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最終日
浮遊霊が行き着く不思議な山カフェ⑧
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ドレス……? 恵那の頭の中は、疑問に満ち溢れていた。
あの時近くに居たのにも関わらず、ドレスを着た女性なんて目に入らなかった。
いや、気づいた時にはリュウはもう走り出していたから、視界に捉えることができなくてもおかしくはないけど、そんな派手な人が現れたら目に入るはずだ。
恵那は色々聞こうと前のめりになったが、それよりも藤沢の方が食い気味で、質問を投げた。
「リュウ君。そのドレスの女性は、何と言った?」
「え、えーと、あなたたち、私を探しているの……って聞かれた気がします」
「その女性の、顔は見た?」
「いや、見えないですよ! 声をかけられた瞬間に、即ダッシュしました! だって、めっちゃ怖いんですもん!」
話しながら涙目になっているリュウは、鳥肌も治まっていない様子だ。
確かにあの時のリュウの顔は、恵那の目線からでも、ただならぬ恐怖を感じていた顔だった。
一体、リュウのことをここまで混乱させた女性の正体とは……何者なのか。リュウからひと通り説明を聞いた藤沢が、ある程度考えた後に、また質問をした。
「リュウ君、もう一つ質問をさせてくれ。その女性のドレスは、何色だった?」
「……真っ赤でした。間違いなく」
「やはり真っ赤……か」
藤沢は心に覚えがあるのだろうか、真っ赤なドレスと聞いて、すぐに納得した表情に変わった。
その表情はどこか虚ろ気で、事態を飲み込めていない表情でもある。
パニックまではいかないけど、藤沢は無の表情になったまま、しばらくその場を動こうとしなかった。
今度は藤沢のことを心配に思った恵那が、藤沢の肩をツンツンしながら問いかける。
「藤沢さん? どうしたんですか?」
すぐには反応をしてくれない藤沢は、まるで充電が切れたみたいだった。
思わずリュウの方を見ると、リュウも首を傾げながら、藤沢を見ている。
一体何を考えているのかわからないけど、藤沢の動きが急停止していること自体がホラーだろう。リュウも一緒になって、肩を揺さぶろうとする。
ーーもう一度大きい声で藤沢の名前を呼ぼうとしたその時、例のごとく突発的な雷雨がその場を襲い出した。
人一人なら簡単に吹き飛んでしまいそうな風速に、恵那は藤沢の袖を引っ張りながら、山小屋に入ろうと試みる。
「え! どうして急に雨が!? 藤沢さん中入りますよ!」
「おい、恵那! 飛ばされちまうぞ! 無理矢理でもいいから連れて来い!」
「わかってるけど! 藤沢さん、全く動かないの!」
「何だって!? ちょっと藤沢さん! 目を覚ましてください!!」
山小屋の扉までは僅かに数メートル。
ついにはリュウの力も借りて引っ張ったら、ようやく藤沢が動き始めた。
そのまま扉を開けて、玄関に入る。
玄関の前で話していたというのに、三人共の髪の毛がビショビショになってしまった。
自我を取り戻した藤沢は、ここ数分の記憶が丸々ないみたいで、寝起きのように間の抜けた声で、事情を聞き出した。
「あれ、俺は一体……何をしていたんだ?」
”コン、コン”
あの時近くに居たのにも関わらず、ドレスを着た女性なんて目に入らなかった。
いや、気づいた時にはリュウはもう走り出していたから、視界に捉えることができなくてもおかしくはないけど、そんな派手な人が現れたら目に入るはずだ。
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「リュウ君。そのドレスの女性は、何と言った?」
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「その女性の、顔は見た?」
「いや、見えないですよ! 声をかけられた瞬間に、即ダッシュしました! だって、めっちゃ怖いんですもん!」
話しながら涙目になっているリュウは、鳥肌も治まっていない様子だ。
確かにあの時のリュウの顔は、恵那の目線からでも、ただならぬ恐怖を感じていた顔だった。
一体、リュウのことをここまで混乱させた女性の正体とは……何者なのか。リュウからひと通り説明を聞いた藤沢が、ある程度考えた後に、また質問をした。
「リュウ君、もう一つ質問をさせてくれ。その女性のドレスは、何色だった?」
「……真っ赤でした。間違いなく」
「やはり真っ赤……か」
藤沢は心に覚えがあるのだろうか、真っ赤なドレスと聞いて、すぐに納得した表情に変わった。
その表情はどこか虚ろ気で、事態を飲み込めていない表情でもある。
パニックまではいかないけど、藤沢は無の表情になったまま、しばらくその場を動こうとしなかった。
今度は藤沢のことを心配に思った恵那が、藤沢の肩をツンツンしながら問いかける。
「藤沢さん? どうしたんですか?」
すぐには反応をしてくれない藤沢は、まるで充電が切れたみたいだった。
思わずリュウの方を見ると、リュウも首を傾げながら、藤沢を見ている。
一体何を考えているのかわからないけど、藤沢の動きが急停止していること自体がホラーだろう。リュウも一緒になって、肩を揺さぶろうとする。
ーーもう一度大きい声で藤沢の名前を呼ぼうとしたその時、例のごとく突発的な雷雨がその場を襲い出した。
人一人なら簡単に吹き飛んでしまいそうな風速に、恵那は藤沢の袖を引っ張りながら、山小屋に入ろうと試みる。
「え! どうして急に雨が!? 藤沢さん中入りますよ!」
「おい、恵那! 飛ばされちまうぞ! 無理矢理でもいいから連れて来い!」
「わかってるけど! 藤沢さん、全く動かないの!」
「何だって!? ちょっと藤沢さん! 目を覚ましてください!!」
山小屋の扉までは僅かに数メートル。
ついにはリュウの力も借りて引っ張ったら、ようやく藤沢が動き始めた。
そのまま扉を開けて、玄関に入る。
玄関の前で話していたというのに、三人共の髪の毛がビショビショになってしまった。
自我を取り戻した藤沢は、ここ数分の記憶が丸々ないみたいで、寝起きのように間の抜けた声で、事情を聞き出した。
「あれ、俺は一体……何をしていたんだ?」
”コン、コン”
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