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二章 憧れの先輩は陸上部 ~後押しする、豚キムチーズ~

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「サヤちゃん、六年生の山久やまひさ君って知ってる?」
「山久君? ごめん、わからない」
「そうだよね。山久君とは幼稚園からの付き合いで……仲が良いの。山久君、今は陸上部に入ってるんだ」
「陸上部の先輩?」
「あ、私は陸上部じゃないんだけど……山久君のことが好きだから、応援してるの」

 アイ美ちゃん、一学年上の先輩が好きなんだ。なんか大人だな……。
 まさかの恋の悩みに、ちょっと興味が湧いてきた。
 前のめりになって、アイ美ちゃんに聞いてみる。

「それで、アイ美ちゃんはどうして悩んでるの?」
「……うん。最近、山久君の調子が悪いの。いつも都大会まで進むくらい足が速いんだけど……ここのところ予選敗退が続いていて」
「あぁ、それは心配だね」
「山久君、どんどん元気なくなっちゃうし……私に何かできることがないか考えてるんだけど……何も思い浮かばなくて」

 なるほど……それで元気がなかったんだ。
 好きな人のために何かしてあげたいだなんて、とても素敵。

「そっかぁ……アイ美ちゃん、山久君のこと大好きなんだね」
「……とっても優しくて、爽やかで、友達想いで……憧れの人なんだ」

 落ち込んでいたアイ美ちゃんだったけど、山久君の話をしている時は目が輝いている。
 アイ美ちゃん、山久君のこと、本当に好きなんだね。
 うーん……何か私にもできることがないだろうか……。
 とにかく、一緒に考えてあげよう。

「アイ美ちゃんから励ましてもらうだけで、だいぶ力になると思うけどな……」
「……そうかな。私の言葉なんかじゃ、そこまで響かないよ」

 そんなことないのに……。
 アイ美ちゃんは自分に自信が持てないタイプの人間みたいだ。
 そのネガティブ思考、私と似ている。
 何か他の案はないかな……。

「……あ」

 そうだ、良いこと思いついた!
 ブランコから飛ぶように立ち上がる。

「サヤちゃん、何かひらめいたの?」
「うん! 山久君の次の大会っていつ?」
「えーと……次の春季大会は……確か一週間後だったはず」

 一週間後か……間に合うかな?
 でも、きっと大丈夫。
 私はアイ美ちゃんに続けて質問した。

「アイ美ちゃん、おにぎりは好き?」
「おにぎり? 好きだけど……」
「山久君も好きだよね? おにぎり」
「ま、まあ……おにぎり嫌いな人はあんまりいないと思うけど……」

 私はニヤケ顔で「だよね」と返した。
 アイ美ちゃんは察したのか、「まさか?」と聞いてくる。

「そのまさかよ! 山久君に、美味しいおにぎりを食べてもらおう! きっと元気になるから!」
「おにぎり? 私が握るの?」
「そうそう! アイ美ちゃんが作ったおにぎりを食べたら、山久君も大会頑張れると思うな」

 アイ美ちゃんは「私に作れるかなぁ」と弱々しく呟いた。

 不安になるのもわかる。
 でも大丈夫!

 こっちには、おにぎり王子がついているから!
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