書類の山を積み上げ何やら熱心に新聞記事を読み込むグレイの姿があった。
グレイは私の姿に気づくと、少し驚いた表情ながらも直ぐに直立不動の姿勢で立ち上がり
「お早うございます。姫」
と丁寧に挨拶をした。
「おはよう。グレイ」
そう答えた瞬間、まだ足元の覚束ない私の体が一瞬グラついた。
直ぐにグレイが駆け寄り、優しく抱き寄せると
私をそっとイスに座らせた。
「申し訳ありません。直ぐにここを片付けます」
グレイはそういうと、目の前の書類をあたふたと片付け始めた。
「いいの。気にしないで、グレイ。お仕事を続けて」
私は書類をまとめているグレイの手をそっと押さえる。
「しかし……」
少し戸惑うグレイだったが
「姫、急ぎで仕上げたい書類があるのです。
お言葉に甘えてこのまま仕事を続けてもよろしいでしょうか?」
と申し訳なさそうに頭を下げた。
「もちろんよ」
私がそう答えると、グレイは椅子に座り
再び書類の山に没頭しはじめた。
私はそのグレイの横顔をそっと眺める。
グレイは徹夜明けなのか、いつもは綺麗に整ってる黒髪が、やや乱れたように額にかかっていた。
ルーズに外された胸ボタンの隙間から、褐色の厚い肌がチラリと見えて、いつもと違った無防備さが、まぶしいくらいの男の色気のようなものを醸し出している。
向こうの世界にいたら、絶対に出会えないような、ハンサムな人だよね。と思わず食い入るように、見とれてしまう。
この身体に抱かれたんだ。あんな部分やこんな部分を全て見られちゃったんだ……と思うと、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
それと同時に、胸の奥がキュンと切なく痛んだ。
私、グレイに恋をしてるんだ……
出逢ったばかりなのに。まだグレイの事なんて、何も知らないのに。
多分、これが一目惚れというものなのかな。
それから、私はあたふたと慌てた。
恋ってどうすればいいの?!
そもそも、異世界で恋をするってどうすればいいのっ
私はお姫様で相手は騎士、こんな時は一体どうすればいいの?!
実は、向こうの世界にいた時は、恋人が欲しくて、こっそりと密かに恋愛マニュアル本みたいなものは、山ほど読んだ。
けれど、こんな『身分違い』の恋の進め方なんて、どこにも書いてなかった。
『グレイ、私の恋人になりなさい』
て命令すれば、この恋は叶う?
っていやいや、なんかそれは違う。
こうもっとロマンティックに両想いになりたい。
『姫、身分を超えてあなたを愛してしまいました。どうぞこのご無礼をお許し下さい』
と、こんな感じでグレイから愛を告白されたい。
なんてアレコレ妄想を膨らませていると、ふと、空になったグレイのカップに気がついた。
そうだ、グレイに新しいお茶を淹れてあげようと思い立ち、グレイのお仕事の邪魔をしないよう、静かにそっと立ち上がる。
それから台所のような場所に向かって、そしてそこで、ウッと足を止める。
当然、そこにはガスコンロや、まして、IHのクッキングオーブンなんてものはなかったのだから。
0
お気に入りに追加
451
あなたにおすすめの小説


男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。


私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる