転校生はおにぎり王子 〜恋の悩みもいっちょあがり!~

成木沢 遥

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三章 クラスメイトは幼馴染 ~勇気が出る、鮭ときのこのバター焼きおにぎり~

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「これ……鮭ときのこの焼きおにぎりみたいねぇ……こんな手の込んだおにぎり、ケイタ作れるのかなぁ」

 お母さんがラップに包まれていたおにぎりを凝視して呟いた。
 すぐにハンナちゃんがピンとくる。

「あ……クラスにおにぎり王子が転校してきたの」
「おにぎり王子? 何その子?」
「おにぎり作るのがすごく上手で、みんなの人気者なんだ。もしかしたら、その子に教えてもらったのかも」

 お母さんは感心するように「珍しいわねぇ」と声を漏らした。
 しっかり聞き耳を立てている隼斗君はニコッと笑う。

「とりあえず、食べてみよう。せっかくケイタが作ってくれたんだ」

 お父さんはひと口食べた。
 それと同時に、試合開始の合図であるホイッスルが吹かれる。
 私たちは試合よりも、おにぎりの感想の方が気になってしまっていた。
 ……味、どうだろう?

「んん! とても美味しいじゃないか! バター醤油の味が絶妙だ!」
「本当ね……焼き加減も完璧だわ」

 お父さんとお母さん、また見合って笑っている。
 ハンナちゃんも嬉しそう。
 ハンナちゃんもひと口食べてから、小さい声で「美味しい」と言った。
 家族の空気が優しくなったのを感じる……。

 先に完食したお父さんが、お母さんに向かって一言呟く。

「すまなかった……」

 お母さんが笑いながら「え?」と聞き返す。

「い、いや……何でもない……」

 フフッと笑ったお母さんが「私の方こそ」と返して、残りひと口になったおにぎりを食べきった。
 ハンナちゃんは何を言わずに、ただ泣きそうにしながらおにぎりを食べていた。

 良かった……作戦通り、ケイタ君のおにぎりが家族の仲を取り戻した。
 隼斗君の方を見てみると、満足そうに頷いている。

「良かったね、隼斗君」
「……ああ! ケイタ君のおにぎり、最高だったよ」
「隼斗君のおかげだね!」

 当然というように胸を張ってみせる隼斗君。
 思わず笑いそうになってしまった。

「ケイター! いけー!」

 ハンナちゃんの大きな声で、私たちの視線はグラウンドの方に注がれた。
 ケイタ君がドリブルをして、相手のゴールキーパーと一対一になっている。
 鮮やかにゴールキーパーを抜いて、無人のゴールにシュートを放った。

 すごい……一点決めた……。
 ケイタ君、さすがだな。

「ケイター! ナイスー!」

 ハンナちゃん家族がみんなでハイタッチして喜んでいる。
 良かった良かった……。

 ケイタ君はハンナちゃん家族に向けてガッツポーズを見せた。
 そしてその後、私の隣にいる隼斗君の姿を見つけたのか、親指を立てながらニカッと笑った。
 隼斗君も『作戦成功だ』という意味合いのグーサインを返している。

 ウチのおにぎり王子も、負けないくらいにカッコイイ……。

 誰かのために作るおにぎり。
 人の心を繋ぐおにぎり。

 今日もおにぎりのおかげで、たくさんの笑顔が見られた。

 ちょっと暑い一日だったけど、ケイタ君の作戦が上手くいって良かったな。
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