転校生はおにぎり王子 〜恋の悩みもいっちょあがり!~

成木沢 遥

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四章 先生の恋にもおにぎりを ~胃袋を掴む、カルボナーラ風ベーコンエッグ~

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 田尻先生も自信がついたことだし、そろそろ帰ろうかなと思っていた時、田尻先生の口から予想外な言葉が飛び出した。

「そういえばサヤちゃん、お母様からお話聞いたけど……」
「え、お話?」
「ええ。何でも、転校する予定なんだって?」

 え……?
 お母さん、田尻先生に話しちゃったの……?
 空気が固まる。

「……先生、それ、どういうこと?」

 隼斗君が小さい声で聞く。
 まだその言葉の意味を、理解できていないみたいだ。

「お父様のお仕事の都合で、北海道の学校に転校してしまう可能性があるって話だけど……」

 田尻先生の視線が私に注がれる。
 私の話す番になった。
 もうこれ以上……はぐらかすことはできない。
 正直に話さないと……。

「……まだ決まったわけじゃないけど、たぶん、転校になっちゃう……と思う」

 隼斗君はキッチンに立ちながら、俯いた。
 肩が小刻みに震えている。
 ゆっくりと口を開けて、いつものような元気な声と正反対な、重くて小さい声で話し出した。

「……六原さん、それ、本当?」

 もう、嘘はつけない。
 おそるおそる、弱々しい声で「うん」と返事した。

「……どうして黙ってたの?」
「だ、だって……せっかく日本一のおにぎりを作るって約束したのに、もう少ししたら転校しちゃうだなんて、言えなくて……」

 隼斗君は何も言わなくなった。
 隼斗君のお父さんは、重くなった空気を変えようと、明るい声で話に入ってくれる。

「なんだ……サヤちゃん転校しちゃうのか……それは寂しくなるなぁ」

 隼斗君の背中に手を当てて、悲しいけど仕方ないといった、優しい表情を見せてくれた。
 田尻先生もそれに続く。

「本当に、残念よ。でもサヤちゃんだったらどこに行っても大丈夫だと思うわ。きっとすぐに友達できるわよ」
「……あ、ありがとうございます」

 二人の言葉はすごく嬉しいけど……悲しんでくれている隼斗君の顔を見ると、素直には喜べない。
 隼斗君に「ごめんね」と頭を下げて言った。
 すると隼斗君は肩をプルプルと震えさせながら、もう一度小さな声を出した。

「一緒に日本一のおにぎりを作るって、約束したのに……どうして……」

 泣きそうな顔のまま、お店を飛び出す。
 私が「隼斗君!」と叫んでも、隼斗君は止まってくれない。
 隼斗君が飛び出していった後、少しシーンとする。
 田尻先生の「私がこんな話したから……」という自分を責めるような言葉で、また話が始まった。
 次はお父さんが困り顔で言葉にしてくれた。

「ごめんねサヤちゃん、隼斗のことは気にしないで。そのうち戻ってくるから」
「……私の方こそごめんなさい」
「サヤちゃんは何も悪くないよ。これはしょうがないことなんだ。隼斗もわかってるとは思うんだけど……受け入れられないんだろうな……」

 田尻先生が「仲良しコンビだったもんね」と呟く。
 ますます、転校したくなくなった。
 ここまで隼斗君の想いが強いとは……。
 でも、そうだよね。
 日本一のおにぎりを作る約束、したもんね。

 申し訳ない気持ちに包みこまれ、モヤモヤしながら自分の家に帰る。
 ちょっと待ってみたけど、結局隼斗君はすぐに帰ってこなかった。

 どうしよう……隼斗君を傷つけちゃった……。
 明日謝ったら許してくれるかなぁ。

 ……私だって、転校したくない。
 でも、隼斗君のお父さんが言っていたように、これはしょうがないこと。

 あぁ……明日学校に行くの、気まずいな。
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