上 下
84 / 97
最終日

浮遊霊が行き着く不思議な山カフェ⑤

しおりを挟む
「ごめんな。二人に頼るしかないんだ」

 藤沢から感謝されるなんてあんまりなかったから、恵那は頭を下げている藤沢に違和感を覚えた。
 だけど、ここまで良くしてもらったのは恵那の方だし、いずれにせよ助けになりたいと思っていたので、お墓に行くくらいは訳ないことだと思えている。
 恵那は、すでに食べ終えている恵那とリュウのお皿を台所に運びながら、前向きな口調で改めて了承した。

「わかりました。私たちに任せてください」

 シンクの上に汚れた皿を置いて、水に浸けておく。
 リュウもスイッチが入ったかのように立ち上がって、準備体操を始めた。
 やる気になってくれたことが嬉しかったのか、藤沢の表情が自然と和らいでいくみたいだ。
 連日同じ制服を着ているリュウに対して、藤沢は動きやすい服を貸してあげる。
 恵那も寝巻から着替えて、二人共外を歩く準備が万端になった。

「じゃあ、行ってらっしゃい。気をつけてな」

 藤沢に玄関前まで見送られて、山の中に躊躇なく入っていく。
 太陽の日差しが燦燦と照りつける中、恵那とリュウは目的地に向かって、ガタガタな足場をものともせずに進んでいた。
 恵那の右手には、しっかりと地図が握られている。

「おい、恵那。結構歩くのか?」

「うーんと、地図を見る限りでは、結構かかりそうだけど……でも、この地図じゃ距離感がわからないな」

「そうなのか。とりあえず目印まで歩くんだっけ?」

「そうだね。目印となる大きな木まで、真っ直ぐ歩けってさ」

 雑に書かれたルートに沿って、ブツブツ言いながら進んで行く二人。
 目印となる大きな木は、前に行ったハーブを育てているもう一つの小屋の近くにある。恵那は、大体の道筋がわかるとはいえ、その距離感については、掴めていない。
 湿っている地面や草に細心の注意を払いながら進んでいると、リュウが藤沢の話をまた持ち出した。

「そういえば昨日さ……藤沢さん、泣いてたよな」

「え? あ……うん。女の人の写真を見ながらね」

「ミマって言ってたよな。もしかしてこれから向かうのって、その人のお墓なのかな」

「私も……そうじゃないかって思ってる。私たちが行ったら、その人に会えるのかな」

「……ミマっていう人の、浮遊霊にか?」

「うん。私たちには、浮遊霊を寄せ付ける能力があると、藤沢さんは思ったのかもしれないね」

 恵那とリュウが揃ったと同時に、巴先輩の浮遊霊と会うことができた。
 きっと藤沢は、それが偶然ではなく、特殊能力だと思ったのかもしれない。
 単純に、恵那とリュウの巴先輩に会いたいという念の強さだけでは、浮遊霊には会えないはずだ。
 そこにヒントを見出して、藤沢が会いたいと思っている浮遊霊を迎えるために、そのお墓に恵那とリュウを送った。
 果たして、そのお墓の主である浮遊霊に、会うことができるのか……わからないけど、恵那の脈拍が高くなっているのは確かだった。
 急勾配な山道を歩きながらでも、リュウはさらに深く推理するように話している。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仕合わせの行く先~ウンメイノスレチガイ~

国府知里
キャラ文芸
~風のように旅する少女とその姿を追う王子がすれ違い続ける物語~  ひょんなことから王国行事をアシストした旅の少女。もう一度会いたい王子はその行方を求めるが、なぜかすんでのところで毎回空振り。いつしか狩猟本能の火が灯り、是か非でも会えるまで追い続けることに。その足跡を追うごとに少女の数奇な運命が暴かれて……?果たしてこのふたり、再会したらどうなっちゃうの? ~数奇な運命に翻弄されて旅をする少女の仕合わせの行く先を追う少女向けファンタジー~

その溺愛は伝わりづらい

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~

卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。 店主の天さんは、実は天狗だ。 もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。 「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。 神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。 仲間にも、実は大妖怪がいたりして。 コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん! (あ、いえ、ただの便利屋です。) ----------------------------- ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。 カクヨムとノベプラにも掲載しています。

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

しのぶ想いは夏夜にさざめく

叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。 玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。 世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう? その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。 『……一回しか言わないから、よく聞けよ』 世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神
キャラ文芸
この街には、都市伝説がある。魔法の絵があるらしい。それらを全て揃えれば、何だってできるとされている。だが注意しなければならない。魔法の絵を持つ者は、美術商に狙われる。 毎週土日祝日の、午後八時に更新します。ぜひ読んで、できればご感想の程、よろしくお願い申し上げます。

あやかし蔵の管理人

朝比奈 和
キャラ文芸
主人公、小日向 蒼真(こひなた そうま)は高校1年生になったばかり。 親が突然海外に転勤になった関係で、祖母の知り合いの家に居候することになった。 居候相手は有名な小説家で、土地持ちの結月 清人(ゆづき きよと)さん。 人見知りな俺が、普通に会話できるほど優しそうな人だ。 ただ、この居候先の結月邸には、あやかしの世界とつながっている蔵があって―――。 蔵の扉から出入りするあやかしたちとの、ほのぼのしつつちょっと変わった日常のお話。 2018年 8月。あやかし蔵の管理人 書籍発売しました! ※登場妖怪は伝承にアレンジを加えてありますので、ご了承ください。

もしも魔法少女5人が全員オタクだったら

ニカイドン
キャラ文芸
アニメ大好きヒーロー大好き!男勝りで熱苦しい少女―紅咲みずきは、ある日窓の外から部屋に飛び込んで来た謎の生物―ニューンと出会い、魔法少女としての力を手に入れる。彼女に課せられた使命は、強大な力を持つ”闇の使者”からこの世界を守ること……そして、総勢5人の魔法少女を集結させることにあった。 が、しかし、運命に導かれた5人の少女達は、みずきを含め全員が超のつくほどのオタク集団だった。 大切なものを守るために…… 向かいくる敵も、運命も、全て捻じ伏せる!!熱く、激しく……少女よ、その拳を刻み込め!! ※肉弾戦主体。流血など一部過激な表現が含まれています。あらかじめご了承ください。

処理中です...