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二日目
取り戻せない居場所②
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「マルナ、接客してこい」
「え?」
「えじゃないだろ。昨日もやったみたく、この時間はマルナが繋ぐんだよ」
「いつの間にそんな役割が?」
「いいから。俺はもう少し蒸らすのに時間使うから。頼んだ」
「わかりましたよ、もう」
鮫島に聞こえないくらいの小声で、昨日も押しつけられた役割を指示される。
昨日今日で会話上手になれるわけもない恵那は、全く自信がなかった。
だけど、指示を請け負った以上は、やるしかない。
さっき藤沢に言われたように、今を強く生きてみないと。今を強く生きるために、自分が苦手としていることから、目を背けずにトライしてみないと。
藤沢のポジティブな言葉に感化された恵那は、唇を震わせながら、椅子にじっと座っている鮫島に話しかけた。
「鮫島様、ご来店ありがとうございます。丸井と申します」
「おや、こんなお嬢ちゃんも働いているんだね。ウチの子と同い年くらいかな?」
「む、娘様がいらっしゃるんですね」
「そう、娘が二人いるんだ。上の子はもう独立して家にいないけど、下の子は高校二年生で」
「そうですか。じゃあ妹様と同い年です」
「お、そうなのか。アルバイトしてるなんて、偉いねぇ。ウチの娘も見習ってほしいくらいだよ」
にこやかに接してくれる鮫島によって、緊張していた体がスーッとほぐれていった。
同い年の娘がいたことによって、話を弾ませることができたのだ。
まさかの展開になって、恵那は内心ラッキーに思えていた。
先導して会話をしてくれる鮫島に感謝すると共に、こんなにちゃんとしているお父さんがどうして命を落としたのか……その理由が気になり始めてきた。
「鮫島様、お待たせしました。こちら、カモミールのハーブティーでございます」
鮫島の家族の話で盛り上がりかけていたその時、後ろから熱々のハーブティーを藤沢が運んできた。
恵那の役目は一旦終了。すぐに定位置であるキッチンに戻る。
会話の相手をそのまま藤沢にバトンタッチして、恵那はまた二人のやり取りを見守ることにした。
「カモミールのハーブティー? すまない、おじさんハーブティーに詳しくなくて」
「では説明しますね。カモミールはリラックスしたい時にオススメのハーブティーで、安眠効果や鎮静効果が期待できます」
「ほおほお、確かに体に良いって聞くな」
「そうですね。体調の改善にオススメです。あとは利尿効果もあるので、二日酔いの改善にも期待できます。鮫島様にピッタリかと」
「それは、私のためのハーブティーみたいなものだな。ありがとう頂戴するよ」
「え?」
「えじゃないだろ。昨日もやったみたく、この時間はマルナが繋ぐんだよ」
「いつの間にそんな役割が?」
「いいから。俺はもう少し蒸らすのに時間使うから。頼んだ」
「わかりましたよ、もう」
鮫島に聞こえないくらいの小声で、昨日も押しつけられた役割を指示される。
昨日今日で会話上手になれるわけもない恵那は、全く自信がなかった。
だけど、指示を請け負った以上は、やるしかない。
さっき藤沢に言われたように、今を強く生きてみないと。今を強く生きるために、自分が苦手としていることから、目を背けずにトライしてみないと。
藤沢のポジティブな言葉に感化された恵那は、唇を震わせながら、椅子にじっと座っている鮫島に話しかけた。
「鮫島様、ご来店ありがとうございます。丸井と申します」
「おや、こんなお嬢ちゃんも働いているんだね。ウチの子と同い年くらいかな?」
「む、娘様がいらっしゃるんですね」
「そう、娘が二人いるんだ。上の子はもう独立して家にいないけど、下の子は高校二年生で」
「そうですか。じゃあ妹様と同い年です」
「お、そうなのか。アルバイトしてるなんて、偉いねぇ。ウチの娘も見習ってほしいくらいだよ」
にこやかに接してくれる鮫島によって、緊張していた体がスーッとほぐれていった。
同い年の娘がいたことによって、話を弾ませることができたのだ。
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先導して会話をしてくれる鮫島に感謝すると共に、こんなにちゃんとしているお父さんがどうして命を落としたのか……その理由が気になり始めてきた。
「鮫島様、お待たせしました。こちら、カモミールのハーブティーでございます」
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恵那の役目は一旦終了。すぐに定位置であるキッチンに戻る。
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「カモミールのハーブティー? すまない、おじさんハーブティーに詳しくなくて」
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「そうですね。体調の改善にオススメです。あとは利尿効果もあるので、二日酔いの改善にも期待できます。鮫島様にピッタリかと」
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