転校生はおにぎり王子 〜恋の悩みもいっちょあがり!~

成木沢 遥

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四章 先生の恋にもおにぎりを ~胃袋を掴む、カルボナーラ風ベーコンエッグ~

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「その後一緒に作ったおにぎりが上手にできたのと、あとは隣にいてくれてとても心強かったから! だから六原さんなんだ!」

 お母さんが「そんなにサヤのこと買ってくれてるのね」と感心して言った。
 私だって、人の役に立つことがあるんだからね……そう言葉にしたかったけど、やめておいた。
 隼斗君、そんなに褒めてくれるなんて……嬉しくて言葉にならない。

「だから、六原さんと……これからもおにぎりを作っていきたいんです!」

 お母さんと寿矢の体が固まった。
 多分、私と同じ気持ちになったんだと思う。

「そうね……これからもサヤをよろしくね」
「姉ちゃんをよろしくです……」

 お母さんと寿矢……転校すること、隼斗君には言えないって察したんだな。
 二人は私の方を見ていた。

「もちろん! 日本一のおにぎり、二人で作ってみせます!」

 私たち家族の苦笑いに気づいていない隼斗君は、いつものように夢を語った。
 どうしよう……ますます転校するだなんて、言える空気じゃなくなった。

 皿洗いを隼斗君と二人でして、それから上機嫌に隼斗君は帰っていった。
 また明日、学校で。
 そう約束して、賑やかな家の中から出ていく。

 隼斗君がいなくなってから、ダイニングテーブルにお母さんと寿矢、そして私が座る。
 みんなが神妙な顔をしていた。
 コップ一杯の麦茶を口にした後、最初に声を出したのは寿矢だった。

「ねぇ、ウチって本当に転校するの?」

 お母さんはやっぱりその話よねというように小さく溜息をついて、「そうね」と答えた。
 めったに反論しない寿矢が、珍しくいちゃもんをつけ始める。

「なんとかならないの? 姉ちゃんにも大事な人できたみたいだし……」
「……なんとかって言ってもねぇ。お父さん一人で行かせるわけにはいかないでしょ。お父さんのおかげで生活できてるんだから」

 納得した様子ではない寿矢は……唇を尖らせている。
 私は何も言えず、俯くことしかできなかった。

 寿矢にだって学校の友達はいるはずだし、何より柔道部のみんなと離れるのは寂しいに決まっている。
 お姉ちゃんとして、私も意見したいけど……お父さんの仕事の都合なんだから仕方ない。
 あぁ……でも……転校はしなくないなぁ。
 せっかく慣れてきたし、それに……隼斗君と会えなくなるなんて。

 お母さんは暗くなった私たち姉弟を見て、「大丈夫、北海道は良いところって……隼斗君が言ってたでしょ!」と、元気づけるように言う。

 寿矢は苦笑いさえもできていない。まさに無反応だった。
 私はお姉ちゃんとして「うん……」と力なく答えた。
 本格的に、転校が決まったような気がした。

 ……隼斗君とおにぎりが作れるのも、あと残りわずか……か。
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