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四章 先生の恋にもおにぎりを ~胃袋を掴む、カルボナーラ風ベーコンエッグ~

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「六原さんも来て! おにぎり作るよ!」
「え、私も!?」

 隼斗君が「当ったり前じゃん!」と不思議そうな表情で答える。
 お父さんが「もちろんだとも」と笑って、お店に招いてくれた。
 田尻先生が「一緒に入ろ」と手を掴む。

「こちら座ってください。サヤちゃんも座ってね」

 田尻先生はカウンターの真ん中に座る。
 私も隣に座らせてもらった。すぐにおしぼりが出てくる。

「とりあえず、適当に握りますね。今回の主役は隼斗のおにぎりなんで」
「そうだよ父さん! 寿司でお腹いっぱいにさせないでね!」

 キッチンに入った親子の会話。とても優しくて、平和的。
 田尻先生は「楽しみね」と呟いた。
 お父さんは早速握り始める。隼斗君もお皿の準備とかをしてくれた。
 私は田尻先生に、気になっていたことを聞くことにした。

「そういえば田尻先生、さっきまで元気がなさそうでしたよね?」
「え?」
「私の前を歩いていた時、背中が丸まっていたので。何か悩んでいるみたいでした」

 田尻先生は「気づかれたか」と苦笑いしながら、「まあね」と弱々しい声で言った。
 お父さんがお寿司を握りながら「何かお悩みですか?」と話に入ってくる。

「……生徒の前で話す内容じゃないんですけど、実は私、付き合っている彼がいまして……」

 え、田尻先生の恋愛話が聞けるの?
 私はその話題に興味津々になる。
 隼斗君も「聞きたい聞きたい!」と嬉しそうだ。

「結婚を考えているんですけど……彼の舌に合う料理が作れなくて……それで悩んでて」

 結婚!? 全員が声を揃える。
 まさか田尻先生が、結婚を考えているなんて。
 でも料理の腕に自信がないのか……大人の女性の悩みって感じだな。

「じゃあ先生! 俺が簡単で美味しいおにぎり、教えてあげるよ!」

 隼斗君は大きく挙手をして言った。
 お父さんはやれやれというような顔をしている。

「おにぎり? 隼斗君が教えてくれるの?」
「もちろんさ! おにぎりは男だったらみんなが大好きでしょ? これを覚えたら、彼氏さんも大喜びさ!」

 お父さんが「先生、すいませんね」と呆れて笑った。
 そして十貫ほどのお寿司がのった長皿を先生の前に出す。

「先生、とりあえずこれ食べてください。隼斗のおにぎりもあるだろうから、ほどほどにしました」

 私が食べたお寿司と同じように、トロはツヤツヤだし、イクラは宝石のようにキラキラしている。
 いいなぁ、全部が美味しそう。
 お父さんはその後にみそ汁を出す。

「これ、岩海苔のみそ汁です。足りなかったらおかわり頼んでください」

 お寿司にもおにぎりにも相性抜群なみそ汁。
 田尻先生も手を叩きながら喜んでいる。

「先生、寿司でお腹いっぱいにならないでよ。俺のおにぎりもあるんだから!」

 田尻先生は「わかってるよー」と答えた後に、マグロのお寿司を口にした。
 美味しいのは当たり前。その様子を見ながら、口を尖らせて隼斗君がキッチンに入った。
 お父さんは役目を終えたのか、田尻先生に「では先生、ゆっくりしていってください」と声をかけ、裏の方に戻った。
 これからこのキッチンは、隼斗君の独壇場になるみたいだ。
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