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一日目
夜の訪問者⑦
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見よう見まねの接客は、人生で初めての経験だ。
恵那は高校生になって、カフェで働いてみたいという願望を密かに抱いてはいたが、人と関わるのが嫌で、行動に移さなかった。
それなのに、何故かこんな山奥のカフェで、願望を叶えている。
自殺する前なのに、律儀にちゃんとした接客までしているなんて。
人生は何があるかわからないと思えた、特別な一瞬だった。
「茂木様、もう一度、こちらのハーブティーを召し上がってください」
恵那が出したハーブティーを、藤沢が再度勧める。
茂木も、流れる涙をハンカチに吸収させてから、もう一度ティーカップを持った。
さっきと同じ要領で、フーフーと息を吹きかけてから、温度を確かめるように小さく啜る。
さすがに一杯目よりも飲みやすい温度だったのか、あまり表情を変えないまま、続けて二口、三口と飲み進めていった。
満足するくらいに飲んだ後、藤沢に向けて、ようやくハーブティーの感想を口にしてくれた。
「やっぱり美味しいですね。何のハーブティーでしたっけ?」
「ありがとうございます。フレッシュミントのハーブティーです」
「そうそう、ミントでしたよね。何かスッキリしますね」
「はい。ミントはリフレッシュ効果が期待できますので、気持ちが沈んだ時とかにお勧めですね」
「今の私にピッタリってことですね」
「どんよりした気分とおっしゃっていたので、ミントがピッタリかなと思いまして」
テンポよく進む会話が、妙に心地良い。
恵那は蚊帳の外にいるはずなのに、二人の会話に混ざっているかのような気分だった。
同じ空間で繰り広げられる専門的な話に、恵那も脳内で必死について行こうとしている。
全く興味がなかったハーブティーのことを、もっと知りたいと思ってしまったのだ。
藤沢は茂木に寄り添うように、ハーブティーの知識も取り入れながら、温かい言葉を送っている。
「ミントにはですね、メントールという成分が多く含まれております。これが精神に作用して、気力が高まったり、前向きになることが期待できたりするんです」
「へぇー、何だかそれ聞いたら、元気が出てきたかもしれません」
「それは良かったです。茂木様の辛い経験が、少しでも浄化できますように」
「お兄さん、優しいですね……」
茂木は藤沢の言葉に胸を打たれたのか、そのやり取りを最後にしばらく無言が続いた。
ハーブティーの味に没頭しているみたいで、全く声を発さずにお茶を飲み進めている。
恵那はその様子を黙って見ていたけど、一つだけ違和感を覚えていた。
それは、藤沢が『浄化』というワードを使ったことだ。
深くまではわかっていないけど、浄化するという言葉が、何だか冷たいように感じたのだった。
そんな些細な言葉に気を取られていると、茂木の瞳から、今度はしっとりとした涙粒が流れていることに気がついた。
そしてすぐに、涙声になった茂木が、藤沢に向かって悲しそうに声を出す。
「お兄さん……もうわかってるんです。私……死んでるんですよね?」
「……残念ながら」
恵那は高校生になって、カフェで働いてみたいという願望を密かに抱いてはいたが、人と関わるのが嫌で、行動に移さなかった。
それなのに、何故かこんな山奥のカフェで、願望を叶えている。
自殺する前なのに、律儀にちゃんとした接客までしているなんて。
人生は何があるかわからないと思えた、特別な一瞬だった。
「茂木様、もう一度、こちらのハーブティーを召し上がってください」
恵那が出したハーブティーを、藤沢が再度勧める。
茂木も、流れる涙をハンカチに吸収させてから、もう一度ティーカップを持った。
さっきと同じ要領で、フーフーと息を吹きかけてから、温度を確かめるように小さく啜る。
さすがに一杯目よりも飲みやすい温度だったのか、あまり表情を変えないまま、続けて二口、三口と飲み進めていった。
満足するくらいに飲んだ後、藤沢に向けて、ようやくハーブティーの感想を口にしてくれた。
「やっぱり美味しいですね。何のハーブティーでしたっけ?」
「ありがとうございます。フレッシュミントのハーブティーです」
「そうそう、ミントでしたよね。何かスッキリしますね」
「はい。ミントはリフレッシュ効果が期待できますので、気持ちが沈んだ時とかにお勧めですね」
「今の私にピッタリってことですね」
「どんよりした気分とおっしゃっていたので、ミントがピッタリかなと思いまして」
テンポよく進む会話が、妙に心地良い。
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同じ空間で繰り広げられる専門的な話に、恵那も脳内で必死について行こうとしている。
全く興味がなかったハーブティーのことを、もっと知りたいと思ってしまったのだ。
藤沢は茂木に寄り添うように、ハーブティーの知識も取り入れながら、温かい言葉を送っている。
「ミントにはですね、メントールという成分が多く含まれております。これが精神に作用して、気力が高まったり、前向きになることが期待できたりするんです」
「へぇー、何だかそれ聞いたら、元気が出てきたかもしれません」
「それは良かったです。茂木様の辛い経験が、少しでも浄化できますように」
「お兄さん、優しいですね……」
茂木は藤沢の言葉に胸を打たれたのか、そのやり取りを最後にしばらく無言が続いた。
ハーブティーの味に没頭しているみたいで、全く声を発さずにお茶を飲み進めている。
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それは、藤沢が『浄化』というワードを使ったことだ。
深くまではわかっていないけど、浄化するという言葉が、何だか冷たいように感じたのだった。
そんな些細な言葉に気を取られていると、茂木の瞳から、今度はしっとりとした涙粒が流れていることに気がついた。
そしてすぐに、涙声になった茂木が、藤沢に向かって悲しそうに声を出す。
「お兄さん……もうわかってるんです。私……死んでるんですよね?」
「……残念ながら」
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