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二日目
ハーブの在り処③
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「よし、それじゃあ向かうか」
「あの、一体どこでハーブの収穫をしてるんですか?」
「この山の中に、もう一つ小屋があってな。そこでハーブを育ててるんだ」
「じゃあ山を下りたりはしないんですね」
「しないしない。ちょっと歩くだけだから、安心しろって」
そう説明を受けてから、藤沢は木が生い茂っている道に向かって勇敢に進んで行った。
元々の登山ルートとは、また別の道があったなんて。
ここに来るまでの恵那は気が動転していたから、他にあったルートを見逃していた。というより、他のルートが目に入らなかったのだ。
そもそも、こんなに木の枝や葉っぱが邪魔をしている道を、前に進もうとは思わないだろう。
先を行く藤沢が歩きやすい道を作ってくれて、後続の恵那は幾らか歩きやすくなっていた。
「藤沢さん、あとどれくらい歩くんですか」
「もうバテたのか? まだ若いのに」
「別にバテてないですけど。そういう藤沢さんは何歳なんですか?」
「今年で二十五歳だけど」
「え、意外ですね。もっと上かと思ってました」
「何だよ、老けてるって言いたいのか」
呼吸を乱しながらも、会話が止まることはない。
そして、初めて藤沢のパーソナルな部分について知れた気がする。
話し方や容姿はチャラついた部分があるけど、意外としっかり者の面があるから、もっと大人な年齢だと思っていた。
恵那からしたら十分に年上だけど、それでももう少し上だと予想していたのだ。
「私よりも八歳年上ですね」
「マルナは高二だもんな。お前こそ老けてるんじゃないか」
「酷いですね。大人っぽいって言ってください」
「はいはい。そんなことより、そろそろ見えてくるぞ」
出会ったのはつい昨日だというのに、遠慮の要らない会話は途切れることがなかった。
大体何分くらい歩いたのだろうか。体感では三十分くらい歩いた気がするけど、実際は一時間くらいなのかもしれない。
歩いたというよりも、山を登ったと言った方が、この場合は正確だ。
ほぼ頂上まで登ったところで、またもや不思議な小屋が見えてきた。どうやらあれが、藤沢がハーブを保管しているもう一つの小屋らしい。
「これが、藤沢さんのもう一つの小屋ですか?」
「そうそう、山カフェみたいに広くはないけどな」
「じゃあ、お邪魔しますね」
人が住めるような二階建ての山カフェとは違い、横に広いプレハブ小屋のような造りだ。
中に入ると、夏とは思えないほどの涼しい風が通っていて、むしろ寒いくらいだった。
床の上には、様々な品種のハーブが植えられている植木鉢が、びっしりと並べられていた。
一つの植木鉢につき一種類のハーブが植えられており、それが床に所狭しと置かれているものだから、恵那は足の踏み場に困ってしまう。
そろりそろりと忍び足で進んで行くのを見て、藤沢は笑いながら注意をした。
「あの、一体どこでハーブの収穫をしてるんですか?」
「この山の中に、もう一つ小屋があってな。そこでハーブを育ててるんだ」
「じゃあ山を下りたりはしないんですね」
「しないしない。ちょっと歩くだけだから、安心しろって」
そう説明を受けてから、藤沢は木が生い茂っている道に向かって勇敢に進んで行った。
元々の登山ルートとは、また別の道があったなんて。
ここに来るまでの恵那は気が動転していたから、他にあったルートを見逃していた。というより、他のルートが目に入らなかったのだ。
そもそも、こんなに木の枝や葉っぱが邪魔をしている道を、前に進もうとは思わないだろう。
先を行く藤沢が歩きやすい道を作ってくれて、後続の恵那は幾らか歩きやすくなっていた。
「藤沢さん、あとどれくらい歩くんですか」
「もうバテたのか? まだ若いのに」
「別にバテてないですけど。そういう藤沢さんは何歳なんですか?」
「今年で二十五歳だけど」
「え、意外ですね。もっと上かと思ってました」
「何だよ、老けてるって言いたいのか」
呼吸を乱しながらも、会話が止まることはない。
そして、初めて藤沢のパーソナルな部分について知れた気がする。
話し方や容姿はチャラついた部分があるけど、意外としっかり者の面があるから、もっと大人な年齢だと思っていた。
恵那からしたら十分に年上だけど、それでももう少し上だと予想していたのだ。
「私よりも八歳年上ですね」
「マルナは高二だもんな。お前こそ老けてるんじゃないか」
「酷いですね。大人っぽいって言ってください」
「はいはい。そんなことより、そろそろ見えてくるぞ」
出会ったのはつい昨日だというのに、遠慮の要らない会話は途切れることがなかった。
大体何分くらい歩いたのだろうか。体感では三十分くらい歩いた気がするけど、実際は一時間くらいなのかもしれない。
歩いたというよりも、山を登ったと言った方が、この場合は正確だ。
ほぼ頂上まで登ったところで、またもや不思議な小屋が見えてきた。どうやらあれが、藤沢がハーブを保管しているもう一つの小屋らしい。
「これが、藤沢さんのもう一つの小屋ですか?」
「そうそう、山カフェみたいに広くはないけどな」
「じゃあ、お邪魔しますね」
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中に入ると、夏とは思えないほどの涼しい風が通っていて、むしろ寒いくらいだった。
床の上には、様々な品種のハーブが植えられている植木鉢が、びっしりと並べられていた。
一つの植木鉢につき一種類のハーブが植えられており、それが床に所狭しと置かれているものだから、恵那は足の踏み場に困ってしまう。
そろりそろりと忍び足で進んで行くのを見て、藤沢は笑いながら注意をした。
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