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 一晩眠って、また朝が来た。
 昨日は久しぶりに体を動かしたから、ベッドに入った途端に秒で眠りにつけた。
 一応かけておいたアラームの音で起きる。最悪寝過ごしてもいいかと思っていたけど、頭の片隅に早織の存在があった。
 やっぱり、学校には行かないとな……。
 早織と、先生とも約束しちゃったし。

 それにしても、こんなにスッキリと起きられた朝は、未だかつてあっただろうか……。
 頭が妙に冴えている。
 外は快晴で、朝から気分が良かった。
 
「あ、優雨君おはよー!」

 教室に入るや否や、すぐに早織が笑顔で出迎えてくれる。
 早織はいつも元気だな……大病を患っているというのに、こんなに気丈に振舞えるなんて、僕にはできない。

「おい優雨! こんなにいい天気なんだから、今日は絶対に泣くんじゃないぞ!」

 またこの子か。ガタイの大きい男の子。名前は覚える気にもならない。
 それに絶対に泣くななんて脅し、今の僕には通用しない。
 だって、あの頃と違って、僕は泣かない体になったから。
 僕はこの期間で、我慢することを覚えたんだ。
 涙なんか流さない。今はその気持ちが根強くある。泣かない自信もある。

「わかってるよ。もう泣かないから安心して」

 ぶつくさと文句を言いながら、男の子は自分の席に戻っていく。
 朝から嫌な気分だな、本当に。もう今日は帰りたいや。
 溜息をつきながら自分の席に座ると、トコトコと僕の席まで早織が歩いてきた。

「優雨君……」
「どうしたの?」
「い、いや……何でもない! 放課後の補習授業、頑張ろうね!」

 早織が発言を躊躇ったのがハッキリと伝わった。
 何か言いたいことがあったのだろうか……気になるけど、深追いするのは恥ずかしい。
 特に気にするのはやめて、適当に授業を聞き流して一日を終えようと心に決める。
 そうすれば、早織と二人きりで受ける補習の時間だ。
 何気に、楽しみにしてしまっている。

 ――あっという間に授業は終わった。

 半分寝ていたけど、中には面白い授業もあった。
 小学校の授業とはやっぱり違うと、再確認する。
 そしていよいよ放課後。補習の時間。
 僕と早織はあまり使われていない視聴覚室に呼び出され、補習を受けることになった。

 最初は補習授業と聞いていたので、また授業形式で先生が教えてくれるんだと思っていたけど、実際は違った。
 実際は授業で使った問題プリントを何枚か渡され、あとは勝手に解いていくという自習スタイルだった。先生の監視とかはなく、早織と二人きりだ。
 緊張感の欠片もない。ただ早織と、プリントを解くだけ。
 まあ、早織といるだけで幸せだし、全く異論はなかった。
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