浮遊霊は山カフェに辿り着く ~アロマとハーブティーで成仏を~

成木沢 遥

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二日目

決して一人じゃない⑦

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「あの、藤沢さん、すいませんでした。ネガティブ過ぎて、ウザいですよね……」

 威力のない声の方を、藤沢はチラッと一回だけ見た。
 若干潤んでいる恵那の目と目が合うと、口元をゆっくり緩ませる。
 キッチンでの作業が終了したのか、その不敵な笑みと共に、物音が全くなくなった。
 キッチンから出てきた藤沢が、ティーセットの乗ったお盆を運んで来てくれる。

「これ、レモングラスのハーブティー。冷ましてから飲めよ」

「え? これ……今日採ったやつですか?」

「マルナが採ったやつだぞ。フレッシュなやつだから、清々しい飲み口になってると思う」

「あ、ありがとうございます」

 ティーポッドの中には、今日収穫したレモングラスのハーブが、多めに入れられている。
 表面に浮いている細長い葉が、美しいクリアグリーンの色を演出しており、恵那の心も多少は和らいだ気になれた。
 殺伐とした空気を作ってしまった恵那に、藤沢は心に寄り添うようなハーブティーを提供したのだ。
 そのハーブティーが藤沢からのメッセージなのか、恵那が飲み始めるのを、また頬杖をつきながらじーっと見ていた。

「い、いただきます」

「どうぞ」

 口の中を火傷しないように、唇を尖らせて慎重に啜る。
 ズズッという音を立てないように努力はしてみるけど、一口目の段階で音が鳴ってしまった。
 恥ずかしさを隠すように、すぐに二口目を啜ってみると、飲みやすい温度になっていることが確認できた。
 躊躇することなく三口目を口に含んだところで、ようやくハーブティーの味を楽しめることに成功した。

「美味しい……すごい飲みやすいです」

「ほらな、言った通りだろ。レモングラスは飲みやすいんだよ」

「はい、レモンの香りを感じるからか、スッと飲み込めます」

「なら良かった。このハーブも、気持ちをリラックスさせてくれる効果が期待できるからな。今のマルナに合ってるだろ」

「あ……すいません。またネガティブなこと言っちゃって」

 お盆の上に乗っている、さっき焼いたクッキーの余りを、藤沢は口に入れる。
 モグモグと咀嚼しながら、恵那の謝罪をどう受け入れるか考えているみたいだった。
 飲み込んだ後、今度は藤沢自らの分のハーブティーを、ティーカップに注いだ。
 舌で転がすように味を確かめた後、ようやく恵那に向けて言葉を返す体勢を作った。

「マルナ。生きていたらな、こうやって色んなことを知っていくんだ。自分を卑下するのは構わないけど、捨ててしまうのはまだ早いぞ」

「捨てる……?」

「自殺なんか考えるなってことだ。確かに、大好きな先輩に触発される気持ちはわかるけど、生きていたら自分の後ろめたさを克服できるかもしれないだろ?」 
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