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二日目

決して一人じゃない⑥

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「マルナ、もしかして家族のこと考えてる?」

「え、何でわかるんですか」

「鮫島様の話を聞いた後だからさ。マルナも悩んでたろ、家族のこと」

 恵那の肩にポンと手を置いた後、藤沢も向かいの椅子に座る。
 ちょうど良い量に落ち着いたアロマディフューザーの蒸気が、二人の目線の間で立ち上がっていた。
 蒸気の向こう側にいる藤沢の顔は、どこか心配そうな表情をしている。

「ちょっと、思い出しちゃって。家族のこと」

「マルナも鮫島様と同様で、家族の中で居場所がなかったんだっけ?」

「まあ……はい」

「確か、妹が優秀だったから、両親はそっちに手をかけるようになったんだよな。反対に、マルナは優しく育てられたんだっけ」

「そうです。妹のことは厳しく、私は優しくでした。私なんか育て甲斐がなかったんです」

「そうそう、そう言ってたよな。でも、マルナも鮫島様と一緒で、卑屈になり過ぎてるだけだと思うぞ」

「私も……ですか」

 鮫島が成仏された後、恵那には謎の虚無感がずっと残っていて、どうしてそれが胸につっかえていたのかわからなかったけど……藤沢の言葉でピンときた。
 もしかしたら、鮫島に藤沢が送った言葉の通り、恵那も卑屈になり過ぎていたのかもしれない。
 自分から周囲をシャットダウンして、勝手に塞ぎ込んでいただけなのかもしれない。
 もっと内面を曝け出して、自分からアクションを起こさなければいけなかったのに……家族や社会のせいにしていた。
 考えて考えて、神経をすり減らして、それでも好きな人だけはいて。その人を頼りに生きて来たけど、いなくなった途端に、ぽっかりと穴が開いてしまった。
 恵那は自分の人生を振り返ってみた時、藤沢の指摘は図星だと、素直に思えた。
 こんな暗がりを歩くことになったのは、自分の責任だ。
 今までしてきた他責を反省するような、か細い独り言が自然と出てしまう。

「楽しく生きられなかったのは、私のせいってことですよね……」

 頬杖をつきながら、恵那の悲しき言葉を聞き取る藤沢。
 いつも通りの弱気な発言に、藤沢は呆れるように溜息を吐いて席を立った。
 励ましの言葉や慰めの言葉は一切かけずに、無言でキッチンに向かう。
 そのままの勢いで、鍋に水を入れ火をかけると、沸騰するまで長い沈黙が部屋を包み込んだ。
 その沈黙が、恵那にとっては居心地の悪いものとなる。
 もしかしたら、あまりにもネガティブ過ぎて、藤沢を怒らせたかもしれない。
 恵那はそう考えると、気が気でいられなくなったのだ。
 機嫌が悪そうな表情を作りながら、何かの作業をしている藤沢に、恐る恐る謝罪をしてみる。
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