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二日目

決して一人じゃない④

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「うん。クッキーに合うね、このハーブティー」

「ありがとうございます。こちらのクッキーは、この丸井が作りまして」

「え!? あ、いや、私が全部作ったわけでは……」

「そうなのかい? お菓子作り、上手なんだね。ウチの娘も好きだったなぁ」

 急に名前を呼ばれたことによって、恵那は不必要に慌ててしまった。
 先導して作ったのは藤沢なのにも関わらず、手柄を譲ってくれたみたいで、リアクションに困ってしまったのだ。
 それでも、鮫島に上手に作れていると言われて、恵那は柄にもなく感動を覚えている。
 人から褒められることに慣れていない恵那は、顔を綻ばせながら喜びを嚙みしめていると、鮫島が鼻声になってまた話し出した。

「何か……懐かしいんだよね」

「鮫島様、懐かしいって……一体何が?」

 すぐさま藤沢が、様子がおかしくなった鮫島の横に移動して、会話の相手をする。
 ポケットからすぐにティッシュを取り出すところも、さすがの接客力だ。
 恵那がその所作に惚れ惚れしている中、鼻声が止まらなくなった鮫島は、構うことなく言葉を続けた。

「まだ娘が生まれる前、妻とこうやってティータイムをしていたんだ。妻もクッキー作りが趣味でね、紅茶と一緒に食べてたよ」

「それを……思い出したんですね」

「妻も、このようなシンプルなクッキーをよく作っていたから。あの頃は、良かったなぁ」

 思い出すようにクッキーを齧り、それを胃に流すためにハーブティーを飲む。
 懐かしさと、そしてもう死んでしまっているという現実で、鮫島の心はぐちゃぐちゃになっているだろう。
 涙は見えないけど、声はずっと鼻声だ。
 鮫島はこのティータイムを過ごして、死んだことを後悔しているのだろうか。
 藤沢も恵那もそれを聞くことはできないけど、鮫島の顔が悲しさを表している。
 一口ずつ噛みしめるように食べていき、僅か五分程度でハーブティーとクッキーのセットを平らげた。

「ありがとう、とても美味しかった。あとカモミールのハーブティー? これも最高だ」

「喜んでいただけて、何よりです」

「まさか、私が死んでいるなんてな。でも、消える前にスッキリすることができて良かった」

「スッキリ……できましたでしょうか」

「ああ、君のおかげで、死を受け入れることができそうだよ。私は、決して一人じゃなかったんだな」

 一瞬だけ、威圧感を纏った時もあったけど、藤沢のメッセージによって、こんなにも穏やかな顔つきに変わるなんて。
 幸せを感じていた時のことを、このティータイムが思い出させたみたいだ。
 それが鮫島の心を落ち着かせ、一人じゃないということを、もう一度実感したのだろう。
 たった一つの不幸で、崩れていった人生。
 一人で闘ったけど、結局は押しつぶされて、死んでしまった。
 周りが見えなくなったことで、孤独に感じていた日々。
 もう、そんな思いは背負いこまなくていいのだ。

 藤沢が、遠慮することなく、重い重い言葉を告げる。

「では、鮫島様。そろそろ成仏しましょうか」
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