転校生はおにぎり王子 〜恋の悩みもいっちょあがり!~

成木沢 遥

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二章 憧れの先輩は陸上部 ~後押しする、豚キムチーズ~

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「じゃあこれから、豚キムチ炒めを作っていくよ! そろそろ温まってきたから!」

 隼斗君は炒め物の工程に移っていた。
 さすがに今は手伝えることはないよね……。
 隣で黙って見ておくことにしよう。

「まず豚肉を炒めます。今回は豚バラ肉を使っていくよ!」

 ジュワッという音が、家庭科室中に響く。
 食欲をそそる音だなぁ……隼斗君は菜箸でリズミカルに炒めている。
 ゴマ油の香りも漂ってきた……これだけでも美味しそうだ。
 隼斗君は何も言わずに塩コショウを追加して、香ばしい色になるまでフライパンを振った。

「よし、良い感じだ。じゃあ、キムチを追加するよ!」

 相変わらずの手際の良さ。
 キムチはちょっと多めにボウルに入っている。
 余すことなく、全部フライパンの中に入れた。

「キムチってご飯に合うよねぇ……男の子はみんな豚キムチ炒めが大好きなんだよ」

 隼斗君が言うんだから間違いない。
 私もアイ美ちゃんも「そうなんだー」と声を揃えた。

 豚肉とキムチがフライパンの中で綺麗にフュージョンしていく。
 ああ……これだけでも、ご飯何杯でもいけそうだ。
 キムチの水分がなくなってきたところで、隼斗君は一旦火を止めた。

「ここで甘めの味噌を投入して……」

 スプーン一杯分くらいの味噌を入れて、また火をつけた。
 今回は弱火だ。

「六原さん、ちょっと混ぜるように炒めてくれない? 白ゴマ取ってくる!」

 菜箸を受け取って、言われた通りに混ぜ合わせる。
 アイ美ちゃんはメモを書くのをやめて、味噌と混ざり合う様子を見ていた。

「あったよ! 白ゴマ追加しまーす!」

 隼斗君はひとつまみの白ゴマを回すように入れた。私は隼斗君に菜箸を返す。
 あ、もうご飯のチンが終わっているはずだ。

「あちち……よし、ほかほかだわ」

 電子レンジの中から熱を帯びた丼を取り出し、ラップを外す。
 蒸気が一斉に浮かび上がってくると、お米の良い香りがしてきた。

「こっちも完成だ! 六原さん、ご飯持ってきて!」
「あ、はい!」

 ベストタイミングだ……今ちょうど持っていこうとしたところ。
 そのままキッチンまで運ぶ。

「そしたらこの豚キムチ炒めを……このご飯の中に……」

 隼斗君はフライパンを持ち上げて、ほかほかご飯の中に全部入れた。

「え、入れちゃうの?」

 思わず声を漏らしてしまった。
 アイ美ちゃんも私と同じように驚いている。
 おにぎりの中に入れるんじゃないのか……混ぜご飯にするんだ……。

「そうそう! 混ぜご飯の方が味がガツンとくるからね! スポーツ男子にはピッタリさ!」

 隼斗君はしゃもじで豪快に混ぜ合わせていった。
 ご飯が豚キムチ色に染まっていったら、完成。
 いよいよ握り始めるみたいだ。
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