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三日目
悲しき浮遊霊⑦
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「家族、ですか。そうですね……」
今度は巴先輩が、リュウの方をチラッと一瞥して、話しづらそうに口を紡いだ。
それを察したリュウは、巴先輩に「気にしないで話して」と小さく告げてくれた。
受け取った巴先輩は、目線を一度落とした後に、藤沢に向けて話すように切り替える。
きっと、この場にいる全員がわかっているだろう。
巴先輩がこれから話す本音は、恵那やリュウを悲しませてしまう内容になることを。
それでも、巴先輩が前に進むために、聞くしかない。
死までの過程を思い出すという、残酷なことを巴先輩は強いられていて、関係している人たちにも同じくらいの悲しみがある。
理解した上で藤沢は聞いているし、恵那とリュウは聞こうとしている。
この状況を受け止めた巴先輩は、人生を振り返るように、家族についての話を始めた。
「僕は……生まれながらにして、病弱な人間でした。何をやっても不器用で、自我が芽生えた頃には、そんな自分に絶望していました」
「自我が芽生えた頃って……巴様は、随分小さな時から、自分を客観視できていたということですか?」
「そうかもしれませんね。小学校高学年から、そんな感じでした。よく病院にも行ってましたし、親にも迷惑かけっぱなしで」
「小学生の頃から家族に気を使えるなんて……よっぽどの人にはできませんよ」
「いえ、そうすることでしか、生きる術がなかったんです。同級生に比べても明らかに能力が劣っているし、親に申し訳なく思う一方でした。元々僕には、生命力がなかったんです」
恵那は巴先輩の話を聞いていて、同感できることばかりだった。
小さい頃から、自分の能力の低さに幻滅してしまうのは、恵那も一緒だったから。
誰にぶつけることもできない自分自身への憤りを抱えて、自分を蔑んで生きていくしかなかった。
それが傍から見れば、気の使える優しい人間に映るのだろう。
本人の意思は、全くそうではないのに。
できることなら、自分も親に誇れるような、生んで良かったと思われるような、そんな人間になりたかった。
そうならなかったから、これだけ卑屈になって、家族の中の居場所に疑問を感じてしまうのだ。
巴先輩という人間の性格を知った藤沢は、改めて家族との距離感について問う。
「巴様は家族の中で、思うことがあったと?」
「……いや、小学生の時はまだ、家族の中で大きな憂鬱さはありませんでした」
「では、いつ頃からですか?」
「それは……」
今までは藤沢のことを直視していたのに、聞かれた途端急に目を逸らした。
巴先輩は再びリュウの方に視線を投げると、リュウは『わかっている』といったように頷く。
そのやり取りを見た藤沢と恵那は、これからの話でリュウが登場してくるのだろうと、容易に察することができた。
案の定、巴先輩が細い声で話し始めたのは、弟であるリュウについてで、大まかな現状を知っている恵那は、苦しみを感じながらでも聞くことにした。
今度は巴先輩が、リュウの方をチラッと一瞥して、話しづらそうに口を紡いだ。
それを察したリュウは、巴先輩に「気にしないで話して」と小さく告げてくれた。
受け取った巴先輩は、目線を一度落とした後に、藤沢に向けて話すように切り替える。
きっと、この場にいる全員がわかっているだろう。
巴先輩がこれから話す本音は、恵那やリュウを悲しませてしまう内容になることを。
それでも、巴先輩が前に進むために、聞くしかない。
死までの過程を思い出すという、残酷なことを巴先輩は強いられていて、関係している人たちにも同じくらいの悲しみがある。
理解した上で藤沢は聞いているし、恵那とリュウは聞こうとしている。
この状況を受け止めた巴先輩は、人生を振り返るように、家族についての話を始めた。
「僕は……生まれながらにして、病弱な人間でした。何をやっても不器用で、自我が芽生えた頃には、そんな自分に絶望していました」
「自我が芽生えた頃って……巴様は、随分小さな時から、自分を客観視できていたということですか?」
「そうかもしれませんね。小学校高学年から、そんな感じでした。よく病院にも行ってましたし、親にも迷惑かけっぱなしで」
「小学生の頃から家族に気を使えるなんて……よっぽどの人にはできませんよ」
「いえ、そうすることでしか、生きる術がなかったんです。同級生に比べても明らかに能力が劣っているし、親に申し訳なく思う一方でした。元々僕には、生命力がなかったんです」
恵那は巴先輩の話を聞いていて、同感できることばかりだった。
小さい頃から、自分の能力の低さに幻滅してしまうのは、恵那も一緒だったから。
誰にぶつけることもできない自分自身への憤りを抱えて、自分を蔑んで生きていくしかなかった。
それが傍から見れば、気の使える優しい人間に映るのだろう。
本人の意思は、全くそうではないのに。
できることなら、自分も親に誇れるような、生んで良かったと思われるような、そんな人間になりたかった。
そうならなかったから、これだけ卑屈になって、家族の中の居場所に疑問を感じてしまうのだ。
巴先輩という人間の性格を知った藤沢は、改めて家族との距離感について問う。
「巴様は家族の中で、思うことがあったと?」
「……いや、小学生の時はまだ、家族の中で大きな憂鬱さはありませんでした」
「では、いつ頃からですか?」
「それは……」
今までは藤沢のことを直視していたのに、聞かれた途端急に目を逸らした。
巴先輩は再びリュウの方に視線を投げると、リュウは『わかっている』といったように頷く。
そのやり取りを見た藤沢と恵那は、これからの話でリュウが登場してくるのだろうと、容易に察することができた。
案の定、巴先輩が細い声で話し始めたのは、弟であるリュウについてで、大まかな現状を知っている恵那は、苦しみを感じながらでも聞くことにした。
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◆◇◆◇
もくじ
【メインストーリー】
一章 財前姉妹
二章 闇メン
三章 護りのミサト!
四章 スノウドロップ
伍章 ジンギ!
六章 あなた好みに切ってください
七章 コバヤシ君の日報
八章 カラスたちの戯れ
【サイドストーリー】
1.西団地のヒロイン
2.厳重注意!
3.約束
4.愛さん
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