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一日目
アロマの香りで成仏を⑥
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「先輩は……私と境遇が一緒だから」
「境遇? 一体どんな?」
「……優秀な弟と、妹を持っているということです」
「あー……どゆこと?」
藤沢はつむじをポリポリと掻きながら、首を傾げている。一発では理解できていない様子の藤沢を見て、恵那は説明足らずだったことを反省した。
仕切り直すように「すいません」と謝ってから、今度は順序立てて話すことにする。
「巴先輩にはリュウっていう弟がいて、リュウと私は同級生なんです。それで、私にも加奈子っていう二つ下の妹がいます」
「その先輩の弟と、マルナの妹が優秀だってことか」
「そういうことです。妹は走り幅跳びで、巴先輩の弟はサッカーで。どちらも小学校の時から有名な選手でした」
「なるほどね。でも、それはいいことだろ。何でそれで死にたくなるんだよ」
「……藤沢さんにはわからないですよね。私たちが背負った宿命を」
卑屈になって話す恵那に、藤沢は深い溜息をつく。
話し相手として面倒くさい人間だと感じたのか、恵那のことを哀れむような目で見ている。
恵那はそれに気がつくと、またしても「すいません」と謝った。
小鳥が鳴いたかのような力ない謝罪を最後に、しばらくの沈黙が二人を包む。
お互いに何を話せばいいかわからなくなっている状態を、藤沢が先に打ち破ってくれた。
「よくわかんないけど、マルナはその先輩と同じように、家族のことで悩んでるんだな?」
「ま、まあ、悩んでるっていうか……居場所がないかなって」
「うーん、俺は兄弟がいないからわかんないけど、期待されている妹がいるって、そんなに大変なことなんだな」
「大変というよりも、消えたいなって思います」
「また難しいことを……」
理解しがたいような言葉が出る度に、藤沢は額に手を当てながら考え込む体勢になる。
会話が止まる度に、頭の中を整理しているみたいだ。
期待されている妹を持つと、消えたいなと思う……その意味とは。
恵那は一段と小さい声で、その意味を口にした。
「妹には厳しく、私には優しく。それが両親の教育方針でした。小さい頃はそれで良かったけど、思考力が発達するにつれて、それは屈辱的なことなんだと気がついたんです」
「意味わかんねぇよ。ラッキーじゃん、優しく育てられて」
「ラッキーなんかじゃありませんよ。期待しているからこそ、妹には厳しくしてるんです。私は……別にいなくてもいいんです」
「何でそうなるんだよ。ただの考え過ぎだろ。それで死にたくなるって、頭おかしいぞ」
「だから、藤沢さんにはわからないですって!」
不安定な精神状態だということを露呈させるように、恵那は突然に声を荒げる。
耳を塞ぎたくなるくらいに五月蠅い声は、藤沢の会話する力を削ぎ落すくらいだった。
「はぁー」という、本日何度目かもわからない溜息と共に、藤沢は席を立った。
いつもの定位置であるキッチンの中に戻って、お湯を沸かし始める。
「境遇? 一体どんな?」
「……優秀な弟と、妹を持っているということです」
「あー……どゆこと?」
藤沢はつむじをポリポリと掻きながら、首を傾げている。一発では理解できていない様子の藤沢を見て、恵那は説明足らずだったことを反省した。
仕切り直すように「すいません」と謝ってから、今度は順序立てて話すことにする。
「巴先輩にはリュウっていう弟がいて、リュウと私は同級生なんです。それで、私にも加奈子っていう二つ下の妹がいます」
「その先輩の弟と、マルナの妹が優秀だってことか」
「そういうことです。妹は走り幅跳びで、巴先輩の弟はサッカーで。どちらも小学校の時から有名な選手でした」
「なるほどね。でも、それはいいことだろ。何でそれで死にたくなるんだよ」
「……藤沢さんにはわからないですよね。私たちが背負った宿命を」
卑屈になって話す恵那に、藤沢は深い溜息をつく。
話し相手として面倒くさい人間だと感じたのか、恵那のことを哀れむような目で見ている。
恵那はそれに気がつくと、またしても「すいません」と謝った。
小鳥が鳴いたかのような力ない謝罪を最後に、しばらくの沈黙が二人を包む。
お互いに何を話せばいいかわからなくなっている状態を、藤沢が先に打ち破ってくれた。
「よくわかんないけど、マルナはその先輩と同じように、家族のことで悩んでるんだな?」
「ま、まあ、悩んでるっていうか……居場所がないかなって」
「うーん、俺は兄弟がいないからわかんないけど、期待されている妹がいるって、そんなに大変なことなんだな」
「大変というよりも、消えたいなって思います」
「また難しいことを……」
理解しがたいような言葉が出る度に、藤沢は額に手を当てながら考え込む体勢になる。
会話が止まる度に、頭の中を整理しているみたいだ。
期待されている妹を持つと、消えたいなと思う……その意味とは。
恵那は一段と小さい声で、その意味を口にした。
「妹には厳しく、私には優しく。それが両親の教育方針でした。小さい頃はそれで良かったけど、思考力が発達するにつれて、それは屈辱的なことなんだと気がついたんです」
「意味わかんねぇよ。ラッキーじゃん、優しく育てられて」
「ラッキーなんかじゃありませんよ。期待しているからこそ、妹には厳しくしてるんです。私は……別にいなくてもいいんです」
「何でそうなるんだよ。ただの考え過ぎだろ。それで死にたくなるって、頭おかしいぞ」
「だから、藤沢さんにはわからないですって!」
不安定な精神状態だということを露呈させるように、恵那は突然に声を荒げる。
耳を塞ぎたくなるくらいに五月蠅い声は、藤沢の会話する力を削ぎ落すくらいだった。
「はぁー」という、本日何度目かもわからない溜息と共に、藤沢は席を立った。
いつもの定位置であるキッチンの中に戻って、お湯を沸かし始める。
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