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一章 おにぎり王子降臨! ~心を奪う、ツナのゴマ味噌マヨネーズ~
①
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柔らかい風が木々を揺らす、春。
私は今日から小学五年生になる。
「サヤ! 始業式早々に遅刻だなんて、恥ずかしいわよ!」
お母さんの大声で目が覚めた。
せっかく夢の中でイケメンの王子様が私の手を握ってくれていたのに……無理矢理起こされてしまった。
枕元の時計を見てみる。
「ウソッ! もうこんな時間!?」
私は飛び上がるようにベッドから出た。
お母さんが怒るのも無理はない……急がないと本当に遅刻しちゃう。
「サヤ、ご飯は!?」
「いらない! 遅刻しちゃうもん!」
急いで着替える。そのままの勢いのまま、くしではねた髪を乱暴にとかした。歯磨きも洗顔も五分で終わらせる。
お母さんは溜息をついて呆れていた。
「寿矢はもう学校行ったわよ。お姉ちゃんなんだからしっかりしないと」
寿矢というのは、私の二個下の弟。今日から小学三年生だ。
だったらもっと早く起こしてよー! と、言いたいところだったけど、悪いのは私だ。
ただでさえ新クラスの発表があるから早く行かなきゃいけないのに……遅刻なんかしたら恥ずかしい。
ああ、どうして私は、こんなにそそっかしいのか……。
「いってきます!!」
全力疾走を見せる私。まだ走れば間に合う。
というか、そもそもどうして私は寝坊なんかしてしまったのか……普段は絶対にしないのに。
走りながら原因を考えていたら、昨日の夜にお父さんから言われた言葉を思い出した。
『父さんな、もしかしたら北海道の支店に転勤になるかもしれない。そしたら家族で引っ越しだな』
……そうだ。
大好きなこの街から、離れるかもしれない。
それが嫌で嫌で、考え込みながらベッドに入ったら眠りにつくのが遅くなったんだ。
だから寝坊した。すっかり忘れていた。
「そっか……もしかしたら、転校しちゃうかもしれないんだ……」
信号待ちしている間に、つい俯いてしまった。
通い慣れたこの道とも、おさらばになってしまうのか……新しい学校に慣れる自信もないし……嫌だなぁ。
憂鬱な気持ちのまま前を向くと、とっくに信号は青に変わっていた。
早歩きで横断歩道を渡る。
ん? あんなところにお店なんかあったっけ?
交差点の角に、新しく何かのお店ができている。
お店の前には豪華な花が飾られてあった。
「こら隼斗! 家から米がなくなっちゃうでしょ!」
「ま、また炊けばいいだろ! 俺、学校行かなくちゃだから!」
お店の引き戸が開き、中からものすごい勢いで男の子が出てきた。
家からお米がなくなるって……そんなに食いしん坊なのかな? あんまり大食いには見えないけど。
あの子もお母さんに怒られてから家を飛び出した。
私と一緒だ……。
男の子はこっちの方に向かってくる。
すれ違うように、私が来た道の方に行った。すれ違った瞬間、涼しい風が吹いたような気がした。
明らかに小学生だと思うけど……あっちの方向に学校なんてあったかな?
……まあいいや。
あのお店、看板を見る限りお寿司さんみたいだ。
あー、お腹空いた。やっぱり何か食べてくれば良かったなぁ。
いや、そんなこと言ってる場合じゃない……早く行かないと!
私は今日から小学五年生になる。
「サヤ! 始業式早々に遅刻だなんて、恥ずかしいわよ!」
お母さんの大声で目が覚めた。
せっかく夢の中でイケメンの王子様が私の手を握ってくれていたのに……無理矢理起こされてしまった。
枕元の時計を見てみる。
「ウソッ! もうこんな時間!?」
私は飛び上がるようにベッドから出た。
お母さんが怒るのも無理はない……急がないと本当に遅刻しちゃう。
「サヤ、ご飯は!?」
「いらない! 遅刻しちゃうもん!」
急いで着替える。そのままの勢いのまま、くしではねた髪を乱暴にとかした。歯磨きも洗顔も五分で終わらせる。
お母さんは溜息をついて呆れていた。
「寿矢はもう学校行ったわよ。お姉ちゃんなんだからしっかりしないと」
寿矢というのは、私の二個下の弟。今日から小学三年生だ。
だったらもっと早く起こしてよー! と、言いたいところだったけど、悪いのは私だ。
ただでさえ新クラスの発表があるから早く行かなきゃいけないのに……遅刻なんかしたら恥ずかしい。
ああ、どうして私は、こんなにそそっかしいのか……。
「いってきます!!」
全力疾走を見せる私。まだ走れば間に合う。
というか、そもそもどうして私は寝坊なんかしてしまったのか……普段は絶対にしないのに。
走りながら原因を考えていたら、昨日の夜にお父さんから言われた言葉を思い出した。
『父さんな、もしかしたら北海道の支店に転勤になるかもしれない。そしたら家族で引っ越しだな』
……そうだ。
大好きなこの街から、離れるかもしれない。
それが嫌で嫌で、考え込みながらベッドに入ったら眠りにつくのが遅くなったんだ。
だから寝坊した。すっかり忘れていた。
「そっか……もしかしたら、転校しちゃうかもしれないんだ……」
信号待ちしている間に、つい俯いてしまった。
通い慣れたこの道とも、おさらばになってしまうのか……新しい学校に慣れる自信もないし……嫌だなぁ。
憂鬱な気持ちのまま前を向くと、とっくに信号は青に変わっていた。
早歩きで横断歩道を渡る。
ん? あんなところにお店なんかあったっけ?
交差点の角に、新しく何かのお店ができている。
お店の前には豪華な花が飾られてあった。
「こら隼斗! 家から米がなくなっちゃうでしょ!」
「ま、また炊けばいいだろ! 俺、学校行かなくちゃだから!」
お店の引き戸が開き、中からものすごい勢いで男の子が出てきた。
家からお米がなくなるって……そんなに食いしん坊なのかな? あんまり大食いには見えないけど。
あの子もお母さんに怒られてから家を飛び出した。
私と一緒だ……。
男の子はこっちの方に向かってくる。
すれ違うように、私が来た道の方に行った。すれ違った瞬間、涼しい風が吹いたような気がした。
明らかに小学生だと思うけど……あっちの方向に学校なんてあったかな?
……まあいいや。
あのお店、看板を見る限りお寿司さんみたいだ。
あー、お腹空いた。やっぱり何か食べてくれば良かったなぁ。
いや、そんなこと言ってる場合じゃない……早く行かないと!
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