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二日目
決して一人じゃない⑧
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どちらかというと、恵那は怒られる準備をしていたのに、まさか考え方を改めるように説得されるとは。
はっきりと『自殺なんか考えるな』と言われたのは始めてな気がして、恵那の胸の鼓動が倍の早さに変わった。
ストレートな言葉に、思わず声を失ってしまう。
それでも構わずに、藤沢の言葉は続く。
「今日の鮫島様のように、不幸や苦い経験をきっかけに、堕ちていってしまうのはしょうがないことだ。でも、それによって自分を閉じ込めてしまうのは、本当に勿体ないことなんだぞ」
「諦めなければ……自分を変えられるってことですか」
「そういうことだ。自殺したらそれで終了。だけどマルナには、まだ希望がある。その先輩という希望だってあるし、これからの未来、楽しいことがたくさん待ってるんだ。そう易々と、諦めるなよ」
「そ、そんなに簡単には、気持ちを変えられないですけど……努力してみます」
「……そうか。ま、今日みたいな感じで浮遊霊と関わっていると、命の大切さに気づけるから! 明日からもよろしくな!」
熱の籠った言葉を告げた後は、カラッとしたテンションに戻る藤沢。
恵那は、藤沢のこの切り替えっぷりを、羨ましく感じていた。
出来ることなら、こうやって気持ちのコントロールがつきやすいような人間になりたかった……口に出したらまたどやされるだろうから、この想いは内心だけに留めておかないと。
心の中にいるもう一人の恵那が自己解決していた最中も、藤沢はハーブティーを少しずつ飲んでいる。
にこやかな顔つきのまま飲み進めていくのを、恵那が黙って見ていると、それに気づいた藤沢は、しっとりとした口調になって指摘した。
「何見てんだよ。まだ言い足りないか?」
「い、いや……そんなつもりは」
「……ま、まあ、マルナの気持ちもわかるけどな」
「え? 私の気持ち?」
「あ、ああ。好きだった人が消えてしまうのが、どれだけ絶望かってこと」
「そ、それって……」
巴先輩がいなくなって、人生に絶望してしまった気持ちが、藤沢にもわかるなんて……。
恵那はそんなことを言われると思わなかったので、狼狽えるように声を詰まらせた。
だけど、あまりにも予想していなかった言葉だけに、その発言の真意が気になる。
藤沢も、恵那と似たような経験をしたということか。
恵那は勇気を振り絞って、藤沢がどんな経験をしたのか、聞いてみることにした。
「あ、あの……藤沢さん!」
「うし、今日も疲れたなぁ~! じゃあマルナ、片付けするぞ!」
「え? ちょっと、藤沢さん!」
バンッとテーブルを叩いて、愉快な表情に変わった藤沢が、恵那の呼び止めを無視して後片付けに入った。
何度か名前を呼んでみても、何食わぬ顔をして無視される。
藤沢も、余計なことを口にしてしまったという思いがあるのか、わざとらしく鼻歌を歌って誤魔化している。
その崩れない態度を見て、恵那は追及するのを諦めた。
これまで見せてこなかった藤沢の綻びが、見れた気がする。
恵那は藤沢の過去について、もっと知りたいという欲が生まれてきてしまった。
好きな人が消えてしまう絶望が理解できるなんて……本人もそれに近い経験をしているはずだから。
不思議な山カフェの、不思議な店主は……一体どんな過去を抱えているのだろうか。
はっきりと『自殺なんか考えるな』と言われたのは始めてな気がして、恵那の胸の鼓動が倍の早さに変わった。
ストレートな言葉に、思わず声を失ってしまう。
それでも構わずに、藤沢の言葉は続く。
「今日の鮫島様のように、不幸や苦い経験をきっかけに、堕ちていってしまうのはしょうがないことだ。でも、それによって自分を閉じ込めてしまうのは、本当に勿体ないことなんだぞ」
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「そ、そんなに簡単には、気持ちを変えられないですけど……努力してみます」
「……そうか。ま、今日みたいな感じで浮遊霊と関わっていると、命の大切さに気づけるから! 明日からもよろしくな!」
熱の籠った言葉を告げた後は、カラッとしたテンションに戻る藤沢。
恵那は、藤沢のこの切り替えっぷりを、羨ましく感じていた。
出来ることなら、こうやって気持ちのコントロールがつきやすいような人間になりたかった……口に出したらまたどやされるだろうから、この想いは内心だけに留めておかないと。
心の中にいるもう一人の恵那が自己解決していた最中も、藤沢はハーブティーを少しずつ飲んでいる。
にこやかな顔つきのまま飲み進めていくのを、恵那が黙って見ていると、それに気づいた藤沢は、しっとりとした口調になって指摘した。
「何見てんだよ。まだ言い足りないか?」
「い、いや……そんなつもりは」
「……ま、まあ、マルナの気持ちもわかるけどな」
「え? 私の気持ち?」
「あ、ああ。好きだった人が消えてしまうのが、どれだけ絶望かってこと」
「そ、それって……」
巴先輩がいなくなって、人生に絶望してしまった気持ちが、藤沢にもわかるなんて……。
恵那はそんなことを言われると思わなかったので、狼狽えるように声を詰まらせた。
だけど、あまりにも予想していなかった言葉だけに、その発言の真意が気になる。
藤沢も、恵那と似たような経験をしたということか。
恵那は勇気を振り絞って、藤沢がどんな経験をしたのか、聞いてみることにした。
「あ、あの……藤沢さん!」
「うし、今日も疲れたなぁ~! じゃあマルナ、片付けするぞ!」
「え? ちょっと、藤沢さん!」
バンッとテーブルを叩いて、愉快な表情に変わった藤沢が、恵那の呼び止めを無視して後片付けに入った。
何度か名前を呼んでみても、何食わぬ顔をして無視される。
藤沢も、余計なことを口にしてしまったという思いがあるのか、わざとらしく鼻歌を歌って誤魔化している。
その崩れない態度を見て、恵那は追及するのを諦めた。
これまで見せてこなかった藤沢の綻びが、見れた気がする。
恵那は藤沢の過去について、もっと知りたいという欲が生まれてきてしまった。
好きな人が消えてしまう絶望が理解できるなんて……本人もそれに近い経験をしているはずだから。
不思議な山カフェの、不思議な店主は……一体どんな過去を抱えているのだろうか。
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