転校生はおにぎり王子 〜恋の悩みもいっちょあがり!~

成木沢 遥

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一章 おにぎり王子降臨! ~心を奪う、ツナのゴマ味噌マヨネーズ~

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 恥ずかしい……。
 大きい音が私の周りに響いた。みんなちょっと笑っている。
 顔から火が出る思いだ。穴があったら入りたい。

 私は机に顔を伏せた。
 後ろの席だから、田尻先生には見つからないだろう。
 もう……やっぱり朝ご飯、食べてくれば良かった。食パンくらいだったら食べる時間があったのに……。
 激しく後悔する。

「ということで、この後始業式がありまして……その後からは早速授業が始まっていきますからね……」

 今日のスケジュールを発表した田尻先生。同時にチャイムが鳴った。
 田尻先生は「じゃあ一旦休憩」と言って教室を出て行く。
 自由時間になると、すぐにガヤガヤし始めた。

「六原さん!」
「え、何!?」

 またビクッとしてしまう。
 声の主は隼斗君だった。今度は何だろう……。

「これ、良かったら食べて! ただの塩おにぎりだけど」

 ラップにくるまった、シンプルな塩おにぎり。
 あ、やっぱりお腹の音、聞こえてたんだ……。

「いやぁー、俺さっきお腹鳴っちゃってさ。六原さん、もしかして聞こえた?」
「え、ええ?」
「まあいいや! 二つ握ってきたから、六原さんにもあげるよ」

 それを聞いていた周りのみんなが「あの音隼斗君だったんだー!」と笑いながら話に入ってきた。
 隼斗君……私のこと庇ってくれたんだ。

「六原さんにいろいろ教えてもらったから、そのお礼だよ。みんなにも今度握ってくるね!」

 みんながはしゃぐように喜ぶ。特に女の子は、まるでファンサービスを受けているかのように嬉しそうだった。
 すごい……こんなに短時間でみんなから好かれるなんて。
 私は我慢できなくなって、塩おにぎりに一口かぶりついた。

 え……何この味……。
 お米は冷たくなっているのに、一粒一粒に魂がこもっているみたい。
 もっちりして、塩っけも抜群で……そもそもお米って、こんなに美味しかったっけ?

「美味しいでしょー? それは北海道米の中で一番美味しいやつなんだ!」
「北海道のお米なんだ……」
「そうそう! しかもウチは炊き方にもこだわってるからねー」

 自慢気に話す隼斗君。そうだ、あのお寿司屋の息子なんだっけ。
 だからこんなに美味しいおにぎりが握れるんだ。
 私はモリモリと食べ進め、ものの五分で完食した。
 良かった……このまま給食の時間まで我慢なんてできなかったから。

「ありがとう隼斗君! こんなに美味しいおにぎり食べたことないよ!」

 気がつくと、大きい声で隼斗君に感謝していた。
 みんなも「六原さん、良かったね!」と声をかけてくれる。
 隼斗君は話の中心になって、家のお寿司屋のこととか、北海道のこととかを話してくれた。

 何だか、隼斗君のおかげでクラスに馴染めた気がする。
 いや、隼斗君がこの空気を作ってくれたんだ。
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