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三日目

悲しき浮遊霊⑤

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 ハーブティーを飲み終えてから話が始まるわけではなく、たった一口飲んだだけですぐに本題へ移った。
 巴先輩自らが一番、この現状について気になっていたのだろう。
 恵那とリュウが、この山カフェに在籍している理由を、急かすように藤沢に聞いてきた。
 藤沢は、その姿勢にそのまま応えるように、丁寧な語り口調で説明を始める。

「そうですね、そこから話を始めましょう。まず二人がこの山カフェに現れたのは、ここ数日のことです」

「最近……ですか」

「ええ。本来ならば、人間にはこの場所が見えないはずなのですが……二人には見えている。よく考えたら、巴様に会いたいという気持ちが強かったために、この山カフェに接触することができたのかもしれませんね」

「僕に会いたいがためにって……ちょっと待ってください。僕にもこの場所が見えているんですけど」

「巴様は、見えることができるでしょう。何故なら……」

「……何故なら?」

「巴様はもう、死んでいるからです」

 藤沢の声を、かき消したくなるほど、残酷な宣告。
 恵那は、耳を塞ぎたくなるような藤沢の言葉に、戸惑いを隠せなかった。
 まさか、こうもあっさりと現実を告げてしまうなんて……恵那にも身構えが必要だっただけに、巴先輩のことが尚更心配になる。
 すぐには理解できないはずの巴先輩は、取り乱しそうになるのを隠そうと必死だった。
 震える手でティーカップを持って、ハーブティーを飲みながら平静を装っているけど、青ざめた顔はパニック状態だということを物語っている。
 藤沢がその先に話を進めようとした時、一連の会話を聞いていたリュウがキッチンから乱暴に歩いてきて、藤沢に怒りをぶつけるように声を荒げた。

「ちょっと待ってくれよ! 兄貴が死んでるなんて、まだわからないじゃんか! こんなに人間の姿をしているのに」

「リュウ君、夜にここを訪れる人は、間違いなく浮遊霊だ。残念だけどね……」

「……そんな。だ、だったら、俺と同じように、このアロマの匂いを嗅いだら良いだろ! それでもし消えなかったら、まだ死んでないってことだよな?」

「そうだけど、リュウ君はいいのか? もし巴様がこの匂いを嗅いだら、成仏してしまうぞ。今日せっかく会えたのに、たった数分で消えて行ってしまってもいいのか?」

「だって……俺は兄貴が浮遊霊だと思っていないから……」

 藤沢とリュウの言い合いを、巴先輩は遠い目をしながら見ていた。
 何も口を挿まず、ただただ悲しそうにしながら、頭の中で必死に現状を整理しているみたいだ。
 恵那は、藤沢とリュウのやり取りに入っていくタイミングを見計らって、少し無言が生まれた瞬間に、大きな声で切り込んでいった。
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