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三日目
人捜し⑨
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頬をポリポリと掻きながら、冗談だということにする藤沢。
そのとぼけた表情を見たリュウは、口元を綻ばせながら「フフッ」と小さく笑った。
今日一番の、リュウの純粋な笑顔だったので、恵那も触発されたように肩の力が抜ける。
藤沢が真面目に考え抜いて出した結論が、ほぼ論外な理由だったために、意図せず和やかな空気になったみたいだ。
クレバーな印象が強かった藤沢から、まさか拍子抜けするような言葉が飛び出るとは、恵那もリュウも思わなかったのだろう。
この話をしたところで、何の答えも出そうにないと判断した恵那は、しれっと話題を切り替えることにした。
「そんなことより藤沢さん、リュウを街に帰らせたいんですけど、どうやって帰ればいいですか?」
「は? おい恵那、何言ってんだよ。一緒に帰るんだよ」
「私はまだ、ここから去るわけにはいかないから。リュウだけでも帰って」
「ふざけんな、俺は恵那を見つけ出すために、こんな危険な山奥まで来たんだぞ。ようやく会えたのに、ただで帰れるかよ」
「だから、余計なお世話なの! 私はもう戻りたくないから。だから……ほっといてよ」
巴先輩と、どんな形でもいいから、会うまでは絶対に帰れない……恵那の想いが晴れるまでは、この山小屋から立ち去るつもりは微塵もなかった。
いくらリュウが説得したとしても、平気でその厚意を無下にする自信がある。
再び声を荒げて言い合いを始める恵那とリュウの間に、やれやれと言いたげな藤沢が、スマートに止めに入った。
「喧嘩すんなって。落ち着いて話そうぜ。リュウ君だっけ? マルナの言い分も聞いてあげてくれないか」
「お兄さんには関係ないですよね。それに、俺の兄貴のことを、恵那は待ってるって言うんです。もう死んでるはずなのに」
「リュウは巴先輩のこと、信じてないんだね……まだ死んだと断定されてないのに、諦めちゃっていいの!?」
「しょうがないだろ! そういう運命なんだから!」
間に入っている藤沢の声は、リュウに簡単にあしらわれてしまった。
手の付けようがない二人の口喧嘩に、藤沢は完全に飲まれている。
藤沢が、どうにかして熱くなった二人を引き離す方法がないか考えていると、辺り一面が突然真っ暗になり出した。異常なほどの変化に、誰も喋らなくなる。
声を出す間もなく、全員が頭上に目を向けると、分厚くて黒々とした雨雲が、空間を覆っていた。
気づいた時から、ワンテンポ遅れて、猛烈な豪雨がその場を襲う。
「くそ、もうこんな時間か! おいマルナ、リュウ君、一旦小屋に入れ!」
「リュウ、藤沢さんの言う通り、山小屋に戻ろう!」
「ふざけんな! 俺は恵那を連れて帰るぞ!」
「リュウ君、こんな豪雨の中帰ったら、それこそ命が危ないよ。いいから、今は俺を信じて」
「……っち、わかったよ!」
すでにびしょびしょになった三人が、いつもの山小屋に戻る。
リュウは嫌々ながらも、とりあえずは藤沢の言うことを聞いてくれたみたいだ。
恵那が帰ることに前向きじゃないのが納得いかないのか、小屋に入っても尚、ムスッとした態度を取っている。
それぞれがタオルで髪を乾かしている中、コンコンと二回、扉をノックする音がした。
ーー今夜のお客様が、来店してしまったみたいだ。
そのとぼけた表情を見たリュウは、口元を綻ばせながら「フフッ」と小さく笑った。
今日一番の、リュウの純粋な笑顔だったので、恵那も触発されたように肩の力が抜ける。
藤沢が真面目に考え抜いて出した結論が、ほぼ論外な理由だったために、意図せず和やかな空気になったみたいだ。
クレバーな印象が強かった藤沢から、まさか拍子抜けするような言葉が飛び出るとは、恵那もリュウも思わなかったのだろう。
この話をしたところで、何の答えも出そうにないと判断した恵那は、しれっと話題を切り替えることにした。
「そんなことより藤沢さん、リュウを街に帰らせたいんですけど、どうやって帰ればいいですか?」
「は? おい恵那、何言ってんだよ。一緒に帰るんだよ」
「私はまだ、ここから去るわけにはいかないから。リュウだけでも帰って」
「ふざけんな、俺は恵那を見つけ出すために、こんな危険な山奥まで来たんだぞ。ようやく会えたのに、ただで帰れるかよ」
「だから、余計なお世話なの! 私はもう戻りたくないから。だから……ほっといてよ」
巴先輩と、どんな形でもいいから、会うまでは絶対に帰れない……恵那の想いが晴れるまでは、この山小屋から立ち去るつもりは微塵もなかった。
いくらリュウが説得したとしても、平気でその厚意を無下にする自信がある。
再び声を荒げて言い合いを始める恵那とリュウの間に、やれやれと言いたげな藤沢が、スマートに止めに入った。
「喧嘩すんなって。落ち着いて話そうぜ。リュウ君だっけ? マルナの言い分も聞いてあげてくれないか」
「お兄さんには関係ないですよね。それに、俺の兄貴のことを、恵那は待ってるって言うんです。もう死んでるはずなのに」
「リュウは巴先輩のこと、信じてないんだね……まだ死んだと断定されてないのに、諦めちゃっていいの!?」
「しょうがないだろ! そういう運命なんだから!」
間に入っている藤沢の声は、リュウに簡単にあしらわれてしまった。
手の付けようがない二人の口喧嘩に、藤沢は完全に飲まれている。
藤沢が、どうにかして熱くなった二人を引き離す方法がないか考えていると、辺り一面が突然真っ暗になり出した。異常なほどの変化に、誰も喋らなくなる。
声を出す間もなく、全員が頭上に目を向けると、分厚くて黒々とした雨雲が、空間を覆っていた。
気づいた時から、ワンテンポ遅れて、猛烈な豪雨がその場を襲う。
「くそ、もうこんな時間か! おいマルナ、リュウ君、一旦小屋に入れ!」
「リュウ、藤沢さんの言う通り、山小屋に戻ろう!」
「ふざけんな! 俺は恵那を連れて帰るぞ!」
「リュウ君、こんな豪雨の中帰ったら、それこそ命が危ないよ。いいから、今は俺を信じて」
「……っち、わかったよ!」
すでにびしょびしょになった三人が、いつもの山小屋に戻る。
リュウは嫌々ながらも、とりあえずは藤沢の言うことを聞いてくれたみたいだ。
恵那が帰ることに前向きじゃないのが納得いかないのか、小屋に入っても尚、ムスッとした態度を取っている。
それぞれがタオルで髪を乾かしている中、コンコンと二回、扉をノックする音がした。
ーー今夜のお客様が、来店してしまったみたいだ。
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