浮遊霊は山カフェに辿り着く ~アロマとハーブティーで成仏を~

成木沢 遥

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三日目

好きな香り①

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 この山小屋を訪れてから、今日で三日目。
 恵那が使わせてもらっている二階の部屋は、自然の音が聞き取りやすくなっている。
 鳥の声や、木が揺れる音が恵那の目覚まし代わりになっていて、自分の家では味わえなかった、清々しい寝起きが体験できるのだ。
 貸してもらっている寝巻を着たまま外に飛び出すと、自殺スポットとは思えないほど、綺麗なロケーションが目の前に広がっている。
 険しい断崖絶壁も、近寄らなければ怖くないし、何より青空の見通しが素晴らしい。
 恵那は、味がしそうなほど綺麗な空気を、目一杯吸い込むように深呼吸をした。

「何だよ、着替えもしないで。こんなとこにいたのか」

「藤沢さん……おはようございます」

「おはよ。部屋にいないから、どこに行ったかと心配したぞ。いつの間に外に出てたんだ」

「あ、藤沢さん朝ご飯作ってたので、何も言わずに出ちゃいました。外の空気が吸いたくて」

「ったく、心配かけやがって。朝飯できたから、そろそろ部屋に入れ」

「はーい……」

 太陽の光が当たって、藤沢の顔がハッキリと見えなかった。
 怒っているような口ぶりではなかったけど、心配をかけてしまったらしい。
 自殺をしに行ったとでも思われたのだろうか、藤沢の声に僅かな鋭さを感じる。
 恵那は申し訳ないという気持ちを持ったまま、藤沢の後ろ姿を追いかけるように、小屋に戻った。

「今日はフレンチトーストを作ったぞ」

「え、こんなに厚切りのフレンチトースト、初めて見ました」

「まじかよ。こんなの至る所で作られてるぞ」

「そうなんですか? お店レベルじゃないですか」

「ま、いいから席に着けよ。今ハーブティーも淹れるからな」

 こんがりと焼け目がついた、厚切りのフレンチトーストが皿の上にドンと乗っている。
 まだ完全には目が覚めていなかった恵那も、その艶やかな色合いを見たら、一発で眠気が吹き飛んだ。
 窓から入ってくる日の光が反射して、フレンチトーストが光り輝いて見える。
 席に着いて間近で見てみると、表面には溶けかかったバターがちょこんと存在しており、少しずつトーストに染み込んでいくようだった。
 考えてみると、恵那はフレンチトーストを食べたことが、今まで一度もない。
 それを白状したら、藤沢から力の限りバカにされそうなので、隠しておこうと心で誓った。

「これ、朝のハーブティーな。今日はローズヒップのハーブティーを淹れたから」

「ローズヒップ……ですか?」
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