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三日目
好きな香り⑤
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「マルナにはまだ言ってなかったか。これは、ジャスミンの香りだよ。俺はジャスミンが一番好きなんだ」
「へー、これジャスミンの匂いなんですか」
「そうだよ。よくジャスミンティーとか市販で売ってるから、マルナでも馴染み深いと思うけど」
「確かに、ジャスミンティーを飲んだことはありますけど、匂いまでは覚えてませんでした」
「そうか。俺はこの濃厚な香りが好きなんだよ。ジャスミンティーもよく飲むんだ」
「じゃあ、収穫したジャスミンからは、アロマオイルとハーブティーの茶葉の二つを作るんですか?」
「お、よくわかってんじゃん。そうだよ」
恵那がハーブの話についてこれるようになるとは、藤沢も思わなかっただろう。感心するように、大きく頷いている。
そのリアクションで、恵那は褒められた気分になれた。
顔を綻ばせながら洗い物をしていると、藤沢がキッチンまで入ってくる。
藤沢は貯蔵庫を開けて、中から白い花を取り出した。その花はまだ新しく、収穫してから一週間も経っていないくらいの瑞々しさを放っていた。
「藤沢さん、それがジャスミンですか?」
「そう。これからドライハーブとエッセンシャルオイルを作るんだ」
「オイルも作っちゃうなんて、藤沢さん何でもできますね」
「そんな褒めても何も出ないぞ。ま、今度飲ませてやるからな」
「楽しみにしておきます」
会話をしながら手を動かしていたら、瞬く間に作業が終了した。
いつも藤沢がかけている時間よりも、早く終わらせることができたかもしれない。
達成感と共に、蛇口を締める。
キッチンにいた藤沢と恵那は、もう一度椅子に座って、ジャスミンの香りを楽しむことにした。
「藤沢さんの影響からか、私もこの香り気に入りましたよ」
「お、マルナもジャスミン好きになったか。好きな香りは人それぞれだからな。お気に入りの香りやハーブティーを見つけて、人生に彩を加える。それがこの、”アロマが香る山カフェ”の特徴だ」
「そういえば気になってたんですけど、このお店の名前、ダサくないですか?」
「は? 正気かよ。めっちゃ気に入ってんだけど」
「”アロマが香る山カフェ”なんて、そのまま過ぎて笑えますよ」
「なんだと? 人がせっかくつけた名前に、居候の分際で意見してんじゃねぇよ」
「それ言われたら何にも言えないじゃないですか!」
顔を近づけながら、今日初めてのいがみ合い。
恵那は冗談っぽく言ったつもりなのに、藤沢は本気で怒ってしまった。
センスをバカにされたことが癪に障ったのか、恵那のことを睨んで威圧している。
恵那も、それに臆することなく、目を逸らさないでいた。
穏やかな日常が、ほんの些細な言い合いがきっかけで、あっけなく壊れていく。
”コン、コン”
「へー、これジャスミンの匂いなんですか」
「そうだよ。よくジャスミンティーとか市販で売ってるから、マルナでも馴染み深いと思うけど」
「確かに、ジャスミンティーを飲んだことはありますけど、匂いまでは覚えてませんでした」
「そうか。俺はこの濃厚な香りが好きなんだよ。ジャスミンティーもよく飲むんだ」
「じゃあ、収穫したジャスミンからは、アロマオイルとハーブティーの茶葉の二つを作るんですか?」
「お、よくわかってんじゃん。そうだよ」
恵那がハーブの話についてこれるようになるとは、藤沢も思わなかっただろう。感心するように、大きく頷いている。
そのリアクションで、恵那は褒められた気分になれた。
顔を綻ばせながら洗い物をしていると、藤沢がキッチンまで入ってくる。
藤沢は貯蔵庫を開けて、中から白い花を取り出した。その花はまだ新しく、収穫してから一週間も経っていないくらいの瑞々しさを放っていた。
「藤沢さん、それがジャスミンですか?」
「そう。これからドライハーブとエッセンシャルオイルを作るんだ」
「オイルも作っちゃうなんて、藤沢さん何でもできますね」
「そんな褒めても何も出ないぞ。ま、今度飲ませてやるからな」
「楽しみにしておきます」
会話をしながら手を動かしていたら、瞬く間に作業が終了した。
いつも藤沢がかけている時間よりも、早く終わらせることができたかもしれない。
達成感と共に、蛇口を締める。
キッチンにいた藤沢と恵那は、もう一度椅子に座って、ジャスミンの香りを楽しむことにした。
「藤沢さんの影響からか、私もこの香り気に入りましたよ」
「お、マルナもジャスミン好きになったか。好きな香りは人それぞれだからな。お気に入りの香りやハーブティーを見つけて、人生に彩を加える。それがこの、”アロマが香る山カフェ”の特徴だ」
「そういえば気になってたんですけど、このお店の名前、ダサくないですか?」
「は? 正気かよ。めっちゃ気に入ってんだけど」
「”アロマが香る山カフェ”なんて、そのまま過ぎて笑えますよ」
「なんだと? 人がせっかくつけた名前に、居候の分際で意見してんじゃねぇよ」
「それ言われたら何にも言えないじゃないですか!」
顔を近づけながら、今日初めてのいがみ合い。
恵那は冗談っぽく言ったつもりなのに、藤沢は本気で怒ってしまった。
センスをバカにされたことが癪に障ったのか、恵那のことを睨んで威圧している。
恵那も、それに臆することなく、目を逸らさないでいた。
穏やかな日常が、ほんの些細な言い合いがきっかけで、あっけなく壊れていく。
”コン、コン”
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