浮遊霊は山カフェに辿り着く ~アロマとハーブティーで成仏を~

成木沢 遥

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二日目

ハーブの在り処④

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「マルナ、踏むんじゃないぞ」

「わかってますよ。でも、ちょっと狭くないですか?」

「本来、俺しか来ない場所だからな。奥の方に、今日収穫する予定のハーブがあるから」

「何で先歩いちゃったんだろうー、どこですか?」

「そっちの茶色の植木鉢」

「あ、これか」

 恵那の目の前にあった茶色の植木鉢の中には、細長い葉をしたハーブが植えられていた。
 上に真っ直ぐ伸びていて、見た目だけでは何のハーブなのか、恵那には見当もつかない。
 なんとなく、鍋の中に入れるニラのような細長さを感じるけど、きっと恵那が触れたことのないハーブなのだろう。
 藤沢が説明してくれるを待っていると、それを察したかのように話を始めてくれた。

「それはレモングラスのハーブだ。聞いたことあるか?」

「レモングラス? いいえ、初耳です」

「そうか。名前の通り、レモンのような爽やかな香りが特徴的で、このハーブティーはクセがなくて飲みやすいんだ」

「え、じゃあ私にピッタリかも」

「まあ、マルナでも飲みやすく感じると思うぞ」

 藤沢は説明をしながら、持ってきたハサミで株元からカットをしている。
 もう何回もやっているのだろう、話しながらでも楽に収穫ができるみたいだ。
 植木鉢から見えている葉っぱの部分は全て収穫するみたいで、藤沢の顔も心なしか嬉しそうに見える。

「レモングラスなのに、レモンとは関係ないんですね」

「ああ、レモンはミカン科だろ? でもレモングラスはイネ科なんだ。だから植物の種類自体が違うな」

「へぇー……じゃあ単純に、レモンの香りがするだけなんだ」

「面白いだろ? 世の中にはたくさんのハーブがあるからな。マルナも、少しずつでいいから、覚えていけよ」

「は、はい。これなら私でも、覚えていけそうです」

 恵那は今まで、何かに興味を持ったりしたことがなかったけど、ハーブの知識を身に着けることに関しては、前向きに取り組めるような気がした。
 昨日、茂木という一人の浮遊霊が、ハーブティーとアロマの香りで成仏した瞬間を見たからだろうか、真剣にやってみたいという気持ちが芽生えたのだ。
 藤沢から半分のレモングラスを受け取って、来た道を戻る。

「マルナ、帰りは下り道だからって調子に乗るなよ」

「子供扱いしないでください。こんな道、余裕ですよ」

「おいおい、先に行くなって」

 ムキになっている恵那が、今度は先頭に立って歩く。
 ガタガタ道を、躊躇なく早歩きで進んで行くと、後ろを歩いている藤沢と少し差ができた。
 後方から「おい、ゆっくり歩けよ」という声が飛んでくるけど、恵那は無視しながら進んで行く。
 重力に従うように足を動かしていくと、背中を押す風がどこか優しく感じた。
 このまま風に乗って、どこまでも行ってしまいそうになる……。

「おい! マルナ!!」
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