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一日目
アロマの香りで成仏を⑧
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「え、ええ!?」
「だって、今更帰れないんだろ? それに、その先輩がもし死んでいたとしたら、浮遊霊となってここに行き着くかもしれないし」
「藤沢さんは、それでいいんですか!?」
「俺は別にいいよ。その代わり、仕事手伝ってもらうけどな」
「全然いいですけど……」
「じゃあ決まりだな」
流れるような会話の中から、恵那の居候がとんとん拍子に決まった。
この不思議な山カフェにいれば、巴先輩の情報が何かしら集まるかもしれない。
もしかしたら、浮遊霊になった巴先輩が、アロマの香りに誘われてこの山カフェに行き着くかも。
藤沢が提案してくれたアイデアは、恵那にとっても好都合なものだった。
死ぬことを決意して噂の自殺スポットに来たのに、不思議な山カフェの主によって、その計画が止められた。
もう少しだけ生きてみて、それでも何の情報も掴めずになあなあと暮らし続けるようだったら、その時に死ねばいい。
恵那はこの先の簡単な指針を心に留めてから、藤沢に「よろしくお願いします」と返した。
「ま、浮遊霊と触れ合えるマルナがここに来たのも、何かの運命だろう」
「そんな能力があるなんて。今でも信じられないんですけど」
「ホント、びっくりだよな」
「そういえば、藤沢さんもその特殊能力があるんですね。霊能者みたいなものですか?」
「うーん……まあ、そんな感じだな」
恵那が何の気なしに言った言葉を、藤沢はわざとらしく笑って往なした。
具体的な正体を明かさないまま、藤沢はまたキッチンに戻っていく。
こんな辺境の奇妙な山小屋に一人で住んで、迷える死者を成仏させるためにハーブティーを注ぐなんて、どう考えても異常人種だろう。
誤魔化すように洗い物を始めた藤沢を見ながら、恵那はちょうど良い温度になったティーカップを手に持った。
熱さを恐れずに一口啜り、一度味わったことのある渋みを感じながら、頭の中では藤沢のことを考えている。
ここに滞在させてもらいながら、藤沢の正体についても突き止めたい……新たに浮かんだもう一つの企みを、恵那はそっと胸にしまった。
「あれ、マルナ。ラベンダーにハチミツ入れなくていいのか?」
「あ、何だか、さっきよりもスムーズに飲める気がします」
「ふーん、生意気だな。大人の味を知ったか」
「子供扱いしないでくださいよ!」
「そんなに怒るなって」
藤沢の第一印象は、最悪だったはずなのに。
初対面なのに人をバカ呼ばわりして、その上横柄な態度で、恵那の嫌いなタイプだったのに。
ひょんなことから、一緒に住むことになった。
恵那は死にたいという気持ちを完全に払拭させたわけではないけど、まだ知りたいことが多いことに気がつけたのだ。
巴先輩のことと、そして……藤沢のことも。
どんな形であれ、ここに来て生きる理由ができたなんて、恵那は想像もしなかった。
そんなことをダラッと考えながらハーブティーを飲み干して、テーブルの中央に置かれているディフューザーの蒸気を鼻に感じる。
一気に吸い込んでも、茂木のように消えることはない。
恵那は確かに、ここに存在している。
ただただ、フローラル系の癒される香りが、脳内に広がっていくだけ。
今頃、恵那の家族は、恵那の書いた遺書を読んでいる頃であろう。
「だって、今更帰れないんだろ? それに、その先輩がもし死んでいたとしたら、浮遊霊となってここに行き着くかもしれないし」
「藤沢さんは、それでいいんですか!?」
「俺は別にいいよ。その代わり、仕事手伝ってもらうけどな」
「全然いいですけど……」
「じゃあ決まりだな」
流れるような会話の中から、恵那の居候がとんとん拍子に決まった。
この不思議な山カフェにいれば、巴先輩の情報が何かしら集まるかもしれない。
もしかしたら、浮遊霊になった巴先輩が、アロマの香りに誘われてこの山カフェに行き着くかも。
藤沢が提案してくれたアイデアは、恵那にとっても好都合なものだった。
死ぬことを決意して噂の自殺スポットに来たのに、不思議な山カフェの主によって、その計画が止められた。
もう少しだけ生きてみて、それでも何の情報も掴めずになあなあと暮らし続けるようだったら、その時に死ねばいい。
恵那はこの先の簡単な指針を心に留めてから、藤沢に「よろしくお願いします」と返した。
「ま、浮遊霊と触れ合えるマルナがここに来たのも、何かの運命だろう」
「そんな能力があるなんて。今でも信じられないんですけど」
「ホント、びっくりだよな」
「そういえば、藤沢さんもその特殊能力があるんですね。霊能者みたいなものですか?」
「うーん……まあ、そんな感じだな」
恵那が何の気なしに言った言葉を、藤沢はわざとらしく笑って往なした。
具体的な正体を明かさないまま、藤沢はまたキッチンに戻っていく。
こんな辺境の奇妙な山小屋に一人で住んで、迷える死者を成仏させるためにハーブティーを注ぐなんて、どう考えても異常人種だろう。
誤魔化すように洗い物を始めた藤沢を見ながら、恵那はちょうど良い温度になったティーカップを手に持った。
熱さを恐れずに一口啜り、一度味わったことのある渋みを感じながら、頭の中では藤沢のことを考えている。
ここに滞在させてもらいながら、藤沢の正体についても突き止めたい……新たに浮かんだもう一つの企みを、恵那はそっと胸にしまった。
「あれ、マルナ。ラベンダーにハチミツ入れなくていいのか?」
「あ、何だか、さっきよりもスムーズに飲める気がします」
「ふーん、生意気だな。大人の味を知ったか」
「子供扱いしないでくださいよ!」
「そんなに怒るなって」
藤沢の第一印象は、最悪だったはずなのに。
初対面なのに人をバカ呼ばわりして、その上横柄な態度で、恵那の嫌いなタイプだったのに。
ひょんなことから、一緒に住むことになった。
恵那は死にたいという気持ちを完全に払拭させたわけではないけど、まだ知りたいことが多いことに気がつけたのだ。
巴先輩のことと、そして……藤沢のことも。
どんな形であれ、ここに来て生きる理由ができたなんて、恵那は想像もしなかった。
そんなことをダラッと考えながらハーブティーを飲み干して、テーブルの中央に置かれているディフューザーの蒸気を鼻に感じる。
一気に吸い込んでも、茂木のように消えることはない。
恵那は確かに、ここに存在している。
ただただ、フローラル系の癒される香りが、脳内に広がっていくだけ。
今頃、恵那の家族は、恵那の書いた遺書を読んでいる頃であろう。
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