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最終日

浮遊霊が行き着く不思議な山カフェ⑦

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 冷たい風を背中に感じたリュウは、即座に後ろを振り向く。
 リュウの二メートル後ろにいたのは、綺麗なドレスを着た、この場にはそぐわない格好をした女性だった。
 テレビでよく見る、真夏の風物詩の怖い映像みたいな登場のしかたで、リュウは一瞬言葉を失った。
 真っ赤なドレスが完全に視野に入った後、天に響くような絶叫が、リュウの口から飛び出す。

「ぎ、ぎゃあぁぁぁー!」

「え、リュウどうしたの!?」

 我を忘れる勢いで、来た道を下っていくリュウ。
 それについて行くように、恵那も走り出した。
 リュウの叫び声は、山彦となって連続で響き渡っている。
 先を走るリュウに、恵那は懸命に声をかけてみるも、叫ぶばかりで返答をしてくれない。足元が昨日の雨で滑りやすくなっているのに、リュウは転倒を怖がってはいなかった。

「ちょっとリュウ! 転ぶって!」

「もう嫌だー! こえーよー!」

「一回落ち着いて! 止まってよ!」

「無理ー! 足が止まらねぇー!」

 足の速いリュウに、恵那はついて行くのに必死だ。
 距離が開いてしまったとしても、見失わないようにしようと考えていた。
 こういう時の恵那は案外冷静で、周りのことが見えるようになっている。
 安直なリュウは、複雑な道に行こうとはせず、来た道を戻っているだけだったので、どこに向かいたいのか想像がついた。
 恵那の予想通り、リュウが減速し始めたのは、拠点の山小屋を見つけた時だった。

「ハァハァ、まじ怖かった」

「ちょっとリュウ! 何があったか説明して!」

「待って、呼吸整えさせて……」

 膝に手をついて、肩を上下に動かしながら呼吸を整えるリュウ。
 結局、目的地のお墓を見る前に、山小屋に戻って来てしまった。
 不甲斐ないリュウの様子を見ながら、呼吸が全く乱れていない恵那が、深い溜息をつく。
 騒ぎ立てるような二人の会話を聞きつけた藤沢が、慌てながら外へ飛び出してきた。

「何だ何だ! 二人共、何があったの!?」

「リュウが急に叫びながら、走り出したんです」

「お墓まで行けてないのに? リュウ君、何があったんだよ?」

「……だから、待ってください。呼吸が……」

 リュウが話せる状態ではないことは見てわかるけど、そんなことよりも何があったか早く知りたかった。
 普段は冷静な藤沢も、今回ばかりは急かしてしまう。
 酸素を十分に吸って、自分の間合いで話せるように時間を作っているリュウの横で、藤沢は立ったまんま貧乏ゆすりをしている。
 だいぶナーバスになっている藤沢に頭を下げながら、いよいよリュウが口を開いた。

「ド、ドレスを着た女性が……山の中にいたんです!」
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