39 / 55
四章 先生の恋にもおにぎりを ~胃袋を掴む、カルボナーラ風ベーコンエッグ~
⑦
しおりを挟む
「六原さんも来て! おにぎり作るよ!」
「え、私も!?」
隼斗君が「当ったり前じゃん!」と不思議そうな表情で答える。
お父さんが「もちろんだとも」と笑って、お店に招いてくれた。
田尻先生が「一緒に入ろ」と手を掴む。
「こちら座ってください。サヤちゃんも座ってね」
田尻先生はカウンターの真ん中に座る。
私も隣に座らせてもらった。すぐにおしぼりが出てくる。
「とりあえず、適当に握りますね。今回の主役は隼斗のおにぎりなんで」
「そうだよ父さん! 寿司でお腹いっぱいにさせないでね!」
キッチンに入った親子の会話。とても優しくて、平和的。
田尻先生は「楽しみね」と呟いた。
お父さんは早速握り始める。隼斗君もお皿の準備とかをしてくれた。
私は田尻先生に、気になっていたことを聞くことにした。
「そういえば田尻先生、さっきまで元気がなさそうでしたよね?」
「え?」
「私の前を歩いていた時、背中が丸まっていたので。何か悩んでいるみたいでした」
田尻先生は「気づかれたか」と苦笑いしながら、「まあね」と弱々しい声で言った。
お父さんがお寿司を握りながら「何かお悩みですか?」と話に入ってくる。
「……生徒の前で話す内容じゃないんですけど、実は私、付き合っている彼がいまして……」
え、田尻先生の恋愛話が聞けるの?
私はその話題に興味津々になる。
隼斗君も「聞きたい聞きたい!」と嬉しそうだ。
「結婚を考えているんですけど……彼の舌に合う料理が作れなくて……それで悩んでて」
結婚!? 全員が声を揃える。
まさか田尻先生が、結婚を考えているなんて。
でも料理の腕に自信がないのか……大人の女性の悩みって感じだな。
「じゃあ先生! 俺が簡単で美味しいおにぎり、教えてあげるよ!」
隼斗君は大きく挙手をして言った。
お父さんはやれやれというような顔をしている。
「おにぎり? 隼斗君が教えてくれるの?」
「もちろんさ! おにぎりは男だったらみんなが大好きでしょ? これを覚えたら、彼氏さんも大喜びさ!」
お父さんが「先生、すいませんね」と呆れて笑った。
そして十貫ほどのお寿司がのった長皿を先生の前に出す。
「先生、とりあえずこれ食べてください。隼斗のおにぎりもあるだろうから、ほどほどにしました」
私が食べたお寿司と同じように、トロはツヤツヤだし、イクラは宝石のようにキラキラしている。
いいなぁ、全部が美味しそう。
お父さんはその後にみそ汁を出す。
「これ、岩海苔のみそ汁です。足りなかったらおかわり頼んでください」
お寿司にもおにぎりにも相性抜群なみそ汁。
田尻先生も手を叩きながら喜んでいる。
「先生、寿司でお腹いっぱいにならないでよ。俺のおにぎりもあるんだから!」
田尻先生は「わかってるよー」と答えた後に、マグロのお寿司を口にした。
美味しいのは当たり前。その様子を見ながら、口を尖らせて隼斗君がキッチンに入った。
お父さんは役目を終えたのか、田尻先生に「では先生、ゆっくりしていってください」と声をかけ、裏の方に戻った。
これからこのキッチンは、隼斗君の独壇場になるみたいだ。
「え、私も!?」
隼斗君が「当ったり前じゃん!」と不思議そうな表情で答える。
お父さんが「もちろんだとも」と笑って、お店に招いてくれた。
田尻先生が「一緒に入ろ」と手を掴む。
「こちら座ってください。サヤちゃんも座ってね」
田尻先生はカウンターの真ん中に座る。
私も隣に座らせてもらった。すぐにおしぼりが出てくる。
「とりあえず、適当に握りますね。今回の主役は隼斗のおにぎりなんで」
「そうだよ父さん! 寿司でお腹いっぱいにさせないでね!」
キッチンに入った親子の会話。とても優しくて、平和的。
田尻先生は「楽しみね」と呟いた。
お父さんは早速握り始める。隼斗君もお皿の準備とかをしてくれた。
私は田尻先生に、気になっていたことを聞くことにした。
「そういえば田尻先生、さっきまで元気がなさそうでしたよね?」
「え?」
「私の前を歩いていた時、背中が丸まっていたので。何か悩んでいるみたいでした」
田尻先生は「気づかれたか」と苦笑いしながら、「まあね」と弱々しい声で言った。
お父さんがお寿司を握りながら「何かお悩みですか?」と話に入ってくる。
「……生徒の前で話す内容じゃないんですけど、実は私、付き合っている彼がいまして……」
え、田尻先生の恋愛話が聞けるの?
私はその話題に興味津々になる。
隼斗君も「聞きたい聞きたい!」と嬉しそうだ。
「結婚を考えているんですけど……彼の舌に合う料理が作れなくて……それで悩んでて」
結婚!? 全員が声を揃える。
まさか田尻先生が、結婚を考えているなんて。
でも料理の腕に自信がないのか……大人の女性の悩みって感じだな。
「じゃあ先生! 俺が簡単で美味しいおにぎり、教えてあげるよ!」
隼斗君は大きく挙手をして言った。
お父さんはやれやれというような顔をしている。
「おにぎり? 隼斗君が教えてくれるの?」
「もちろんさ! おにぎりは男だったらみんなが大好きでしょ? これを覚えたら、彼氏さんも大喜びさ!」
お父さんが「先生、すいませんね」と呆れて笑った。
そして十貫ほどのお寿司がのった長皿を先生の前に出す。
「先生、とりあえずこれ食べてください。隼斗のおにぎりもあるだろうから、ほどほどにしました」
私が食べたお寿司と同じように、トロはツヤツヤだし、イクラは宝石のようにキラキラしている。
いいなぁ、全部が美味しそう。
お父さんはその後にみそ汁を出す。
「これ、岩海苔のみそ汁です。足りなかったらおかわり頼んでください」
お寿司にもおにぎりにも相性抜群なみそ汁。
田尻先生も手を叩きながら喜んでいる。
「先生、寿司でお腹いっぱいにならないでよ。俺のおにぎりもあるんだから!」
田尻先生は「わかってるよー」と答えた後に、マグロのお寿司を口にした。
美味しいのは当たり前。その様子を見ながら、口を尖らせて隼斗君がキッチンに入った。
お父さんは役目を終えたのか、田尻先生に「では先生、ゆっくりしていってください」と声をかけ、裏の方に戻った。
これからこのキッチンは、隼斗君の独壇場になるみたいだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
泣き虫な君を、主人公に任命します!
成木沢 遥
児童書・童話
『演技でピンチを乗り越えろ!!』
小学六年生の川井仁太は、声優になるという夢がある。しかし父からは、父のような優秀な医者になれと言われていて、夢を打ち明けられないでいた。
そんな中いじめっ子の野田が、隣のクラスの須藤をいじめているところを見てしまう。すると謎の男女二人組が現れて、須藤を助けた。その二人組は学内小劇団ボルドの『宮風ソウヤ』『星みこと』と名乗り、同じ学校の同級生だった。
ひょんなことからボルドに誘われる仁太。最初は断った仁太だが、学芸会で声優を目指す役を演じれば、役を通じて父に宣言することができると言われ、夢を宣言する勇気をつけるためにも、ボルドに参加する決意をする。
演技を駆使して、さまざまな困難を乗り越える仁太たち。
葛藤しながらも、懸命に夢を追う少年たちの物語。
【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~
丹斗大巴
児童書・童話
どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!?
*☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*
夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?
*☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*
家族のきずなと種を超えた友情の物語。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

佐藤さんの四重奏
makoto(木城まこと)
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――?
弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。
第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―
くまの広珠
児童書・童話
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」
クラスメイトの宝君は、告白してくれた直後に、わたしの前から姿を消した。
「有若宝なんてヤツ、知らねぇし」
誰も宝君を、覚えていない。
そして、土車に乗ったミイラがあらわれた……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『小栗判官』をご存知ですか?
説経節としても有名な、紀州、熊野古道にまつわる伝説です。
『小栗判官』には色々な筋の話が伝わっていますが、そのひとつをオマージュしてファンタジーをつくりました。
主人公は小学六年生――。
*エブリスタにも投稿しています。
*小学生にも理解できる表現を目指しています。
*話の性質上、実在する地名や史跡が出てきますが、すべてフィクションです。実在の人物、団体、場所とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる