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㉒
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遥か数千キロ上空を飛ぶ飛行機の音だけが、耳に入る。
完全に思考が停止してしまう僕。見かねた麻衣香が、話を続けてくれた。
「アメリカの大学病院でね、事例のない病気の研究も含めた治療を進めるんだって」
「……も、もう帰ってこないの?」
「さあね。家族みんなで移住するらしいから、しばらくは戻ってこないんじゃない?」
より最先端の医療技術を求めて、アメリカに行くっていうのか?
確かに向こうの研究技術や研究スピードも凄そうだけど……遠い国まで行ってしまうなんて。
今度は体が硬直して、動かなくなってしまう。
「あのさ、早織がどういう想いで、あんたと一緒に卒業したかったか、わかる?」
「早織ちゃんの……想い?」
「あんたも早織も、神様から嫌われたかもしれない。それでも、人生で一度の中学生活でしょ? 早織は負けたくなかったの……病気なんかに」
それは、僕も一緒だ。神様を恨んで、運命を憎んだ。
どうして僕だけって……そう思ってた。
それはきっと、早織も一緒だ。何とか治療して、最後の期間だけでも学校に通えるようになって、卒業式に出よう……ちょっとでも悪戯な運命に抗って、人生の思い出を残そうと、そう思ったのか。
引きこもっていた僕を知って、同じ境遇の僕を学校に連れ出した。僕が引き起こす、雨涙現象に負けてほしくないから。
思えば、学校に行くようになってから、早織はずっと僕を勇気づけてくれていた。
久しぶりに外に出るようになったのは、早織のおかげだ。早織がいなかったら、日の光や空気のニオイだって忘れたままだった。
「早織は病気なんかに屈しない。とてもポジティブなのよ。あんたと違ってね」
「……そうだね」
「早織は、あんたの降らせる雨がすごく好きだって言ってた。どうして? って聞くと、笑いながら『優しいから』だって言ったわ」
早織……麻衣香にもそんなことを。
僕の前だけで言っていたわけではない……つまりは本心でそう思ってくれているということ。
僕は……どうしてこんなに弱いんだ。
「あんたはもう泣きたくないって思ってるかもしれないけど、早織は泣いてほしいんだよ。自分に正直に、我慢して生きてほしくないんだよ。あんたは今どうしたいの? ずーっとベッドの中にいたいの?」
「それは……嫌だよ」
「でしょ? 早織のお母さんに断られたくらいで、諦めるの? 早織、アメリカ行っちゃうよ?」
握りしめている両手に力が入る。抑圧された世界で生きていくのは……絶対に嫌だ。
早織の笑顔を思い出して、僕は真っ直ぐ麻衣香を見た。
「僕、もう一度、頼みに行ってくる!」
完全に思考が停止してしまう僕。見かねた麻衣香が、話を続けてくれた。
「アメリカの大学病院でね、事例のない病気の研究も含めた治療を進めるんだって」
「……も、もう帰ってこないの?」
「さあね。家族みんなで移住するらしいから、しばらくは戻ってこないんじゃない?」
より最先端の医療技術を求めて、アメリカに行くっていうのか?
確かに向こうの研究技術や研究スピードも凄そうだけど……遠い国まで行ってしまうなんて。
今度は体が硬直して、動かなくなってしまう。
「あのさ、早織がどういう想いで、あんたと一緒に卒業したかったか、わかる?」
「早織ちゃんの……想い?」
「あんたも早織も、神様から嫌われたかもしれない。それでも、人生で一度の中学生活でしょ? 早織は負けたくなかったの……病気なんかに」
それは、僕も一緒だ。神様を恨んで、運命を憎んだ。
どうして僕だけって……そう思ってた。
それはきっと、早織も一緒だ。何とか治療して、最後の期間だけでも学校に通えるようになって、卒業式に出よう……ちょっとでも悪戯な運命に抗って、人生の思い出を残そうと、そう思ったのか。
引きこもっていた僕を知って、同じ境遇の僕を学校に連れ出した。僕が引き起こす、雨涙現象に負けてほしくないから。
思えば、学校に行くようになってから、早織はずっと僕を勇気づけてくれていた。
久しぶりに外に出るようになったのは、早織のおかげだ。早織がいなかったら、日の光や空気のニオイだって忘れたままだった。
「早織は病気なんかに屈しない。とてもポジティブなのよ。あんたと違ってね」
「……そうだね」
「早織は、あんたの降らせる雨がすごく好きだって言ってた。どうして? って聞くと、笑いながら『優しいから』だって言ったわ」
早織……麻衣香にもそんなことを。
僕の前だけで言っていたわけではない……つまりは本心でそう思ってくれているということ。
僕は……どうしてこんなに弱いんだ。
「あんたはもう泣きたくないって思ってるかもしれないけど、早織は泣いてほしいんだよ。自分に正直に、我慢して生きてほしくないんだよ。あんたは今どうしたいの? ずーっとベッドの中にいたいの?」
「それは……嫌だよ」
「でしょ? 早織のお母さんに断られたくらいで、諦めるの? 早織、アメリカ行っちゃうよ?」
握りしめている両手に力が入る。抑圧された世界で生きていくのは……絶対に嫌だ。
早織の笑顔を思い出して、僕は真っ直ぐ麻衣香を見た。
「僕、もう一度、頼みに行ってくる!」
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