上 下
12 / 55
二章 憧れの先輩は陸上部 ~後押しする、豚キムチーズ~

しおりを挟む
 亡くなったおばあちゃんの影響……か。
 悲しくさせてしまったかと隼斗君を見てみたら、むしろケロッと笑っていた。

「ばあちゃんが握るおにぎりは……みんなに笑顔と勇気を与えていたんだ!」

 笑顔と勇気……。
 確かに、こないだ隼斗君が握ったおにぎりは、クラスを一つにした。
 おばあちゃんの影響で、あんなに愛情がこもったおにぎりが握られるようになったんだ。

 私のためにどんどんお寿司を握っているお父さんの方を見てみると、ちょっぴり悲しそうな表情になっていた。
 私はお父さんが可哀想に思えて、「お寿司にもそういう力はありますよ!」と言ってあげた。

「サヤちゃん、フォローありがとう。いいんだ、隼斗がやりたいようにやってくれたら」

 隼斗君は悲しませてしまったことに気づいたのか、「もちろんお寿司も好きだよ!」と急いで付け足した。
 お寿司よりもおにぎりが好きになって、お父さんは少し複雑だろうな……。
 お父さんは気を取り直すように「いっちょあがり!」と言って、お皿の上に置かれたお寿司たちを食べるように促した。
 マグロやサーモン、イクラ軍艦にエビにイカ……そのどれもが新鮮で美味しそう。
 こんな贅沢なお寿司……この先食べることができるのだろうか。

 お父さんも隼斗君も、私が美味しく食べているところを見て微笑んでいる。
 このお店、すぐに人気が出るだろうな……店内を見渡しながらそう考えていた時、お父さんがお店の歴史を話してくれた。

「この店はな、最初は北海道でおにぎり屋として始めたんだ。隼斗のおばあちゃんがな」
「あ、そうなんですか?」
「そうだ。お父さんも小さい頃は、よく店を手伝わされたもんだ……」

 じゃあ、お父さんも子供の時はおにぎりを握っていたってことか……。
 今の隼斗君みたく、おにぎりを握っていたみたいだ。

「おばあちゃんのおにぎりは地域の人に愛されて、すごくすごく人気だった……だけど、コンビニやらスーパーやらがたくさんできて、徐々に客足が減っていってな……」

 おにぎりが安く、手軽に食べられるようになったんだ……。
 それで、お父さんがお寿司屋として店を継いだ……ってことか。

「ちょうど同じ地域にお寿司屋がなかったから、店はすぐに繁盛した。それと同時におばあちゃんは、隼斗におにぎりを教えたんだ」

 隼斗君は「おばあちゃんのおにぎりの味は、俺が受け継ぐんだ」と言って私の方を見た。
 おばあちゃん、おにぎりの愛を孫である隼斗君に伝えたんだ……。
 おにぎり愛を、断ち切りたくなかったんだね。
 隼斗君は強い目力だったのに、急にしょぼんとし始める。

「隼斗君? どうしたの?」
「半年前にばあちゃんが死んで……それで東京に来たんだけど、ばあちゃんのこと思い出しちゃって……」

 隼斗君は泣きそうな顔をしている。
 あんなに笑顔だったのに、悲しみが押し寄せてきたみたいだ……。

「泣くな隼斗。おばあちゃんが言っていただろう? この『わかさ』をもっともっと大きくしてほしいって」
「……そうだね。だからこっちに来たんだもんね」
「そうだ。父さんはお寿司頑張るから、隼斗もおばあちゃんの想いを継いで、日本一のおにぎりを作ろうな」

 素敵な親子愛だ……この家族には、夢がある……。
 私はお寿司を食べながら、感動してしまった。
 お父さんも隼斗君も、おばあちゃんの想いを背負って、東京に来たんだね。

 私も隼斗君の夢の助けになりたい。
 二人の会話と、このお店の歴史を知ったら、そう思えてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

原田くんの赤信号

華子
児童書・童話
瑠夏のクラスメイトで、お調子者の原田くん。彼は少し、変わっている。 一ヶ月も先のバレンタインデーは「俺と遊ぼう」と瑠夏を誘うのに、瑠夏のことはべつに好きではないと言う。 瑠夏が好きな人にチョコを渡すのはダメだけれど、同じクラスの男子ならばいいと言う。 テストで赤点を取ったかと思えば、百点満点を取ってみたり。 天気予報士にも予測できない天気を見事に的中させてみたり。 やっぱり原田くんは、変わっている。 そして今日もどこか変な原田くん。 瑠夏はそんな彼に、振りまわされてばかり。 でも原田くんは、最初から変わっていたわけではなかった。そう、ある日突然変わり出したんだ。

甘い香りがする君は誰より甘くて、少し苦い。

めぇ
児童書・童話
いつもクールで静かな天井柊羽(あまいしゅう)くんはキレイなお顔をしていて、みんな近付きたいって思ってるのに不愛想で誰とも喋ろうとしない。 でもそんな天井くんと初めて話した時、ふわふわと甘くておいしそうな香りがした。 これは大好きなキャラメルポップコーンの匂いだ。 でもどうして? なんで天井くんからそんな香りがするの? 頬を赤くする天井くんから溢れる甘い香り… クールで静かな天井くんは緊張すると甘くておいしそうな香りがする特異体質らしい!? そんな天井くんが気になって、その甘い香りにドキドキしちゃう!

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

こちら御神楽学園心霊部!

緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。 灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。 それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。 。 部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。 前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。 通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。 どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。 封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。 決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。 事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。 ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。 都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。 延々と名前を問う不気味な声【名前】。 10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。 

大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。

takemot
児童書・童話
 薬草を採りに入った森で、魔獣に襲われた僕。そんな僕を助けてくれたのは、一人の女性。胸のあたりまである長い白銀色の髪。ルビーのように綺麗な赤い瞳。身にまとうのは、真っ黒なローブ。彼女は、僕にいきなりこう尋ねました。 「シチュー作れる?」  …………へ?  彼女の正体は、『森の魔女』。  誰もが崇拝したくなるような魔女。とんでもない力を持っている魔女。魔獣がわんさか生息する森を牛耳っている魔女。  そんな噂を聞いて、目を輝かせていた時代が僕にもありました。  どういうわけか、僕は彼女の弟子になったのですが……。 「うう。早くして。お腹がすいて死にそうなんだよ」 「あ、さっきよりミルク多めで!」 「今日はダラダラするって決めてたから!」  はあ……。師匠、もっとしっかりしてくださいよ。  子供っぽい師匠。そんな師匠に、今日も僕は振り回されっぱなし。  でも時折、大人っぽい師匠がそこにいて……。  師匠と弟子がおりなす不思議な物語。師匠が子供っぽい理由とは。そして、大人っぽい師匠の壮絶な過去とは。  表紙のイラストは大崎あむさん(https://twitter.com/oosakiamu)からいただきました。

処理中です...