浮遊霊は山カフェに辿り着く ~アロマとハーブティーで成仏を~

成木沢 遥

文字の大きさ
上 下
34 / 97
二日目

ティータイムのお供に②

しおりを挟む
 予め用意してくれた調味料皿に、的確な分量の砂糖が入っている。
 それを藤沢から受け取った恵那は、躊躇なくボウルの中に放り込んだ。
 さっきよりも丁寧に、泡立て器を動かしていく。砂糖のザラザラ感が、徐々に滑らかなバターと融合していき、横で見ていた藤沢が「いい感じ」と呟いたのが聞こえた。
 誰かと協力して作業をするのは、こんなにも楽しいものか……恵那は心の中で、味わったことのない充実感を得ていた。

「おっけー。それじゃあマルナ、次は溶き卵を入れていくぞ」

「卵ですね。一気に入れちゃっていいですか?」

「いや。ドバッと入れちゃうと、液だれしちゃうからな。数回に分けて、ちょっとずつ混ぜていけ」 

「な、なるほど」

 溶いた卵を少し入れて、その後は泡立て器で混ぜる。程よく混ざり合ったら、また卵を入れて、またまた泡立て器で混ぜる。これを三回繰り返すと、綺麗な黄色みが浸透した生地になった。
 とは言っても、まだ完成された生地でないことは、初心者の恵那にもわかる。
 隣で皿洗いをしている藤沢の方をチラッと見ると、それに気づいた藤沢はまた次の指示を出した。

「いよいよ生地作りも大詰めだ。最後に薄力粉を加えて、今度はヘラを使ってサクサクと混ぜてくれ」

「ヘラ……ですね。やってみます」

 家庭科の授業で聞いたことのある、薄力粉という白い粉を、散々混ぜ合わせた生地の上にかける。
 それをボウルの中でアグレッシブに混ぜていると、これまで作り上げてきた生地が、より強固なものになっていくのを実感した。
 生地が一つのかたまりになったところで、藤沢は皿洗いをしていた手を止めた。

「マルナ、よく頑張ったな。後はラップで包んで、貯蔵庫で一時間くらい置いておこう」

「じゃ、じゃあ、これで生地は完成ですか?」

「そうだよ。意外と簡単だったろ」

「簡単というか……楽しかったです」

 初めての取り組みだったのに、まさか楽しかったという感想が出てくるなんて。恵那自身も、自らの発言を意外に感じている。
 知らないうちに、恵那の口角が上がっていることに藤沢は気づいた。
 その表情を見て嬉しくなったのか、藤沢は「その感情、忘れんなよ」と言って、恵那の頭をゴシゴシと荒めに撫でた。

「藤沢さん、痛いですよ!」

「あ、わりぃわりぃ。手加減するの忘れたわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...