転校生はおにぎり王子 〜恋の悩みもいっちょあがり！～

一章 おにぎり王子降臨！ ～心を奪う、ツナのゴマ味噌マヨネーズ～

⑥

「みんなお待たせ！　給食のおばちゃん連れてきた！」

　隼斗君が、さっき全校集会で紹介された給食のおばちゃんの手を引いている。
　え、どういうこと？
　田尻先生は机から立って、驚きのリアクションを見せている。
　手で口を隠すようにして、隼斗君に聞く。

「隼斗君！？　どうして給食の松本まつもとさんがいらっしゃるの！？」

　松本さん……？　あ、あの給食のおばちゃん、松本さんって言うんだ。

「先生、俺さ、おにぎりを作るのが得意なんだ！」

　隼斗君、何を言い出すの？
　田尻先生は困惑しながら「それがどうしたの？」と聞いた。

「転校初日だしさ、クラスのみんなにおにぎりを作ってあげたいなって！」

　みんなにおにぎりを！？　クラスのみんなは拍手喝采だ。
　確かに、すごく面白そう。隼斗君のおにぎり、すごく美味しかったし。
　田尻先生は「そうきたか～」と悩ましく頭を抱えている。
　松本さんも助け船を出すように話し出した。

「田尻先生、この子のおにぎり愛は相当よ！　話を聞いていたら、ちょっと協力してあげたくなってね」
「もう、松本さん。赴任してきたばかりなのに、そんな勝手なことしていいんですか？」
「転校生がクラスに馴染むためなんだし、いいじゃない」

　隼斗君は松本さんを見ながら「うんうん」と頷いている。
　大きな味方ができたみたいだ。

「俺たちもおにぎり食べてみたーい！」
「隼斗君のおにぎり、絶対美味しいじゃん！」
「だってお寿司屋の息子でしょー！？」

　クラスのみんなからの声に我慢できなくなった田尻先生は、手と手をパチンと合わせて静かにさせる。

「わかったわよ！　それで、隼斗君は松本さんまで呼んで、どうする気？」
「いや、おばちゃんから必要な材料をもらおうと思って」
「良いんですか、松本さん？」

　田尻先生に「もちろんよ」と返す松本さん。
　松本さんは給食台車にのせて持ってきた、ステンレス製の給食用バットを教室に運ぶ。

「これ、転校生ちゃんから注文を受けたものよ。全部揃えたからね！」
「ありがとうおばちゃん！　俺、若佐 隼斗って言うんだ！　これからよろしくね！」
「もう、孫みたいで可愛いわぁ。顔もカッコイイし……いつでも頼ってね」

　隼斗君は松本さんにウインクをして微笑んだ。
　松本さんは心臓を射抜かれたようにクラッとしながら、教室から出て行った。
　あーあー、給食のおばちゃんまで虜にしちゃったよ……隼斗君ったら。

「じゃあ田尻先生、早速作っちゃっていいかな！？」
「みんなは本当に良いのね？」

　田尻先生が聞き、すぐに生徒全員が首を縦に振る。
　みんなが楽しみに隼斗君のおにぎりを待っていた。
　隼斗君は長袖Ｔシャツの袖を捲る。気合が入ったみたいだ。

「その前に……六原さん！　手伝ってくれない！？」