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二日目
ティータイムのお供に④
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「ったく、まだ下向いてんのか。何度も言うようだけど、マルナはたった十七年間しか生きてないんだぞ? 人生諦めましたみたいなこと言ってるけど、これから楽しいことが山ほど待ってるんだよ」
「そんなに簡単に性格って変わるんですか?」
「性格を変えるのは難しいかもな。でも、自分のことを愛してやることは誰にだってできる」
「自分を……愛す?」
「周りと比べたりとか、妹と比べたりとか、そんなのどうでもいいんだよ。何かに挑戦して、失敗したっていい。とにかく、自分のことをもっと好きになってみろ」
藤沢は飄々とした表情をしているが、目力には強さが感じられた。
自分を愛してみる……なんて、恵那は考えたこともない。生まれ持った、卑屈な性格。妹の加奈子と違って、特別な存在ではない。
どちらかというと、自分自身を哀れんでいたのに、その逆の精神を持つなんて……無理難題だ。
今更自分を変えられないと言ってしまえば簡単だけど、藤沢があまりにも眩しい目で見つめる故に、ノーとは言えない。
結果的に、藤沢のアドバイスに対して、無言になるしかなかった。
「……おーい。マルナ、無視するなよ」
「あ、いえ、無視じゃなくて……その、自信がなくて」
「じゃあさ、もしマルナの好きな先輩が、えーっと……」
「巴先輩です」
「そうそう、巴先輩! もしその人と会えたらさ……告白してみろよ」
藤沢の急なアイデアに、恵那は一歩だけ後ろに下がった。驚きで、体が変なリアクションを取ってしまった。
恥ずかしそうにしている恵那を見ながら、藤沢は吹くように笑う。
真剣な話をしている中の悪戯めいた提案に、恵那はたじろぎながら否定するしかない。
「え、ええ!? 無理ですよ、告白なんて」
「何でだよ。もしかしたら付き合えるかもしれないだろ」
「で、でも、嫌われるかもしれないし」
「嫌われないって。もしフラれたら、また新しい恋を探せばいいだろ。巴先輩だけじゃないと思うぜ、マルナの生きる希望は」
「で、できませんよ! それに、巴先輩はもう死んでるかもしれないし」
「まだわからないだろ。まあその時のために、今を強く生きようってこと。俺はそれが言いたかったんだ」
藤沢が、何とか恵那のことを立ち直らせようとしている。それは恵那も感じていた。
クッキー作りが、まさか自己嫌悪を発症させるとは。恵那自身も不思議に思っている。
久しぶりに充実した行動をしたから、余計に自分が惨めになったのだろう。
藤沢が最後にまとめた言葉は、確実に心臓を震わせた。
今を強く生きる……死のうとしていた恵那に効くとは思えない言葉なのに、何故か従ってみようという気になれる。
藤沢と出会ってから、たった二日だというのに、恵那は妙な信頼感を置いていた。
「よし、難しい話はこれでおしまい! 夜のオープンに向けて、準備するぞ」
「は、はい!」
藤沢の掛け声によって、休むことなく、開店の準備が始まる。
今宵は、一体どんな迷える死者が、この山カフェに行き着くのだろうか。
「そんなに簡単に性格って変わるんですか?」
「性格を変えるのは難しいかもな。でも、自分のことを愛してやることは誰にだってできる」
「自分を……愛す?」
「周りと比べたりとか、妹と比べたりとか、そんなのどうでもいいんだよ。何かに挑戦して、失敗したっていい。とにかく、自分のことをもっと好きになってみろ」
藤沢は飄々とした表情をしているが、目力には強さが感じられた。
自分を愛してみる……なんて、恵那は考えたこともない。生まれ持った、卑屈な性格。妹の加奈子と違って、特別な存在ではない。
どちらかというと、自分自身を哀れんでいたのに、その逆の精神を持つなんて……無理難題だ。
今更自分を変えられないと言ってしまえば簡単だけど、藤沢があまりにも眩しい目で見つめる故に、ノーとは言えない。
結果的に、藤沢のアドバイスに対して、無言になるしかなかった。
「……おーい。マルナ、無視するなよ」
「あ、いえ、無視じゃなくて……その、自信がなくて」
「じゃあさ、もしマルナの好きな先輩が、えーっと……」
「巴先輩です」
「そうそう、巴先輩! もしその人と会えたらさ……告白してみろよ」
藤沢の急なアイデアに、恵那は一歩だけ後ろに下がった。驚きで、体が変なリアクションを取ってしまった。
恥ずかしそうにしている恵那を見ながら、藤沢は吹くように笑う。
真剣な話をしている中の悪戯めいた提案に、恵那はたじろぎながら否定するしかない。
「え、ええ!? 無理ですよ、告白なんて」
「何でだよ。もしかしたら付き合えるかもしれないだろ」
「で、でも、嫌われるかもしれないし」
「嫌われないって。もしフラれたら、また新しい恋を探せばいいだろ。巴先輩だけじゃないと思うぜ、マルナの生きる希望は」
「で、できませんよ! それに、巴先輩はもう死んでるかもしれないし」
「まだわからないだろ。まあその時のために、今を強く生きようってこと。俺はそれが言いたかったんだ」
藤沢が、何とか恵那のことを立ち直らせようとしている。それは恵那も感じていた。
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久しぶりに充実した行動をしたから、余計に自分が惨めになったのだろう。
藤沢が最後にまとめた言葉は、確実に心臓を震わせた。
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藤沢と出会ってから、たった二日だというのに、恵那は妙な信頼感を置いていた。
「よし、難しい話はこれでおしまい! 夜のオープンに向けて、準備するぞ」
「は、はい!」
藤沢の掛け声によって、休むことなく、開店の準備が始まる。
今宵は、一体どんな迷える死者が、この山カフェに行き着くのだろうか。
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